村本氏「みんな、未完成なものを求めてる」

藤田晋氏(以下、藤田):最後の締めに移ってもいいですか?(笑)。5分くらいしかなくて。最後にひと言ずついただきたいのですが。

今日のテーマは「ネットとテレビ」なのですが、先日もビジネス雑誌などで、「テレビの危機」といった特集が組まれていました。一方で、タイムシフト視聴を視聴率に足して換算すると、30パーセントを超えるような番組もけっこう出てきたという明るいニュースもありました。

そもそも、お三方とも中の人ですよね。お三方とも。中の人から見て、テレビ局の問題は、本当はどこにあるのか、今後どうしていくべきかを最後にひと言ずつ、ご意見をいただけたらと思います。

村本大輔氏(以下、村本):僕からいきますか? ちょっとだけ長いかも。短くできるよう頑張ります。

なぜお笑い芸人みたいなものがテレビに出て、大衆でネタをして笑わせているのかを考えたとき、例えば、自分の身の回りのことだけで生きていたとしたら、バナナの皮を踏んで転んだ人なんて、なかなか見られないわけですよね。バナナの皮で滑って転ぶなんて、タイミングが奇跡ですよね。

お笑いは、そういった奇跡を人工的に作り上げて笑わせることができます。それを、テレビがぱっと伝えてくれた。でもこの前、Twitterを見ていたら、アメリカの黒人が地下鉄のドアを無理やりあけて、そこからジャンプしてコケて、それを見ていた周りの人が大爆笑していたんです。

今、バナナの皮を踏んでころんだ奇跡的な瞬間を、誰でも撮ってネットで拡散できる。だから、ネットを開けば誰でも天然のおもしろいものを手に入れられる時代になっていると思うんです。

素人の犬のおもしろ動画など、ネットを開けば当たり前のように手に入るんです。それも天然のものが。そうなったとき、僕らが作り上げてきたものを「最強なんだぞ」と続けるのはいけないんじゃないかと思うんです。言ってみると、黒船に立ち向かうような……。最終的には侍がいなくなる悲しい話ですよね。

(会場笑)

それでも、最後まで刀を持って戦っていかなければいけないところがある。一方で、テレビは完璧すぎるんですよね。すごい美女揃いで、作り上げられたプロばかりが出ている。

SHOWROOMというネットの番組に出させていただいたとき、アイドルを目指しているおばちゃんが投資されて、何百万円と稼いでいるというものがありました。みんな、そういった未完成なものを求めている。それは、完成されたものが世の中で普及しているからなんですね。

未完成なものの素晴らしさに、お金を払ってくれる人もたくさんいる。僕らが作るものをどれだけ天然っぽく見せるかを考えたら、難しいです。もう、わかんないです。すみません。パスします。わかんない。僕にはわかんないです。

藤田:……すみません。ちょっとグッドニュースがありまして、6時半までだと思ったら、6時45分まででした。

村本:ちょっといい加減にしてくださいよ!

(会場笑)

藤田:(笑)。すいません。

村本:どんな思いで……。

藤田:あと、15分あった(笑)。でもこれは、盛り上がるテーマなので。

村本:いやいや。

テレビがコンテンツ力をつけるには

藤田:では、次、大多さんからうかがってもいいですか?

大多亮氏(以下、大多):最近ちょっと考えているのは、そもそも僕はドラマ的なコンテンツを思い描いちゃうので申しわけないんだけど、テレビでもネットでも、どんなデバイスが増えても、出口が増えても、「最後はコンテンツの力です」という人がたくさんいらっしゃいます。そのとおりだと思うし、それがあればテレビは生き残れます。だから、テレビは終わらない。

というのは、いろんな対談や記事を読んでいると、だいたいそういった締めくくりで終わるんです。「その通りだね」と読んだ人も安心するんですけど。

ただ僕ら「中にいる人」からするとね、「ではその最強のコンテンツ、当たるコンテンツ、ウケるコンテンツさえ作れれば大丈夫だ」に対して、「本当に作れるのか?」という、根源的なことを考えなくちゃいけないわけです。この部分を甘くみてはいけない。そのヒントは、簡単に言うとなにかしらの教育かもしれないし、採用かもしれない。でも、コンテンツを作るクリエイティブな刺激は、僕はネットにあると思っているんですよね。

だから、テレビとネットにいるいろんなクリエイターたちがもっともっと交わることで、テレビが刺激され、おもしろいものを作り、もしかすると今度はAbemaTVで100億かけるドラマを作る人が出てきたりするかもしれない。そんな相互通行の刺激をやらない限り、このままずるずるいくなという気がしています。

コンテンツ力をつけるためになにをすべきかを、今一番考えていますし、悩んでいます。でも、そこがポイントなんですよね。テレビは、コンテンツを作る力をさらに高めなければならない。

藤田:僕から見ると、ちょっと気になってるのは、タイムシフト視聴でも、ドラマだとリアルタムと同じくらいの視聴率があるじゃないですか。タイム視聴のほうを収益化し、マネタイズしないのはなぜでしょうか。例えば、タイムシフトで見たときにも課金するとかできないものなのですか?

