VFX担当からテレビ番組の監督へ

ギャレス・エドワーズ氏(以下、エドワーズ):僕は大きなインスピレーションを受けて帰国しました。さて、BBCは、VFXを駆使したシリーズの第2弾を製作することになりました。低予算のテレビシリーズでしたが、見た目には高級感があり、たいへん好評を博したため、セカンド・シリーズ制作が決まり、僕に参加の打診が来ました。僕の参加は当然のものとされていたため、それまで誰からも打診の電話がかかって来なかったのです。

しかし僕は、すでにここには機会はないと考えていました。最終段階でやっと「ミーティングに出てください」と電話がかかって来ましたが、僕は「たいへん申し訳ないのですが、僕はもうVFXを担当しません。これから映画監督のキャリアを始めます。監督業をしたいんです。もし僕にこのテレビシリーズの監督をやらせていただけるのでしたら、VFXを無料で担当しますよ」と答え、電話を切りました。僕には、これは少なくとも3、4倍の給与がもらえるはずの仕事だということはわかっていました。

1週間が経過しましたが、音沙汰はありませんでした。ようやくBBCから再度電話があり「OK、いろいろな関係者と話をした結果、君の給与は2倍になった」と言われました。僕は「いいえ、お金が問題ではないのです。僕は、監督をやりたいんです」。BBCには「申し訳ないが、それは無理だ」と言われ、僕は電話を切り、ああダメか、と思いました。

さらに1週間が経過しました。またBBCから電話がありました。「この番組の監督はやってもらうことはできないが、別の番組の監督をしてもらうことになった。誰も見ない深夜のデジタル番組だ。それなら監督してもらってもよいだろう」。宣伝ではすばらしい番組だと売り出してはいましたが、実際は視聴者のいない深夜番組です。しかし僕は二つ返事で了解しました。「ぜひやらせてください」。

このテレビ番組が、僕の初監督作品になりました。酷い駄作なので、どうか検索しないでくださいね。VFXなどで見た目は豪華なので、25万ポンドくらいのコストを使っていそうですが、現在で言えば、9万ポンド程度のコストのテレビ番組だったと思います。

そこで僕は、すでにそれくらいの予算で番組を撮っている、という理由で25万ポンドの予算で、単発の監督作品を任されました。そこで50万の予算を使っているように見えるVFXを作成したため、何回かプロジェクトを担当させてもらいました。最終的には、BBCの1時間ドキュメンタリー『アッティラ大王 ―大帝国の果てに―』を監督しました。

すばらしい経験ではありましたが、少々ストレスのかかる仕事でもありました。なぜなら、番組制作に関わっているクルーが100名くらいいるため、例えば撮影にうってつけのチャンスが訪れ、丘の上で美しい稲妻が走っているので「あれを撮ろう!」と言ったとしても、プロデューサーには「クルーのトラックを全部移動させるには、1時間半は無駄にする」とダメ出しをされるのです。

僕らは「トラックなど向こうに駐めればよい」と言うのですが。ばかばかしい理由でいちいちダメ出しを受けます。他の人に「これを撮ろう!」と言っても、「クルーが多すぎる。移動してもらうのは無理だ」。

ではいっそ人手がまったくなければ、好き放題に撮れるのではないかと。「もうこの3人だけで何かを撮影しよう」などと話していた人が、のちに僕の最初の映画のプロデューサーになってくれました。

失敗の恐怖と、挑戦していないという恐怖

『アッティラ大王 ―大帝国の果てに―』については僕も誇りに思っていますし、無事クランクアップし公開もされたのですが、次のチャンスとしては、ディスカバリー・チャンネルの次の番組、よりレベルの高い、予算200万ポンドの「ドキュメンタリー/BBC 世界沈没」という番組がありました。

その番組を制作中のミーティングで、「ギャレス、申し訳ないが、テレビ番組をいくつか制作しただけの君よりも、経験のある人材を使いたい」と言われました。僕ががっかりしていると、「君は今後どうするんだ。エージェントにつくとよい。エージェントで、これこれの女性がいるから、ぜひ会って来るとよい」いうことで、アマンダという女性と話をしました。彼女はすばらしい人で、今では僕のエージェントです。

彼女が僕に行くよう促したのは、僕の経歴に一番近い仕事でした。「ロビンフッド」制作の採用面接を受けました。「アッティラ」は僕が東欧で撮影し、スタントの騎乗の男たちが鳥を弓矢で射るBBCの1時間半のドラマです。「ロビンフッド」もまた、撮影場所は東欧で、スタントの騎乗の男たちが鳥を弓矢で射るBBCの1時間半のドラマです。

面接で僕は「君には適切な経歴が無い」と言われました。「ぎこちなく動くロビンフッドを作るつもりはない。どのようなロビンフッドを作るつもりか」。もう、これは僕には煉瓦でできた袋小路のようなもので、「ああ、また人生の経歴を無駄にした。VFXの経験は、映画製作には無用だった」と思いました。

人には「ギャレス、お金も溜まっただろうから、……実際はそんなには溜まってはいないのですが、ずっと君が夢見ている映画を作ったらどうか」と言われました。また僕は言い訳を始めました。ソフトウェアの開発がどう、新しいカメラのレンズが必要でどう、といった具合です。

失敗を恐怖するあまり、人生を懸けてやりたいことを後回しにすると、それは常に自分の後を追いかけて来ます。この恐怖は、まだ挑戦していないという恐怖と、真正面から対立します。ある日、この2つの恐怖が対面する時がやってきます。

