ドイツは日本より人工が少ないのに生産性が高い

デービッド・アトキンソン氏(以下、アトキンソン):当然ながら、あのぐらい増えているということは当然技術もあります。

それに、教育制度とか社会がきちんとしたかたちでできてるところで、ポンポンと人が増えるってことは車が売れる、家が売れる、食事は当然食料品がいります。服いります。

いろんなことやっていきますんでそうするとどんどん増えていきますので、それだけでできたってことは決してそういうことはないんですけども。ただ企業としてはですね、ちゃんとしたものを作ってれば、去年売れたトヨタより、来年売れるトヨタの台数が多くなることは決まってるんです。

山本一太氏(以下、山本):人口が増えていけばね。

アトキンソン:人口が増えていきますから。そうするとですね、ドイツを抜いたタイミングと実際に見ると、やはりどんどん増えている日本の人口と、そんなに増えてないドイツの人口を比べてみるとですね、今現在でドイツの生産性の方が高いです。日本は下がってますので。

では、今現在においてはなぜ日本はドイツよりGDPが多いか。

ただ単に、人口が多いです。そうすると、ずーっと昔から見ると、どんどんこうなってます(人口の差が広がってますんで)。当然ながらGDPのギャップがその生産性が下がってます。生産性が下がって人口が増えているということは、オール人口で日本とドイツの経済成長の説明がつきます。

山本:なるほど。それはすごくおもしろいなと思うんですけども。だいたいさっき言った、先進国の例を出せばまさに人口とGDPに完全に9割くらいの正比例の関係がある。

人口だけでGDPが増える時代ではない

そうすると例えばアトキンソンさんが、これからアメリカじゃなくて日本はヨーロッパをよく見てヨーロッパと比較していくべきだとよく言ってますけども。確かに人口とGDP、だいたい日本、フランス、イギリス、ドイツって、確かに比例してるんだけど、そこに新しい要素として中国とかインドとかね。

アトキンソンさんが言うように、普通にいけば必ず中国が1番になり、インドが2番になってくるのかもしれません。これは生産性が低かったから、このレースに入ってきてなかったのか。

今バーンと中国のGDPが伸びている、インドのGDPがおそらく日本を抜くかもしれない。これはもう十何億人いるわけだから。それは中国とそれからあれですか、単純に言ってインドの生産性が極めて低いところから上がってきたからですか?

アトキンソン:そうですね。実際にはですね、先ほど申し上げたJapan as No.1の時代でですね。あとは、日本国内で今、「中国はバブルだ」「大したことないんだ」とか言う人多いじゃないですか。

90年代のアメリカに関しては、みなさん「もうアメリカは終わりだ」「リーマンショックでもうこれはアメリカ資本主義はもう終わりだ」っていうことで、「沈むアメリカ」だとか言われてますよね。いつまで経っても言われています。   私が実際にアメリカを見ている30年間の間で、毎年のように「沈むんだ沈むんだ「この社会制度がおかしいんでしょ、それはもう崩壊するでしょ」と言われているんですよね。

私がアメリカを離れた89年の末で覚えてますけども、人口として2億4,000万になってます。今3億2,000万になってます。

その25年間、26年間になにが起こったかというと、ドイツの人口と同じ人口をアメリカに足してるんです。そうするとですね、GDPは増えるはずなんです。

実際に見ればおっしゃるように、インドとか中国を見ますと、1人当たりドルとした場合、1人当たりのGDPがだいたい7,000ドルぐらいですね。そして日本人は3万8,000から3万9,000くらいなんです。インドももっと低いんですが、やはり人口が多いですから1人当たりGDPが上がると、先進国にぜんぜんなってないのにいきなり総額ではドンと上にいくんですね。

これはおもしろいことなんですけども。中国が日本を抜いて上にいったときに、「これはバブルだ」「大した技術ないでしょ」と言ってですね、これはもう関係ないんですよ。ただ単に人口で勝ってるだけなんです。

