実現しなかった企画も山ほどある

質問者4:お話ありがとうございます。今、アニメのクラウドファンディングのプロジェクトには、いろんなポジションの方が関わっていると思います。それこそ監督さん、プロデューサーさん、制作会社だとか、いろいろあると思いますが、どういったところから持ち込まれる企画が多いのでしょうか?

また今後、こういうところがクラウドファンディングに話を持ってきてくれたらおもしろいことできるんじゃないかなみたいなことがありましたら、お話うかがえたらと思います。

中山亮太郎氏(以下、中山):やっぱり多いのは制作会社のプロデューサーだったりとか、制作といっても、どっちかというとビジネスサイドを担当しているプロデューサー、お金集めを担当しているプロデューサーさんが多いと思っています。

監督自らというのはほぼない。これは実写も含めて、けっこう少なかったりしますね。完全にインディーズの自主制作映画みたいなものだと、監督、兼、「自分でプロデュースもやってます」みたいな、プロデューサーもお金集めもやっているみたいな学生さんとか多いんですけれども、そうですね、プロデューサーさんが多いなという感じです。

もう1つは、配給会社さん的な、宣伝部分を担っている会社さんも多かったりしますね。

ただ、コンセンサスにはいろんな人たちがいらっしゃるので、基本全部で製作委員会を通します。やっぱりそこですごい時間かかったりして、なんだかんだ言って実現しなかったところは山ほどあります。ただ、『この世界の片隅に』がヒットしたので、だいぶ風通しはよくなったという感じですね。

今後使ったらおもしろいなと思うのは、自社作品をやれていない、下請け的にやられている制作会社さん。でも、すごく能力が高かったりする方も多かったりするじゃないですか。すごい大手でやっていて、めちゃめちゃ優秀なアニメーターが、「自分で会社を作ってやる!」みたいな感じでやってらっしゃる方も多かったりするので。

そういった日々の受注業務みたいなところをやりながら、ワンチャン自主制作で。いきなり長編作るとなると、全部ストップしてとてつもないリスクだと思うので、ある種の手弁当。そんな余力もないと聞いてるんですけれども、そのなかでも歯を食いしばって、短編ですごくいいものを一発作って、みたいな使い方とかは、オリジナルでやっていく1つの足がかりとして非常にいいんじゃないかなと思っています。

さっきの京都市営地下鉄のやつも完全オリジナルじゃないんですけれども、CMでアニメ制作をよくやられている会社さんが、初の自社作品ということで作られると聞いているので、その手のパターンみたいなものは、どんどん出てきてほしいなと思っていますね。

質問者4:ありがとうございます。

有名キャラクターを使ったコラボをやるには

質問者5:お二方にそれぞれ質問があります。自分はエンジニアをやっているので、アニメのなにかアプリとかを作りたいと思ったときに、やっぱり一番ネックになるのって著作権周りのことだったりするんですね。それを持ってるからの強みだったり、持っていないからどう入っていこうかみたいなところで、すごく難しい問題なのかなと思っています。

安彦さんにお聞きしたいのは、売上等のしきい値だとか、「これぐらいあれば動かしていけるよね」みたいな感覚があれば、教えていただきたいということ。

中山さんに関しては、Makuakeさんの過去の事例で、こういうアニメ制作会社さんを結びつけた、であったりおもしろいコラボができたという事例があれば、教えていただきたいです。お願いします。

安彦剛志氏(以下、安彦):まず、これは誰が主かによっても変わってくるお話なんですね。

いわゆる版権元がクラウドファンディングを使おうとした場合と、第三者、我々みたいなところが「アニメを使わせてください」といってプロジェクトやるのではまったくまず土俵が違います。

だから、版権元さんが、『この世界の片隅に』みたいな感じでなにかやりたいというときは、これはもうぜんぜん気にしないでやれます。失敗するリスクで知名度が落ちる可能性があるぐらいで、それ以外はあんまり気にしなくていいです。

ただ、権利を借りてきて、そこでなにかプロジェクトをやろうという場合には、基本的に権利を借りるための契約金というかたちで契約します。

その場合は、ミニマムギャランティを支払います。「作品の名前を使ってビジネスをするなら、まず一定の金額を払いなさい」というもので、これは業界の慣例です。それがピンキリであります。

