アメリカ屈指の名優が卒業式に登場

ブラッドリー・ウィットフォード氏:ありがとうございます、学部長、ありがとうございます。なによりもまず、プロの俳優として感謝します。

1つだけ、役者としてのアドバイスがあります。ウィル・フェレル(注:コメディ俳優、南カルフォルニア大学の卒業式でユーモアたっぷりのスピーチ)のあとには続かないように。大統領の代わりに、ここに集ったみなさんにお礼を申し上げます。

(会場拍手)

これが俳優が自然に引きつけようとするキラリと光るユーモアというものです! ここに来れて本当に良かったです。

私の職業上、ここで演技をしているだけかもしれません。私が演技をしていないときとの違いがわかりますか? サミュエル・ゴールドウィン(映画プロデューサー)は言いました。「演技は正直だ」と。正直であるように見せかけたいですか? できますよ。

ローレンス・オリビエ(映画俳優)はこう言いました。「人が人生で演技をしていないときはない」と。あなたたちの前に立ち、今のようにスピーチをする。衣装があり、台本があり、完ぺきに自分の役をこなしているんです。

私がどう見えるかについて、どうやってあなたたちを納得させればいいのかはわかりません。でも、これだけは言えます。あなたたちはみんな、完ぺきに演技できるように見えます。

衣装は豪華で、一目であなたたちがどういう人たちなのかがわかります。これからあなたたちはいわゆる、ハリウッド俳優のように演技をしなければなりません。髪型、メイク、生き方をそれらしく整えて、あらゆるメイクの技術を使って。

演技の途中には、「整形かなにかじゃないか」なんて疑問を投げかけてくるイカした人たちが必要かもしれません。あなたの見た目に対して、悪意を持って接してくるような人たちが。

大丈夫です。あなたの見た目は、まだ完成していないのですから。イイかんじですよ。見えるところだけ見てはいけません。要は見た目ではなく「中身」です。

あなたたちは今まさに、混迷の最中にいます。未完成なのです。

なによりも素晴らしい演技からにじみ出る若い力。演技のテーマを掴むとその瞬間にはっきりと浮き出てくるものなのです。

考えていること、見ていること、あなたが今行っているのは最高の俳優がしていることなのです。あなたと、あなたの演技の間にある垣根を取っ払っているのです。

私が感じたのは、みなさんはたった今、完ぺきに自分の役を演じている、ということです。信じるか信じないかは別として、私は演じることで大金を得ています。

(会場笑)

誰もがなにかを演じている

「演じる」ということは必然的なものです。生きることの一部です。あえて考えることはなく、親と一緒のときは子どもを演じて、デート中は恋人同士を演じます。

オリビエの言ったことは的を得ています。みなさんは役者なのです。その時々の状況や関係性に応じて常に自分を柔軟に変化させ続け、望む自分になろうとするのですから。

私がこれまでに受けた演技指導で一番ためになった2つのアドバイスは、「演技するな」「演技しようとするな」ということでした。

私たちはみんな、下手な演技をすぐ見抜けます。下手な演技は見るに耐えません。部屋に閉じこめられて、下手な演技を見せられるほど最悪なことがほかにあるでしょうか。ないでしょう!

良いですか、私は下手な演技を見るよりも死刑を望みます。演技が下手なのは許されません。

(会場笑)

とくに、みなさんはわかると思いますが、自分自身で演技するときはとくにそうです。自分の人生を苦々しく感じてしまいます。

たった今だって悪夢のようです。そこかしこにあなたたちのように完ぺきに演じる、洗練された人が待ち受けているのですから、拷問のようです。

かつて、ジュリアード音楽院に行っていた頃、演劇部門と歌手やダンサーを目指す音楽部門とでは、まったく違いました。音楽家や歌手、ダンサーを目指すなら、才能の有無を確かめる前に、目を見張るほどの技術を会得しなければいけません。

しかし、役者は違います。私が演技について知っているのは、しかるべきときに役になりきり、始めの合図で演じるということです。それに尽きるのです。

演技というのは徐々に学べないことですから恐ろしい。再現から、経験から、あるいは別のところから直感で学ぶのですから。演じる技術、というものがなんなのかというのは上手く説明できないものです。

私にはダンサーの娘がいます。ショー・ビジネスの世界に行くことを許す前に、コカイン吸入器を渡すのを気をつけないといけないです。

(会場笑い)

彼女は、体の限界やしなやかな靭帯の影響が、いつ積み上げて来たものを終わらせるとも知れない、舞台における最も足を踏み入れては行けない方面に自分の居場所を見いだしたのです。

彼女のダンスに対する強い思いや情熱を追い求める姿には感心する、と彼女に伝えているうちに、喉まで出かかった一言を言ってしまいました。「犬の方が上手に踊る映画を見た」と。

(会場笑)

