ピンでは使えない

ナレーション:難しい質問にも理路整然と回答する学生。その完璧ともいえる姿にうっすらと感じる違和感。その違和感を探るべく、曽山に続き、鈴木が質問を投げかけるも、いまだ違和感の正体を見いだせないまま、時は過ぎた。

水谷健彦氏(以下、水谷):中川さんの「ここがまだ課題だよ」とかいうのをイエローカード、レッドカードで出してくれるのね。レッドカードが出たら、そこ相当やばいという話ですね。

中川くん:わかりました。

水谷:じゃあ、曽山さんから。

曽山哲人氏(以下、曽山):あえてイエローカードということで。

ナレーション:人事のプロ、曽山が下した判定はイエローカード。

曽山:それは中川さんをもっと見たいということですね。回答がすべてすごくロジックに通っていて、すごく理に適ったもので、「なるほど、なるほど」って思えるんですけど、そのなかに中川さんが見えてこない。

なので、もう少し時間があれば見えてくるところもたくさんあると思うんですけれども、ご自身の考えであるとか、自分の思いとか、そういったものがもう少し見えてくるといいなと思いました。

中川くん:ありがとうございます。

ナレーション:引き続き、鈴木もある疑問点を投げかける。

鈴木康弘氏(以下、鈴木):僕が面接官だったら次にする質問というのがあって。挫折した経験とかすごく知りたいなと思いました。あります? ちなみに。

中川くん:そうですね、高2の時のバドミントンの大会で……。

ナレーション:高校時代のクラブ活動であった挫折の経験について語る彼。大学進学後、大きな挫折の経験はしていないようだ。

鈴木:就職活動の時期まであと3〜4ヶ月あるじゃないですか。なにかそれに近いぐらいの挫折するようなことに、せっかく君いろんな才能あると思うから、挑戦できたらなと思いました。

中川くん:わかりました。ありがとうございます。

ナレーション:そして、ここまでひと言も発言しなかったこの男が、静かに口を開く。

並木裕太氏(以下、並木):もう本当回答もレベルが高いし、そつがないし、正しさを感じました。

中川くん:ありがとうございます。

並木:ただ、今、面接官として中川さんにあだ名をつけるとしたら、もう「アンドロイド中川」みたいな。3人組作るんだったら1人いるけど、ピンでは使えないという印象なんですよね。

就職活動でそれどうやって当てはめるかというと、印象が悪い人たちはもう消えて、印象がいい人たちの部類のなかのトップクラスだと思うんですけど、その最後の数パーセントのなかで選んでいく作業が就職活動の最後のステップで、そのなかで選ばれるための努力がまだ足りないのかなと感じています。

1つだけ会話のなかで、将来を捧げる会社なのかどうかをちゃんと見極めたいみたいなお話がありましたけど、たぶん考え方として、自分が会社のために将来を捧げてというのに加えて、1個変化球を持つといいと思うのは、自分の価値をどう高められる場所なのかというのを考えたらいいんじゃないかなと思いました。

その考え方を持つと、やりたいこと+自分のスキルアップ、2方向から見れていいんじゃないかなと思います。レジュメを超えるユニークさを出せる練習をしましょう。

中川くん:はい。ありがとうございます。

違和感の正体は

ナレーション:並木からこんな質問が。

並木:大学時代でも高校時代でも、いわゆる大人になってから、悲しかったこと、うれしかったことあったと思うんですけど、一番泣いて悲しかったこと、大切なものを失ったことみたいなエピソードを聞かせていただいてもいいですか?

中川くん:すごくしんみりした話になってしまうんですけれども、私の祖母が亡くなった時ですね。私の祖母はものすごく面倒を見てくれて、両親が共働きで忙しい時もあったので、ずっとすごい一緒にいる時間も長くて、ずっと一緒にいたんですけれども、僕が大学1年生の時に……。

ナレーション:アドバイザー全員が、彼に抱いていた違和感。その違和感の正体を並木はすでに気づいていた。

中川くん:なにも失ったものがなかったので、その時にはじめて悲しかった、涙を流したと思います。

並木:お婆ちゃんと一緒にしたかったこととか、お婆ちゃんのためにしたいことみたいなのは、今、あるんですか?

中川くん:お婆ちゃんを大学に連れて行きたかったですね。本当に誰よりも応援してくれたので。

並木:就職活動も、そのお婆ちゃんに話して悔いがないような就職活動をしてほしいですし、選んだ会社を、お婆ちゃん連れていっても胸を張れるような会社に就職してほしいので、その話をヒントに、就職活動のときの俺の話。アンドロイドを超える、人間味のある中川さんを作るときのヒントにできたらいいんじゃないかなと。

お婆ちゃんの話じゃなくてもいいし、振り返ることのなかで、自分の大切な人生のポイントポイントで感じたことをストーリーにしていけると、トリオの中川さんからピンの中川さんになれるような、個性が出るんじゃないかなと思います。

中川くん:ありがとうございます。

並木:今の表情とかすごくよかったですよ。もう忘れられない中川さんになりました。

中川くん:はい。ありがとうございます。

ナレーション:違和感の正体。それは、感情。

面接のプロ3人衆が下した結果は、ご覧のとおり。

並木:「今までの人生で心に残ったエピソードを面接時に盛り込むことで、レジュメを超えた素の自分を表現できる」

曽山:「全体的な高感度は高いが、素の部分が見えにくいので、自分自身の考えや想いを、もっと会話に盛り込むべき」

鈴木:「すべてにおいてレベルが高いので挫折を味わうかもしれないさまざまな事に挑戦して欲しい」