だから、あんまり「これがいくら」とか言えないんですけど(笑)。10万円ぐらいから、果ては1,000万円とかね。まず名前を借りる費用で、こういうミニマムギャランティという仕組みがあるんですよ。

だから最低限計算しなくちゃいけないのは、例えば50万円払ったら50万円粗利が出るようにしないと、クラウドファンディングをやる意味ないじゃないですか。使って、商品化して、粗利50万出ないのに50万払ってもしょうがないわけですから。

だから気にするところは、まずは企画が通るかという根本的な部分で提案するところ、それから最低限払わなくちゃいけないお金がいくらなのかを聞いた上で、粗利計算してファンディングしないと、実は自分が大赤字だった、みたいなことになりかねないので、そういう業界の法則をちゃんと理解した上で、ぜひチャレンジをしていただければと思います。

質問者5:ありがとうございます。

Makuakeも一緒にこじ開けていきたい

中山:いや、本当複雑なんですよね。

(会場笑)

中山:どこが窓口権を持っているかというのがわかりづらいところはあります。

幸いにも僕らがお話する方というのは、コンテンツホルダーにきわめて近しいかど真ん中の人が多かったりするので、どちらかというとその人たちから「こんなことやりたいんだよね」みたいな話を受けて。「それ作れますよ」みたいなところで、アレンジをすることが多かったりしますね。今後、僕としてはそういうのをもっとやっていきたいなと思っています。

なので、僕の恣意によっちゃうのもあるのかもしれないんですけれども、なにかおもしろいなって本当に思ったら、そこを僕も一緒にこじ開けていきたいなと思っていますし。例えば「AIでうんちゃらで、これで……」みたいな、「もう絶対にアスナ使いたい!」みたいな(笑)。

(会場笑)

たぶん今一番難しい入り口なのかなって思うんですけれども、そういったところは僕も一緒にやりたいと思うので、なにかあればぶつけてきていただければなと思っております。

質問者5:ありがとうございます。

入り口を間違えると大変なことに

安彦:ちょっとだけ補足で。注意しておいたほうがいいというか、今の話で気になったんですけれども、アニメみたいなジャンルって、入口を間違えると沼にハマるパターンがあるんですね。

1つが、作り手側。プロデューサー、もしくは監督、もしくはそれに近いところの宣伝側、宣伝の人たち。これは「作品を広げたい」という意思を持っている人たちなんですね。作品を広げて、おもしろいことがあったら「おおっ、いいじゃん。それ。一緒にやろうぜ!」っていう立ち位置の人。

もう1つが、ライツというところなんですね。ライセンスを主としてやっているもので、会社としてコンテンツが売れるものになったから、「これを使ってお前らは死ぬほどもぎ取れ」と。「刈り取ってこい」という部署があるんですよ。

この2つって、会社はだいたい分断されて、2つに分かれています。なので、入口を間違えると、ただ単に、「ハイ、いくらです。どうぞ」ということもあるし、逆にお金がどうこう払ってでも、プロデューサー側や宣伝側からするとメリットがないから、「そんなの1億積まれたってやりたくねえよ」って断れてしまうということがあるので、そういうアニメのジャンルの難しさがあるというのもあわせて知っておいていただいたほうがいいかなと思います。

質問者5:ありがとうございます。

なぜ、コミュニティが必要なのか

質問者6:今日は貴重なお話ありがとうございました。お二人ともコミュニティの力の重要性ということを言われていたと思うんですが、この力をどう引き出すのかということについての質問です。

安彦さんのソーシャルループのスライドのなかで、「コミュニティを作らせる」という文言が出てきましたが、実際そのコミュニティを作ることの狙いとか、あるいはその方法論をどうやって作らせているのか、その規模や運営管理、ゴールはどうやってるのかとか、そのあたりについてお話をおうかがいしたいです。

安彦:先にいいですか?

