「エモさ」は大事

設楽:ちなみに、時間が前半のほうけっこう経ってきたんであれなんですけど。りょかちさんがこの本で伝えたかったことみたいなのって……。

りょかち:マスメディアがまだまだ上の世代のものになってるからっていうのもあると思うんですけど……なんだろうな。

「若い人はわかんない」みたいな。「使い方も意味不明、Snapchatってなに?」みたいな意見がめちゃくちゃあるんですけど。若い子には若い子なりの感性があって、SNSに対してのエモい気持ちがあると。

それは必ずと言っていいほど、実は上の世代の人が共感できるものであると私は思っているので。この本を通して、若い女の子とかが宇宙人ではなくて、自分とたしかに共感できるなっていうことを感じてもらえれば、すごいうれしいなと思ってます。

設楽:なるほど、そうですよねえ。りょかちさんから原稿をもらって、「ちょっとごめんなさい、エモさが足りなかったです。直したいです」って言われたときは、実は僕はじめはイマイチ意味がわからなかった(笑)。

りょかち:(笑)。

設楽:「ちょっと設楽さん、今回エモさが少なかったですよね」って、「いやあ、そうっすねえ」とか言いながら、どこが変わったんだろうと思いながら。

(会場笑)

設楽:最後の本出すときには、なんとなくわかって。今はエモいって自分も言いたくてしかたない。

りょかち:(笑)。

(会場笑)

設楽:なんでもエモいって言いたくなっちゃうんですけど。

りょかち:いやあ、エモは大事です。やっぱ感情の部分で繋がっていたいし、文章書くときは、気をつけてますね。放っておくとインターネット論って、テクノロジーの話になったり世代論の話になったりするんですけど。

っていうよりは使っている人の気持ちであったり、感情の動くところがあると思うので。そういうところを書いていくのが自分の持ち味かなと、勝手に思ってるんで。書いていきたいですね。

りょかち本の反響

設楽:そうですね、ありがとうございます。ちなみにどうですか? 本出してみて、反響とかって変わってる感じします?

でもすごくいろんなブログとかで、まさに今言ってた同一世代の人から共感の言葉もいただいてますし、逆に僕みたいな30代・40代の人たちからも、「ああ、なんかこういうこと考えてんだね」みたいなコメントももらってますよね。

りょかち:ありがたい。

インカメ越しのネット世界 (幻冬舎plus+)

設楽:30代とか40代の人から、ぜんぜん価値観は違うんですけど、そこも「勉強になるし共感できる」みたいな意見もいただいてて。

りょかち:いやあ、本当にありがたいですね。じわじわ届いてるんだなっていうのがあって。自分自身もすごく、本を出して、なんかいろいろ変わりました。

設楽:あ、本当ですか?

りょかち:心持ちが。

設楽:心持ちが?

りょかち:中3から高1になった気持ちです。

設楽:よくわから……エモいっすね、エモいっすねそれ。

(会場笑)

設楽:中3から高1? うーん、確かにでもけっこう違うかもしれないすね。

りょかち:なんかその、2つあって。これしゃべる時間ありますかね。

設楽:大丈夫、大丈夫です。

りょかち:1つは、中3から高1になったっていうのは……。

設楽:(笑)。

りょかち:5,000人くらいフォロワーがいたんですね。で、連載をどこかで持っている。それは、同じレイヤーに立ってる人ってたくさんいるんですよ。ちょっとフォロワーが多くて、連載をどこかで持っている人。

で、その中で、自分で言うのもなんですけど、目立っていたほうだと思うんですよ。だから、「おい、2年掃除しろ」みたいな偉そうな立場で言えてた中3だったんですけど。

りょかち:本を出した瞬間に、Webから本を出した人と一緒に並べられる。

設楽:はあちゅうさんとか、出てくるわけだね。

りょかち:そうですそうです。そしたらこの中2、3たちにもっと偉い顔ができるかと思いきや、高1になってしまって。

なんだこれみたいな。「すごいヤツばっかじゃねえか」みたいな気持ちになってますね、今。

設楽:なるほど、それ良いですね。わかりやすい。はじめわかりにくかったけど、すごく納得できました。

本を出して決意したこと

りょかち:掛詞みたいですよね。そしてもう1つはなんか、本を出した瞬間に自分自身の中で決めたことがあって。実は私、文章に自信がなかったんですよ。

だから「りょかち文章上手いね」って言われるたびに、「そんなことないです」「自信ないです」って言ってたんですけど。本を出したときに、もう言わないって決めました。

というのもですね、これを言うと設楽さんに怒られると思うんですけど。連載というのはですね、会社からお金をもらってるわけなんですよ。1本、原稿料いくらって。

で、だいたいPVとかが1番とれると、メディアのみなさんうれしいのかなって、また依頼してもらってるのかなって思ってるんですよ。だから、正直内容がそんなに良くなくても良い説がある。

