まず失敗に慣れさせる、次に活かす

小野:グリーさん、DeNAさんの「(ゲーム運用の経験を積ませるために)打席に立たせる」って非常に経営的な視点だったと思うんですけど、一方で立ってみてうまくいかない人っていうのもたくさん出てくるわけですよね? そこをモチベートするのってすごく重要なのでは。どんどんぐるぐる回して死屍累々ってわけには会社としてはいかないと思うんで(笑)、そこの部分って何か工夫されてることってありますか?

荒木:僕は明確に、まず失敗することに慣れさせることをやりました。グリーはさっき言ったように、プロジェクトの数自体はすごい少数精鋭で、幸運にもヒット率は高かったんですね、過去。そのため「コケた」という経験をした人がすごい少なかった。作ってる以上絶対いつかコケる、というよりコケるのが普通なので、それに慣れさせるのがすごい重要かなと考えています。プロジェクトがキャンセルになるとか、あるいは出したけどうまくいかなかったとか。でもそれって一つの学びだし、次に活かそうね、というようにして自分の失敗を乗り越える経験をとにかくいっぱい積ませることをやっています。

小林:そういう意味では同じですね。それこそ失敗もいろいろあって、出してみたけどウケなかった、もしくは途中でキャンセルになったとかあるんですけど、そういうのをやられた経験がない人が上に立っても多分ダメなんですよね。そういう産業に属しているんだっていう感覚がやっぱ生まれないと勢いは出てこないなと思っていて。それを組織として学んでくると、デモチベーションしてる感じでは全然なくなってくるんですよ。「くそ、次は絶対当てたるからな」みたいな。

実は今、グリーンライトのジャッジは(社長の)守安さんがやってるんですけど、バシッと切るんですよ、「これフェイル」とか、一言で。あんまりコンテキストは言わなかったりするんですけど、メンバーは「なにくそ」ってなるんですよ。それでいちいちデモチベーションしてるのかっていうとそんなことはない気がしてて、中にはマジでバトってるのを見たことありますけど、そういう意味ではそこはむしろポジティブに効いてるのかなっていう気はしてます。その分「次じゃあ俺が打席立つから見とけこの野郎」みたいなのとか、そういう感じの雰囲気ですかね。

小野:辻本さん、パッケージっていうところとモバイルっていうところで違いはあるかもしれないですけど、人事面っていうところで何か逆にアドバイスなり、こういう工夫されてきたっていうシェアできるものありましたら。

カプコン社長、子どもたちに「モンスター倒してよ」って言われるが……

辻本:やはりゲームの開発者が一番モチベーション上がるのは、ユーザーの方々、特に周囲の評価です。例えば友達がお前の作ったゲーム面白かったよという話が一番良いわけです。私はゲームを作りませんが、友人の子どもたちが小学生くらいで、カプコンの社長だと言ったら「モンスターハンター」のことを何でも知ってると思うんですね。「モンスターハンター」を持ってきて、「このモンスターを倒してよ」って言われるんですけど、できるわけないですよ。(笑)

(会場笑)

弟がプロデューサーなので「ちょっと待って、電話代わるから」という感じです。もう一点、当初は採用活動をしていてもなかなか親御さんのご理解を得られませんでした。親御さんはゲームを遊ばれないので、どのようにゲームの良さを伝えるかを考えたときに、ワンコンテンツ・マルチユース戦略に思い当たりました。「ストリートファイター」がブームの時にハリウッド映画をはじめ、いろんな展開を行ってすごい反響がありました。それで親御さんも「あ、ストリートファイター知ってるよ」ということになりました。「バイオハザード」でも、あんな銃でゾンビとかゾンビ犬を倒すゲームでいいのかとご指摘を受けましたが、そのあとハリウッドで映画になってミラ・ジョボビッチさんがバンバン撃っても何も言わないですよ。

(会場笑)

「バイオハザード」は、カプコンが映画をゲーム化したと思っている人も多く、それくらいカプコンはマルチ展開しています。だから当社に入ればカプコンのゲームを通じて映画や宝塚の舞台など、いろんなビジネスに関わることができますよという話をしています。

もう一点はマルチプラットフォーム対応ですね。カプコンに入ればコンソールだけでなく、モバイルゲームも開発できますよと。「モンスターハンター」のメダル機やパチンコ・パチスロの開発も行っています。

カプコンのゲームコンテンツをさまざまに展開してビジネスをしたいという人たちが集まれるように「ワンコンテンツ・マルチユース」「マルチプラットフォーム」「グローバル戦略」という3つの戦略を掲げて採用を続けていると、カプコンであればゲーム以外でもいろんなことができるということで、非常にユニークな人たちも来てくれます。

当社が同業他社に比べていかにユニークな企業戦略を打ち出しているかを伝えることで、いろんな経験値が得られスキルを上げられることをアピールすることは重要だと思います。

小野:ありがとうございます。ちょっと時間押してはいるんですが、もし会場からどうしても質問って方がいましたら1名だけ、お願いします。

開発中止のジャッジは「グッドコップ/バッドコップ」方式で

質問者:モブキャストの藪です。本日はありがとうございました。2つ質問があります。

1つは、開発段階でたぶんプロットだとか、ベータ版の段階で開発中止することってあると思うんですけれども、誰がどんな基準でやってるのかっていうのを参考までに聞かせてもらえれば教えてください。