彼女はそれに同意しました。本当です。あなたたちにも言えることです。頭でっかちになるのはやめましょう。(笑)

ともかく、それが私たちがショー・ビジネスと呼ぶものです。厳しい世界です。ベッツィ・デヴォス(トランプ政権の教育庁長官)ほど厳しい状態でなければ良いですけどね。

(会場笑い)

私には若い人たちに答えられる大きな器があります。人生の心配ごとや身内の問題を経験しましたし、過ぎゆく時間に後悔だってあります。

卒業証書を受け取る前に、私の話を聞いたという写真を撮っておきましょう。卒業スピーチを贈る者というのは目覚めた死体のようなものです。

(会場笑)

来なけりゃいけなかったんですよ。

(会場笑)

私じゃなかった方が良かったって思ってるかもしれませんけどね。なので、短めに。卒業スピーチを頼まれたとき「私が話せることって一体なんなんだろう」と思いました。

上手く演じる、ということは上手く生きることに繋がります。そのことについてちょっと考えてみたのです。これからそれを少しお話ししようかと思います。

「なりたいもの以上になりたいものになる」

多くの役者に当てはまりませんが、役者であり続ける人が言ったことです。

その1、過程にハマることができるなら、それがなんであれ、結果は自ずとついてきます。したいことをする以上に、したいことをする、なりたいもの以上になりたいものになる。医者以上に医者らしく、教師以上に教師らしく、政治家以上に貢献する政治家に。

(会場拍手)

作家以上に書き、デザイナー以上にデザインし、監督以上に監督しないといけないのです。役者になりたいのなら、それ以上に演じるのです。

あなたがなにをしようと、目に見える報酬を得るには、人生には困難が待ち受けています。その長い道のりを受け入れることに喜びは存在するのですから。

その2、努力しないといけません。

夜、ブロードウェイの開幕で硬直するような恐怖に直面したとき、恐怖をかき消して何事も無かったような顔をし、準備万端にしないといけません。

なにもないところから、一から人生を作り出していくのは正気の沙汰ではありません。というのも、何事も気道に乗るまではその先も上手くいかないかのような気がするものですからね。

これは私がよくする役者騙しの方法ですが、私は自分を嫌ったり、能力を疑ったり、恥ずかしさで行方を眩ませたり、頭のなかでラジオのように「悪態を垂れ流し続けるのは許されないぞ」と、いつも言い聞かせています。セリフを覚え切るまでは、ね。

(会場笑)

不安に思った方が上手くいくものなのです。自信のほどはともかくとして。自信満々な役者というのはたいていひどいものなのですよ。

(会場笑)

不安のなかで行動するのです。この先ずっと避けては通れない道を自分で見つけなければいけないのです。みんなそれぞれに道はあります。なければならないのです。それを乗り越えなければいけないのです。

リラックスしていなければ、演技はできません。準備ができていなければ、リラックスはできません。プロセスと未来の準備をするときを楽しみましょう。

(会場拍手)

その3、準備ができたなら、準備なんてものはゴミ箱にでも放りこんでしまいましょう。

これは矛盾です。表にでるために頭のなかで計画を練っているのですから。最もおもしろい演技、最もおもしろい生き物には驚きの要素があるのですから。嘘偽りのない正直な発見の源が。

私が役者として、親として、男として、人間として影響を受けたのは、本当に無垢な瞬間でした。良い役者はいい演技をします。素晴らしい役者はなりきります。

イキイキとして、ワクワクするものです。

学校では学べないことを

その4、心の声に耳を傾けましょう。

あなたが1パーセントにも満たない臆病知らずな人間だったなら、ブロードウェイの光景を目の当たりにして、沢山の批評家や人々を前にしても、「あの舞台に立ちたい!」と思うでしょう。

あなたがどれほど内気であるかは問題ではありません。役者とはみんなそういうものですから。重要なのは、あなたの人間性にほかなりません。戦う道を見つけなければ、ショービジネスはあなたを受け身にしてしまいます。

誰かに書いてもらい、誰かに造り出してもらい、誰かに役を決めてもらう、という恩恵があるのですから。たった1人でどうこうできません。監督があなたを選んでくれるのは素晴らしいことですが、そのときに、自信をつけないといけません。

あなたたちは人生のほとんどを、することが前もって決められている学校で過ごしてきました。この素晴らしい学校を選び、なんでも受け入れることを良しとする、先生たちを喜ばせる生徒であったでしょう。

そんな人間にならないでください。あなたたちはそれ以上なんですから。自分自身が進むべき道を決めてゆく、恐るべき素晴らしい瞬間に辿り着いているのですから。

あなたの積み上げてきたものを生かしましょう。覚えていてください。監督は大統領のようなものです。いつでも自分のしていることを理解しているわけではありません。

(会場拍手)

それどころか、ときに彼らは狂っていますから!

