旅した中で衝撃だったのはエルサレム

出口治明氏(以下、出口):はい、次の方。じゃあ、後ろの方から。

質問者6:先ほどの旅に関することで、人との縁も大事ということだったので。今まで旅した中で出会って、「これは衝撃を受けた」というような人や場所があれば教えていただきたいと思います。

出口:山ほどあって、1つに絞れないんですけれど。あえて挙げれば、やっぱりエルサレムはすごいですね。

エルサレムって、ものすごく小さいんですよ。1キロ×1キロの城壁に旧市街は囲まれているので。そんな小さい中に、ユダヤ教とイスラム教とキリスト教の聖地があるわけです。それも、仲良く住んでいるわけですから。これ、やっぱりいろんなことを考えさせられますね。

あるいは、……そうですね。日曜日とかに上海の雑踏を歩いているだけでも、ものすごいエネルギーを感じます。こんなにたくさん人がいて、せかせか歩いていて、ガンガン買い物していて、「えらい元気があるな」ということがわかります。

どこへ旅しても、衝撃を受けることが大きいです。でもあえて言えば、もし行かれたことがなかったら1回エルサレムに行ってみてください。世界で一番安全な街です。だって、世界最強のイスラエル軍が常時守っていますから、エルサレムでテロって、あまり聞かないでしょう?

質問者6:ありがとうございます。

人とのコミュニケーションは、共通テキストの多さ

質問者7:私自身の目標というか、ライフワークみたいな感じで考えていることが、グローバルに人をつなぐということです。

今、グローバルみたいなところに勤めていて、ふだん自分で心がけていることは、海外の人と仕事をしたり、今は仕事をしてなくてもまた連絡をとるときも、ちゃんとうまくコミュニケーションをとって、信頼関係を築くことです。あと、英語もちゃんと、きちんとした英語を使ったほうが信頼してもらえるからとか。そういったことに気をつけているんです。

日本国内だけじゃなくて、仕事よりもほかのことをするようになっても、ずっとそういったかたちで、いろんな国の人と関わっていけたらいいなということを思っているので。そういうふうに、ずっと長い目て、歳をとってからもできるようになれるにはどういうことを心がけていったらいいですか? アドバイスいただけたらと思いまして。

出口:これは簡単で、人間と人間のコミュニケーションは、基本的には共通テキストの数の問題ですよね。ライフネット生命はKDDIさんと業務提携しています。KDDIさんのテレビコマーシャルは、浦島太郎、金太郎、桃太郎ですよね。おもしろいでしょう? 

なんでおもしろいかと言えば、僕らが浦島太郎も金太郎も桃太郎も知っているからですよね。あれ、外国人に見せたらぜんぜんおもしろくないと思いますよ。これが共通テキストの問題です。人間が話ができるのは、共通テキストの数によるということが、ほぼ解明されています。

だから昔、(ヘンリー・アルフレッド・)キッシンジャーが言ったことですが、ある国の人と仲良くなりたければ、その国の地理や歴史をきちんと勉強したら共通テキストが増えるわけですね。

浦島太郎の物語は、共通テキストの問題を象徴しています。帰ってきたら、友達が誰もいない。同世代の知っている人が誰もいないということは、同じ日本語を話していても、共通テキストがないんですよね。そうしたら、コミュニケーションが成り立たないですよね。

例えば、僕の友人の先生で世界プラトン学会の会長をされていたんですね。英語ペラペラですか? いや、下手です、と。でも、プラトンという共通テキストがあったら、語学はどうでもいいんですよね。キーワードだけで会話ができるので。

だから、これは日本人、外国人を問わず、人とのコミュニケーションは、共通テキストの多さだということがわかる。そのことからも人・本・旅って、大事でしょう? 人・本・旅で、いろんなことを知れば、一つひとつ共通テキストが増えていくのです。そうでしょう?

恋人がスキーが好きだったら、自分もスキーを勉強するでしょう? それは、共通テキストを増やしているんですよね、一緒にいたいから。それと同じことなので、外国人に限らず、日本人もそうですけれど、いろんな共通テキストが多い人とは、仲良くできますよね。それでいいですか?

「こんなことが聞きたい」という問いかけがあって初めて話せる

次の方?