設楽:ふんふん、そうですね。PVだけならそうですね。

りょかち:そうです。フォロワーが多い人がリンクだけはって別の人が書いても、正直なんでも良いみたいなことがあるかもしれなくて。もちろん内容が良ければ拡散するんですけど。

設楽:「港区 男子」みたいなね。別にdisってるわけではないんですけど(笑)。

りょかち:そうなんですよ。だから一本一本キャッチーで、PVが取れればいいから。別に文章が下手でも、良いかなって思ってたんです。

SNSの戦略とか、みんなが好きそうなキャッチーな記事を出して、「拡散すればいいや」って思って書いてたときもあったんですけど。

この本を出したときに、すごく不安だったんですよ。1個1個、「これやったらウケるんじゃないか」と思って書いた記事を集めた本が、「はたしておもしろいのだろうか」っていう。

誰かの本棚に置いておいてもらえるようなものに仕上がってるんだろうかって、すごく不安で。今までと違うのは、本というものに対してお金を払ってくれる人がいるわけですね。

みんなは連載のときはタダで読めたけど、600円とか、紙書籍だと1,000いくらだとか払ってもらってるときに、「文章が下手だ」とか言ってちゃだめだなと思って。

文章を売っている人になってると思っているので、なんか、そういう心境の変化がありました。やっぱり今度は、連載もそうですけど、文章として、こういうテキストメディアの価値として高いものを作っていける人になりたいなっていう心境の変化がありました。長くなりました、すいません(笑)。

設楽:いえぜんぜん、ありがとうございます。なるほど。でも今回、実はすごく特殊なかたちの出版なんですね。電子書籍とプリントオンデマンドだけで出すっていうかたちでした。

なので本当に今日、B&Bさんでイベントさせてもらってるのって、非常に特例的なことで。

りょかち:はい、ありがとうございます。

設楽:売れないんですよ、この本B&Bさんで。

りょかち:はい、すいません。

(会場笑)

新たな出版のかたち

設楽:いわゆる紙の取次を通した流通はしてないのです。たぶん出版業界の方もいらっしゃるんであれですけど、見方によっては、「出版社にとってすごいリスクない出版じゃん」って思われるかもしれないですね。要はすべてが実売なので、流通リスクがゼロなんです。

プリントオンデマンドって注文が入ってからAmazonが社内のプリンターで刷って、この形に刷って、翌日にプライムで届けるっていう仕組みなんですよ。

設楽:いわゆる今までの出版業界って、「初版5,000部です、1万部です」みたいに作って、それを本屋さんにガーッと並べて。

売れるものは重版をかけるし、売れないものは残念ですけど返品されてきて処分するというのを繰り返してきたんです。

実はそのモデルもちょっと検討したりしたんですけど、今回すごくポジティブな意味であえてこのやり方(電子書籍とプリントオンデマンドから出版する)できないかなと思ってやったところがあって。

設楽:とくにりょかちさんは、これが初めての書籍だし、正直言うとフォロワーもものすごい、なんですかね、何十万人いるわけではないっていうときに。

1番ちょうど良いサイズの、今の小さいコミュニティから彼女がどうやって大きくなっていくかって考えたときに、一番いい戦略なんじゃないかなって思って、このかたちにしたっていうのがあります。

ちょっと裏話しちゃうと、仮にりょかちさんが普通に1万部刷りましたって言って書店で流通させることもできるんですけど。すごいギャンブルなんですよ。

1万部作って、たぶんあんまり売れなかったら、実は他の出版社もその販売データって大方見られるんですね。書店の販売POSデータはある程度公開されていて。

そういうのを出版社が見ちゃうと、場合によってはりょかちさんに次の仕事がこなくなるかなと。

たぶんりょかちさんが、今Twitterで初め1,000人くらいのフォロワーから自撮りを上げてきて大きくなってきたバイラルとか、ファンの作り方みたいなものに合った出版が、この出し方かなあと思って、出したようなかたちです。

なので初めは、「本出しました」って言わないようにしてたんですよ。「電子書籍オリジナルで、りょかちさんの作品でます」って言ってたんですけど。

ただ実際こうやってオンデマンドで紙の本もできていて、なんか途中からこれはもう「本出しました」で良いんじゃないかなって。

りょかち:(笑)。

設楽:Amazonさんだけでしか売ってないだけなんですけど。たぶん次のフェーズで、りょかちさんの名前がどんどん広がっていったら、必要があれば他の本屋さんにも流通するしみたいなことを考えてます。

出版業界の景気が悪い中っていうのもありますけど、これからの作家さんがデビューしていく方法の1つなのかなと思ってます。

設楽:そんな理由で今回、こういう出版形態、異例のイベントをさしていただきました。ありがとうございます。

りょかち:本当にありがたいです。ありがとうございます。