トーキー最初期の映画『キング・コング』

山田玲司氏(以下、山田):ここからすごいおもしろいのが、実はこれ33年に、もうトーキーになってるけど、『キング・コング』が撮られる。

乙君氏(以下、乙君):え、1933年に?

山田:そう。

乙君:早っ!

久世孝臣氏(以下、久世):すごいんだよ。

山田:めちゃめちゃ早い。

乙君:あれ戦前の映画だったの?(笑)。

山田:これがいわゆるクレイアニメみたいな感じで、コマ撮りで撮って。こうやって1個ずつ。で、ここから、みんな大好きなハリーハウゼンが登場ですね。

久世:(笑)。

山田:ハリーハウゼンだろ。ハリーハウゼン!

久世:みんな大好きかな?  すごいこと言うな。

山田:みんな大好き、ハリー。ハリー大好きでしょ? みんな。ごめんね、わかりにくかった(笑)。

乙君:(コメントにて)「ハウゼン、ハウゼン!」って言ってるよ。みんな。え、大好きなの?

山田:ハウゼン大好きだよ。ハウゼンって……説明しますよ。奥野さん(笑)。

久世:奥野さん、聞いてますか?

乙君:聞いてます。

山田:この人、シンドバッドの冒険とかですごい有名。コマ撮りで骸骨が動いたりとか、恐竜とかがこうなったりとか、いわゆるそういう特撮。コマ撮り特撮。CGとかがない時代の、フィルムとかも加工しない最初の特撮が、この時期に早くも登場する。しかも、このハリーハウゼン、レイ・ブラッドベリの高校の時の友達なんだよ。

乙君:ええー!

山田:すごくない? ブラッドベリの友達だよ。すごいよね。

乙君:それはすごい。

山田:そのブラッドベリが53年に作った『原子怪獣現わる』という映画があるんだよ。これの特撮をやっているのが、特撮というか技術やってるのがハリーハウゼンで。これ、どういう話かというと、ほぼゴジラです。「核実験で恐竜出てきちゃいました。みんなでどうやって倒しますか?」って話なの。

乙君:ゴジラやん。

山田:ゴジラなの。で、『ゴジラ』が54年です。だから、翌年なんですよ。翌年に『ゴジラ』が登場なの。だから、英二も見てたんです。

乙君:あ、円谷英二が……。

山田:円谷の親っさんもこれを見て。親っさんは『キングコング』から見てたの。「なんとかなんねーかな」って思ったら、原子怪獣が現れちゃったの(笑)。「これや」と思って。

乙君:「もうサルは古い」と。

山田:「そしたら、もうゴリラとクジラ合わせてゴジラにしたるわ!」っていうのがゴジラですから。

乙君:そうなんだ。

久世:そうやで。

山田:そうそう。「でかいぞー!」っていう(笑)。それでゴジラになっていくというのがあって。

乙君:勉強になるなあ。

映画はサイレントの時代からすでに完成度が高かった

山田:で、このハリーハウゼン、ピクサーの人たちも大好きで、『モンスターズ・インク』のなかに、「デートするならどこのお店がいい?」って目玉の人が連れていくシーンがあるじゃん。あの時の店が「ハリーハウゼン」という店なんだよね。日本料理屋なんだけどね。なんで日本料理屋でハリーハウゼン……。

久世:(笑)。

山田:「ハリーハウゼンだよ!」とかって絶叫してるので。

乙君:日本通だったんですかね? ハリーハウゼンが。

山田:ピクサーのなかに、たぶんピート・ドクターだっけかな、あの映画。たぶん監督がすごく好きなんだと思うんだけど。でも、あのピクサーの人たちの世代は、これはたぶん基礎教養もいいとこだと思うよ。下手すると、子供の時に観てる可能性もあるぐらいの。あ、ないかな。ちょっとないね。

乙君:ごめんなさい。ちょっと混乱してるんですけど、『メトロポリス』を撮ったのは誰なの?

久世:フリッツ・ラングだっけな。たしか。

乙君:あ、それはここ(ホワイトボード)には出てきてないの? ここには書いてないという。

山田:書いてないけど、そうだね。

乙君:『メトロポリス』って映画がもうエポックメイキングで、その後の特撮の流れとかSFの……。

山田:これね、特撮じゃないんだよ。でも、SFをやっちゃうという。

乙君:SFにつながるという、オリジナルになるってことね。

山田:そうそう。これ実は、トーキーにいくまでの間にめちゃめちゃすごいところまでいっちゃってるのね。映画って。

乙君:そっか。サイレントなのにもう完成度というか。

山田:完成度が高い。なんでかというと、演劇がもうそこまでいってたの。演劇、文学、絵画、それから写真もきてたから、全部の要素が映画に入っちゃった。それで、入ったやつを全部漫画に引っ張ったのが治虫だから。

久世:(笑)。

乙君:ああ!

