オムニチャネルとは何か

高山靖弘氏(以下、高山):みなさん、こんにちは。シナラシステムズジャパンのマーケティング・ディレクターを務めております、高山と申します。今回は「通信キャリアのデータを活用した次世代型オムニチャネル・マーケティング」というお話をさせていただきたいと思います。

まず簡単に、オムニチャネルとは何なのか? これを僕の買い物体験を例にお話させていただきたいと思います。

最近の買ったのはこちらですね。

なかなかインスタ映えしないような写真ですが、adidasのジム用品を買いました。トップスと、ボトム3本。それと今履いてる靴も買いました。

どのように購入に至ったのか、記憶をたどってみたところ、まずadidasショップ六本木ヒルズ店に行ったのを覚えています。その前に、もしかしたら広告に接触していたかもしれない。まあ、その程度のことですね。

よく調査ではテレビCMの接触は十分測ることができますが、やはりモバイル広告、ここはアンケートがなかなか取れないところだと思っています。記憶は曖昧ですが、おそらくモバイル広告に接触したような気がします。確か、その1週間後ぐらいに店舗に行ったと思います。

実はその時、僕には興味のある商品がいくつかあったんですが、結局買いませんでした。なぜかというと、その後、友達との夕食の予定があったので、荷物がかさばるのがイヤだったのです。したがって、その時いくつか気になるものがあったものの、そのまま店を去りました。

ですがその後、やっぱり気になったんですよね。したがって、その1週間後の週末にまたサイトを訪問しました。

ただ、最近はスマホでの購入率が上がってると聞いていました。ですが実際に見てみると、とくに洋服の場合は、画像が小さすぎてわからないですよね。「このパンツだったかな」とか。あとは、モデルさんが着ていても実際の素材感があまり分からなくて。

結局、その2日後にまた店舗に行って購入しました。実はこの総額、5万円ぐらいでした。「けっこう買ったな」と思っています。

最近はEコマースが人気ですが、店舗の魅力もなかなかあると思ってます。とくにこのadidasのお店は、世界観がとてもいいんです。店員さんも魅力的で、いろいろな商品がある中で、見ているうちにどんどん欲しくなって、それで、買ってしまいました。

ミドル・ライト層をどう測定するか

ここで重要なポイントは、僕はadidasファンではないということです。これがたまたまNIKEであれば、たぶんNIKEで5万円使ってたんじゃないかと思っています。もしかしたらPUMAだったかもしれません。そう考えた時、この「あったかもしれない広告」が非常に重要な役割を示してるのではないかと思っています。

通常、ロイヤル層と言われる人々はアプリで計測できていると思います。しかし、僕のような特定のブランドに固執してないユーザーは、アプリを使っていません。ポイントカードも持っていないです。そういう人たちの行動をどう計測して、どうやってアプローチするのか。これは、非常に大きな課題だと思っています。

まさに、この見えないところというのが、今後、新規開拓するにあたってのボリュームゾーンであり、ユーザー基盤を作っていくにあたって非常に重要な層だと考えています。

まさにこういった層の人々が、僕のようになにかがきっかけで5万円ぐらいドッと使ってしまう。実はその層の取り合いが水面下で行われています。アプリで管理されているユーザーの購買があったとしても、その外でこういったことが行われているというのは、非常に重要だと思っています。

このEコマース部門、現状の企業はどこまで計測できているのか? それを考えた場合、ECサイトの部門ではおそらくIMPスルーはわかりますよね。その次に、サイト訪問もわかります。こちらに関しては、調査と違って厳密に何日後というのがわかります。

結局ECサイトでわかるかぎりの情報としては、「5分後、いくつかの商品を見た後に離脱している。この人は購入していない」という記録になってしまいます。

一方でリテール部門、店舗部門はどうなのかというと、購入日もわかりますし、費目もわかるし、金額もわかる。また、実は購入後に際してポイントカードも登録したので、その情報も残っています。ただし、何がきっかけで来たかわからないですよね。

その上だいたい買上率などを見ていますし、あとはその日の天気とか気温とか、いろいろあると思いますが、実際にEコマースの広告に接触して来ていたかもしれないユーザーはどのくらいいるのか、そのあたりの連動はまったく想定してないわけです。

今、勝手にadidasさんの想定で書いてみましたが、よくいろいろなお客様と話していても、どこの企業でも抱えている課題だと思っています。Webとリアル、その中に完結したデータとしていろいろと見える部分があるとしても、このWebと店舗とが分断されているのが実態だと思っています。

一方で、シナラで計測できるジャーニーというのがこちらになります。

まず最初にIMPスルーを取得。その次に来店。そして、7日後にサイト訪問。さらに来店。シナラでは位置情報しか活用していないので、買ったかどうかまではわかりませんが、少なくともWebとリアルの来店というところまで、アトリビューション、さらに言うとリードタイム、そこまでを見える化することができます。

「REALデータ」をいかにして活用するか

我々はWEBデータの対義語として、シナラが活用する膨大な位置情報とデモグラ情報を「REALデータ」と呼んでいるのですが、それをどう活用するのか。まず、そもそもREALデータとは何なのか。Webと対比するとわかりやすいと思うんですけども、例えば、デモグラ(注:デモグラフィックの略。性別、年齢、職業など社会的な属性を含んだデータのこと)、ペルソナ、いずれも我々の場合は、バーチャルではなく現実世界で記録ないしは計測できているデータを活用しています。

次にペルソナですね。ここは精度という面でも非常に大きいです。ペルソナに関しては、通常のWebデータだと、どういうサイトを見ているかとか、何を検索しているか、そこを通うものに興味、関心を持っているかがわかります。

したがって、例えば車を買おうとしている人の場合は、そういうものはわかりやすいと思います。一方でライフスタイルとか、そういった点に関してはREALデータのほうが強いと思っています。