大多:これは、話すと長くなりますよ。そもそも我々は、放送と同時に課金という、広告型でやっていますからね。オンデマンドの課金については、もうやっていますよ。

藤田:録画して観たり、タイムシフトで視聴されたりすると、CMが飛ばされる問題がありますよね。では、「CMは飛ばしていいけど、課金で払ってくれ」としないと、そもそもビジネスモデルとして厳しいのではないのかと思うんです。

大多:「プラスセブン」という、オンエア直後に見逃した番組がすぐ始まるサービスがあります。

藤田:はい。

大多:それは、今は広告が少ないですけど、そういうのをマネタイズしていくというのは、当然ありますね。

テレビはどこでも見られる環境を作っていくべき

藤田:例えば、YouTubeで見たり、AbemaTVは買ったりする立場ですけど、そういうコンテンツをいろんなかたちで、視聴者が見れるようにする。ネットとのサイマル放送(同時並行放送)や同時放送もですけど、そうするのであれば、個々にビジネスモデルを組み替えることが必要なんじゃないでしょうか。

大多:大事なのは、いつでもどこでも見られる環境を、我々は怖がらずにやっていくべきということです。でも、そこでマネタイズできないと意味がないわけなので、今はまさに研究中なんです。僕としては過渡期なんだと思っています。

村本:すごく素人な発想なんですけど。テレビ朝日とAbemaTVは組んでいたりするじゃないですか。こういった、キー局同士が横で組むというのはないんですか?

大多:各局全部で「ティーバー」というのをやっているんですよ。キー局全部で放送したすべての番組を、「ティーバー」というサイトで見られます。すべて……というか、1週間、主要番組は見れるようになっている。

村本:では、自分の見たいやつを局関係なく?

大多:「『逃げ恥』(逃げるは恥だが役に立つ)を見逃したな」と思ったら、そこにいけば見れるし、フジテレビの番組も並んでいたりします。だから、7日間無料再生は、一緒にやっています。ただ、AbemaTVとは一応、今は競合にあるので。また違うあれですけど。

藤田:ぜひ、仲良くしていただきたいです。

大多:(笑)。

村本:わかりました。

裏番組とのライバル関係の時代じゃない

大多:秋元さんに間に入ってもらいますかね、じゃあ。

藤田:そうですね。じゃあ、秋元さんいかがでしょうか?

秋元康氏(以下、秋元):藤田くんと僕は、テレビ朝日の番組審議委員で月に1回、一緒に審議会に出ているんですけど。そのときにいつも言っているのは、もう、裏番組とのライバル関係の時代じゃないんですよね、と。

例えば、「『ドクターX』が何パーセント取りました」などよく言われます、もちろんすごいことなんですけど、裏番組がどうこうではなく、テレビは「その時間帯にネットでなにが見られているのか」と、今はネットがライバルになっているわけですよね。あるいは、スマホがライバルです。全体的にテレビの接続率が下がっているのは、スマホやPCを見ている人がいるからです。

今、みんなはスマホを触っていて、そこからいろんなものを見ている。あるいは、PCでなにか見ている。NetflixなりhuluなりAmazonでなにか見る。でもこの先、例えば日本で太極拳やヨガが大流行して「1日5回くらい呼吸法をやるんだ!」となっていたら、そちらに時間をとられて、結局コンテンツを見なくなってしまう。

テレビが盛況だった時代は、我々にまだ娯楽が少なかったんです。テレビは、まだその時代を信じているわけですよ。家についたら、まずテレビをつける。そこから、ずーっとテレビがついている状態になる。それが今は、時間を決める、あるいは必ずしもテレビが付いていない。スマホやYouTube、PCで見る。

我々が今後コンテンツを提供していくときは、エンターテイメントとして楽しむ、見る、教えてもらう、探す、学ぶ。なんでもいいですが、それだけではない「違うこと」が今後ありえるような気がするんですね。それは、もしかすると朝の番組を見ていた多くの人達が、今度はジョギングや散歩を始めるかもしれない、ということです。

そこを考えつつコンテンツを作らないと。ライバルは必ずしも、テレビやネットだけじゃないと考えなくちゃいけないんです。そして、コンテンツを作る側は「結局はおもしろいものを作れば、最終的にテレビかネット」となってきました。

昔は実験的にテレビ番組を作ろうとするときは、企画書を書いて編成や制作に持っていく。あるいは、スポンサーを付けて営業に持ち込むという段取りでした。今は先に番組を作って、テレビ局やネット会社に「こういうものがあるんだけど、どうですか?」とやりつつあります。そういう時代になっているんじゃないかと思っているんです。

だから、村本くんが自分で勝手に番組を作って、それがすごくおもしろければ「AbemaTVさん、どうですか。フジテレビさん、どうですか」という時代になると思います。

村本:持って行って?

秋元:そう。もっと言えば、そんな番組を作らなくても、村本くんのライブがすごければ、昔の『K-1』『PRIDE』のように、「フジテレビがどうしてもほしい」「いやいや、AbemaTVに、これなんとか」となったりね。

アメリカには、ジョージ・カーリンという伝説のスタンドアップコメディアンがいたんですね。その人は、マイク1本でマディソン・スクエア・ガーデンを満員にした。だから、村本くんが東京ドームを、3デイズマイク1本でしゃべりまくって、連日満員にできる力があったら、「その中継権をレギュラーでとにかくください」となると思います。

村本:あ、僕の存在自体がオリンピック的な感じで、みんなが放映権を欲しがるということですね。

秋元:放映権をほしい。村本くんがほしいと。

大多:それは、お金を積んでいきますよね。

秋元:ね、ほしいよね。

村本:響き渡るくらいの鼻で笑う声が、客席から聞こえたのですが……。気のせいでしょうか?

(会場笑)