そうすると「実は日本も人口で勝ってるでしょ」って言うと、「いやそれは違う」と言う。相手に対して「いや人口だけでしょ」と言ってるのに、「あなたもそうじゃないの」って言ったら「いやそっちは違うよ」と、やっぱり矛盾するんですね。

ただここで大事なことは、実は経済誌の中で2000年間の間に中国とインドは世界第1位、2位の経済がずっと続いています。

山本:ああ、GDPは昔はヨーロッパよりも大きかった、世界一だった。

アトキンソン:そう。そうするとですね、20世紀でだいたいその1900年代に入ってから日本が出るまでぐらい……。この100年間だけ、その主に先進国のみで、その中で人口比例なんですけども、ほとんど人口関係なく技術だとかそういうことで、人口がそんなに多くないんだけども、上の方のGDP総額すべて先進国だったんです。

だけど今はそういうことではなくてですね。もう元に戻って、技術も必要なんだけれども、やっぱり人口で上にいくっていうのが大昔の世界だけなんですよね。

これまでの日本の経営者はぬるま湯にいた

山本:なるほど、すごくおもしろいです。さてそこで、アトキンソンさんの説によればですね、日本の失われた20年、まあ20年以上になったんだけども。安倍政権になって少し元気になってきたとこもあるんですが、人口が増えなくなったということが原因だとすると、これから日本は普通でいくとまた減っていくわけです。

しかし、ここでアトキンソンさんの言う人口がどんどんどんどん増えてきた。人口が増えたっていうのは結局、生活環境が良くなった、もしかしたら社会保障制度がいいとか医療制度がいいというのが関係あるのかもしれませんけども。

人口が増えない時代、それでもアトキンソンさんは、やはり日本にはポテンシャルがあって、ちゃんと考え方を変えれば、例えばGDP1.5倍にできる。なおかつ、安倍政権になって2,200万人。これは過去最高ですけど、これももっと増やせるとおっしゃってるんです。ではどうすればいいのかっていうところですよね。ここ(本)にいっぱい書いてあるんですけどね。

アトキンソン:あれですよね。要するに今までの日本の経済成長に人口がかなり大きな要因であったという説が、私からすると成立する最大の証拠は、人口増加が止まった。特に労働人口が止まったのは、だいたい1992〜1993年あたりです。

日本のGDPが止まるのはだいたい同じなんです。日本の1人当たり生産性が止まってしまうのも同じ。

山本:90年くらい。

アトキンソン:結局、1990年以降は労働人口そんなに増えていない。そうするとですね、先ほどおっしゃったように人口×生産性=GDPだから、人口が増えなければ生産性を上げていかないとGDPが止まってしまうのは当たり前の話なんですよね。

ただ、それには気付いてないだけなんです。気付いてないから、生産性を上げようとしない。そこで人口増加時代の私からすると、副産物だと思いますけども、やはり日本型資本主義だとか日本的経営だとか、公益ばかり考えてます。これは私からすると、人口がガンガン増えてたんだから、要するに悠々自適的なことを言えたと思います。

山本:けっこう日本の経営者はぬるま湯にいたってことですね。

アトキンソン:もう、ぬるま湯ですよ。だってなんにもしなくても、全部こうやって上がってきます。そうすると、追い風だったのが全部こうやってagainstになってるんですよね。このagainstの中で現実を見て、国の借金1,000兆円、それで福祉の問題や子供6人に1人が貧困してるとかですね、こういう現実を知らない人もけっこう多いんですよね。

そういうところで、人口では経済が成長しないから、もう生産性を上げるしかない。これはもう誰でもわかる単純なことなんです。でも、だからといって今までの26年間でこういう議論があったかって言うと、そんなにないですよね。

国として生産性を上げるために注目された、観光産業

最近は安倍政権の第三の矢ですとか。とはいえ、まだ「生産性がすべてです」とはなっていないと思います。だからといって、前よりは生産性を上げないとだめでしょうと、意識がどんどん変わってきてると思います。

