藤田氏「僕の聞きたいことを聞く」

藤田晋氏(以下、藤田):みなさん、こんにちは。サイバーエージェント社長の藤田でございます。今日このセッション、実は僕がオーガナイズしておりまして。その成り行きから、僕が聞きたいことを聞くということで、急きょモデレーターとして参加することになりました。

お一人ずつ、簡単にどういう関係で僕がお誘いしたかをお話しします。まず秋元さんと僕は、かなり古いお付き合いなんです。今から15年くらい前に初めてサイバーエージェントが動画事業にチャレンジした「メールビジョン」で大変お世話になっていたんですね。 そのときの経験が元になって、今のアメブロやAbemaTVにつながっています。

その後、ご存じの通り、秋元さんはさまざまな動画の企画や制作に携わっています。そのため、お声がけしました。今日は、どうぞよろしくお願いいたします。

(会場拍手)

続いて、フジテレビの大多さんです。ご存じの通り、『東京ラブストーリー』『101回目のプロポーズ』という、さまざまドラマのヒットメーカーで有名な方です。

10年も前ではありませんが、インターネット部門を担当されることになり、着任してすぐ僕の方から「アメーバピグの仮想空間の中にお台場を作りませんか」と提携を持ちかけに行ったことがありました。

そのときは、大多さんが着任する前から、ピグに近い事業をフジテレビ内で準備していたことを理由に提携に至りませんでした。そして、次に行ったテレビ朝日と提携することになり、現在に至り……(笑)。今や、ちょっとしたライバル関係みたいになっています。

(会場笑)

みなさんの中にもご存知の方はたくさんいらっしゃると思いますが、フジテレビのデジタル事業のキーマンであり、トップに立つ方です。今日は、今後のテレビについておうかがいしたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

(会場拍手)

そして、ウーマンラッシュアワーの村本さんです(笑)。まずですね、村本さんは、僕がAbemaTVを始めて「本当にこの人はすごいな」と思った芸人さんなんです。

今『Abema Prime』という、 AbemaTVのニュース番組のキャスターをやってもらってます。あとは、夜のお笑い番組『The NIGHT』という番組も担当してもらっているんです。

本当に頭が良く、多岐にわたって才能を発揮され、そしてTwitterなどを駆使してネットにも精通している(笑)。今日は、IVSのパンフレットやWebにプロフィールが載っていなかったんですが、実はこれ、僕や小野さん、うちの秘書などから一生懸命、村本さんのマネージャーさんに「載せて大丈夫ですか?」と連絡してきたんですが、ちょっと連絡が取れなくて。

村本大輔氏(以下、村本):ここは自分の会社のことなんで、自分の口から言います。実は、僕のマネージャーが飛びまして。

(会場笑)

トリプルブッキングをしてから飛びましてね。なので今、あまり連絡が取れなくて、写真を提供できなかったという事情がありました。あの、吉本でございますんで……そのへんは、すいません。

藤田:昨日「本当に出てくれるの?」と連絡したら、「ああ、行くよ」とお返事いただいて。とりあえず、今日はよろしくお願いいたします。

キラーコンテンツとは、着火するコンテンツ

ではさっそく、パネルディスカッションへ移りたいと思います。まず最初に、今、僕自身の中でもやもやしている疑問で申しわけないのですが。

僕たちが提供しているAbemaTVは、マスメディアと同様のビジネスモデルにしています。

そこで悩むのが、今、テレビの中でも視聴率を30〜40パーセントを超えるような番組はめったに出てこないし、新聞もみんなが見ている状態ではなくなっています。あと、人々の嗜好性や価値観も多様化していく中で、「そもそもマスメディアってのが存在するのか」と思ったりするんですね。

こういった事業はキラーコンテンツが大事だと言われています。Netflixは『ハウス・オブ・カード』というドラマで伸びたわけだから、AbemaTVもキラーコンテンツが必要なんじゃないかと言われているんです。

この人々の嗜好性や価値観が多様化している時代に、みんなが見るコンテンツは存在しうるのか。そもそもキラーコンテンツとはなんなのかを、いつも自問自答しています。まずは、そのあたりについてご意見を聞きたいと思います。では、秋元さんからいいですか?

