世を騒がせるけものフレンズ

久世:じゃあ、本題いきますか。絵面がすごすぎて話が耳に入ってこないって。こんなに耳付けてるのに、話が耳に入ってこないって言われてます。

山田:まず(サングラスを)外すか。

久世:はーい、お祭終わり。

山田:いや、耳は付けてて良いよ。

久世:耳は付けてて良いんですか?

山田:だって、フレンズだもん。だろめおんフレンズは、見てるんですか?

久世:『けものフレンズ』を。

だろめおん:見てます見てます。『けものフレンズ』ですよね。

山田:まずは『けものフレンズ』から。

だろめおん:見てます。ある日仕事場に行ったら、アシスタントと一緒に、最近Twitterのタイムラインで変な呪文が流れてくるみたいな話になって。「みんな○○なフレンズなんだね」とか「たーのしー!」みたいなのが、タイムラインがおかしいことになってる。

山田:タイムラインが、こんな感じになってる。

だろめおん:Twitterのタイムラインがおかしいことになってる。あれは一体何なんだっていうことになって。しょうがないから、ニコニコで1話無料で見れるから、見てみるかって。

山田:大丈夫でした?

だろめおん:何だこれはって。ファーストインプレッションとしては、何だこれは、です。

山田:ずっと見てんの?

だろめおん:基本的には、それからずっと見てます。

山田:今日はあれだね、ドラの好きなけものだね。

だろめおん:そうなんです。私何を隠そうケモナーなんで。

山田:でました。

久世:何ですか? ケモナー?

山田:ケモナーですから。

久世:ケモナーって言葉があるんですか?

山田:あります。

久世:やべえ、知らなかった。俺取り残されてる。

山田:治虫もケモナーだからね。

だろめおん:そうですね。

山田:治虫の話もあとでやりますから。

『けものフレンズ』はちょうどいい

山田:あなたはどうですか? けっこうハマったらしいじゃないですか。

久世:僕? 『けものフレンズ』めっちゃおもしろかった。

だろめおん:(笑)。

山田:めっちゃおもしろかったって!

久世:まず画像で検索したときに、イタイイタイイタイ! これは俺が食べられないやつだって思って。

山田:最初思うよね。

久世:そう、見れない見れない、「きっつー!」と思ってたんだけど。1話だけ我慢してくれって周りにも言われてたから、我慢するのかじゃあ2話目まで見るかって見始めたら。1話からぜんぜん入り込めて。なんてちょうど良いんだって思った。謎のバランスとか、動物の豆知識が入る感じとか。こないだの「さしすせそ」でも話したみたいな、サービスもちゃんとやってるし、試行錯誤もしてるし、なんて気持ち良く入ってくるんだって思って。めちゃくちゃ見やすかったですね。

今の人が見たら、おもしろいんじゃないかなって思いました。だって、『猿の惑星』みたいな要素も入ってるし。人間が全滅した世界の話なのかなっていうのを入れつつも、すごいおとぼけのキャラクターたちが、ただただ無邪気にはしゃいでて。しかも、動物を減少させ続けてる人間が、あの世界で動物を救い続けていくっていうストーリーもおもしろくて。これはどこに着地するんだろうなっていうのが、非常に気になってますね、いま。とてもファンの感想でした。

(会場笑)

久世:どうでした?

山田:だいぶ鍛えられたなと思って、この番組で。

久世:どういうことですか?

山田:毎週エヴァとか見て。だってなあ、あり得ないよな!? お前が働いてたときではな。

だろめおん:あり得ないです、あり得ないです。ちょっと仕事場で、いま僕がアシスタントやってたとして、『けものフレンズ』の話をしようものなら。ちょっと不機嫌になるだろうから。

(会場笑)

久世:気を遣って、いったん置いといてみたいな(笑)。

山田:距離があった。だって、ジブリの『ラピュタ』観てなかったんだぜ俺。

久世:それすごいですよね。ずっと言ってきてましたもんね。

山田:いまだに、『トトロ』観てないからね。

久世:『トトロ』観てないんですか!?

