今期の事業戦略について

司会者:それではこれより、質疑応答の時間とさせていただきます。ご質問がございます方は、挙手の上、お名前と御社名をいただければと思います。

記者1:朝日新聞のウシオと申します。海外事業について2点質問させていただきます。

通期の見通しとして、営業利益は大幅な増益を予想とおっしゃっていると思います。上期の段階で、ユニクロの海外事業がだいたい4割くらいを占めていると思いますけど、通期でもそれくらいの割合になるのか、もう少し拡大する見込みがあるのか、ということが1点目です。

もう1点目は、新興国のEコマース事業の成長を確信しているというお話でしたけど、今後、店舗展開よりかはそちらのほうに舵を切っていくおつもりなのかということをお聞かせください。

岡﨑健氏(以下、岡﨑):基本的な利益の構造としては、上期と同じようなかたちで、若干海外の貢献度が高まるのかなと考えていて、それほど大きな差は出ないと思います。

2点目についてもお答えしますと、基本的には店舗とEコマースを常にセットで考えておりまして、Eコマースだけを伸ばすということではなく、あくまでお客さまと直接つながると。

店舗でもインターネットでも、お客さまにとって利便性の高いところで買い物をしていただくという組み合わせを作っていくのが目標なので、基本的には店舗を減らしてEコマースだけ伸ばしていくという考え方ではありません。

サプライチェーン革命で購入体験はどう変わる?

記者2:繊研新聞社のカシワギと申します。よろしくお願いします。先ほど柳井さんがお話ししておられたことのなかで、「今、世の中で起こっているのはサプライチェーン革命である」と。

2月からスタートした有明プロジェクトでは、御社のサプライチェーンを根本的に変えるとおっしゃっておられましたが、サプライチェーンを根本的に変えるということは、「現状のこのような状況が、このようになる」という具体的なイメージがありましたらお教えください。それが1点です。

柳井正氏(以下、柳井):まず、これは近い将来、お客さんが注文した商品が1週間、1ヶ月後に、ぴったりのサイズでお客さまのところに着く。そういうサプライチェーンになるんじゃないかなと思います。

それともう1つ。ブランドのアイデンティティに則った多種多様な商品が、いつのシーズンの商品でも、あらゆるサイズが揃っている。そういったものになっていくんじゃないかなということです。

これはサプライチェーンの改革と同時に情報革命です。だから、情報が現実の商品として生産されてお届けできる。それも個人個人を特定した商品をお届けできるような世界になると思います。

ユニクロのビジネスモデルの変化

記者2:ありがとうございます。もう1点、そのサプライチェーンに関連して、有明プロジェクトのお話をおうかがいしたときに、これまで月次であった生産スケジュールを週次に変えるとおっしゃられてました。

生産スケジュールを月次から週次に変えることでどんな効果が生まれていて、これからどんな進展を示していくのかお教えください。

柳井:我々の産業というのは、一工程からまた一工程という、順序を追ってやっていく作業です。

例えば、お客さまの情報を収集して、商品を企画して、それを設計図に描いて、工場と打ち合わせして、それを本生産して、物流して、各店舗に持っていって販売する。これが瞬時に同時進行でできれば……。そういったことが可能な技術はすでに全世界にあるわけです。ですから、そのような技術に従った仕事のやり方に変えるということです。

とくに小売業の場合、毎週の土日が一番売上があがるときですよね。それでしたら、月曜日、火曜日は本部に集まる必要もなくて、あるいは集まる必要があるときは集まって、みんなが横一線で仕事をしていく。

それは生産とか販売とか物流とか、今まで縦に分断されていたものが全部シームレスでつながって、同期と同時をとって仕事をしていくというところに変わっていくことだと思います。

今までは月というベースでやっていたんですけど、それが週というベースに変わっていって、そういった情報を中心にしたと。

反対から言ったら、商品を売る前に、我々のブランドを買ってもらわないといけない、我々の会社を買ってもらわなきゃいけない。本当にもう原理原則的なことです。

そういった技術が進んで、ハイテクになればなるほど、ハイタッチな接客、あるいはハイタッチな技術を使った新しい接客方法に変わっていくと思っています。

記者2:1点確認なんですけど、例えば、週次に変えたとしても、コストは上がらずに適切な商品企画ができる仕組みになっていけるとお考えということですよね?