秋元康氏(以下、秋元):どうなんでしょうね。キラーコンテンツとはなにか。どうやれば作れるのかがわかれば、きっと誰も苦労しないと思うんですけど。

マスが変わってきています。僕は高校2年のときから放送作家をやっているんですけど、当時から41年になるんですね。

そのときのテレビは、子供からお年寄りまで楽しめるものでした。最大公約数だったんですよ。だから、当時はマスが存在してて、テレビでコマーシャルあるいはテレビの番組でなにかをやると、あっという間に広がったし、広まった。ヒット曲もヒットコンテンツも生まれたんですね。

ところが今のように多様化してきて、みんなが同時にテレビを見ないし、同時になにかをしない。それぞれの好みも変わってきた。つまり、41年前はデパートの上の大衆食堂にはハンバーグから餃子、ラーメン、お寿司、天ぷら、うなぎ……なんでもあって、そこが賑わっていた。

でも今は、それぞれが専門店化していて、餃子専門店、うなぎ専門店、ハンバーグ専門店。下手したら、紅茶専門店、コーヒー専門店、ココア専門店というくらい細分化されているから、同時にすべてが人気になることはなかなかない。

キラーコンテンツとはなにかというと、着火しやすい、あるいは着火するコンテンツのことだと思うんです。だから今心掛けているのは、例えば太陽光線を虫眼鏡で集めるようにかなり絞り込んで、「どこから火を点けたいのか」という明確なターゲットがあり、そこまでしないと発火しないし、ブームが生まれない。

着火すれば、それがやがて世代のドミノ倒しのように広がっていく。発火したものが延焼していくんですね。つまり、今は世代のドミノ倒しでしか、マスは存在しない。同時に、今はなかなか難しいんじゃないですかね。どうでしょう、大多さん。

「テレビは終わった」は本当か?

大多亮氏(以下、大多):今、秋元さんの話を聞いていて思ったんですが。

僕が番組を作っていたのは、1980年代後半から90年代のトレンディドラマです。例えるなら、東京ドームや甲子園球場のマウンドで、「160キロくらいの豪速球を投げる」と宣言して投げていました。そのなかで、バッターが空振りしたり三振したりするんですよ。すると球場中がガーッと湧くような体験がありました。

秋元さんも、もちろんされていると思いますけど、僕もそういうことがあったんですね。「これはマスメディアだなあ」という認識はあったんです。でも、しばらくしてからインターネットが出てきました。Jリーグなどが出てきたときの感じですね。サッカー場ができて、一時期、野球がすごく苦しくなったことがありましたよね。

ああいう感じで、ぜんぜん違うものが出てきて、「テレビは終わった」といまだに言われています。では、テレビはもうマスメディアじゃないのかというと、そうでもない。

逆に言うと、ネット側からは藤田さんが「マスメディアだ」と言ってAbemaTVで挑戦しているのはすごいなと思っているんです。僕が思うマスメディアは、イコールテレビで、、公序良俗に反しないとか、放送法でのいろんな規制がたくさんある中で、国民みなさんに広くあまねく親しまれるエンターテインメントにいろいろ挑戦しています。

そういうなかで勝つし、当たる。ですから、老若男女がわかるものづくりのプロだと思ってやってきました。ゴルフチャンネルといった、専門チャンネルみたいになるのはマスじゃないと思っているんです。

総合デパートの作り手としてずっとあり続けて、そこで勝ちたい。僕はそういう番組ができないと、テレビは本当に終わっていくんじゃないかと思っているんですね。

1点だけ、あの『半沢直樹』が視聴率40パーセントをとりましたよね。『家政婦のミタ』もとっています。

先ほど、藤田さんは「視聴率20〜30パーセントが出ることは、今はない」と言っていましたが、今になって40パーセントが出ているんです。やはりネットとの親和性からのクチコミ効果も含めて、「今すぐみたい」「それを人に広めたい」という力のあるコンテンツさえあれば、まだまだテレビ=マスメディアと言っていきたいと思っているんです。

「嫌うやつは嫌え」が今の時代に合っている

藤田:村本さんはどうですか?

