各チーズの作られ方の違い

ハンク・グリーン氏:数千年前の農家たちは多くのチャレンジに直面していました。例えば、新鮮な牛乳を無駄に廃棄するのを避けるにはどうすればいいのか、などです。

世界各地において、その解決法がチーズでした。これは、実にすばらしい解決法でした。チーズは発酵食品です。有益な微生物を使って腐敗しやすい牛乳を、栄養価が高く、数ヶ月も保存できる食糧に変えます。基本的には、酸性のバクテリアと酵素のスターター(種菌)を使うことで、牛乳に含まれるたんぱく質、脂質、そのほかの栄養素が固まって、ねばねばした塊になります。

これは、カード(凝乳)と呼ばれます。これがチーズの原型です。

そして、その過程で排出される液体をホエイ(乳清)と言います。世界中で2,000種類以上ものチーズが生産されており、この基本プロセスを元に無数の工夫が施されています!

さて、それでは、すばらしいご馳走である8種類のチーズについて見ていきましょう。この古くから続く生きた食品の背後には、それぞれ異なった科学が隠されています。

さて、チーズのコースを始めましょう! まずは、熟成が進んだチェダーチーズです。チェダーチーズは微生物を使って、完成まで何ヶ月もかけてゆっくりと熟成されます。

スターターのバクテリアは、乳糖、つまり牛乳に含まれる糖類を分解して乳酸にすることでエネルギーを得ます。このプロセスを発酵と言います。

発酵によってより酸化が進むことで、牛乳に含まれるすべてのカゼインというたんぱく質が固まってカードとなります。チェダーチーズの生産過程では、このカードをブロック状に切り積み重ねていくことで、すべてのホエイを抜いていきます。このプロセスは、「チェダリング」と呼ばれます。

この後、ブロック状のカードは、冷たく暗い場所で熟成されます。これに、イギリスのチェダー・ゴージなど洞窟が使われることがあります。

他には、空の地下室、大規模なチーズ工場などがあります。

熟成が進んだチェダーチーズは、若いものよりも、はっきりとした濃厚な風味が出てきます。これは、すべてゆっくりと安定した分子レベルでの変化のおかげです。

一つひとつの熟成中ブロックチーズのなかでは、スターターのバクテリアが徐々に死滅していき、新しいバクテリアに入れ替わっていきます。チーズ生産者が加えることもあれば、空気中のバクテリアが入り込むこともあります。

時がたつにつれて、若いチーズから熟成が進んだチーズへと変化します。脂質とたんぱく質を分解し、分子結合を緩めていきます。微生物たちは、このようにしてエネルギーを摂取します。そして、私たちは微生物たちが後に残した分子から、風味を得ることになります。

これが、アルデヒド、エステル、酸、そしてアルコールなどです。このような化学的変化は、みなさんがチーズを料理する時、または、最後のひとかけらを口に入れるその瞬間まで終わることはありません。

「再び調理する」を意味するリコッタチーズ

チーズの多くはカードから作られます。しかし、リコッタチーズは違います。

残りものであるホエイは、水とカゼイン以外のたんぱく質、そして脂質が混ざった黄緑色の液体です。当初、チーズ生産者たちは、これを活用する方法を知りませんでした。豚にやる飼料にしたり、作物の肥料にしたりしていました。

近年、チーズ生産企業はこのホエイの再利用を検討しています。例えば、食事に、ホエイに含まれるたんぱく質を粉状にしたものを混ぜることで、身体を鍛えたい人の筋肉増量を促進することができます。しかし、一方で、この残り物のホエイを使えば、さらにチーズを作ることもできるのです!

リコッタというのはイタリア語で「再び調理する」という意味です。これが基本的にチーズの作り方を示しています。

ホエイに含まれるたんぱく質は、カードに含まれるカゼインよりもより安定しています。そのため、固形の塊にするためには、もう少し強く押す必要があります。つまり、より多くのバクテリアと酵素を加え、温度を摂氏80度まで上げる必要があります。

温度と酸性によって、ホエイに含まれるたんぱく質の形状をつくる水素結合は、ばらばらになります。こうして、ぐちゃぐちゃとした固形の塊に再形成されます。

そう、そして、ほかのチーズの副産物から、新しいチーズが作り出されるのです。

「WHEYste(waste) not, want not!」(ホエイのWHEYと、無駄という意味のWasteをかけて、「ホエイを無駄にするのはよくないね!」という意味)

