AIをリアルにする3つの要因

ダイアン・ブライアント氏(以下、ブライアント):ありがとうございます。おはようございます。今回、ここSXSWにて、次世代の大きな技術革命の1つであり、大変な影響力を持つ、人工知能についてお話しする機会をいただけたことをうれしく思います。

データの果たす役割と重要性については、論じるまでもないでしょう。2020年までには、おそらくM2M(Machine to Machine、端末同士をネットワークで繋げて作動させること)のうち50パーセントはインターネットに接続されているでしょう。

データから読み解くと、昨今の平均的なネットユーザーは、1日につき1.5ギガのデータ通信を行っています。2020年までには、車とも通信できていて、1日あたり4テラバイトを通信しているでしょう。データ速度に換算すると2,500倍になります。例えば、飛行機に接続すれば、5テラバイトに上り、先進工場と接続すれば1日につき1ペタバイトの容量を占めるようになると予測されます。

人工知能は、これらを一手に担い、車、産業、技術やITに革新を起こし、次世代社会の大きな変化を牽引していくのです。

AIに関する実地調査は、1956年という大昔からすでに行われていましたが、その当時はあまり支持されてきませんでした。また、70年代以降になっても特に意味のある研究成果はなにも挙げられず、当時はAIといえば、SF映画(すばらしいものや、あまりよくないものもありましたが)のなかだけのものだったのです。

けれど、今ではAIはまさにリアルな存在です。そしてそれを可能にしているのは、ある3つのAIの仲間たちです。そう、重要な要因が3つあるのです。

1つ目はクラウド・コンピューティングです。クラウド・コンピューティングは、大量のデータを管理し、収納するのにもっとも効率的で適した存在です。そして、2つ目は接続性。何十億もの接続された端末同士を、確実にクラウドにストリーミングできる接続性です。3つ目はムーアの法則です。ムーアの法則は経済法則の1つで、コストが削減されるにつれ、データ容量が増加していくという法則です。ムーアの法則では、コストがデータ容量の増加につれて上がっていくのを禁止しています。

私はよく、インテルの創始者ボブ・ノイス(ロバート・ノートン・ノイス)のこの言葉を引用します。「近年まで人は、脳を理解するためにコンピューターをモデルとして使用してきた。しかし我々がコンピューターと一緒にどんな未来を歩くべきかを決める時は、脳にヒントを求めるべきなのかもしれない」と言っていました。

ボブがこの言葉を語ったのは32年前です。IT産業がいまだ再生期にある中で、2010年代にAIは爆発的な進歩を遂げました。私たちは、極めて急速な発見の時代にいるのです。すさまじい勢いで、革新のペースが迫ってきているのです。

AIは、もはやSFの中のものではありません。人工知能は、ビジネスへの変化をもたらしてくれるだけではなく、私たちと世界との関わり方を根本から変える力を持っています。これからみなさんには、AIがもたらすすばらしい変化の例をご紹介させていただきましょう。

仕事、遊び、また、AIの将来的な活用法についてです。

2025年までには自動運転の実現が可能に

まず仕事から始めましょう。AIは日々さまざまな場面での解決策として活用されています。AIの導入が推進されている例は、売上向上のためユーザーへのお勧め機能や、リスクを減らすための(情報などの)流出防止策などがあげられます。一例として、現在急速に開発が進んでいるのは、運転の自動アシストです。

自動運転は、ご存知の通り今一大ブームを巻き起こしています。自動車製造業の一般的な見通しによると、2025年までには自動運転の実現が可能となるのです。自動運転の実現には、高い信頼性のあるネットワークに接続されたクラウドサービスという、最新の技術が必要となります。

自動運転用のデータを作るには、まず、基本的な運転方法をインプットしたAIを創造することから始めます。次に、できたモデルに、車両からのデータをダウンロードして、周囲の環境を検知する「コンピューターの目」を設定します。もし、なにかトラブルに遭遇した時に、都度適切なリアクションを取ることができるように。ただ、まだ十分ではありません。例えば、消防車が、反対車線を走って来るなど、想定外のことが起こる可能性があるからです。

