アトキンソン氏、直滑降ストリーム2回目の登場

山本一太氏(以下、山本):どうもアトキンソンさん、今日はありがとうございます。なんて呼べばいいかな……デイビッド?

デービッド・アトキンソン氏(以下、アトキンソン):デイビッドではい。

山本:あデイビッドさんて呼んでいいのかな。

アトキンソン:はい。

山本:はい、じゃあデイビッドさん? デイビッドさんにしましょうか。

アトキンソン:どっちでもいいですよ(笑)。

山本:そうですか、わかりました。みなさんご存知の通り、デイビット・アトキンソンさんはテレビによく出ていますし、雑誌とかいろんなWebメディアでも発信をされてて、今日本で有名な外国人の1人だと思うんですけども。

観光政策とか日本の文化戦略とかについても非常にその積極的に発信していて、なにしろ日本語が私よりもうまい。もう1回言いますね。日本語が私よりもうまい。そんなデイビット・アトキンソンさんなんですが、まずこれをそうは言っても直滑降ストリーム、実は2回目なんですよね。

アトキンソン:はい。

山本:二階総務会長が来たときに乱入していただいて。

アトキンソン:そうです、失礼しました。

山本:二階総務会長が「アトキンソンさん〜」て言ってね、真似してないですけど。

アトキンソン:(笑)。

山本:来ていただいて、あれ? アトキンソンさん。これね、こういうことがあったんですよね。

26年間、日本で仕事をし続けているアトキンソン氏

このときはベストセラーを持ってきていただいたんですが、まあ、今回が一応、本格的な初登場っていうことで。まずちょっとアトキンソンさんのことをうかがいたいんですけど。もうずいぶん長く日本にはおられるんですか? 最初はどういうかたちで日本に来られたんですか?

アトキンソン:もう32年間経ってますけど。

山本:日本と関わってから?

アトキンソン:はい、最初はオックスフォード大学日本学部ですかね。そこから3年間、それでずーっと日本学というと日本史、あと政治・経済、それで文学、読むこと書くこと。あとですね、漢文、漢詩もやりましたね。

山本:何年ころですか?

アトキンソン:あれはですね……。

山本:1900……。

アトキンソン:1983年ですね。その後は3年間ニューヨークにいて、その後はもう26年間は日本で仕事をしています。

山本:なるほど。元金融マンでもあるわけですけども、今いろんなお話をされてますけども。数百年の歴史を持つ日本の老舗企業の経営もやっておられるということで。

アトキンソン:今年8年目になりましたけれども、日光東照宮をはじめ、全国の主に有名な国宝重要文化財の主に神社なんですけども、漆、彩色や錺金具の修理をしてる会社です。

山本:なるほど。あのね、今日はみなさんアトキンソンさんも直滑降ストリームに来ていろんなお話をしたかったんですが、最初にね、ちょっとユーザーのみなさんに申し上げておきたいのはアトキンソンさんが日本のことを勉強したのは1980年代の前半のあたり。

アトキンソン:はい。

アトキンソン氏の日本に対する視線は極めて冷静。でもポジティブ

山本:だいたい80年代って日本バブル最盛期で、日本脅威論で例えばアメリカで言うとみなさん覚えてらっしゃるかもしれませんが、『日本封じ込め―強い日本vs.巻き返すアメリカ』っていう本を書いたジェームズ・ファローズとかね、アトランティックになんか相撲取りが大きくなって地球を潰しちゃうみたいな。

あるいは、なんとなくカレル・ヴァン・ウォルフレンさんみたいな日本の権力構造の謎みたいなけっこう日本異質論で批判する人とか。あるいはJapan as No.1みたいな日本はすげーと。とにかくすごいという人の2通りだったんですけども。

実はアトキンソンさんはちょっとどっちのスクールにも属してなくて。日本のことをけっこう直視して、ある意味では厳しい目で見ながら。

しかしその心は日本気質ではない。もうちょっと日本にこんなポテンシャルがあるんで、日本文化を愛する者としても「もっとこうすればいろんなことがまだ日本人とか日本には可能性がある」という愛を感じるんですけど、そういうスタンスでいいんですよね?

アトキンソン:基本的にですね、自分として批判するつもりはまったくなくて。言ってることは、ただ単に客観的事実に過ぎないんで。

山本:なるほど。

アトキンソン:それが都合の悪い事実だと「批判してるんじゃないの」って言われるんですけど、私としては事実は事実なんで。そこのマイナスの事実であれば、それを認めた上でプラスに持っていけばいいわけです。

あまり、なんかそういうふうに反日だって言われても「いや、なんで客観的な分析が批判なのか」とよくわからない部分はあります。

でも自分としてはもう26年間も住んでますんで、やはり良くなっていってもらいたいですし、そのマイナスな話は自分としてはあんまり好きじゃない。マイナスは全部チャンスだと思う癖があります。

山本:私もアトキンソンさんのアプローチ、すごくこうなんていうか、新鮮でね。日本人て、なんとなく褒められると嬉しい。まあ、誰でもそうかもしれないし、批判されるとなんとなく反発して事実を見ないっていうとこがあるんですけども。

アトキンソンさんは、極めて冷静に日本の社会を見ていて、しかしその視線はけっこうポジティブ。「こうすればもっといいことがある」みたいな話で、今日あとでいろいろお話をしていこうと思うんですけども。

日本が世界2位の経済になったのは努力のおかげ……ではない

アトキンソンさんの書いた『新・所得倍増論』。これ、ものすごくおもしろくて一気に読んだんですけども。

最初にちょっとね、日本人論じゃないんですけど。アトキンソンさんとこれまでいろいろお話をしている中でおもしろいなと思ったのは、日本人の性格。

日本人のパーソナリティっていうことで、なんて言うんですかね……。日本人は意外と具体的なデータとかファクトでものを考えるよりも、「もうちょっと情緒的、感覚的に思考すると、こういう傾向がある」っていうことをおっしゃったんです。そこらへんをちょっとまず説明していただけますか。

