便が浮く理由

オリビア・ゴードン氏:用を足して、下を向くと、便が浮いているのに気づいたことはありませんか。いつもそうなるわけではなく、たまにあるぐらいのことかもしれません。しかし人によっては、いつも便が浮いているということもあるのです。どこか具合が悪いのかと心配している人もいるかもしれません。

それで、ネットで調べてみると、脂肪が原因だと指摘しているサイトが多いことがわかります。脂肪は水より比重が小さいので、便にある程度以上含まれていると、軽くなって浮くと説明されています。

医学的に脂肪便と呼ばれる脂肪を多く含む便は、脂肪が体内に吸収されないために起こるのですが、膵臓がんや嚢胞性線維症といった深刻な病気以外、普通はあまり起こりません。

1970年代の初め、ミネソタ大学の2人の学者、マイケル・レヴィットとウィリアム・ドゥエインが脂肪のせいで便が浮くという説に疑問を抱きました。脂肪ではなくて、便に含まれた気体が原因で浮くのではないかと彼らは考えたのです。

というのも、まったく健康な人の場合でも、100人に15人ぐらいは便がいつでも浮くことがわかっていましたし、ドゥエイン自身の便もいつも浮いていたからです。

そこで彼らは調査に乗り出し、その結果を有名な医学雑誌『New England Journal of Medicine』に発表しました。論文のタイトルは、「浮遊便-原因は腸内ガスか脂肪か」です。

6人の脂肪便の患者と33人の健康なボランティアが便をサンプルとして提供しました。33人の便の中には浮遊便もいくつか含まれています。レヴィットとドゥエインはサンプルを水の入ったフラスコに入れ、沈むかどうか調べました。また、もし沈まない時は、圧力を加えて、便の中の気体を押し出したらどうなるかということも調べました。

すると、脂肪を最も多く含む便でも気体を抜けば沈むことがわかりました。実際、脂肪のために便が浮くということはほとんどありえないのです。というのは、便が脂肪のために浮くには、便の半分以上が脂肪分でないといけないからです。

そういうわけで、便が浮くのは便に含まれる気体のせいだということがわかりました。しかし、それは一体どういう気体で、どこから発生するのでしょうか?

幸いなことに、便にとことんこだわる2人の研究者は、気体の濃度を分析するガス・クロマトグラフィーを使い、成分を分析し、ガスの正体を突き止めました。気体の大部分はメタンでした。天然ガスに含まれるメタンです。大腸に寄生するメタン細菌という特殊なバクテリアが作っていたのです。

誰でもこのバクテリアを持っていますが、人によっては、その量がとても多いのです。ドゥウエインもその1人で、自分のメタン発生量は記録的なぐらいだと認めています。メタン細菌は水素で繁殖し、腸内の食物繊維を発酵させます。その点は、牛の場合とよく似ています。豆のように繊維質を多く含む食べ物を食べると発酵がより活発になります。

そういうことで、便に関してインターネットに書かれていることをなんでも鵜呑みにしてはいけません。便が浮くのは、単に腸内ガスが多いだけなのです。脂肪の多い便でも、浮くのはやはりガスのせいなのです。