現場のコミットメント、納得感がなければ実現は厳しい

小安:とはいえ、これから評価制度や人事制度も含めてセットでやっていかないといけない企業さんは多いんじゃないかと思うんですね。例えば、山本さんにうかがいたいのですが、一緒に働き方改革を実験するパートナー企業さんは何社でしたか?

山本:31社です。

小安:31社の中にも、本当にいろんな企業さんがいらっしゃるんじゃないかと思うんですが、取り組みからの学びを教えてください。

山本:『働き方改革の7つのステップ』というのをガイドブックに書いていますが、こちらはGoogleではなく、きちんとプロフェッショナルの方にコンサルティングで入っていただきました。

やはり最初によく言われるのはトップのコミットメント。もう1つは、トップがいくら言っても現場が納得感を持っていないとやっぱり厳しい。

現場の納得感は、トップのコミットメントだけで出るわけじゃない。先ほどの事前事後の案件など、やはり現場の中でモデル部署を作って、推進担当者を作るといったことが書いてありました。

現場の中でそれをドライブする人をちゃんと作って、その人が「これは意味があるよね」と、現場への納得感を広げてもらう。それを1回やってみて、事後できちんと効果が出ていることをトラッキングし、全社でフィードバックして広げていく。そういったやり方をやりました。

それが「働き方改革推進のための7つのステップ」。これがすごくよかったなとは思いますね。

小安:まさに、実行する現場の方にどう本気になっていただくかが重要です。

働き方を変えるには、男性のスタンダードを変える必要がある

先ほど埋金さんがご自身で手を挙げて立候補したというお話がありました。現場側にいらっしゃった埋金さんが、なにを思って立候補したのかを教えていただけますか?

埋金:そうですね。うちの会社もそうですが、やれない理由をかしこく上手く語る人が非常にいるので。実行力というか、なにかしらの結果を出していきたいなと思っていたところもあります。

私自身としては、リソースがこのままだと成り立たないところもあるので、そこを含めて「やる目的」を見つけていきました。

ただし、プロジェクトチームを作る時には気を使いました。若い人たちにとっては、それぞれの目的や腹落ち感は、それぞれ違います。しかし、今の働き方で満足している人はいない。

会社としては「こうしなければならない」「調達本部としてはこういうところへ持っていくんだ」ということを1つずつおさえながら、一人ひとりの目的やゴールみたいなものを通じて「なにか作ってみよう」という腹落ち感を醸成していきました。

小安:なるほど。「これやらないとまずいよね」みたいなものを感じていらっしゃったということですよね。

埋金:そうですね。リソースが本当に足りない部分に危機感がありましたし。ダイバーシティという意味では、本当に日本人だけでこのままやっていけないだろうなとも思っています。

海外の非常に優秀な人たちだったり、Developing Countriesからみると、優秀な人たちはたくさんいます。そういった人たちが働けるような職場にしていかないといけないし、女性が働きやすい会社に変えるには、男性の働き方のスタンダードも変えていかないといけないと強く思いました。

小安:事前にお話した時、海外ではご自身と同じ部門がどうやっているのかを徹底的にリサーチされたと聞きました。それは、けっこうおすすめな方法なんでしょうか?

埋金:若干、人事制度やキャリアの作り方みたいなところは、欧米と日本では違います。それは一概には言えないと思います。この制度はいいなぁ、これだったらいい人財を採用できるな、と思うところもあります。

しかし、どうしても井の中の蛙じゃないですが、世の中どういった動きがあるのか、モノの考え方があるのか、あるいは、自分たちが負けているんじゃないかと気づくためにも、外に目を向けていくことは参考になると思っています。

小安:ご自身で自社を進めていく上でも、他社の事例や、同業他社さんで進めている事例を見ていく。それを社内に伝えていくのは、1つの方法としてあるのかなと思います。

トライアンドエラーしないと、前へ進まない

尾崎さんのところでも、かなりサテライトオフィスの需要が上がっているということで、そういった企業のみなさんの共通点や背景みたいなものはありますか?

尾崎:そうですね。Tristではもともとキャリアを活かして働いてもらっているので、人事で働いていた方であれば人事、営業だったら営業といったカタチで働いています。

それを前提にしたとき、「ママだからサテライトオフィスではなく企業がほしい人が一番効率的に働けるのがサテライトオフィスを活用することだった」ということを考えられています。企業の制度に合う人を採用するのではなく、採用したい人に合わせたカタチにしていく、という感じです。

「この人が雇えるなら変える必要があるかもしれない」にルールを変えていったところが共通しているところだと思います。

小安:なるほど。まったくその意識がない企業さんを変えていく事例みたいなものはあるんですか?

