Amazonが主催しているロボットコンテストに出場

夏野剛氏(以下、夏野):じゃあ米辻くんお願いします。

米辻泰山氏(以下、米辻):こんにちは。よろしくお願いします。株式会社Preferred Networksのエンジニアの米辻と申します。みなさんすごい肩書をお持ちで、CEOの方とかもいらっしゃる中で僕だけ平のエンジニアなんですけど、そんな感じでよろしくお願いします。

僕はもともと東京大学のロボコンサークルのRoboTechというところに所属していまして、メカニックをやってました。

その後、修士の時に「未踏IT人材発掘・育成プロジェクト」で「ecoMaki」という漫画をWEB上で作れるサービスを作っていました。エフェクトを駆使して、読んでる途中に漫画の中が動いたりだとか。

その後、ロボットメーカーのファナックという会社に就職しまして、「CNC」という工作機械のプログラミングとかもしてました。いろいろやっているんですけども、ちょっとドロップアウトしまして。アプリの開発とかフリーランスでやってた時期もありました。

そしてちょうど2016年3月10日、この未踏のマッチングサービスに株式会社Preferred Networksさんに入れていただいて。その後「Amazon Picking Challenge」というAmazonのロボコンの仕事をやらせてもらったりとか、最近は「PaintsChainer」線画着色webサービスをやってたらけっこうバズりました。

難易度が上がり続けるコンテストで、2位に入賞

「Amazon Picking Challenge」に関してちょっと説明させていただきたいのですけども。これはAmazonが主催しているロボットコンテストです。Amazonの「Kiva」システムみたいな倉庫の中を自動化するものを目指して開催しているコンペティションです。

Amazonの「Kiva」システムによって棚を動かせるようになったんですけども、棚からピッキングしてパッキングするという部分は全部、今は人力でやっていて、それにすごく困っているので。

それを自動化していくために、長期的に技術開発をしようということで、コンペティションで、毎年課題のレベルを上げて開催しているものです。僕が入ってからちょうど1ヶ月後にあったんですけど、僕は手伝いだけでいいかなと思って入ったら、ハードウェアがまだできてなくて、ひたすらメカニックを作ったという感じなんですけども。仕事でロボコンができて楽しかったなと思いました。

判別が難しいアイテムとかも入ってまして、ペットボトルとか光学的なセンサーで見ると、そもそも透明で見えなかったり、ダンベルみたいにけっこう重いやつが入ってたり。

こういう競技ってロボットでやろうとすると、だいたい掴むよりも吸着しちゃうほうが早い。だから吸着を使う場合が多いんです。でもペンカップというマニュアルのやつが入ってて、吸着対策しちゃったりだとか、手袋とか布の上で形が変わるから認識難しいとか、そういう意地悪な感じになっていたんです。

歯ブラシの色違いとか、人間でも完全にわからないようなのもあったり、大きい封筒があって、棚の形が微妙なので、なにか金属のバーとかに引っ掛かるんですね。

その辺がかなり意地悪な設定だったんですけど、けっこうがんばることができて、「pick task」で1位の順位と同点の2位で、「stow task」で4位という形でした。

同点になると最初に得点したのが早いほうが勝ちというルールがあって。まさかなるとは思ってなかったんですけど、同点引き分けみたいな感じで2位になってしまいました。

1位はオランダのDelft工学大学というロボット系では有名な大学だったんですね。そこのチームからこの大会をきっかけにPreferred Networksにエンジニアが入ってくれたり、入り口ではすごく成功したかなと思ってます。

なにがウケるかわからない、とにかくやってみるのが大事

ぜんぜん関係ないですけど、ディープラーニングの会社なので、「PaintsChainer」というのを勝手に作って。左の線画を入れると右の着色やスタイルがちゃんと返ってくるというサービスで、けっこう白黒の写真の着色というのは今までいくつかすでにあったんです。

でも、線画となると白黒のグレースケール情報は使えないので、よりちょっと難しいんですけど、それをがんばって60万枚ぐらいイラストを学習させて、サービス化して出したところけっこうバズってました。

これ、完全自動でも着色できるんです。ヒントを付けることによって着色できて、このバックの中の人に赤いの入れると服が赤くなったりして、ユーザーの意向を反映させることもできます。

これがTwiterで公開してからすぐに2万リツイートぐらいいって、始めサーバーがGPU使ってるので計算がすごい重いので、サーバーの負荷が重くなってしまったんです。会社のサーバーも置かせてもらって、拡張して今はそれなりにサクサク着色できます。