柳井:ええ。当然ですけど、週次に変えるということは的中率、欠品率、過剰率がいい方向に変わるということなので。

記者2:ありがとうございます。

記者3:日経新聞のイワタです。1点、国内のユニクロ事業なんですけれども、「毎日お求めやすい価格」戦略を打ち出して1年が経過して、利益がしっかりとついてくるようになったと思います。売上が今、足元でほぼ横ばいになっている現状をどう捉えていらっしゃいますか?

先ほど岡﨑さんが、下期(既存店売上高を)4パーセント増にされるとおっしゃっていたと思いますが、何が伸びない原因で、どうすると伸びていくのか。そこをお願いします。

柳井:3月の結果ですけど、あの気候だったらもうしょうがないと思います。ですから4月以降に売上をあげていこうと思っていますし、そのための商品はあると思います。

それとやはり、お客さまの要望に瞬時に応えられるようなことをテクノロジーの力を借りてやる前に、我々の仕事の仕方を変えることが必要なので、お客さまの要望がどこにあるのかと。

全世界で11万人の社員、ユニクロだけで1,900店舗、全部合わせると3,000店舗あるので、そこの社員と全部がつながるコミュニケーションのシステムを作りたいと思っています。

衣料品の値段とデフレは関係ない

記者4:読売新聞のタケダと申します。今後の価格戦略についてお尋ねしたいと思います。先日、大手の流通グループのトップからも「脱デフレというのは大いなる幻だった」という発言がありまして、消費者の低価格志向が根強いものだということを改めて示していました。

今の消費者の価格志向と今後の御社の価格戦略をどのようにお考えか改めてお聞かせいただけますでしょうか?

柳井:僕は衣料品の値段とデフレは関係ないと思います。これは僕の経験なんですけど、1994年に上場して、1995年にアメリカで会社を買うかと思って出張したんです。

そのときに、アパレルの市場マーケットの規模の比較表があったんです。そのときにビックリしたんですけど、日本の市場のほうが米国の市場よりも金額的に大きかったんです。これ自体が異常ですよね。人口はその当時でも倍以上あったと思っているんですよね。

その当時、日本に帰ってきて思ったことは、みなさんがピカピカの服を着ているんですね。新品のすごくいい服ばっかりです。1品1品非常に高いものを買われていたんじゃないかなと思うことと。

本当はいい服を世界中の人々に提供できる。あるいは世界中の人々にとってはいい服が買える現状を作るということが、我々服をビジネスにしている人間の生業なので。

デフレ脱却とかいうことではなくて、世界中で我々(ユニクロ)がウケていたり、あるいはZARAやH&Mがウケいている、服自体の民主化のようなところ。やはりファッション自体の普及によって、デザイナーの時代から着る人の時代に移っていったんじゃないかなと思います。

我々は今後、着る人がどういう立場で、どこの国でどういう商品を売って、どういう文化に敬意を払って、どういう店舗でどういう接客をして、どういう計画をして、どうやって売っていくのか、ということなんじゃないかなと思っています。

いろんな人がいろんなことを言っていますけど、脱デフレとか、インフレとかいうことと、我々が今のプライスで売っていることはまったく関係なくて、むしろ我々は、本当にいい商品を、誰もが買える値段で売りたいと考えているということです。

日本の消費環境と価格戦略

記者5:朝日新聞のワケです。1点目が、もうちょっと足元の話です。去年値上げをしようとして、あまりうまくいかなくて、価格をもう少し下げたかと思います。もう一度値上げのタイミングは考え得るのか。今の消費環境と絡めて教えてください。

柳井:値上げした背景を、もう一度ご説明申し上げます。為替が1.5倍で80円から120円になりました。これで同じものを作ろうとしたら、値上げせざるを得なくなったと。しかも、そこに持ってきて、新興国の需要がすごく高まってきたということがあります。

ただし、それをやって、日本の消費者にウケなかったということです。というのは、残念ながら日本の給料はそこまで上がっていません。

そうであれば、我々のお客様が買える値段で売るという使命としては、値上げは今のところ考えられないと思います。我々が努力して値引きする分、毎週限定で売っている分、できるだけそれをしないようにして売っていきます。

それで、商品の売価変更のロスに関して、シーズン末期の処分を少なくしていって、本当に1点1点売れる数量を1点1点ずつ作っていくというやり方に変えました。ですから、値上げする気はまったくないです。

記者5:もう1点、ジーユーなんですけれども、上期に計画どおりいかなかった要因と、下期は増益に転じるという話でしたけれども、何をするとそうなるのか、戦略を教えてください。

