複利運用の罠と実践のポイント

中原良太氏:こんにちは。株式予報の中原良太です。今回は、「複利運用の罠と実践のポイント」というテーマで、動画講座を始めさせていただければと思います。今日も1日よろしくお願いします。

本講座の目的

まず、今回の講座の目的なんですが。複利運用を実践する時の落とし穴とポイントがそれぞれ4つずつありますので、計8つをお話ししていきたいと思います。

落とし穴4つ、ポイントが4つあるんですが、それを実際にお話しする前に、「そもそも複利運用とは何なのか?」。複利運用を実際に利用する時に、非常に使いやすい「72の法則」がありますので、こちらについても併せてご紹介していきたいと思います。

一番はじめに、「複利運用とはそもそも何なのか?」というところから、ご紹介していきたいと思います。

複利運用・72の法則

複利運用とは何か? 72の法則とは何か? それぞれご紹介していきます。

複利運用とは、「儲けた分のお金を上乗せし、投資額をどんどん増やしていく」運用テクニックです。

例えば、100万円の運用資金があったとして、そこから10万円の利益が出ました、と。あるいは、100万円の運用をしていて、100万円の利益が出ました、と。倍ですね。

倍になったら、その利益になった100万円を今の100万円に足して、「200万円にして運用しましょう」と考える運用の仕方です。

この投資法にはメリットがあって、一般的には200万円、運用資金が倍の200万円になるので、「増えるスピードも2倍になりますよ」という考え方です。利益が出るにしたがって、運用する資金を着々と増やしていく投資法が、この複利運用です。

逆に、ずっと利益が出ていようが、例えばお菓子を買うとか、旅行行くとかで、利益を使ってしまう、と。「運用資金は常に一定で保っておきましょう」という考え方を、単利運用といいます。

複利運用と単利運用。今回は、この複利運用です。常に資金を増やしていく運用の仕方について、ご紹介していきたいと思います。

この複利運用を使う時に、72の法則がよく使われます。この法則を使うと、お金を2倍にするために必要な年数が簡単に計算できるんです。

具体的にどう使えばいいかというと、「年利」と「年数」をかけると72になるのが、ちょうど資産を倍にするのに必要な年数だと言われています。

例えば、年利が24パーセントの時は、3年間。24×3は72になるのですが、年利24パーセントぐらいの利益を毎年出している方だったら、3年間ぐらいあれば、お金を2倍にすることができます、という考え方です。

他にも、36パーセントだったら2年であるとか、4パーセントだったら18年ですかね。こういうように、大雑把に年利と年数をかけて72になるようなものが、だいたい、資産を倍にすることができる年利・年数であると考えられています。

これは1つのネタとして、複利運用を実践する時にぜひご活用いただければと思います。

さっそく、具体的に複利運用の4つの罠について、まずご紹介していきたいと思います。

複利運用の4つの罠

複利運用の4つの罠、「『すれば』という仮定が続く」、「利益と同じように損失も倍増する」、「精神的な影響は計り知れない」、「リスク管理が困難」。この4つの罠があります。

この4つの罠を無視して複利運用すると、すごい痛い目に遭います。ですので、この4つのポイントをしっかりと理解していただいて、できるだけミスのないように。そして、複利運用を正しく使えるように、この4つのポイントを押さえておいていただければと思います。

「すれば」という仮定が続く

まず1つ目、「『すれば』という仮定が続く」という点について、お話ししていきます。

「『すれば』という仮定が続く」。つまり「○○すればこうなる」、「○○すればこうなる」、「○○すればこうなる」という条件が続くんです。

ifですね。「どういうふうになったら、こういうふうにします」の繰り返しなので、信憑性が低いと考えられます。複利運用の運用成績は、非常に信憑性が低いと考えられています。

例えば、生命保険の営業で「自分の持ってるお金を毎年3パーセントの複利で運用すると、25年後にはお金が倍になってます」というような話をされた経験のある方が、いらっしゃるかと思うんですが。

複利運用で、例えば、「年利3パーセントで24年間運用を続ければ」と。「○○すれば」という表現は、非常に信頼性が低いんです。

例えば、年利3パーセントを達成するのは簡単だとしても、24年間連続で達成するのは、非常に難しいことなんです。この、連続で達成することが非常に難しいという例として、上のスライドをご覧いただきたいのですが。