(会場笑)

山田:そういう日本人もいるんだよ。でも俺、エヴァの最新見ましたよ。23話見ましたよ。「涙」見ましたよ。その話後半やりますから。

久世:やばいやばい。

山田:大変なことになりますね。ポエ波さんがね。

久世:ポエ波さんが、ポエポエポエポエしてましたからね。

山田:(笑)。もういいから、早くけものの話しろって話ですよね。

男女で分かれる日本のコンテンツ

山田:それで俺思ったんだけど、この番組やってて確信に近づいた1つの答えがあって。なんつーのかな、男子と女子に分かれてんだよ、日本のコンテンツが、基本的に。男子のものと女子のものっつーのがさ、パラレルワールドになってるわけだよね。

俺たちが見ると、女子のみなさんが好きなコンテンツっていうのは、「こんな男いねーよな」みたいな。男たちが壁ドンドンやってるわけじゃないですか。泳いだりとか、剣で戦ったりしてるわけじゃないですか。一方では男子チームのやつで、こんな女いねーよっていう。

久世:(笑)。

山田:そういうのもあって、女子チームの冷ややかな目線みたいのもあって。意外と女子チームのほうが寛容だよね。男子の好きな萌えものに関しては女の子のほうが寛容だと思うけど、どっかで「ああー」みたいな。それぞれの心のなかにある、理想の相手っていうものを投影してかたちにしてるっていうことはさ、要するにこれって、アートでしょって話じゃない。

久世:なるほどね、解体していくと。

山田:解体していくというか、人類史における当たり前のやつなんだよ。よくあるやつなんだよ。だって男たちにとっては、女なんてわからないんだよ。永遠に。だから俺たちの心の中にある女っているんだぜ、こんななんだぜっていうのが出てくると、「たーのしー!」みたいな(笑)。

(会場笑)

久世:最高!

山田:これはね、久世さんこれはアートですよ! だからね、これをああだこうだ言ってる次元はだめっすよ。

久世:完全装備ですね。右手がパンダ、左手が……ライオン?

山田:これは猫ですけど(笑)。

久世:猫ですか、素晴らしいなあ。

山田:そうかなと思って。だからみなさん、僕は『けものフレンズ』で失礼なこと言いませんから。大丈夫ですよ。

(会場笑)

山田:あなたの神様をちゃんと守りますんで。失礼のないようにいきますんで。ただ問題は、この番組スペインでも見てる方がいらっしゃるわけじゃないですか。

久世:なるほどね。

『けものフレンズ』とは?

山田:何のフレンズじゃい! 日本はどうなってるんじゃい! っていう方がいらっしゃいますし、そんなアニメなんて見ませんよっていう方に、ざっくりとね。日本の大きなおともだちの中で社会現象になっている『けものフレンズ』っていうのはどんなアニメかというのを、ざっくりと説明します。

山田:まずは、基本的にはこれ。

かわいい女の子の姿に擬人化された、けものがいっぱい出てきます。主に哺乳類、ちょっと爬虫類、鳥類も出てくる。そしてそこの舞台になるのがジャパリパークっていって、元サファリパーク的な、廃墟になったテーマパークが舞台。そこで、自分が誰だかわからない、1人の……あれ、女の子で良いんだよね?

だろめおん:でも、明言されてないんで……。

久世:そう。

山田:どっちでもないか。どっちともとれるような、人間。カバン背負ってるからカバンちゃんと呼ばれるわけですけど。その人が、「私は誰なんだ」と。それぞれの出てくる動物は、「私は○○フレンズです」って。パンダフレンズだったり、ライオンフレンズだったりするわけですよね。それぞれが、自分のアイデンティティがあるわけですよ。私は何の生き物だと。そしてフレンズって付くからには、この人たちは、完全な平和主義者ですね。

久世:そうですね。争いとかないですもんね。

山田:つまり排他主義がまるで無い世界で、ここに出てくるものはすべて友達。だから最初から出てくる、どんな段階でも「君は何フレンズなんだい?」っていう、「絶対的な安心感!」というのを担保した、癒し系に見せた、アニメなんですよね。

それでなぜかというと、この廃墟の部分っていうのが、チラチラと効いてくる。なぜ人がいないんじゃ、そしてこの世界はいったいどうなってるんじゃ、そして何があったのか、みたいな。

だから俺はちょっと、いまで言うと10年代の『エヴァンゲリオン』的な、読み解き系譜でもあるよなっていうのと。あと印象的にさ、何かがあったあとに何かをやってるっていうのさ、優しい『北斗の拳』にも見える(笑)。

(会場笑)

久世:たしかにね(笑)。次の街に行って。

山田:『北斗の拳』はケンカじゃん。これはもう、褒め合いだからフレンズは。だよな?

だろめおん:そうですね。

山田:大きく間違ってないかなと思って。あと思ったのは、はっきり言ってこれはディストピアものに入ると思うんだよね。だよね?