カビを利用したチーズたち

バクテリアの存在なしではチーズを作ることはできません。しかし、スイス産エメンタールチーズのように、チーズに穴を開けたいならば、それに適したバクテリアを使わなければいけません。

具体的には、プロピオン酸菌というバクテリアがこれにあたります。このバクテリアは、スターターによって生成される乳酸を分解し、二酸化炭素などほかの分子に変えます。炭酸ガスが膨らんで穴が開き、チーズの熟成するにつれ、「チーズアイ」と呼ばれる穴になります。加えて、この反応の副次効果として、スイスチーズにわずかな甘味を与えます。

しかしながら、チーズに含まれるすべてのバクテリアが、友好的とは限りません。きちんと管理されずに生産されたチーズは、リステリア感染症を引き起こす場合があります。この感染症は、高熱、筋肉痛、下痢などを引き起こします。

幸いなことに、近年ではほとんどのチーズ生産者は、殺菌済み牛乳を使用しているため、このような害を及ぼすバクテリアはすべて熱によって死滅しています。ですから、あなたのお気に入りのチーズには、完全に安全なバクテリアしかいないはずです。

しかし、バクテリアでは、あなたの欲する風味には物足りないことがあります。そこで、登場するのが、菌です!

ゴルゴンゾーラチーズのように青緑色の筋が縦横に走っているチーズ。

これは、アオカビ(ペニシリンカビ)から来るものです。

おそらく名前から推察されるように、このアオカビは、抗生物質のペニシリンを作るのと同じカビから来ています。熟成期間中に、アオカビをまぶした金属針をチーズに突き刺します。

ブルーチーズのカードは、菌にとって十分な隠れ場所があるため、菌は内部に入り込み、色の着いた胞子が浸食していきます。それほどかからずに、チーズ全体がカビっぽい青い筋に覆われます。

もちろん、アオカビは色以外にも効果があります。カビによって、大量のケトン、遊離脂肪酸、そしてアンモニアが生成されます。これらすべてが、ブルーチーズの風味を作り出すのに貢献します。

ブリーチーズやカマンベールチーズの場合も、カビが大きな役割を果たします。しかし、その方法は異なります。これらのフランス産チーズにおいては、さまざまな菌、イースト菌、バクテリアが共同作業を行い、酸性を緩和し、内部の分子を組み替えます。基本的に、中心部分が少し液体状になり、外側は硬めの食べられる皮で覆われていきます。

しばらくすると、微生物たちが取り残され、内部がべたべたとした状態になります。

世界一臭いリンブルガーチーズ

ブリーチーズやゴルゴンゾーラチーズは、少し臭いがきつすぎると言うのであれば、次のチーズは、お気に召さないかもしれません。リンブルガーチーズです!

  世界一臭いチーズの1つで、よく汗をかいた足裏の臭いや動物の死骸臭と比べられます。

多くの食品の悪臭と同様に、この臭いは揮発性有機化合物から来ます。この蒸発しやすい物質がチーズから出て、空中へ。そしてみなさんの鼻に届きます。このような物質の大半は、バクテリア、イースト菌、カビなどが、チーズの中で脂質やたんぱく質を分解して発生します。

リンブルガーチーズの場合、臭いの責任には多くの分子が関わっています。もっとも責任重大なのは、酪酸です。これのせいで、腐ったバターや人間の嘔吐物などの不快臭が生まれます。

これらの臭い物質は、みなさんの皮膚に生息しているのと近い種類のバクテリアによって作り出されます。とくに、みなさんの足の指と指の間!

実は、この揮発性有機化合物のせいで、チーズの臭いと体臭を混同するのは、人間だけではありません。マラリアを媒介する蚊は、人間の足裏や足首を刺しますが、高い確率でリンブルガーチーズの臭いに惹きつけられることがわかりました。

単なる奇妙な偶然に見えるかもしれません、しかし、これは、蚊をおびき寄せる餌としてチーズが使える可能性があるということです。

もしかすると、足裏臭のするチーズは、マラリア防止に好ましい方法ではないかもしれません。しかし、安価に生命を救う可能性を秘めている限り、間違いなく考慮に入れるべきです。