(会場笑)

内なる声に耳を傾けてください。

その5、あなたたちは自分が思っている以上のことができます。

役者は知っています。もしあなたが蚊を手で打ったことがあるなら、あなたのなかの殺人者の第3スイッチが入ります。

目を見開き、息を荒くし、誰かがその部屋に来ることに敏感になるのです。あなたはロミオの波打つ心を持っているのですから、自分で限界を決めてはいけません。

予期せぬ行いから学び、モノにするのです。不安定な 虚勢を張ることはできても、断ち切れない鎖は自分のなかにあります。

固定概念とは「死」である

その6、ミドルスクールのサッカーのコーチのチャンピオン争い。

(会場笑)

「創造性を殺せ! どのように演じるか、なんて考えても効果はない」「場面場面でどのように見せようかとするアイデアなんて効果はない」「どのように場面を見せるか、なんて効果はない」。

演劇学校出身者にとってたったひとつのアプローチは根本的な、基本的な宗教的な性(さが)です。考えをことごとくはねのけられる、理不尽な世界に直面したとき、やってはいけないことをお教えします。

固定概念を持つこと。それは芸術の死であり、民主主義の死です。

(会場拍手)

その7、聞くこと。

役者ができることでなによりも難しいことです。あなたは素晴らしい人生を大根役者のように費やしたくはないでしょう。

役を淡々とこなすだけの、あなたの周りの世界から置き去りにされた。あなたたちにそうなっては欲しくありません。

聞くということは、決して受け身な行為ではありません。演技の道具でもありません。聞くことは生きた情報を得ることです。世界と繋いでくれます。人と人との繋がりで新たな世界への道しるべとなってくれるのです。

ついにその8です。101回実演する、やってみる!

あなたが演じてきたどんな物語でも、どんな読み物でも、どんな驚きでも、どんな小さなことでも、それが実際に演技をしたときの成果につながります。

「未来は能動的な創造力だ」。

ジョン・F・ケネディは言いました。その通りです。政治的にも、個人的にも。あなたたちは囚われた囚人ではありません。選択肢があります。

受動的な境遇の犠牲者にもなるでしょうし、自分自身の人生の能動的な英雄にもなるのです。行動を起こすことは 無関心や冷笑、絶望への 解毒剤です。

間違いを犯すこともあるでしょうが、自分になにができるかをその都度考え、前に進むのです。やがて、失敗からではなく、全力で駆け抜けてきた道から審判を下される日が来るでしょう。

覚えておいてください。信じられないことが起きるとしたら、それはショーです。

(会場笑)

ショーは地球上にはびこる罠の1つです。自分自身の人生を生きてください。死の間際になったときに誰ももう1回テレビショーに出たい、と願う人は居ません。絶対に(笑)。

(会場笑)

自尊心をひた隠し、ショービジネスに持ち込まないでください。自尊心をひた隠し、誰かに押しつけないでください。役者として芽が出ないと思ったら、別の道を探してください。

ジュリアードを卒業した若い役者が、最近私に聞いてきました。「自分が役者にふさわしく、そうなりたいと望んでいたら役者としての実績を積めるのではないでしょうか」と。

答えは、そうではありません。役者として食べていくのに確固たる答えはありません。そこにはさまざまな要因があるのです。

しかし、私は信じています。あなたが魅力的で、献身的で、一生懸命で、心の底から役者になりたいと願うなら、のちに語り継がれる人物と成り得るでしょう。忘れないでください。自分が思っている以上の力があなたにはあるのです。

「人生の主役はあなたです」

私はいつも常に不満を抱えていた役者、若き日のアラン・ソーキン(劇作家)が執筆することに活路を見出し、やがてその道で成功したことを考えます。シェイクスピア同様に。

あなたたちは今、理解者を見つけようと躍起になっていることでしょう。私の心からの願いはあなたたちが理解者を持てるようになることです。

理解者を見つけることは行動を起こせる場所を確保するということです。力を蓄える場所ができるということです。

あなたは今まであなたが演じたなかで最も素晴らしい人物です。このことをいつでも胸に留めておいてください。あなたたちは、とっくに素晴らしい、美しく、完ぺきな役を演じているのですから。

人生の主役はあなたです。守り、気をつけ、参加し、驚きのあるものにし、ワクワクし、耳を傾け、ハマって、真っ白な心で行動を起こし、一生懸命取り組んでください。

すごい話ですよ。あなたが想像できるどんな種類の物語の一員にもなれるのですから。ラブシーンはきっとすごいでしょう(笑)。

(会場笑)

ときにはコメディ、ときにはドラマ、ときにはホラー、ときにはバカバカしいソープオペラ、避けられない悲劇もあります。困難の出現があなたを決定するわけではありません。

強さに変えましょう。地球上で一番素晴らしいショーの魅力あふれる登場人物、それがあなたなのです。人生という名の物語の主役はあなたです。

喜びに満ちた人生を。おめでとうございます。

(会場拍手)