特に観光産業ですね。もう去年で国策になりました。2020年4,000万人。これも実は生産性向上の話なんです。結局は、国内の神社仏閣、日本人が減る。それで今までは非常に安くてそれで来てもらって、それで「写真を1枚撮って5円だけ入れて。あと帰ってもらえればけっこうです」みたいな感じでやってたんですね。

だけど、どんどん日本人の人口が減る、観光客がどんどん減る、参拝者がどんどん減る。氏子さん、お寺さんの檀家さんも、どんどん減ります。

当然ながら、修理代だとか維持費が減るかと言ったら、減らない。比例して国宝重要文化財が減るかといったら、減らない。では、ある意味で過剰になってきてるから輸出ができるかって言うと、できない。

そうすると、維持費は変わらない・修理代は変わらない・日本人の数は減る。どうすればいいのかって言うと、輸出するわけにいかない。だったら、外国人に来てもらって、代わりに賽銭を入れてもらえるということは、観光戦略なんですよ。

それによってなにが起こるのか。いろんな人に来てもらい、なおかつ付加価値を高める。今までは5円だったんだけれど、50円でも500円でも1,000円でもやっていきましょうとなってるじゃないですか。

観光資源にあまり人が来ていなかった。富裕層がいない。そんなに高い料金を設定してないしそのサービスも提供してない。

そして今度は富裕層のためのホテルだとか、いろんなそのガイドサービスを提供しましょうよ、とかですね。要するに観光資源1個に対して収入を増やしていきましょうよ、と。それはどういうことなのかというと、「観光資源1つに対して生産性上げていきましょう」ということ。

山本:なるほど。それで収益が上がるようにね。

アトキンソン:収益が上がるように。

日本は観光資源に溢れている、でもぜんぜん活用できていない

山本:デイビッドさんが観光大国の条件としね、3つぐらいのこと挙げてますよね。

アトキンソン:はい。

山本:文化とか、景観とか。日本はすべてがあるとおしゃってるんで、そういう意味では観光のポテンシャルはものすごく高い。

アトキンソン:そう。

山本:今の2,200万人も、一時は阪神大震災の後に500万人台で、となりの韓国は1,000万人超えてる。なのに、なぜ日本が500万だっていう時代から2,000万人が来たのか。しかしここはもっともっと日本の魅力の潜在性を考えれば、まだまだ人は来る。5,000万人、6,000万人は可能だと。

アトキンソン:実際にですね、フランスはもう6,500万人なのに8,400万人が毎年来てますよね。

私、イギリスで6,600万人の人口なんですけれども、やはりぜんぜん違う戦略で。

より富裕層に来てもらうっていうことで、人数は3,900万人なんです。でも、予算がもう上なんですよね、1人当たりで見ると。そのくらい、イギリスもう本当に小さい国で。あと、やっぱり気候が……。ビーチもないし、雪も降らないからスキーリゾートもない。そういうのはぜんぜんできない。なのに、それでも日本のだいたい倍ぐらいあるんです。観光客としては。

山本:そうですね。

アトキンソン:今日たまたまそういうのをやってたんですけども。「ヨーロッパから見るとですね、日本は小さな国です」と言ってる役所の人いましたけど、そんなこと言っても、実際に日本を地図で見ると、ほとんどスウェーデンからスペインくらいまでの長さがあるわけだから。

そしてすべての気候があるわけですね。スウェーデンとスペインではできませんよ。そうすると……。

山本:スキーもできるし。

アトキンソン:スキーもできるし、スキューバダイビングもできますし。ドイツだったらね、ビーチもなんにもない。北海の短い海しか。

山本:日本は海もあるか。

アトキンソン:日本では海ありますしね。例えば釣りやハイキング、山登り、それで川下りだとかですね。もう、ありとあらゆるものがある。とんでもない数の観光資源があるんですよ。だけどみなさん国内もそうですけど、そういうところにちゃんと観光してるかっていうと、誰も観光していないんです。

そういうのはもう、どんどん持ってる潜在能力ですから発揮する。ある意味で、悪く言えば潜在能力を自慢しているだけでなにもしてないじゃないか、と。

山本:なるほど。