今やらなければ、決してやることはできない。今やらなければ、僕は歳をとってから人生を振り返り、なぜあの時チャンスを掴まず逃げ出したんだ、と後悔するという恐怖です。

そこで、絶対に今、自分の映画を撮ってやる。何が何でもやってやる、と思い立ちました。

インターネットで見つけた突破口

ちょうど幸運なことに、突破口となったのが、インターネットで見つかりました。ビデオカメラを使って王道の映画を撮れば、安っぽくなってしまうし、簡単な映画では、冷蔵庫用カメラの映像のようになってしまう。

僕は、それらをうまく取り入れるアイデアを思いつきました。そこでこんな宣伝ドキュメントを作りました。「『ブレア・ウィッチ・プロジェクト(1999)』が『宇宙戦争(2005)』に出会った」。家庭用ハンディカムでエイリアンの侵略の様子を一つひとつ発見していく映画です。

僕が夢中になっていると、『クローバーフィールド/HAKAISHA(2008)』のトレイラーのリンクを送ってくれた人がいました。「くそ。J・J・エイブラムスめ……(J・J・エイブラムスは『クローバーフィールド/HAKAISHA(2008)』の監督)」。

(会場笑)

そこで、僕はなにか新しいものを発明しなくてはなりませんでした。それをうまく取り入れた発明をしてくれた人がいました。みなさんが覚えていらっしゃるかはわからないのですが、デジタルカメラ以前の鏡を内蔵したスローカメラは、ボタンを軽く押すとフィールドにフィルム本来の深く美しい画像が撮れます。

そこで、ビデオカメラをバックにおいて、映画の画像を撮ってはどうか、とアイデアを出してくれた人がいたのです。アダプターがフィルムのビデオのような画像に変換したものが撮れるのではないかと。僕はわくわくしてカメラを購入しました。48時間の映画コンペ、SFチャンネルでは、2日間で映画を作らなくてはならないので、それに出そうということになりました。

VFX畑の人間が映画祭に応募するには、すべて未経験でやらなくてはなりません。

VFX作成では、極めて退屈な作業、『ベスト・キッド(1984)』で「ミヤギさん(主人公の空手の師匠)」が言っていたことを思い出すような、何重にもワックスがけをするような膨大で退屈な作業が発生します。

しかし僕が初めて手にしたカメラについて、すばらしいと思うことがありました。カメラで撮影していて構成を失敗すると、無駄になるのはわずか5秒です。コンピュータでVFXを作っていて失敗すると、少なくとも丸一日は棒に降るため、コンポジションを学ぶ方法としてはたいへんな苦痛です。

しかしカメラであれば、僕は「リアルタイム合成」と冗談にしていたのですが、すぐに映像になりショットを探すことができます。これはうれしかったです。人物を構築する必要などなく、そこに人がいるのですから。僕はそういった世界に足を踏み入れました。

物語をいかに語るか

ご一緒した役者さんが、電話をかけて来てくれて、「調子はどうですか」と聞いてくれました。僕はその時、2日間ぶっ続けで寝ていたところで、こう答えました。「明日、作品をコンペに持って行くよ。僕の人生の、直近10年の仕事の成果を見せるんだ」。役者さんは「よかったですね」と言ってくれました。

僕たちは、そのコンペで勝つことができました。エージェントが、僕にこの映画を、ロンドンの低予算映画専門の映画プロダクション会社に持って行くように言いました。そこで僕は、紹介された会社に、その短編作品とVFXを持って行って見せました。

僕は、デジタルテクノロジーにより、いかにすばらしいものが家庭でも創造できる時代になったかについて延々と熱弁を振るいました。相手はいらいらしたのか「はいはい、採用です」と答えました。

あまりにあっさり受け入れられたので、にわかには信じませんでした。ストーリーの解説も何もしていないのです。僕が信用していないのを、相手方も悟ったらしく「映画の製作を開始したい日時を明記してください。その日から必ず採用しますから」と言われました。

僕は頭の中でざっと暗算し「お金が尽きるのが3ヶ月以内だ」と思ったので「3ヶ月後」と書類に記入しました。すると腹の立つことに、先方はその「3ヶ月」に固執してしまい、おかげで僕たちはキャスティングやロケ現場の決定など、映画のすべてを3ヶ月で設定しなくてはならず、少々混乱をきたしました。

僕は一度、脱走したことがありました。今までものを書いたことはあまりないので、初めて本格的にものを書き、軍隊などが出てくるおもしろそうな展開を考えました。すると先方は「軍隊はだめだ。経費が掛かりすぎる。ほかのものを考えてくれ」と言いました。僕は逃げ出してしまいましたが、戻って来ました。

僕はモンスター映画にこだわっていたので、「こんなアイデアを思い付いた。孤児の少年がいる。彼はアメリカの次世代のアナキンだ。彼を救出する物語だ」と言いますと「子どもはだめだ。普通の男女の話にしてくれ。ボーイとガールの話だ」。僕は「でもそうなると、ラブストーリーになってしまう。モンスターの映画ではない」。

「まあ、何でもいいから、とにかく考えてくれ」と言われた僕は、とにかくこのチャンスをものにしたいと死に物狂いでした。そこで物語をいかに語るか、なぜ語るかを考えました。

すみません、水を飲ませていただきますね。30分ノンストップで話していると、水を飲みたくなります。

(エドワーズ氏、水を飲む)

昨日、僕はマイクに言われてスティーブ・ジョブスのスピーチを見たのですが、彼は水を飲むのがとても上手ですね。会場が笑っている間にすばやく水を飲んでいました。

(スティーブ・ジョブスが水を飲む物まねをする)

(会場笑)

僕がグラスを取るたびに、みなさん笑ってくださいね。

(会場笑)

ありがとうございます。