なので、リアルタイムで車両からデータを受信・更新し、絶えずダウンロードし続けることが必須なのです。

車両の画像認識機能のアルゴリズムは、絶えず正確なものでなければいけません。道路を塞いでいるのがただの雑草なのか岩なのかで、リアクションが劇的に変わるからです。

要するに、自動運転車両は、継続的に学習を行うシステムなのです。

端末中にあるAIは、今日までにたくさんのことを成し遂げてくれています。みなさんが駐車したり車線を外れてしたりしまわないよう見守っていてくれますし、今後はさらにもっといろいろなことができるようになるでしょう。

AIテクノロジーを備えた車両は事故が減り、エネルギー消費や、公害汚染、交通渋滞を減少させることは明白で、たくさんの可能性を秘めています。

AIによる資産管理ツール

さらにAIは、財務管理までしてくれます。Clincは、最先端のAIのスタートアップです。Clincは、資産運用のどんな質問にも答えてくれ、個人のためにコンサルティングをしてくれる資産管理ツールを開発しました。

ご紹介します。Clincの創設者にしてCEOの、ジェイソン・マース氏です。ご登壇いただきありがとうございます。ジェイソンさんは、CEOだけでなく、教授でもあるのですね。

ジェイソン・マース氏(以下、マース):はい。ミシガン州立大学でコンピューター科学と工学の教授をしております。私の妻も、また共同創設者であり、教授でもあります。私たちは、次世代AIのため拡張性の高いソリューションを開発しています。こういったソリューションにおいて、インテルをはじめとしたすばらしい企業とコラボレーションさせていただいております。

ブライアント:そうですね。ありがとうございます。こちらこそ、楽しくコラボレーションさせていただいております。

ミシガン州立大学で教授をされる前は、IBMやGoogleなど、IT業界では名立たる大企業にお勤めでしたね。インテルにも……あなたが辞めてとても寂しかったわ。これらの企業に勤める中で、AIの世界についてどんなことを見てきたのですか?

マース:この時期、AIはたいへん興味深い時期で、私は新しいネットワーク間に必要とされるデータを創っていました。AIモデル自身が知識を取り込んで行き、まさに最新のテクノロジーがどんどん導入され、更新されていく時代でした。この分野で働くには、最高の時代でしたね。

ブライアント:そしてClincにおいてあなたは、人間の言語で稼働するという、画期的な革新をもたらしたのですよね。

マース:はい。1年半前の創設時よりClincが開発を目指したのは、私たちが考える上でもっとも洗練されたプラットフォームを持つ、会話可能なAIでした。

そこで私たちは、どの社会でも大きな問題となっている資産運用の問題にターゲットを絞りました。

我々が飛躍的に向上させたテクノロジーとは、ルールやキーワードに縛られず、きわめて自然に、AIと会話ができるシステムです。

ブライアント:貴殿のソリューションは、単語一つひとつを理解するわけではないけれども、会話全体の文脈を理解するわけですね。

マース:そのとおりです。そして人間の膨大な言語を使い、その人が言わんとすることを理解できます。このAIからは豊富な返答を期待できます。

1年間の支出の履歴もすぐに答えてくれるAI

ブライアント:では、今ここでデモンストレーションを行っていただきましょう。よろしくお願いします。

マース:はい。これは、クラウドの中に住んでいるFinieです。このデモンストレーションの中で、このシステムの価値をご理解いただけるかと思います。ではFinieに、いくつか質問をしてみましょう。

去年、私は食費にずいぶんお金を使ってしまいました。いくらだったでしょうか。

Finie(以下、Finie):支出の履歴をお尋ねですね。あなたは「飲み」「食い」の費用として2,304ドルを支出しました。これは、2016年1月1日から2017年1月1日までの総支出において6.506パーセントを占めます。

マース:すばらしい。では、今晩これからダイアンさんと食事にでかけようと思います。200ドルをかけても大丈夫でしょうか。

Finie:はい、今回200ドルの支出を行っても問題はないかと思います。ただ、月間総支出のうち、すでに34.2パーセントを使ってしまっていますので、使用可能なお金が2,391ドルに減ることになります。