柳井:これは僕よりもジーユーの社長に聞いてもらったほうがいいと思うんですけど(笑)、やはりちょっと商品の方向性を間違えた部分があるんじゃないかなと思います。お客様が要望されていない商品を多く作りすぎて、要望される商品が少なかった。これが一番大きいと思います。

それと今、業態を改革しようと思って試行錯誤しているので、アップがあればダウンがあるということで、先ほど説明しましたように、一昨年の上期が非常に良かったので、そことの比較で悪いという部分もあると思います。

その試行錯誤で、現状ある一定の手がかりが出ているので、下期に関しては回復すると思います。

物流網の構造改革について

記者6:NHKのノグチです。大きく2点です。最初に国内の物流のところで、下期も継続して伸びていくということですが、これはどういった部分が伸びていくのかという点と、今後もEコマースを強化していくということは、物流の経費は継続して増えていくのか。そのあたりを最初に教えていただけますでしょうか?

柳井:物流について大きく言うと、1つは世の中の物流費自体が上がっているというマクロ環境の影響を受けている部分が1つと、あとは我々独自の物流網の構造改革を進めているというところ。

構造改革を進めていくなかで、二重に倉庫を持ったり、倉庫内運営の内製化もやっていますので、その過程で、オペレーション上なかなか立ち上がらないようなことがあったり、このような移行に伴うコスト増というのもあります。

後者については、この下期いっぱいくらいまで続くと思っておりまして、その先目処をつけて、そこから先に改革していくのは、生産性を高めたいと思っているので、世の中の物流費増を補えるような効率的な運営によって、物流費自体はピークアウトさせていきたいと思っています。

下期くらいまで物流費率は高まると思いますが、来年度以降は比率では下げていきたいなと思っています。

人海戦術から技術を使った企業運営へ

記者6:もう1点、柳井社長におうかがいできればと思います。小売業全般で人手不足に悩んでらっしゃると思いますが、御社のほうで、店舗の人手不足を現状どう認識していらっしゃるのかと。

通期で採用されていると思いますが、今期や来期、とくに正社員を増やしていくのか、変えないのか、増やす場合はどのような対応を取られるのか教えて下さい。

柳井:やはり今までの小売業が人海戦術でやってきたことが一番の問題だと思います。

日本の場合、高齢化と少子化で仕事をする人が減るので、簡単に人が増やせないと思うんです。そうであれば、どうやって効率化するかということをみんなで工夫して、サプライチェーンの改革や、デジタル革命を使って、機械やテクノロジーできることはそれに代用すると。

そういった改革を主にした産業に変わる。幸い我々の場合は小売業だけではなく、企画、販売、生産でお客様のデータを集めて分析して、お客様一人ひとりのデータを処理していくような業態に変わるのではないかなと思っています。

たぶん、3年後に小売業やインターネット販売だけではなしに、あらゆる産業が新しい局面を迎えるのではないかなと思っていて、それを一番最初にやった企業が世界で勝ち残っていくと思います

記者6:採用を増やすか変わらないか、そのあたりはいかがでしょうか?

柳井:店舗の出店と我々の事業が拡大していくので、全体的には増やすと思います。しかし、人海戦術から技術を使った企業運営に変えていくので、売上当たりの人数の比率は減っていくと思います。減らないと大変なことになると思います。

ユニクロブランドが牽引する“透明性”

記者7:朝日新聞のクボと申します。2月末に、ユニクロブランドの主な縫製工場を、海外のほうで公開されていると思います。先ほどお話にあったように、まさに「サステイナブルな世界とはなんぞや」という取り組みの一環かとは思うんですけれども。

あらためてその趣旨と商売上の効果というか、とくに欧米のユーザーさんなどはこの辺を気にする方も増えていると思うので、その辺りの話をちょっと聞かせてください。

柳井:あらゆるものが透明になる世の中、これはある意味では非常に幸せなことだと思います。今まで出所がまったくわからなかったものが、全部透明化されていく。それでたぶん将来的には、原材料が全部透明化されていくと思います。

そういう流れがあるんだったら、自分たちが率先してやっていくということなので、今言った原材料から、加工方法から、縫製の工場などが公開されていて、自分が買ったものが、どこでどのようにできたのかと。

日本ではまだそれほどではないんですけれども、欧米ではそういうことに関心のある人たちが多くて、その情報をできるだけ早く公開しないと商売できなくなる可能性があると思いますし、そちらのほうが正解だと思います。

司会者:それでは申し訳ありませんが、こちらで質疑応答を終了させていただきたいと思います。本日はお忙しいなかご来場いただきまして、誠にありがとうございました。以上で終わらせていただきます。