尾崎:やはり、やっていく中で、初めはセキュリティがどうだろうとか、離れた場所にどんな仕事を切り出せるだろうか、という心配はあると思うんですけど。1ヶ月やってみたら、「けっこうできるじゃん」ってなるんですね。なので、とりあえずやってみて、何度も失敗を繰り返しながら進める。

やっぱりトライアンドエラーをしていくことでしか前に進んでいかないので。そこはできるだけ早く第一歩目を踏み出して、トライアンドエラーをたくさんしていった会社が自分たちに合った新しい働き方を見つけてく気がします。

時間を少し緩めることで、優秀な人たちが集まる

小安:まず一歩踏み出してみるところから、いろんなナレッジを積み上げていくという感じですかね。二葉さんの取り組みも恐らくそういう活動もあったかなと思うのですが。

二葉:まったく同じでして。実際に私がダイバーシティを担当していた時に、週3日とか週2日の人に来ていただいたことがあります。スタッフの採用にけっこう困ってたんですよね。

私が求めていた要件をお持ちの方になかなか2ヶ月、3ヶ月経ってもお会いできなかった時に「ちょうどダイバーシティをやっているし、試しに週2日と週3日で分けてみたらどうだろう」と、出勤日を分けてみた瞬間、2週間後に決まったんですよね。

景気も上がってますし、求人倍率も高い中でぜんぜん人が採れないと言っているけど、「時間の枠を外しただけでこんな人たちがいるんですか」と驚かれるケースが多いです。今までの既成概念を外して、スキルを妥協するより時間を少し緩めることで、優秀な人たちが集まるという実例ですね。

「けっこうマネジメントが大変なんじゃないか」とみんな言うんですよ。「どうするの、週3日の人とのコミュニケーションは?」とみんな言ってて二の足踏んでいるんです。でも、試しに一人だけでも就業を開始した部署からは、どんどんこういう人いないかって出てくるんですよね。

やっぱり1ヶ月なんですよ。そこがなにかの期間なんでけど、お互い1〜2週間やりながら、コミュニケーションを図っていって。1ヶ月経ち始めるとお互い軌道に乗り始めて。もっとこういう人いないかな、と心境が変わっていくんです。そういう方が実際にいらっしゃる、と実感することがすべての起点かなと思います。

小安:はい。発想を転換しなきゃだめだということですね。

二葉:やっぱりスキルとか求める要件ですね。人を調達、採用するときに、そちらを妥協してはいけないかな、と。今まではリクルートもフルタイムというのが前提にあったんですよね。もちろん業務委託で依頼するケースはあるんですけど。どうしても職種が限られてたりとか、あとOBOGや取引がずっとあったような人だったら安心して任せられるんだけど……みたいな。

サテライトオフィスの社員が自立=マネージャーの業務が減る

小安:尾崎さんとか二葉さんが取り組んでいる事例は、今まで企業では働けなかった方々で、でもスキルはある、働く意欲もある、そういう方々に働いてもらうという取り組みだと思うのですが。その取り組みって、企業側からすると社員の働き方改革に繋がると思っていいでしょうか?

尾崎:いいと思います。

小安:どんな点で繋がって、どんなメリットがあるかみたいなことをぜひアピールいただけますか?

尾崎:先ほどもお話ししましたけど、サテライトオフィスで社員が自立していきます。それはイコールマネジメントする社員の負荷が軽減されます。さぼらないように管理しないといけないとか、離れた場所でもモチベーション維持させて、成長させないといけないとかになると、マネージャーにとって大きな仕事の1つになりますよね。

でも、サテライトオフィスの社員が自立していて、地域で成長促進を勝手に回してくれるような仕組みになっていれば、マネージャーが業務軽減できるので、長時間労働をしなくても良くなる可能性も高いと思います。

小安:社員側も企業側も業務が減らせるということですかね。

尾崎:そうですね。在宅よりは減らせるんじゃないかなと思っています。

小安:二葉さんはそれと同じ考え方ですね。

二葉:そうですね。私自身、週2日、3日の話でですね、その人が入れ替わり立ち替わりで毎日替わるんですよね。初めの1〜2ヶ月、けっこうマネージャーは大変だったんですけど、いかに業務を維持し続けるかというというところで、スペシャリスト系のアシスタントの方々なんですけども。発注する社員側がですね、オーダーをするルールを自分たちで作り始めたりとか。1日で完結する業務だけではないので、人が替わるたびにそれをどうやって引き継ぐかとかですね。

