ハリウッドの第一次黄金期
山田玲司氏(以下、山田):ここから、実をいうと1930年から40年代というのは、もう本当にハリウッド黄金期がやってきちゃうの。
乙君氏(以下、乙君):もう?
山田:もう。第一次黄金期。
乙君:そうなんだ。
山田:早い。すごい早い。なんでかというと、チャップリンがアメリカに行ってんじゃん。赤狩りとかあって大変なことになるんだけど。『モダン・タイムス』とかが36年だよね。古いんだよ。
ジョン・フォードの『駅馬車』っていってさ。『駅馬車』ってこれ、アメリカ映画の、ある種のアクションの映画の金字塔みたいな。『駅馬車』でやってるアクションを、まあとにかく延々みんながやるわけ。なんだっけな。『駅馬車』だっけ? 要するに、移動している乗り物に乗ってアクションするというのが、たぶんあのあたりから始まる。そうすると、やたらと貨物列車がいると、貨物列車が動いているところを走ったりする。
(一同笑)
山田:『スパイダーマン』とかそうじゃん(笑)。
久世孝臣氏(以下、久世):上に乗ったりね(笑)。
山田:上に乗ったりして。だから、『マッドマックス』なんかもまさにそれの究極系で。ずっと移動しかしていないみたいな。その間にいろんなことが起こるという。それはだいたいこの『駅馬車』あたりから始まってるというのと。
あと、41年に『カサブランカ』だね。ハンフリー・ボガード。
乙君:出た!
久世:来たー。
山田:だから、メロドラマみたいなのが、ここでもうドッカーンといくわけ。
乙君:41年?
山田:41年。ここで、ジャン・コクトー負けてない。46年に『美女と野獣』撮ってるからね。
久世:来ましたね。
山田:だから、おフランスも死んでない。で、ジャパニーズですよ。黒澤、50年、『羅生門』。
乙君:おおー、来た来た! ついに来た!
(一同拍手)
久世:なんの拍手やねん(笑)。
乙君:クーロッサワ!
久世:クーロッサワ。
山田:そう、ここで黒澤。黒澤はでも「世界の黒澤」になっちゃうの。本当に。だから実は、説明してないけど、日本はこの流れに実は陰ながら乗ってて。見世物から始まって、少しずついい映画を作っていくという流れがあって。小津・黒澤の2大ラインがあって。
乙君:小津・黒澤ラインが?
山田:ラインがあって、これが世界でとくに認められた2人なの。小津と黒澤という。
久世:そのあたりで溝口健二もいるんだよね。ベネチアの『西鶴一代女』とか『雨月物語』とか、それも賞とってるの。だから、すごいんだよ。日本映画。
山田:この黒澤が『スター・ウォーズに』つながるんだよ。実は。
久世:そうね。はい。
テレビの登場で変わる映画
山田:だから、この流れでいうとやっぱりこの黒澤も外せない。だから、今言ったのが、だいたいこのあたりにあるオールドスクールだよね。
久世:オールドスクールですね(笑)。
山田:オールドスクールがそんな感じですよ。ただし、このあと、テレビが登場するんですよ。
乙君:ああ、そっか。まだテレビないんだ。
山田:そう。娯楽の中心が映画だった時代というのは、まあやれたんだよ。みんなそれを観に行くから。
乙君:活動ってやつですね。
久世:だって考えてみてくださいよ。写真までしかなかったのに、動いてる絵が見れるようになった世界の衝撃ってすごいと思いません?
乙君:なるほどね。VRみたいなもんだね。当時の。
久世:そうそう。今でいう。だって、はじめの本当1893年とか95年の映画って、さっきも言ってたけど、ちょっとした「誰かが歩いている」とかだけなのよ。それが10分とかじゃなくて12秒とか24秒とか、そういうのを10本ぐらい並べて見世物にして、行列ができるという世界観。
それも、これ嘘か本当かどうかわかんないけど、機車が走ってくる映画があって、それがばーって近づいて来るときに、本当に映像って見たことないから、本当にいたお客さんがびっくりして、「うわー、来た!」つってみんな立ち上がって逃げようとしたみたいな逸話があるぐらい、映像というのに慣れ親しんでないという世界。
山田:それは有名な話だよね。
乙君:はあ。
山田:そう。そうなのね。
乙君:よう知ってはりますわ。
しみちゃん:すごいな。
山田:それでどうなるかというと、そのあと映画は、テレビに負けないようにするために、恐竜になってきます。これは大作主義。
乙君:ああ、テレビじゃできないことをしなきゃいけないから。
山田:ゴージャスにするという。だから、もうパノラマビジョンで3時間とか普通。4時間とか、第1部・第2部とかあったりとかして。一番有名なのが『ベン・ハー』とか。
久世:あれは長いですもんね。
乙君:『ベン・ハー』ね。
山田:『スパルタカス』とか。『クレオパトラ』が頂点って言われてるんだけど。
乙君:クレオパトラ?
山田:『クレオパトラ』って映画が一番ゴージャスっていうかさ。
久世:一番のゴージャス(笑)。
贅沢な娯楽としての映画が幕を閉じる
山田:大作化というのがここで第2の革命があったなと思っていて。革命というか流れとして、テレビと戦うために、どうしても出てきちゃったというか。だけど、ここで、恐竜が大型化したせいでそのあとの大絶滅に耐えられなかったように、大作化になって金がかかって。要するに、小さくて誰でも撮れるという時代じゃなくなっちゃう。
乙君:なるほどね。
山田:そうすると、安全なものになっていくし、退屈になっていく。
乙君:アイデアが生まれない、イノベーションが生まれないんだ。
山田:そうそう。それで「俺たちも映画は撮りたいんだけど、映画は無理でしょ」みたいな。そこに保守的な人たちがいっぱいいて。実はこのあたりにヒッチコックがいて。ヒッチコックが『サイコ』で革命を起こすのがこのあたりなんだけど。そうすると、個人的なものにガーって移行するんだけど。ヒッチコックは意外とインディペンデントで、実は大きな流れではなくて。
この大作化はどうなるかというと、実際ある裁判が起こるんだよ。それでメジャーな会社が興行もするし、撮影もする。「作ってもいるし、観せるのもできる。両方ともやっちゃうのは独占禁止法じゃないか?」という裁判が起こって、それに負けるんだよ。
乙君:負けるんだ?
山田:そう。そのせいで大作映画がコストがかかりすぎちゃって。
乙君:そっか、回収できなくなっちゃうから。
山田:できなくなっちゃう。それが結果的に、いわゆる隕石が落ちてきたみたいな感じで、恐竜絶滅の層が(笑)。
乙君:その独禁法違反で。
山田:そう。だから、そこでK‐T層みたいのができて、ここでいったん大作がダメになる。
まあ『風と共に去りぬ』とか、ああいう映画はこのあたりまで。『ヘイトフルエイト』っていうのは、この頃の映画をやりたかったの。
乙君:タランティーノの。
山田:タランティーノ。一大娯楽というか一番贅沢な娯楽としての映画みたいなものが、ここでいったん幕を閉じざるを得なくなっていくみたいな流れがあって。
乙君:ああ。