だろめおん:そうですね。

山田:ディストピアだけど、全部が終わったあとに、やたらと明るい動物たちがキャッキャやってる。なぜかおっぱいが揺れてるみたいな。

久世:(笑)。

山田:それも一応大きなおともだちにとっては大事な部分なんで。そこはしっかり担保したうえで進んでいくという物語。それで、全般に幼児番組の型をとっている。そこで、途中でパンダちゃんが出てきたら、飼育員のお姉さんの声が出てくると。ほいで、「パンダというのは」っていうような、要するに教育番組で動物を紹介するときの様子とまったく同じ要素なんだけど、パンダは出てこないわけだ。

久世:パンダは出てこない。

山田:セーラー服を着たパンダちゃんっていうけものが檻の中にいて、なんとなくいくっていう絵になっているっていう。だから体では幼児番組なんだけど、「ちょっと待ってこれ、そういう感じにしつつ、けっこうやばいこと言ってんじゃないの」っていって、大きなおともだちがちょっと楽しくなるような。そこの絶妙なバランスが、さっき言ったちょうど良い感じ。

久世:そう、ちょうど良いんですよ。本当に。

終始流れる不穏な空気

山田:だから見れば見るほど馬鹿になる感じなんですけど、ちょっと待って、最後になってそうでもねえぞっていう。いま「あはは」って笑ってたけど、笑えんのかこれ……?

久世:最後まで笑えんのかっていうのが不安に思ってて。だって動物を絶滅に追い込んでる人間が動物たちを救ってるけど、最後ネタバラシしたときに全部ひっくり返って。俺はこんなに酷い、人間っていうフレンズはこんなに酷いことをするフレンズだったのか、みたいな。世界を変わんなきゃっていうふうに行くのか、それともそのまま平和なままで行くのか、っていうのが気になってて。

だろめおん:「Damn you. Goddamn you all to hell!」。

久世:それは何でしたっけ?(笑)

だろめおん:『猿の惑星』のラストシーン。

(会場笑)

久世:緊張した、いまマジで緊張した。だろさんの発作。

山田:おもしろい、呼んで良かった(笑)。

久世:しかもあの間、間のとり方がおもしろくないですか? なんていうか、独特の間なんですよね。王道のテンポでパンパンパンパンドーンって、ボケツッコミボケツッコミドーンっていかないで、ちょっとずらしてあるんですよね。外してあるんですよね。

だからなんだろう、あなたも片隅系だし私も片隅系だし、みんな片隅のフレンドが集まって足を伸ばせば、違う場所にいるけどコタツに入れるよ、あったかいよみたいな、取り残された人たちが集まって落ち着けるような場所も作ってくれてるんですよね。

山田:それはそうだね。

久世:それは見ててすごい安心するし、さらに謎もあるから。安心だけじゃなくて、もうちょっとここにいても良いかなって思えるところではある。

山田:おれあれ、ニコ生で見たでしょ。見てるでしょ。コメント見てるとさ、すっげえ向いてるよね、ニコ生に。

だろめおん:そうですね。

山田:要するに、間が長い。だから移動してる間とかに、リアクションとれるんだよ。コメントの人たちが。

久世:なるほど、なるほど!

山田:だから、サーバルちゃんが助けてくれた。カバンちゃんを助けてくれた。「やーさしー! やーさしー!」って、みんな言えるわけだよ。

だろめおん:コンサートでこうやって、「へい! へい! へい!」ってやってるような。

久世:なるほどね、そうやって見てるんだ!

だろめおん:これ(この番組)もそうです。

山田:これもそうだよね。

だろめおん:飼育員の人が解説してるときに、「ガタッ、ガタッ」とか椅子の音とかなるんですけど、それもちゃんと「ガタッ」って、誰かコメントしたり。

久世:(笑)。

山田:みんなでジャパリパークを楽しもうっていう感じ。

久世:1つのアトラクションを毎週やってるって感じなんだね。ニコ生で見てる人たちは。

けもフレ=『天才バカボン』?

山田:そんな感じだよね。だからね、何かに似てるなって思って。最初は優しい『北斗の拳』だなって思いながら、ちょっと待って、これペンギン村にも見えるよなって感じで。「うっほほーい」にも見えるよなってさ。でももしかしたらこれ、『天才バカボン』なんじゃねえかなって。

久世:へー。

山田:出てくる人みんなさ、あちらの人みたいなさ(笑)。だよな? 「これでいいのだ」みたいな感じじゃん。

久世:基本的には人の目を気にしないですもんね。

山田:なんか、起こることすべてに対して「これでいいのだ」「あはは」みたいな。「たーのしー!」。

久世:たーのしー!

山田:っていうのは、あの当時だったら「これでいいのだ」と一緒かと。現状全肯定、あちらの方々っていう感じがあって。これいろんな文化のね。またおもしろいよね、『ケロロ軍曹』の漫画家の方が絵をやってるっていうね。それもちょっとおもしろくて、パロディでずっとやってた人が、こっちのプロジェクトではしっかりキャラ作って、世界作ってやっていこうっていうことになってるっていうのがまたおもしろいなと思って。