年利10パーセントが90パーセントの確率で達成できる。30年間連続で達成できる確率は何パーセントか? という例が書いてあります。90パーセントの確率で達成できるっていうことは、だいたい、十中八九、うまくいくっていうことじゃないですか。

「連続で達成できる確率も、きっと高いだろうな」と思うのですが、実際に達成できるのは、たとえ1年間でみて、9割達成できるものでも、30年間連続で達成できる確率は、たった4パーセントしかありません。

これだけでもものすごい運用成績だと思うのですが、これはあくまで例として。たとえ9割で達成できることでも、連続で達成しようと思うと、どんどん困難になっていくんです。

高い確率で成功するものでも、繰り返し達成するのは非常に難しい、と考えられています。

複利運用の根底には、いくら利益が出たら、それを積み増して、さらに利益が出たら積み増して……と、「if」が続くんです。このようになったら、このようになったら、という。達成しなければいけない条件が、非常に多いです。

ですので、実際に達成するのは、ほぼ不可能だと思ったほうがいいと思います。計画通りに運用するのは無理です。「計画通りにはいかないけれども、うまくいけばラッキー」ぐらいのスタンスで構えておくのが大事だ、と考えています。

利益と同じように損失も倍増する

次、2つ目の罠、「利益と同じように損失も倍増する」が挙げられます。

複利運用をする時に、たいてい利益だけをプッシュして、「こんなに利益出るようになるんですよ」と表現されることが多いのですが、複利運用の真実は、お金を勢いよく増やせるというところではないです。

真実は何かというと、資産の変動幅が膨らむというだけです。「利益も増えるけれども、損も増えますよ」というのが、複利運用の真実です。

そのため、この損のところを無視して運用を始めてしまうと、たいていの場合は、損が嫌になってやめちゃいます。

あるいは、損で頭がおかしくなって、気が狂って、余計損をするような負のスパイラルに陥ってしまう、という可能性が非常に高いです。

複利運用の真実は、増える額が増えるんじゃなくて、増えたり減ったりする、両方とも増えるんだっていうことを、ぜひ意識しておきましょう。

例えば、1回で5,000円、6,000円が変わる。増えたり減ったりする運用方法があったとして、単純に運用資金量を10倍にすれば、変動額も10倍になります。

1日で、例えば、5万円とか6万円とかお金が増えたり減ったりする。1日で5万円、6万円稼ぐのって、非常に大変だと思います。ものすごい難しいことだと思います。

そんな額が増えたり減ったりすると、ものすごい心理的に負担がかかる可能性があるんです。損失も増えるというポイントを、ぜひ覚えておきましょう。ここを無視して複利運用していると、十中八九失敗します。

精神的な影響は計り知れない

次、3つ目の罠。先ほどと似たような話なんですが、「精神的な影響は計り知れない」。先ほども申し上げましたが、複利運用をすると増える額が大きくなる一方で、減る額も大きくなります。世帯収入が少ない人は要注意です。

なぜかというと、例えば、年に100万円稼いでる方は、月収はだいたい10万円になりますよね。そういう人が10万円失ってしまいました、20万円失ってしまいました、30万円失ってしまいました……となると、精神的には耐えられない。非常につらい思いをすることになります。

「今月の給料をすべて吹き飛ばしてしまうかもしれない」というリスクと、常に隣合わせになることになります。

ですので、自分の収入に合った額だけ運用するのが、非常に大事なポイントなんです。

ここを間違えてしまうと、不眠症、拒食症、胃痙攣などを患ってしまうという例も報告されていますので、自分の身の丈に合った運用資金で運用するのが、非常に大事なポイントだと思っています。

リスク管理が困難

次、最後の4つ目のポイント、「リスク管理が困難」という罠があります。複利運用の難所として、常にポジションサイズが変わるために、リスク管理が困難と考えられます。

単利運用のように、常に運用資金量が一緒だったら、1回「このようにリスクを管理する」って決めたら、それをずっと続けるだけでいいんです。例えば100万円の運用だったら、「100万円を5等分して、5つの銘柄に分けましょう」とか。