これすごくよかったなと思っているのが、ディープラーニングっていう「魔法の箱みたいに最新技術だよって言っているけど、実際なにができるかよくわからない」と思われていたものが、けっこう身近なサービスとして使えるんですというのをプレゼンできたのがよかったなと。

あとソースコードとか学習済みのモデルもGithubで公開しているので、ローカルで結果を再構成することも簡単にできます。そのおかげでけっこう「こうしたらいいんじゃない?」っていうのを送ってくれたところもあって、それはすごくよかったかなと思っています。

学習済みのモデルを出すというのもけっこう勇気がいることだったりします。ディープラーニングっていうコードを出すだけだったら、データセット用意してトレーニングしないと同じ結果は出せないんですけど、学習済みのモデルを出すと完全に同じことができちゃうので、本当に全部公開しています。

グローバルとの話をぜんぜん考えてなかったのですけども、実は海外からのアクセスが半分以上で来ていて。日本から来ているのが35パーセントぐらいで、65パーセントぐらいは海外からきてます。けっこうバズったので、10カ国語ぐらいで記事が来ていたのでけっこうよかったなと。

未踏の時に作ったサービスにはまったくなにも流行らなかったんですけど。なにがウケるかはわからないので、いろいろやってみることが大事だと痛感している次第でございます。なので、国も企業もなにか「やってみた」ということを応援してくれるとすごくうれしいなと思っています。

(会場拍手)

日本はデザインに対するリスペクトが少ない

夏野:先ほどの米澤さんのクラウドファンディング、VTRもあるようなので、ここでちょっと流します。

米澤香子氏(以下、米澤): いいんですか? 中継先のニコ生では、会社の宣伝をするとすぐ「宣伝乙」って言われるんですが……(笑)。

夏野:ニコニコユーザーは静かに見ていてください(笑)。

(動画流れる)

はい、ありがとうございます。

米澤:期待通り「宣伝乙」でした(笑)。

夏野:ここは宣伝もよし。

ここでやっぱり「HAKUTO」の話ってすごく新しいモノづくりだと思っています。先ほど米辻くんが言ってた「モノづくりはぜんぜんダメになってきた」みたいな話というのがすごく関係あるなと思っているんですけど。僕自身、携帯を作っていて、日本の伝統的な製造業というのがマズいなと思ったのが、デザイン意識がほぼゼロということです。

僕も1回、HAKUTOの操縦体験やったことがあるんです。HAKUTOって、すごくデザインがいいんですよね。僕は今、宇宙政策委員もやってますが、日本の衛星にデザイン意識はないですね。

米澤:そうですか?

夏野:いろいろな事情があってですが。結果的にどうなっているかって言うと、日本の宇宙産業の規模はわずか3,000億円。3,000億円って言うと昔のiモードのコンテンツの売上と同じぐらいです。

「宇宙産業がそれだけの規模にしかならないっていうのはどういうこと?」って話だと思うんです。日本のエンジニアはUIとかUXに対してあまり関心はないのかなという感じはします。

未踏に参加するような方はけっこうこだわっているんですが、日本は一般的に製品化される時とかに「ユニバーサルデザイン」って言い出すんですよ。

「ユニバーサルデザイン」ってなにかって言うと「おばあちゃんでも使えるように」。「おばあちゃんでもiPhone使えるじゃん」っていうと「いやいやここには着信って感じで大きく表示しなければダメなんです!」って本気で言うんです。

これって日本特有のなにか「殻に篭もる系」「俺の出身はこうだから、私の出身はこうだから、ここだけやってればいい」という、全体に責任を持たない傾向があるような気がします。みなさんどうでしょうか?

米澤:企業はデザインに対してお金を払おうという気持ちや、そもそもデザインに対するリスペクトがすごく少ないんじゃないかと思います。

夏野:コンシューマー側からすると、iPhoneとかiOSに一番お金使っているのは日本人。だから、コンシューマー側はそこにお金を払おうと思っている。でも提供側は、例えば自動車にしても格好良くない。

本多達也氏(以下、本多):僕もデザイナーとして働いているんですけど、やっぱり大企業になればなるほどデザイナーの地位とか発言力って小さくなるのかなというふうな気がしてます。

やっぱり関わってくる人が1つのプロジェクトで多くなるので、尖ったものがだんだん丸くなっちゃうようなイメージがあるなと、すごく感じてます。1年間働いてみて。

お金も人もコンシューマーもある。あと必要なものは?

夏野:さあここからのテーマは日本に未来はあるのかということです? 日本に未来はありますか?