2つ目の質問は、ここから先、スマホ向けのネイティブ、国内、海外に向けて、どのターゲット層向けにゲームを作ってこうとされてるのかなっていうのが聞きたいです。MMO(Massivly Multiplayer Online)的な本格的なやつ作っていくのか、カジュアルなゲームを作っていくのか。たぶんブレイブとかその中間くらいにあるゲームだと思うんですけども、どこらへんを狙ってるのかなっていうのを、みなさんにもし聞ければなと思います。以上2つの質問です、お願いします。

小野:はい、1つ目のほう。

小林:はい。実はですね、本当にそこ迷ったんですよ。歴史を経て変わりました。で、実際には何パターンかあって、今DeNAって4つのリージョン事業本部があって、ジャパン、チャイナ、ウエスト、そして私のところだけマルチリージョンっていう地域こだわらないことになってるんですが、その4つでそれぞれ決め方の方針に若干の差がありますと。

私のところの事業本部で申し上げると、最初は自分でジャッジしてたんですけど、僕はどっちかっていうとアイデアを広げる派だったんですね、自分でバーって細かいところまで見て、こういうのいいんじゃない?ああいうのいいんじゃないの?って言うと、いざジャッジするときに裁けるわけないんですよね。自分でいいって言って、自分で裁くってかなり難しくて。なので広げる人と裁く人を分けたんですね。グッドコップとバッドコップを分けるみたいな感じで。そうしないと多分ドライには切れないです。

ドライに切る人は徹底的にドライに切るんですけど、ドライに切るときの基準っていうのは感覚的なんですけど結構みんな揃っていて、さっき言ったモバイル最適感を大事にして、「ないなーこれ」みたいなのを見極めます。何度かやったおかげで、結構意見は揃うんです。「これ何度もやって、ない感じがする」とか、「仕事じゃなきゃ3日目からはやらない気がする」とか、本当、そんな感じですね。項目としてチェックするというより、プレイしたときの印象みたいなのを大事にします。

あとは、デベロッパー、特にセカンドをやる場合ですけど、デベロッパーとのツーカー感みたいなものなので、10言ったら3くらいで返ってくるのか、10言ったら15くらいで返ってくるのかっていうのはすごく開発のスピードに影響があるので、どのぐらいのことをどのぐらいの期間でできるかっていうのもジャッジの判定には入ってますね。そういったことを私じゃないバッドコップ係がジャッジしてるというのを今やってます。

小野:それは1名なんですか? それとも合議なんですか?

小林:1名です。ただみんなにテストさせるんですよ。外部のユーザーテストもやってます。これはフェーズによるんですけどね、プロト段階からやってるわけではない場合もあるんですけど、基本的には外部のユーザーテストと中のテストと、いろいろインプットあるんだけど最後決めるのは1人です。

ゲーム各社は今度どんなジャンルのゲームを作る方針なのか

小野:ありがとうございます。あと2つ目の「どのジャンルを今後攻めるのか?」っていう話ですよね。まあじゃあ一言ずつ手短に、じゃあコバケンさんからそのまま流れで。

小林:そういう意味で、ジャンルって言っちゃうと結局のところいろいろあるなっていう感じなんですけど、実は私が行き着いたのは“モバイルならではのエンターテイメント”っていう意味で「違う時間感覚でやるゲーム」です。1時間連続でやるゲームと数分刻みでやるゲームってまったく違うゲームなので、電車乗ったりタバコ吸ったりコーヒー飲んでるときになんとなくやるかみたいな感じでできるようなゲームです。

小野:はい、辻本さんいかがでしょうか。

辻本:はい、これはもう歴史というか、当社のジャンル構成を見るとわかっていただけると思います。アーケードもコンソールもそうですが、いわゆるカジュアル系は苦手ですし、スポーツもレースもほぼありません。得意なのはアクションなので、それで勝負します。

小野:ありがとうございます。わかりやすいですね。高橋さんお願いします。

高橋:はい、ジャンルっていう意味ではうちはRPGが得意で好きなメンバーがいるんで。ターゲットって意味では全然参考にならない答えで申し訳ないんですけど、僕らターゲットをあんまり考えたことなくて、常に自分たちが作りたいと思うゲームと、あと強いて言うなら自分たち自身が遊べるっていう、自分が遊びたいものを作るっていう。結構作ったゲーム遊ぶタイプなんで、じゃないと運用できないですけど、自分たちが遊びたいゲームを作ってると思います。すごくシンプルに。

小野:ありがとうございます。最後に荒木さん。

荒木:まさにプレイ時間で区切って、短く高頻度に遊ぶゲームと1回のセッションがまあまあ長いゲームを組み合わせていこうかなと思っています。1タイトルしか選ばないとなるとたぶんもうちょっと真剣に考えますが、複数ラインがありますんで、そこはそのポートフォリオかなと思ってやってます。

ただ一個だけすごい重要だと思ってるのは、とにかく多くの人に受け入れられるゲームじゃないと。少なくとも日本国内ではお客さまの数自体が多くないので、DAUが少なくてアープが高いゲームはあまり作りたくないですよね。DAUが大きいゲームを作りたいので、そうするとそれなりにマス対象になるかなと思ってます。

小野:はい、ありがとうございました。ということで、セッション「モバイルゲーム市場の今後」、4名のスピーカーにお話しいただきました。最後に大きな拍手で締めたいと思います。ありがとうございました。

(会場拍手)