1回決めた計画を愚直に続けていくだけで、だいたい大丈夫だと思うんですが、複利運用の場合はそうはいかない。

常に運用資金が増えたり減ったりしているので、増えた分だけ、リスク管理の方法を練り直さなきゃいけないのです。

減ったら減ったで、また練り直さないといけない。常にポジションサイズが変わるために、リスク管理が非常に面倒くさい・大変だ、という傾向があります。

ここで、よくある間違いなんですが。例えば複利運用をして、利益が出た時にリスクを取りすぎてしまう、と。

利益を吹き飛ばしたり、信用取引で借金を負う例というのが後を絶たない。そんな傾向があります。

1回成功しても、もっと大きく負けて借金を負ってしまう。そういう方も中にはいらっしゃいますので、リスク管理を徹底して行っていく必要があるんじゃないかと思っています。

ここまで、複利運用が危険な4つの理由、4つの罠についてご紹介してきました。複利運用が危ないことはわかりました。

では、危ないなりにどういうふうに工夫すれば、うまく複利運用を使いこなせるのか? そのコツを4つ、ご紹介していきたいと思います。

これがその4つです。複利運用の4つのポイント。

「無くなっても困らない資金に留める」

「『率』よりも『額』に注目する」

「投資そのものを目的にしない」

「手に負えないなら続けなくてよい」

この4つのポイント、ぜひ覚えておいてください。

無くなっても困らない資金に留める

まず1つ目、「無くなっても困らない資金に留める」。どういうことかというと、複利運用をする時に使うお金は、基本的に無くなってもいいお金だけを使うのが鉄則です。

無くなったら困るっていうお金を使うと、額が増えれば増えるほど、精神的な負担は計り知れないものになります。

「100万円失った」「200万円失った」「家族で使うはずのお金を使ってしまった」「子どもの教育費を使ってしまった」。そういうことをしてしまうと、ちょっとした失敗でも心がやられてしまいます。

無くなっても困らない資金に留めて、少なくともやられても「大丈夫だな」と思えるようなお金に留めておくのが、非常に大事なポイントです。

補足ですが、信用取引を行うこと。これも非常に危険です。とくに、資金量が増えてきた後。運用資産が3,000万円になった、4,000万円になった、1億円になった、10億円になった。

これだけの運用資金量が出てくると、たいていの方は、自分で働いて得られるお金よりも資産のほうが、圧倒的に多いです。

そういう時に信用取引をして、わざわざ借金をしてまでトレードをしてしまうと、損をした時に、無くなってもいいお金どころじゃない、とんでもない損をしてしまう可能性があります。

それこそ、1億円をレバレッジ3倍で運用して、3億円損してしまいました。となったら、もう最悪ですよね。2億円の借金を負うことになります。

自分は必要以上のリスクを取っていないつもりなんだけれども、実は取っていた。そういう方がいらっしゃいますので、くれぐれも、運用資金が増えてきたらレバレッジを効かさないとか、そういうところまで気を配ったほうがいいと思います。

このポイントは以上です。

「率」よりも「額」に注目する

2つ目、「『率』よりも『額』に注目する」というポイントです。運用資金が増えてくると、運用資金の率よりも、額に注目。

例えば、「100万円の10パーセント、5パーセント」とか、パーセントで考えるというよりも、その絶対額にフォーカスしたほうがいいと考えています。

例えば、「5パーセント損をしたら、運用を止める」という考え方よりも、「100万円損したら、運用を止める」という考え方です。絶対額のほうが、心理的に与える影響は大きいです。

ですので、パーセントではなく、額に注目してください。

例えば、「100万円が月収何ヶ月分だ」と考えると、非常に大きな痛手ですよね。「いくら損したら、運用を止める」とか、自分なりに合った、額に合わせた運用ルールを決めておく必要があります。

とくに、運用資金が増えていけば増えていくほど、金銭感覚が麻痺していきます。金銭感覚を麻痺させないために、身近なもので資産変動を置き換える癖をつけるといいかなと思います。

例えば、「1万円損したら、豪華なランチ5食分失ってしまった」とか。そのように考えると、適当な運用をしなくなります。

「たった1万円の損だからいいや」と考えるのと、「いや、1万円って、こんだけ価値のあるものを失ったんだぞ。だから、次から気をつけないとな」と反省できるか、できないか。