質問者6:はい。

安彦:すごい鋭い質問で、ありがとうございます。実は、ちょっと話が逸れるんですけど、私が今やっているサービスに「舞台めぐり」というものがありまして。地域とコンテンツ、アニメを結びつけて、聖地巡礼をより楽しくしようというサービスをやってるんですけれども、これも実は発想がけっこう近くてですね。まず、コミュニティを作ってるんです。「舞台めぐりサポーターズ」というのを作っていまして。

サポーターズがなにしてるかというと、地域代表みたいな感じで、その地域の第一人者みたいな人ができてくるんです。そういう人たちを、サイボウズでコミュニティを作っていまして、サイボウズの中に入れる権利というのを渡して、そこで次にやる施策を出していって。「この施策、こんなことをやったらどう思う?」とかって、みんなにコメントを書いてもらったりしてるんですね。

要は、そうやってイベントへの参加感を出してあげることで、アングラのコミュニティの活動をしながら、公には自分たちはみんなTwitterとかで勝手につぶやいてもらうという仕掛けをしています。

じゃあその当時どうしていたかというと、そういうノウハウすらなかったので、オープンチャンネルでTwitterでみんなやっていました。Twitterで「俺は応援すんだぜ」「マジか! 応援してくれるのかよ。じゃあちょっと、こういうのやらない?」みたいな感じで。

いやー、あの頃は無邪気だったなと思ったんですけど、けっこうな言葉を全部Twitter上に放り出して。私は「私の個人アカウントだし」って思っていたので、個人のアカウントのフォロワーをうまく活用して、オープンのTwitterでどんどんその話をしていると、その話を聞きつけて、「俺もやりたい」「俺もやりたい」といって参加してきたんですよ。

今考えるとリスクあるな、とは思うんですけど、そうやって発言したことが「自分はメンバーなんだ」って自分自身を思わせる。だから、ハッシュタグみたいなかたちで、なんとなくの仲間づくりをして、あの頃はコミュニティを作っていました。それがちょっと発展して、ちゃんとメンバーみたいなものを作って、ファンクラブ的な活動に変えています。

ファンが応援したくなる「公式」のあり方

中山:難しいですよねえ。これはどこまでいっても難しいと思います。たぶん人のテクニックとキャラクターとかにも、コミュニティのマネージャーにも左右されると思うんですけれども。

1個、コミュニティサイトとしてくくってはいないんですけれど、うまくオープンチャンネルも含め束ねてるなという感じだったのが『少年ハリウッド』でした。

まず原作者がファンの気持ちを100パーセント理解しているので、クラウドファンディングやっているときに、普通、原作者だったら「みなさん応援お願いします。ぜひ申し込んでください」って言うじゃないですか。こういう言い方絶対しなかったんですよね。

なんかもっとこうみんなを巻き込むみたいな言い方。「お願いします」とかじゃなくて、ちょっと忘れちゃったんですけど、すごくうまく巻き込むような言い方というのを徹底的に意識されていたというのが、原作者としてのあり方でした。言い方を変えると、ほかの言葉で適用すると、公式のあり方なのかなと。

そこのおもしろかったのが、もう1人、汗をかくプロデューサーみたいな人がいて、その人が「ちょっとかわいそうなやつ」みたいな、ちょっとしたピエロ感みたいのがあるというか。なんか板挟みになってるとか、「僕らのためにすごいがんばってくれてる」「原作の向こう側とこっち側をつなぐためにすごいがんばってくれてる」みたいな、汗をかくようなキャラクターというか。たまたまそういう立ち位置になっているだけだったんですけど、そこがすごく応援されていました。

ということがあって、公式の権威感みたいなところ。でも、そこはすごくファンのことがわかっているという前提がありつつ、そこの間を取り持つなにか、Startup Weekendであれば、公式があって、それをつなぐオーガナイザーがすごい汗かいてて、板挟みされてすごい大変そうだけど、なんか「この人ががんばってくれるんだったら、俺ら間違いないよね」みたいな感じになっているというところがセットだったりすると、意外に続いてるなと。

でも、裏では緻密に情報発信のタイミング、内容、伝え方みたいなところはスケジューリングされていたりします。ここの継続性がないと、コミュニティが続いていかなくなっちゃうんですけど、この継続がむちゃむちゃ大変だと思うんですね。

なので、ここの緻密なスケジューリング設計みたいなところとか、ネタをどううまく作っていくかみたいなことがあるのでめっちゃ難しいんですよ。でも、このへんができるとコミュニティって、アニメだけじゃなくて、こういうStartup Weekendみたいなコミュニティとかもうまくいくのかなと思っております。

質問者6:ありがとうございます。

司会者:じゃあ時間もだいぶ過ぎてしまったので、いったんここまでということで、今日はありがとうございました。

(会場拍手)