マース:わかりました。ではお金を下ろしたいのですが、どこへ行けばよいですか。

Finie:U.S.バンクの支店ATMが利用可能です。住所は……(以下支店住所)。

マース:すばらしい。強調させていただきますが、AIはクラウドの中で生きています。

現在、Amazonと、FinieをAlexaと相互接続させてもらえるよう話をしています。そうすれば、FinieはAlexaと同じ知識と理解力を持つことが可能になります。

ブライアント:おめでとうございます。とても素敵な方法ですね。

マース:ありがとうございます。(Alexaに)Alexa、Finieに、直近半年の旅行費用の平均支出を聞いてください。

Alexa:あなたは旅行に口座から712ドルを支出しています。これは直近半年の総支出額の4パーセントに相当します。あなたのひと月あたりの平均支出は118ドルです。

マース:ありがとう、Alexa、えっと、いやありがとうFinie。

ブライアント:とてもすばらしいですわ。みなさん、大きな拍手を。

(会場拍手)

まるで、あなたが普段バーでどんなふうに1人で過ごしているかみている気分だったわ。あなたにとっても挑戦的なデモだったと思う。それで、ほかにはどんな方法でFinieにアクセスできるの?

マース:チェースやバンク・オブ・アメリカなどのアメリカ国内の大手銀行と手を組み、顧客のみなさんが今使っている既存のアプリにこの経験をいかせないかと考えています。もしこれらのアプリをお使いなら、きっとどこかで体感していただけるかと思います。

また、この秋、FinieをAlexaに導入し、みなさんが利用できるようにします。すでにAlexaをお持ちのみなさんには、このすばらしいプラットフォームの仕様を体験していただけます。

ブライアント:おめでとうございます。Finieがたいへん進んだ金融プラットフォームであることは、私もよく存じ上げております。金融機関に続いて、国の機関においても、このようなソリューションが適用できるようですね。

マース:はい、そのとおりです。Finieの根幹を成すプラットフォームの知能は、好きなようにトレーニングしてカスタマイズすることができます。例えば、病院において、医者からの「来週予約のある患者は誰か」などの質問を受けられるように、人工知能を訓練し経験を積ませています。まだまだ改良の余地はあります。

今一番力を注いでいるのは、この財政管理機能を世界規模で導入に導くことです。いずれ、Clincのようなテクノロジーが一般的に見られるようになり、ごく普通に使われるようになるでしょう。

ブライアント:インテルにもFinieのテクノロジーを導入してくださっていますね。楽しい時間をありがとうございました。成功をお祈りしています。

マース:ありがとうございました。

AIを使って野球選手のフォームを研究

AIへのアクセスが広がれば、数多くの新しい体験が可能になります。AIは、我々の習慣までも変えてくれるのです。

スポーツは、大きなビジネス産業です。これほどの情熱を、消費者からかけられる産業は、他にはなかなかありません。わたしたちは、人工知能をスポーツに導入し、業界におけるアスリートやチームの可能性を広げようとしているのです。

コーチアスリートのパフォーマンスを分析し批評する際には、研究室に選手を呼び、たくさんのセンサーを体に巻き付け、その様子を動画で撮影するのが一般的でした。けれど、この方法は時間と費用がかかる上、応用が効きません。加えて、コーチやスポーツ科学者が必要としているのは、アスリートが、スタジアムや競技場など本来の場所で見せる、自然な動きの観察なのです。

インテルのAIは、モーション・キャプチャ・システムで、試合に変革をもたらしました。普通のスマートフォンやタブレットを使い、クラウドに繋がったコンピュータ・ヴィジョン・アルゴリズムが、14点から構成されたムーブメント・マップを作成し、野球選手のスウィングフォームを身体的な表現に変換して分析するのです。

この合理的なAIシステムを使うことで、アスリートの以前の映像キャプチャのデータベースと比較し、フォームについてより多くの洞察をもたらすことができます。

では、AIシステムのモーション・キャプチャの働きをお見せしたいと思います。地元の野球選手をここに招いて、スイングをしてもらいましょう。テキサス・オーストン出身の15歳、ブランドン・ウェンツロフくんです。