なぜなら、位置情報ベースでどこに住んでいるか、あとはどういうところで仕事をしているのか。よくカフェに行くのか、それとも居酒屋に行くのか、高級レストランに行くのか。そういった情報を蓄積していて。それを個人が特定できないかたちにグルーピングしたうえで、広告配信に使っています。

(スライドを指して)わかりやすいのがこちらの図です。どれぐらいホットか、という言い方をしたほうがわかりやすいかもしれません。まず、この中にある「情報収集」の部分が、通常のWebでわかるデータです。一方で、情報収集したうえで、本当に興味を持ったので店舗に来たかどうかというところは、やはりWebではわかりませんが、僕らの場合だとわかります。

一番いい例としては、野球。野球サイトによく行くユーザーというのは、通常はWebベースでは野球ファンとか野球好きのセグメントになります。ですが僕らの場合は、例えば、巨人のゲームがある時に東京ドームにいるユーザーとなります。

もしくは、まったく違う意味での野球として、バッティングセンターによく行くユーザーとか、あるいは、草野球をやってる。要は、野球を観るのが好きなのか、やるのが好きなのか。その理由がストレス発散なのか、本当に野球が好きだからなのか。そういった区別もできるところが特徴です。

大多数の「見えない顧客」の測り方

あともう1つ、まさにここがボリュームゾーンになると思うんですが、潜在層ですね。

習慣的行動として例に挙げているのが、よくジムに行く人。僕は毎朝ジムに行くんですが、実際に最後にWebで調べたのは、たぶん2年前ですが、その時に登録をしました。ただ、それ以降は一切Webで見る必要はないので、おそらく位置情報でしか特定できないんじゃないかな、と考えています。

あと、実は無意識的に、コンビニに必ず4時から5時の間に行っているとか。そういった、意識調査では絶対に出てこない実態というのも、位置情報では把握することができます。したがって、こういった情報をもとに、シナラではユーザーをプロファイリングして、千以上のセグメントがあります。

位置情報トラッキングの今

来店計測というのは最近バズワードになりつつあると思いますが、簡単にお伝えしますと、個々の位置情報を取る手法としては、GPSとビーコンとWiFi、この3つになります。

GPSに関しては、おそらく今後、かなり精度の高いものが使えるようになってくると思いますが、現状はまだまだ時間がかかるようです。

まず、ボリュームでいくと、GPSとWiFiは同じぐらいですね。ビーコンは非常に精度が高いんですが、専用のアプリを持っていなければならないので、限定的です。なので、ロイヤルユーザーの特定とかそういう時にはいいかもしれませんが、ボリュームゾーンを狙う場合はあまりおすすめできません。

精度に関しては、現状のGPSの場合、ここでGPSをオンにしていただいたらすぐわかると思いますが、たぶん道の反対側の建物にいることになってしまいます。GPSは屋外は非常に強いんですが、屋内だとズレます。

一方でWiFiに関しては、「アクセスポイント」という端末とみなさんのスマホ端末、この間の電波の強弱で距離を特定できるため、非常に精度が高いです。とくにコンクリートや壁に電波が遮断されてしまうので、屋内にいるかどうかという区別がつきます。

ここ数年はビーコンが注目されてきたと思いますが、ようやくいろいろなアプリを通じてGPSのデータを活用する会社が出てきて、我々のようにWiFiのアクセスポイントのデータを活用する。そのおかげで、ボリュームゾーンへのアプローチと効果測定が可能になってきています。

WiFi測定の精度を上げる方法

その中でも、シナラがなぜ特殊なのか。我々が考えたロジックというのが、電波強度を使用したものです。実は電波強度というのは、仮にすごく薄かったとしても、何か遮断するものがあれば多少減衰します。また、距離に応じても徐々に減衰していきます。そういった特徴を利用して、我々はこの横軸を電波強度とした時に、検知総数というものを見ているんですね。

そうすると、だいたいの場合、こういう波を描きます。

実際はこのようにプロットしてるわけではなくてだいぶ簡易化していますが、分析の軸としてはこういったかたちになっています。電波強度を管理することによって、非常に精度の高い来店計測ができます。

あと、もう1つは真ん中ですね。検知回数も非常に重要です。実はWiFiのアクセスポイントと電波のやり取りというのは、近くにいると何回も行われています。そこで僕らが何を見てるかというと、初回検知からその次の検知です。

したがって、例えば、初回検知、1回だけ検知されてその後検知されない人というのは、たまたま電波強度が非常に強かったとしても、実は通行人という可能性があります。これは業界によってもやり方が変わるんですが、そういう人たちを排除するために、僕らは初回検知から5分経過してもう1回検知された人を来店者とみなす、そういうルールを与えています。

最後が検知時間帯ですね。さすがに営業時間外にたまたまユーザーがガラス張りの建物の目の前にいる場合は、どうしても検知されてしまうという事があります。そういう人たちは、さすがに営業時間外だと中にいないだろうと判断して除外する、そういうルールを使っています。

電波強度に関しては、店舗ごとに自動的に過去1週間分のデータを使って、閾値を最適化する仕組みがあります。実は湿度によっても電波強度って変わったり、いろいろと変数があるので、そういったことを常にアップデートする仕組みを作っています。

その結果、これは実際の検証結果ですが、あるお客さんから実来店の日別のデータをいただいて、我々のほうで検知できているユーザーの推移を比較しました。

相関係数は、いいところでだいたい0.93。だいたい6割から7割ぐらいの店舗がこれぐらいでした。一方で悪いところもいくつかあったんですけども、それでもだいたい0.76。非常に良好な相関関係が見られました。

こういったデータを活用して、シナラの場合はオムニチャネルにいろいろな取り組みを行っています。