アトキンソン:そうですね、この本にも書いてありますけども。例えば日本は世界第3の経済であるって言われるじゃないですか。

山本:はい。

アトキンソン:それはもう第3だっていうことで、これはなんかいいですねっていうことで。

山本:世界3番目にGDPが大きい国。

アトキンソン:そう。あれを見てるとですね、そこにほかの事実を持ってきて神話を作る傾向が強いんですよね。そうしますと、それは決定要因なのか、たまたまそうなのか、って言うことを見ないで、いろんなきれい事をぶつけていって神話を作っちゃうんですよね。

そうすると、例えば第3の経済だから、教科書まで書いてあるんですけども、「戦争が終わってから日本人の勤勉性と技術をもって世界第3の経済になりました」と断言するんです。

山本:経済大国になったと。第2位ね、今3位だけどね。

アトキンソン:はい、第2位、今3位ですね。そうするとですね、実際になぜ第2位になったのかを客観的に分析をするとですね。……技術があるなしとかそういうことじゃなくて、先進国の中にあるGDPの大きさの順番は、すべて人口次第です。

そうしますと、アメリカは3億2,000万人います。そして日本人では1億2,700万人、ドイツが8,200万人、イギリスが6,600万人、それでフランスが6,500万人。GDPの順番を見るとですね、そりゃあアメリカ、日本、それでドイツ、イギリス、フランスなんです。もうそのまんま、まったく一緒なんです。

そうしますとですね、いきなりに「勤勉だから2位でしょ」「いやそれは人が多いからじゃないの」というと「反日です」って言われるんだけど。「いや、反日じゃなくて、事実なんだからこの計算機を叩いてみて、反論してみてください」と言うとですね、反論のしようがないんです。でも、認めようとしない。

やはりそのGDP世界第2位だったということは、すべてが技術、勤勉性、手先が器用ということで、この事実は事実なんですけども。この事実(技術力や勤勉性)とこの事実(GDP世界第2位)はそんなに強い因果関係はないのに、それで神話を作っちゃってるんですよね。こういう傾向がかなり強いんです。

山本:なるほど。

たった1つの注目=全体の評価、と捉えがちな日本

前アトキンソンさんとお話したことがあったんですけど。私もその第二次安倍内閣で、2年近く内閣府の特命大臣やって。コンテンツとかITとかね、いろんなことやったんですけども。

実は今クールジャパンていうことで、いろいろかっこいい文化のコンテンツを探して外に発信しようとしているんです。音楽なんかもね、韓流っていって、「韓国なんかに少し押されてるからどうやったらこれを打ち破れるだろう」っていうことで。いわゆるその音楽関係いろんな人達を集めて、タスクフォースを作ったんですよね。

その中で、いろいろ音楽界で活躍している古い伝統的な方々と、それから新しいビジネスモデルで頑張っているプロデューサーと、みんな集めて議論したんです。

そのとき、みんなが言ったのは「韓流はもう底を打った」と。これからは日本の音楽がさらに韓国を抜く。

それは嬉しいことなんですけど、「なんで韓流が底を打ったのか」「なぜ韓流がなんていうんですか」「いよいよ、力が弱まってきたと思うんですか」と聞いたら、根拠はないんですよ。なんとなく最近の作品を見てとかね。

だけどそのBBCのアジアの音楽特集を見るとやっぱり韓流が人気がある。だから一つひとつの具体的なデータで検証するっていうよりは、むしろちょっと1つ注目されてるとこがあると、それが全体日本の評価であるかのような、そういう考え方になりがちなところがある。

イギリスの役人は具体的なデータを持って話す文化がある

あのね、オックスフォードの話をしてくださったときに、とにかくイギリスの文化なのかもしれませんが、政府で役人が話すときも具体的なデータが必要であって、そこでいい加減なことやったら本当に捕まるってやってたんですけども。そこらへんはどうでしょうかね。

アトキンソン:そうですね。

山本:ファクトをしっかり、まずデータを。

アトキンソン:はい、これはね「evidence based decision making」って言います。

山本:はい、証拠ベース。

アトキンソン:はい、それでデータをまずもって、「すべて検証して精査した上で決めましょう」「このデータが正しいデータかそうじゃないのか」っていうことをやりますよね。それで公聴会ていうんですか、ああいうふうにアメリカにも私が呼ばれていきましたし、イギリスもやったことありますし。

山本:議会の公聴会ね。

アトキンソン:議会ね。

そうするとですね、ゴールドマン・サックスにいましたので弁護士がいっぱいついてくるんですよ。公聴会の方に行きますと、最初にですね、裁判所に行くと同じようにいきなり聖書が出てきて、「今日言うことは全部正しいことを誓います」みたいなことをやるんです。

例えば根拠のない話だとか、そういう話だとぜんぜん違うものになるというのは、最高裁判所に証言しているのと同じような重みがある。そこで嘘を言ったりすると、それはもうこれ(逮捕)に相当する場合があるということで、最初から言われます。

そうしますと実際に発言するときにですね、議員さんの方から質問が来て、弁護士と相談をして、「この答えでいいんでしょうか」って言って、それで証言します。

そうするとですね、そのデータがどこのデータがどういうふうにそこを加工して、なんの結果になっていて、それはなんの目的にそれを使っているのかっていうことで。それに反するデータがあるのかないのかっていうことを徹底的に追求してきます。