お越しいただきデモをしてくださるとのことで、ありがとうございます。さて、先ほど私がご紹介したような、本物の地元出身の野球選手さんですよね? まさか変装してごまかしているなんてことは……。

(会場笑)

ブランドン・ウェンツロフ(以下、ブランドン):はい、僕は地元オーストンのジェイムズ・ベリ高校に通う2年生です。チームでは外野手を務めています。

ブライアント:まあ、すてきですね。また打率がすばらしいそうですね。3割6分3厘とのことで、これはタイ・カップが持つ記録の、3割6分6厘に匹敵し、たいへん優秀な選手だということがわかります。昨日試合があったのですよね?

ブランドン:はい、ありました。えっと、かなりいい試合でした。4対……えーと。

ブライアント:負けたのね。残念でした。

ブランドン:がんばったのですが、4対……えーと、いい試合で……最終の2イニングでは接戦でした。

ブライアント:わかりました、ではこの下りはカットしてもらいましょう。ね? ……冗談よ。

(会場笑)

スカウティングやけがの予防にも

では、デモンストレーションにあたり、ここで少々ブランドン君にはお手伝いをしていただきましょう。まずこの普通のスマートフォンを使います。ブランドン君には、ここのXマークに立ってもらい、私は後方からブランドン君が何回かスウィングをするのを撮影します。スローモードに設定しましたよ。私を打たないでね。バットは、万が一手元からふっ飛んでしまっても誰もケガしないよう、ゴム製のものを用意してあります。

はい、ではスウィングをお願いいたします。いいですね。

(ブランドン氏、バットを振る)

次はもっとうまくできるわ。もう1回お願いします。

(ブランドン氏、バットを振る)

では、次にデータを私たちのクラウド・ソリューションに転送します。普通でしたら、データ形成には5、6分ほどかかります。けれど、待っている時間がないので、少しズルをしますね。昨日の夕方に、州会議事堂の前で撮影した動画がありますので、こちらを表示させます。さあ、見てみましょう。最初の画像が、州会議事堂の前で撮ったものです。見てみましょう。これをご自身でみて、どう思いますか?

ブランドン:動画を見ると、僕のひざが後ろ過ぎなのがわかります。もっと前に出せば、より力が出るでしょう。動画を見れば、後ろ肩が落ちているのがわかります。これは、野球で絶対にはやってはいけないダメなフォームです。力も満足に出ません。

ブライアント:私よりいい観察眼をお持ちですね。では2番目の動画です。こちらはいかがでしょう。

ブランドン:この動画では、僕の膝はちゃんと入っていて、よりパワーを出せています。また、肩が同じ高さにあるので、力がしっかり出ています。ずっとよくなっています。

ブライアント:ずいぶんよくなっているのですね。なるほど、わかりました。

(会場笑)

ではこの2つを並べて、ブランドン君が見て取ったことを、みなさんにもわかるようにしましょう。

AIソリューションには、その時々のケースによってたくさんの利用方法が考えられます。例えば、あなたのお母さんが、フルブライト奨学金を取って、名立たる名門大学に行けるかとても気にかけているとします。

スカウトしてもらうための手段として、アプリを使って、より簡単にしかも早く実際の実績などと照らし合わせてブランドン君をほかの候補者と比較できるの。おもしろいでしょう。

では、ブランドン君はそろそろ練習に戻っていただきましょうか。このプロテインと、チーム・インテルから贈りものです。ご参加ありがとうございました。

AIソリューションのもう1つの活用方法として、アスリートたちのスカウトに効果を発揮できますし、パフォーマンスの向上やけがの予防にも役立ちます。バッテリーのスイングのスタイルを見ることにより、怪我を予見し、どのようなスタイルに改善すればより安全にリカバーできるかを考えることができます。

トレーナーは、自分の担当する選手のスイングを、他の選手のフォームと比較し、怪我の情報や治療や改善方法を収集できるのです。

数々のスポーツや、プロ、スポーツの名門学校に通う学生やクラブの子供たちなど、たくさんのスポーツに関わる選手たちの数を見ていただければ、AIの持つ可能性の大きさがご理解いただけるものと思われます。