鈴木健氏(以下、鈴木):未来しかないですね。

夏野:未来はもう来てる?

鈴木:来てるし、みんなすごいじゃないですか。未来しかみえません。

夏野:未来しか見えない! いいですね。うれしいです。はい。逆に言うとそういう未来をどうやって来させようということが重要でしょうか。

福島良典氏(以下、福島):そうですね。未来しかないと思いますね。

夏野:未踏人材の目指しているものは、未だかつてないものを世の中に出して、みんなに使ってもらおうというところ。僕はそういうものが、日本からは比較的出やすいんじゃないかと思っています。

なぜかというと、金はあるし、人はいるし、しかもコンシューマーが優秀なので市場がある。新しいことに対してあまり忌避感がない。そういう環境で、それを本当に具現化して日本の未来を作るのになにが今足りないか。

米辻:ひと言で言うのはすごく難しくて、いろいろだと思うんですね。ただ、例えば僕の前々職の会社は、未だにネットで外に繋ぐのが禁止だったりとか、そういうけっこう厳しいところもある。

これは笑い話ではなくて、すごく強い日本の会社であっても、そういうルールが未だにあったりするので、本当に僕らが思っている以上に進んでないところがけっこうある。そこから逃げるのは簡単なので、僕は逃げちゃったんですけど、一つひとつ向き合って改善していかないと良くならない部分はすごくあるかなとは思ってます。

夏野:そこで大きく同意するのは、例えばアメリカとかヨーロッパだと新しい企業はどんどん新しいものにチャレンジするんですけど、実は古い企業も同じようにけっこうやってるんです。

例えばエアバスという航空機製造の会社は過去20年で倍ぐらいのサイズになっていて。それは新しいビジネスを買収したり、オープンイノベーションで、いろんなベンチャーと組んで新しい事業開発をしているからなんだけど、日本はそういう意味では自社中心主義でクローズドな開発が多いですね。

米辻:そうですね。やっぱりベンチャーは既に技術を持っているところとかを買収すればいいのにとか思ったりするんですけど、自社で開発して3番煎じぐらいのことを同じ日本で大企業がやってたりして。

日本で同じことやっていてもっと進んでいる人はいるんだから、ちゃんとそこにお金出せば丸ごとそこでものになるんじゃないかと思うんですよね。そういう外の人を中に引き込むということをあまりしないのかなと思ってます。

夏野:それはしたほうがいいですね。

馴れ合いは気持ちいい、でも殻にこもっていてはダメ

先ほど米澤さんが言っていたGoogleのアワード式コンペティション。これで1位を獲るとお金もらえるだけじゃなくて、たぶんGoogleから買収されるのか、スカウトされるのかわからないけど。そういうオポチュニティをどんどん広げるためにGoogleはそれをやるんだろうと思うんです。

米澤:そうですね。日本は、島国という民族性からくるもので、仕方ないのかもしれないですけど、どの分野も「ムラ社会」に閉じこもっているようにみえます。

例えば今日、未踏会議に来ているみなさんは、ツーホップで全員つながるぐらいの、狭いコミュニティに閉じてはいないですか? 私は理系出身なんですけど、新卒で文系の会社に入ってよかった点は、文系と理系の橋渡しをすることができた点なんです。

文系の発想方法、美術系の発想方法を知り、理系的な視点でエンジニアリングやテクノロジー起点のアイデアの出し方を伝え、お互い刺激し合って1つのものを作り上げていくことができたのはすごくいい経験でした。

馴れ合いをしているのは気持ちいいですけど、やっぱり殻にこもっていてはダメです。

夏野:そのほうが楽なんでしょうね。ただ理系と文系の区別を大学レベルでつけちゃったのは日本の最大のミスだと僕は思ってます。

鵜飼さん、Microsoftで働いてみて、なにか感じることってありますか? Microsoftってアメリカのシリコンバレーの企業からみるとだいぶ違う印象ある企業なんですけど、どうですか?

鵜飼:どう、といいますと(笑)。

夏野:それでも新しいことに対していっぱいチャレンジできたのはないですか? 例えば、Minecraftというのは完全に社外のものを買ってるわけですね。自社内でやってるわけじゃなくて。

鈴木:ホロレンズすごいですよ。

夏野:ホロレンズすごい!

鵜飼:そうですね。日本の企業で働いたことがないので比較はできないですけど、すごく少ない人数でガンガン意思決定をしているのはやっぱりすごいと思っていて。

あとは一人ひとりに大きな責任があるので、いろんなことを任せてもらえて自由にできるという点で、僕は入っておもしろかったなと思ってます。