山田:あいつが一番強烈なんだけど。

久世:それはすごいな。

乙君:パクリ大王やん。

山田:治虫といえば、絶対忘れちゃいけないのがこれ。27年。これやばいんだよな。27年に『ジャズ・シンガー』というトーキーの映画がスタートするんだけど、なんとこのあとの28年に出てくるのが『蒸気船ウィリー』ですからね。

久世:お、来たね。

乙君:……へ?

山田:え!?(笑)。

久世:『蒸気船ウィリー』だよ。

乙君:きかんしゃトーマスしか知らん(笑)。

久世:違うよ!

乙君:俺、「ウィリーってやつおったのかな?」と思ったんだけど。

久世:ネズミさんや! ネズミさまや。

山田:これです。

トーキーが革命でディズニーがやべえ

山田:ミッキーマウスです。

久世:そうです。

乙君:え?

久世:ミッキー。ミッキーの原型のやつ。

乙君:あ、そっち。

久世:ネズミでピンと来いよ(笑)。

山田:なんでそれがすごいことかというと、ディズニーってそれまでライバルがめちゃめちゃ多かったんだよね。ディズニー兄弟でやってるときにさ。それでオズワルドというキャラクターを取られちゃったりとか、いろいろ苦労するんだけどさ。やっぱり気がついたら、前の年にトーキー出ちゃったっていって、「これしかない」って、もうものすごい……翌年だからね。

乙君:早いってこと?

山田:早いんだけど、めちゃくちゃ完成度高い。(歌いながら)タタンターン、タタタタタターンって知ってる?

久世:運転してるの。

山田:タタタタタターン、タタタッタっていう。知らない?(笑)。

乙君:ごきげんですね(笑)。

(久世氏、口笛でメロディをなぞる)

山田:そうそう。まさにそれ。

久世:出てくるやんか。最後、ディズニーの映画の。

山田:お前、知らないの!?

久世:なにやってんねん。

乙君:ここ(山田氏との間)に長江流れてるんで。

久世:流れてないよ!

山田:赤壁上がってこい!

久世:一緒に船に乗せたやん。お前ら。

乙君:乗ってない。乗ってない(笑)。

久世:なに途中で降りてんねん? 勝手に。

(一同笑)

乙君:ちょっと、今日の趣旨は「誰でもわかるやつ」ですよ。「なんで知らんねん?」という……ちょっと意味がわからない(笑)。

久世:Oops, sorry.

山田:わかった、わかった。そのとおりです。だからなにがすげーって、ディズニーが本当に口の動きからすべて音楽にピッタリ合わせてアニメ作っちゃったんだよ。だから、ここでもう1回ゴールしちゃってる。もう頂点までいっちゃてる。ポーンて。

BGMじゃないんだよ。本人たちが歌って動いているのに合わせて音楽をつけるということをやっちゃったから、まあとにかくここの27年から28年のこれは革命ですね。だから、俺、最初の革命はここのトーキーだと思うんだよ。

久世:第1の革命「トーキー」、来た。

乙君:エジソンじゃなかったんだ(笑)。

山田:これは黎明期なので。ただ、ここまで安定した政権が続いてたんだけど、革命が起こっちゃったのがこれ。第1次革命がまさに起こって。しかもこれ、皮肉なことに27、28年ぐらい、ここは焼けてないんだよ。アメリカだから。

乙君:焼けてない?

山田:だから、第一次世界大戦でそれまでのヨーロッパはもう焦土と化してるじゃん。まあ熱狂のパリ時代があるんだけど、もうおかしくなってる。その隙を縫って、アメリカがガーッと映画産業をしたたかに積み上げていって、ここでもう完全に文化として上にいってしまうという。追い抜いてしまう。それまで(の映画史の舞台は)、だってこれ、ソ連だから。

乙君:そもそも文化がないから、そっち側に全部新しいからガーっていっちゃう土壌というのはあったんですね。

山田:もう本当にすごいよね。フロンティア精神ってさ、「Go West」じゃん。だから、本当にGo Westの先がハリウッドだったわけでさ。そこでなんにもない砂漠のなかにベガスを作っちゃうわけじゃん。

そこで、なんでもいいから新しいものを作るっていまだにそこは残ってるよね。あそこが中心というか先端みたいなノリが残ってて。「まさに一発目がトーキー。ディズニーやべえ」ってって覚えておいてください(笑)。

久世:覚え方簡単(笑)。ディズニーやべえ。

山田:そうそう(笑)。

乙君:トーキーが革命で、ディズニーがやべえ。