ここで大きな差が生まれてきますので、ぜひ、くれぐれも金銭感覚を麻痺させないように注意しておくのがいいとに思っています。

投資そのものを目的にしない

次、3つ目のポイント、「投資そのものを目的にしない」。ここ、非常に大事なポイントです。

株式投資のそもそもの目的は、もっと大きな利益を手に入れることではありません。豊かな生活を手に入れること。投資をしなかった時よりも、した時のほうが生活が豊かになること。これが前提条件です。

投資中毒になって、株式投資そのものを目的にしてしまうとかは本末転倒です。始める前に、「本当に複利で運用する必要があるのか?」「単利運用ではダメなのか?」を自問しましょう。

本当に複利運用が必要な場合だけ、複利運用をすればいいと思います。単利で十分なら、もう複利でわざわざ運用する必要はありません。単利運用でコツコツ、地道に運用していくのが一番いいと考えています。

手に負えないなら続けなくて良い

最後の4つ目のポイント、「手に負えないなら続けなくて良い」。非常に大事なポイントです。

複利運用をマスターすれば、巨万の富を手に入れることは不可能ではないでしょう。しかし、運用額が増えるほど時間がかかりますし、精神的な負担も増えます。

それこそ1億円、10億円、それだけの大きな額を運用するとすれば、最低でも3時間とか、それぐらいの時間がかかると思います。

1日3時間。それだけの時間をかけてしまうと、本業に差し支えが出るだとか、あるいは私生活に支障が出てしまうとかなど、問題が出てくるでしょう。

わざわざ、そこまでして続ける必要はないです。本来の目的は何だったのか? おそらく、お金を増やすことではないはずです。

それ以上、運用資金が必要ないのであれば、無理に続ける必要はありません。さっさと運用を止めて、お金を使うでもいいですし。単利運用に切り替えて、できるかぎり最低限の運用額に留めておくとかに、切り替えていく。

運用資金をあえて減らすというのも選択肢の1つですので、ぜひご検討いただければと思います。

ということで、複利運用の4つの罠、4つの実践上のポイントをそれぞれお伝えしてきましたが、いかがだったでしょうか? 最後に、この講座でお伝えした内容を、もう一度復習していきましょう。

本講座のまとめ①

まず、複利運用の4つの罠についてお話しました。

1つ目、「すれば」という仮定が続く。たとえ確実にできることでも、繰り返し行うのは非常に難しい、というお話をしました。

2つ目、利益と同じように損失も倍増する、というお話をしました。

3つ目、精神的な影響は計り知れない、というお話をしました。できれば、世帯収入に合わせて運用資金を決定するのが大事だというお話をしました。

4つ目、常に運用資金が変わるため、リスク管理が非常に難しい、というお話をしました。この点については、常に気を配る必要があると思います。

これが4つの罠ですね。

本講座のまとめ②

次、複利運用する時に4つのポイントがある、とお話をしました。

1つ目、無くなっても困らない資金に留める。これは生きていくうえに、必要不可欠な工夫だと思います。

2つ目、「率」よりも「額」に注目する。人間は「率」ではなくて、実際に動くものの大きさ、「額」に注目します。それが精神的な影響を与えるので、そこに常に注目して、物事を考えるようにしましょう。

「感応度逓減性」というものがあります。人間は、増えた額が大きかったり、減った額が大きかったりすると、感覚が麻痺してしまう傾向があります。

ですので、定期的に「1万円といえば、豪華なランチ5食分なんだ」とか、きちんと価値換算をして、自分の感覚が狂ってないか確かめるのが大事だと思います。

3つ目、投資そのものを目的にしない。投資は目的ではなくて手段です。ここを間違えないようにしましょう。

4つ目、手に負えないなら続けなくていい。複利運用は、お金が増えれば増えるほど、続けるのが大変になります。わざわざ続ける必要はないです。

きつかったら、運用資金を減らすというのも1つの手段です。それも頭の片隅に置いておいていただけると、お金が増えた後、失敗せずに済むんじゃないかと思います。

今回は以上で終わりにします。ちょっと早足でお話してしまったんですけど、ついてこれましたかね?

最後までご視聴いただきまして、ありがとうございました。