村本:んー。僕はどの目線から今しゃべればいいのか、ちょっと難しいんですけれど。

藤田:村本さんには、出演者の目から見たご意見を。

村本:あまり「テレビだからこれを言っちゃいけなくて、ネットの番組だからここまで攻めていい」というのは、別にスタッフさんからも言われないですね。

結局、みんな自分の中でのブレーキといった、自主規制の中で話しているんですよ。だから、器というか、媒体が変わったからと言って、変わったタレントがいるわけでもないと思うんですよね。

今は、テレビとネットを合わせたAbemaTVが出て、「ネットだからすごい下ネタを言う」こともないですし、出演している僕らからしても、その差はあまりなかったりします。

秋元:たぶん村本君は、自分自身が気付かない間に、ちょうどテレビとネットの中間でいいところにいると思うんですよ。なにが違うかというと、テレビで人気を出そうと思うと好感度が必要です。つまり、老若男女から支持される。村本君は、初めからそこを捨ててるじゃん。

(会場笑)

村本:まあ、捨て……。

秋元:捨ててるよね?

村本:向こうから去っていったというか……ええ(笑)。

秋元:だから「別に嫌うやつは嫌え」「好きなやつは好きだ」となっている。これが、たぶん今の時代にぴったり合っているんですよね。

テレビしかなかった時代は、「老若男女から好かれる」という、好感度がある人が王様だったわけですよ。でも今は、もっと刺さったものが支持されます。だから僕らが会議でよく言うのは、「そのコンテンツは刺さってるのか」と。つまり、一番感じるのは、人気と認知は違うんですよね。

すごく認知のある、みんなが知ってるタレントさんがコマーシャルに出たから売れる、あるいはCDを出したから売れる、写真集を出したから売れることとは、また違うんです。それは認知であり、「みんなが知っている」ということです。

でも人気は、5,000人しかいないかもしれないけど、この5,000人の熱狂的な支持を得ている人が人気者です。村本君を見ていると、まさに今のネット時代に向かってる。テレビとネットが共存しながらのタレントさんだと思いますね。

大多:テレビ向けに丸くなっちゃうと、つまんなくなっちゃうということなんですか?

秋元:なれないと思うんだよね。

大多:なれない(笑)。

村本氏「先輩方の考え方にあまり影響されたくない」

秋元:村本君と時々ごはんとか食べたりして「おもしろいなー」と思うのは、いわゆるタレントさんで偉い人とご飯を食べに行ったりしないんですよ。なぜって聞いたら……、なぜなの?

村本:考え方はいっぱいあるんですけど。例えば、ダウンタウン・松本(人志)さんや(明石家)さんまさんとご飯を食べに行ったとき、先輩方の考え方をあまり吸収したくない気持ちがあるんですよね。

その人はその人、この人はこの人。昔読んだ本で、成功者がその本を出すから、みんなそれを真似して成功者が現れない。やり方を知るから、結局は二番煎じ、三番煎じみたいなる、といったものを読んだことがあるんです。あまりそこに影響されたくないと思っていて、ならば自分の考え方の中で手応えのあるものだけを伸ばしていきたいんです。

大多:僕も秋元さんが言うことに影響を受けたくないから、秋元さんのインタビューはなるべく読まない。この間もいいことを言ってるんですよ。もう、それ嫌だよね。

村本:それ、なんか嫌なんです。

大多:わかります。

(会場笑)

秋元:でもさ、その「なんか嫌」がまさに今のネット時代の、つまり「すべてを知らなくても、ここの一部だけでいい」という時代に、村本君はぴったり合っているんだと思うんだよね。