どんどん属人的じゃない発注の仕方とか仕事の進め方に進化できたのは、組織としてはすごい進化だったと思います。

あと実は今のiction!の事務局にはZIP WORKERが5人で働いてくれているんですけども、広告代理店の営業やってた子だったり、新規事業の経験があったり。今日も着けてきたんですけど、このブローチを副業で作っている方とかですね、本当に多彩な人たちがいます。

総時間数で言うとフルタイムの人が2〜3人いるぐらいの総時間数なんですけど。タレントって言うんですかね。持っているスキルとか才能という意味では、5〜6人分の才能を活かせるというか。彼女たちと一緒に仕事ができてるというのは、組織としてすごくパフォーマンスが上がると思うんです。

小安:先ほど浜田(敬子)さんがお話がありましたけど。浜田さんの均等法世代はほとんど消えてしまっている。労働市場からいなくなったように見えているんですけど、実はいらっしゃるということなんですよね。

その方たちが今の働き方の枠組みでは、なかなか能力を活かすことができない。それをどうやって活かせるかという枠組みを、尾崎さん、二葉さんお2人のサービスは考えていらっしゃるんじゃないかなと思います。そのことが少し関係ないように見えるんですけども、企業の正社員の働き方改革にも繋がっていく可能性があるのではないかと私は思ってたりします。

業績=各組織でのプロフィットをどう見るか

そろそろ時間が来たりしているんですけども、会場の方から多彩な多様な観点の4人の方に集まってきていただいてますのでぜひご質問いただければと思うのですが、ご質問ある方いらっしゃいますでしょうか?

質問者1:今日は貴重なお話をどうもありがとうございました。生産性という言葉について各社の方々にうかがいしたいのですけども。安倍政権が生産性という言葉を出したのですが、これの経緯がはっきりしてないです。計算式で言うと時間分のというところは見えているんですけども、上のところ、分子になにをもってくるのかというのはどうも見えない。

今ホワイトカラーが7割ぐらい働いているという中で、従来の生産量とか、ああいうのはどうもピンとこない。サービスとか品質とかはなんとなく合うのですけれども、それは数値化できない。これが数値化できれば、うちの会社は伸びているんだと、働き方は上手くいっているんだというところが見えると思うんですけども。

すみません、分子になにを持ってきて、みなさんは見ていらっしゃるでしょうか?

小安:はい、ありがとうございます。JALさんでは生産性みたいなものを、例えばどのように測っていらっしゃるかお聞かせいただけますでしょうか?

埋金:我々は稲盛さんに来ていただいて部門別採算制度を導入し、役務などの費用を社内取引という形で精算したりしながら部門ごとの利益というものを見ています。最終的には業績=各組織でのプロフィットをどう見るか、ということなんです。

小安:Googleさんはいろんなパートナー企業がいらっしゃると思うのですが、生産性の議論ってされましたでしょうか?

山本:そうですね。基本的に先ほどの「Women will」の31社でいうと、そこについての定義がバラバラだったりします。

やはり、いろんな企業の人事の方からお話をお聞きすると、「社員の成果をどのように表現してもらって、それを人事や経営者がどう評価するか」という点が複雑になっている、というお話が多いです。

個々人の業務にフォーカスがきかないまま、とにかく数字などを積み上げていくと、結局のところ労働時間は減らない。本人は頑張っているつもりでも、全体で生産性が上がったとはいえない状況になるのではないかと思います。フォーカスをちゃんと決めて、そこの部分の生産性を見ることが大事かなと思います。

小安:ありがとうございます。ご質問、回答よろしいでしょうか? おそらく1つの定義というのは非常に難しい問題なのかなと思います。Googleさんがフォーカス、プライオリティという意味では、私もミッションシートを見せてもらったことがあるんですが、本当にちょっとしか書いてないんですよね。

山本:そうですね。私個人も、もともと日系の広告代理店から来たので、例えば10個自分がやれることがあるとしたら、3つぐらいに絞って、上手くやれということを言われたことがありました。それはカルチャーショックだったんですけども、今でも通じるんじゃないかなと思いました。

小安:ありがとうございます。