さて、次はゴートチーズへとハンドルを切りましょう。

チーズとは必ずしも、牛から作られるわけではありません。

山羊乳も牛乳とさほど違いはありません。脂質、たんぱく質、水分、乳糖の割合は同じようなものです。ただし、異なる種類の分子を含むために、それぞれの乳やチーズが独特なものとなります。

脂肪酸には、さまざまな長さの炭化水素鎖があります。この炭化水素の長さによって、私たちの嗅覚受容体や味覚受容体にどのように感知されるかが決まります。とは言っても、科学者たちは、どのように受容体が感知するのか、はっきりと説明はできませんが。

山羊乳やチーズは、短鎖脂肪酸がかなり多く含まれます。カプリル酸やカプリン酸などがこれにあたります。その名前そのものが、ラテン語の山羊から来ており、これらの脂肪酸が、鼻につく山羊臭さの原因だと言われています。その一方で、牛乳とチーズは、長鎖脂肪酸を多く含み、あまり風味には影響を与えません。

そのほかの動物たちの乳からもチーズを作ることができます。羊、水牛、ヤク、コブウシなどです。スイスのとある工場では、ヘラジカチーズを作っているほどです。ただし、100グラムで20ドルもするため、世界でもっとも高価なチーズの1つでもあります。

しかし、すべての動物の乳がチーズを作るのに適しているわけではありません。例えば、馬や人間の乳は、ほかの動物の乳に豊富に含まれるカゼインの含有量が少なめです。カゼインなくしては、乳が凝固して、カードとホエイに分離することはありません。これらがなければ、おいしくて食べごたえのあるチーズにはなりません。

大人気のモッツァレラチーズはどう作られる?

みなさんは、これまでにレッド・レスターを食べて、「この色彩は自然なものなのか」と悩んだことがありますか? 

答えは、「まぁそんな感じ」です。カロチノイドという黄色の天然色素があります。これは牛乳に元から含まれますが、カゼインたんぱく質が作り出す檻に閉じ込められています。そのため、通常はこの色素は表には出ず、牛乳は淡いクリーム色をしています。

チーズを生産する過程において、たんぱく質の構造が変化し、カゼインの檻が壊され、カロチノイドが解放されます。そうして、本来のオレンジ色が現れるのです。しかし、食品業界は、私たちの視覚をもてあそぶことがあります。

「色の濃いチーズは色の薄いチーズより風味が強い」と人々が信じていることに、チーズ生産企業たちは気が付きました。例え、まったく同じチーズに異なる着色をしていたとしても。

そのため、彼らは、さまざまな染料を使って、チーズの黄色とオレンジ色を強調することを始めました。驚くことに、もっともよく使われるのが、アナトー色素です。メキシコやカリブ海地域に生息するベニノキから取れます。とくに、レッド・レスターは、アナトー色素を使い、濃いオレンジ色が付加されています。

一方で、ゴートチーズや水牛モッツァレラチーズは、自然の白色です。なぜなら、これらの動物の乳には、カロチノイドがあまり含まれていないからです。しかし、人工的に色素が強調されているとはいえ、二酸化チタンなどの白色仲介人も、消費者のニーズに応えることがあります。

モッツァレラチーズについて言うと、近年では、チェダーチーズを追い越し、アメリカでもっとも消費されるチーズとなりました。

この要因の一部は、ピザです。しかし、一体なにがこのようにトロリと溶けて伸びるすばらしいトッピングを作り出すのでしょう?

モッツァレラチーズは、カードとホエイが分離された後、特別な工程を経ています。カードを細かいブロック状に切り、熱湯の中で引き伸ばします。その後、再び球状にまとめるか、すりおろします。

この工程は、カゼインたんぱく質を引っ張り、形の定まらない絡まった塊を一直線に引き伸ばし、緩い平行な繊維とします。これにより、たんぱく質同士の結合を弱め、脂肪滴や水分が隙間に入り込みやすくします。

こうして、熱々のピザを切ると、液体化した脂肪滴によって滑らかになったモッツァレラチーズの繊維が、互いに引っ張り合い、べたべたとして癖になる美味を作り出します。

みなさんは、高い温度でピザを加熱すると、チーズの一部が茶色になり、パリパリとした食感を得られることにお気づきでしょう。これは、メイラード反応のおかげです。摂氏140度で加熱すると、ピザに含まれるたんぱく質と炭水化物が、互いに反応します。

このメイラード反応は、あらゆる料理化学に見られ、チーズたっぷりのピザに、香ばしいトーストのような生地を提供するのです。