質問者8:出口さんがいろんなところでメッセージをしているときに、そこにいた人たちがよかったというか、すごく深い気づきをもらったみたいなテーマというのはあるんですか?

出口:基本的には、一期一会だと思っていて。呼んでくださる人がなにを話してほしいのかをよく聞いて、その通りに話をします。でも、僕は自分の話を聞いている人ではないので、どんな気づきを与えたのかはよくわからないです。

でも、人間の話ってなんでもそうですが「こんなことが聞きたい」という問いかけがあって初めて、僕の知っているいくつかのことをお話しできるのです。

今日はこういう立派な場所で、こんなにたくさんの人が来られていますが、ほとんどの講演会はだいたい10〜30人の間で、公民館とか貸会議室でやっているんです。

変な話ですけれど、みなさんがたくさん質問してくだされば、たくさん答えられる。でも、質問がなかったら、なにも答えられないのと同じです。

どんな講演であれ、一般論ですけれど聞きたい・知りたいという気持ちが、講師から(情報を)引き出すんだと思いますね。呼んでいただいたらどこへでも行きますよ。

ムダを省くためにスケジュールをオープンにしておく

次の方?

質問者9:先ほど、下の玄関のところで、また新しい本『「都市」の世界史』が出ているのを見まして。出口さんの、その素晴らしい……。なんと言いますか、次々とご著書も出されて、毎日毎日、毎夜毎夜と講演もされて。たぶん、8,760時間のうち、かなりの時間を仕事に費やされているのではないかなと思うのです。

出口:僕は正直言ってこの10年間、人生で一番長時間働いています。まぁ、ベンチャーの経営者だったら当然なので。

でも僕の友人は、誰も同情しないんですよ。「お前はサラリーマンのときに、夏、冬、2週間、遊び回っていたやないか」と言われるので(笑)。僕の友人からは、「神様はやっぱりいるんやな」「一生の働く時間はみんな一定やで」と言われたりしているんです(笑)。

(会場笑)

質問者9:なるほど、なるほど(笑)。1つだけお伺いしたいのは、時間管理です。本当に24時間、平等にみなさんに与えられている時間なんですけども。出口さんが時間管理で一番どこか気をつけられているところがありましたら。

出口:なにもないですよ。

質問者9:なにもない?(笑)。

出口:昔から僕はロングスリーパーで、寝るのが常に優先順位の一番ですから睡眠時間は絶対に削りませんし。ご飯を食べるのも大好きなんで、その時間も削りません。この2つさえちゃんとキープしておけば、人間は元気なので。あとはもう、正直早いもん順です。

質問者9:早いもの順ですね。

出口:僕のスケジュールは、本にも書いているんですけれど、いつも社員全員にオープンにしいてるんですよ。「誰でも、空いていれば予定を入れてええで」「その通りやるから」と。このほうが楽なんですよ。軽重判断とか一切しなくていいでしょう? 僕は、怠け者なんで。

いかに無駄を省くかを考えたら、スケジュールをオープンにしておく。社員は、たぶん僕より真面目に考えて、「この人は、出口さんに合わせたほうがいい」とか判断して予定を入れてくれるので。一番楽をしようと思ったら、スケジュールは社員みんなに決めてもらう。そして、予定がいっぱいになったらおしまい。公平だし、楽できますよね。

たった1つ、許してもらっている例外

質問者9:なるほど。はい、わかりました。なかなか実践するのは難しそうですけど、参考にします(笑)。

(会場笑)

出口:簡単ですよ!

質問者9:いや、出口さんならではで。だからみなさんがスケジュールを合わせてくれるのであって……なかなか、まだペーペーの者には難しい部分もあるかもしれません。

出口:いっぱいだったら、合わせてもらうしかないじゃないですか。「この日に講演に来てください」と言われても「先約が入ってます」となる。でしょう?

質問者9:はい(笑)。わかりました。

出口:例外を1つだけ設けているんですよ。免許事業なので、金融庁に呼ばれたときは、ごめんなさいなんです。1回だけあったんですよ。何人も集めて講演会をやっている途中に、呼び出しをくらったんです。

なので、1時間講演して、残りの1時間はうちの役員を連れていって、代わりにしゃべってもらって(笑)。これだけは許してもらっているんですよ。免許事業なんで、どうしても来いと言われたらしょうがないですね。

質問者9:ありがとうございます。