スタートアップはビジネスプランより“ロジック”を見る

質問者2:数あるスタートアップがある中で、出資をしたいと思うような人とかビジネスモデルとか、その基準があればお伺いしたいです。

川田:僕はもういろんなところで言っているんですが、基本的にはプロダクトを見るっていう感じですね。プロダクトというかサービスですね。それのプロトタイプとかを見ておもしろいと思えば資金を入れます。そうでなければ入れない。

基本的にプロダクトとかサービスを生み出す能力が一番クリティカルだと思っているので、一番そこを重要視しています。後のところは、ほかから人をリクルーティングしてきてなんとかなるんじゃないかなと。わりとそんな感じでやってきました。

川邊:小澤さんはどうですか。

小澤:個人で投資する場合と会社で投資する場合は、分けて考えています。YJキャピタルで投資する場合というのは、一般的ですけれども、事業内容と経営陣を見ます。

ただ今、スタートアップとおしゃっていましたけど。投資の段階がスタートアップであれば、ビジネスプランの精査はそこまでしません。というのも、DeNAさんはまさに典型ですけれども、投資を受けているときと、そのあと発展するときのビジネスプランがものすごく違うことが多いです。ですので、スタートアップのときに出されたビジネスプランをものすごく見ることはしません。

ただ、どうしてこのプランを考えているのかという思考ロジックを一生懸命問い質します。ロジックが合っていさえすれば、ビジネスモデルを新しく切り替えるときも、そうやってロジカルに考えてくださるんだよね、ということで質疑応答して、「この数字は合ってるのか、間違ってるのか」「本当にこんなにいくんですか?」みたいな議論はあまりしません。

川邊:クレバーさとかを見る

小澤:そう、考え方を見ます。個人で投資するときは……誰でもいいです。

(会場笑)

これはもう持論で、とにかく誰でもいいんですよ。個人の投資はお金儲けでやっていないとすると、盆栽を買うようなもんなんですよ。消費です。だから返ってこなくてもいいんですよ。起業家を愛でるわけですよ。

(会場笑)

起業家を愛でるんです。

川邊:趣味ね

小澤:趣味です。もう1つちゃんと言っておきたいのは、その個人投資の成功率は、なにを持って成功というかわからないですけども、上場なりM&Aする率でいったら、8割くらいにはなると思うんですね。

ただ、正直選んでないですよ。選んでいなくてもそれくらいの数字になるのは、やはり僕がいたからだと確信しているんですよ。

(会場笑)

まあそれは冗談で、インターネットって今、それくらいのチャンスがある。投資家としての付き合いの中でものすごくプレッシャーをかけますし、最終的には一生懸命やっていただけるように場をセットするだけなんですが。

そういうとき、3つだけ断ることがあります。「ウソつき」「逃げる」……もう1つは忘れました、「一生懸命やらない」だ。そういう人は断っています。

お金を持つ前と持った後で変わったこと

川邊:ありがとうございます。もう1回(若手起業家に)戻しましょう。経営にまつわるなにかありますか?

加藤:先ほど、小澤さんがバイアウトだったりIPOという話をされていたときに、その判断基準はより大きなことができるかどうかということをおっしゃっていたと思うんですけど。より大きいことをしたいなというマインドが、お金を持つ前と持った後でどれくらい変わったのかなというのが伺いたくて。

僕も今やっている事業を大成功させて、大成功したら次はもっとでかいことをやりたいと思いつつも、実際目の前に10億円とか100億円とかあったとして同じようなモチベーションでやっていけるのかなと思うことがあります。その辺をお聞きできればなと思います。

小澤:うーん、これはとてもいい質問です。私の心境が大きく変わったのが……でもこれ、ログミーに載るんだよな。まあいいや。はっきり言って、生活に困らなくなったからです。食べるために働くことがなくなった。

真田:結果、もっと大きなことをやりたくなった?

小澤:正直、仕事と趣味の境目がなくなっちゃったんですよ。今は全部趣味。誤解を恐れずに言うならば。

純粋に自分のやりたいことを追いかけるには生活基盤が安定していることがいいことです。スウェーデン出身の人と話をしたことがあって、スウェーデンって、ベーシックインカムというかたちで最低限の生活が保証されているがゆえに、起業して失敗しても食えるんですよ。これって現実的に起業する人たちをかなり促進すると思っているわけです。

私も最初の会社を売って、そりゃ孫さんや三木谷さんに比較するまでもない、ここにいる大先輩に比較するまでもないですけれど、生活に不安がなくなったんですよ。

その結果、ものすごく大胆な決断ができるようになりました。あと、自分のサービスを作るときに、そのサービスから1日に100万円を儲けようとも考えなくなりました。純粋にいいサービスを作るようになって、「これはコストかけていいよ」と。盆栽を買うように自分のサービスを作ることができるようになったと。生活基盤の安定というのがあるので。

私の場合は、30代までに10億円持ったら、次の世界にいけるかもしれないって思ったんですよ。それで実際に持ってみたら……持ってるか持っていないかここで言うつもりはありませんけれども(笑)。そこで、見える世界は正直変わりました。きっと100億円の世界はもっと見えるものがあるんだと思います。お金というのはやはり意味のあるものだと思います。

川邊:バイアウトした人の気持ちというか、私も経験者として言うと、自分の事業を売却して、充実した後のほうがより大きなことをやりたいと思うことはありましたね。回答としてはそういうことだと思いますけど、なにか補足はありますか。

真田:これは人によってだいぶ違うんじゃないかと思う。周りを見ていると、40代くらいになると、会社をもうIPOさせて隠居していく人がすごいたくさんいるんですよ。

お金が充足されて隠居してなにも困ることのない生活をしちゃうと、そこで次の挑戦をしようというモチベーションが起きない人のほうが多いですよね。周りを見ている限りですけど。

年齢によっても違うと思うんですよね。20代とかである一定のお金を持っちゃうと……。ああ、でもいたなあ、どんどん遊んでいっちゃうやつ。仕事をまったくせずにどんどん遊んでいっちゃうやつもいる。方や、小澤さんみたいにもっと大きな仕事を、と思う人もいる。そこはやっぱり人によって違うよね。

小澤:私は44歳になって、生活に不安がなくて、(孫さんに)「恥を知れ!」と言われているんですよ。やっぱり、なんでこんなことを言われなきゃいけないんだと思う人もいると思いますよ。

川邊:すべては志のレベルの問題であってね。

川田:やっぱりネット系の仕事をしている人って、僕たちが仕事を始めた当初は、ネットの仕事のネタというよりも、趣味で出会った人が多い。僕は最初は大学の研究室で、まだその頃のネットはテキストベースの世界で、今みたいに便利じゃなくても好きでやっていたので。

僕も現実的に金で困らなくなって、時間もある程度自由になったときに、昔はお金ができて自由になったら、パリダカ(パリ・ダカール・ラリー)行ったり、アメリカンズカップに出たいとか考えていたんですよ。

川邊:分離されていたんですね。仕事と夢と。

川田:まあ、実際にはパリダカとか行けますよ。でも、どうなんだろうと思ったときに、それよりもはるかに、自分の投資先の利益が上がったほうが興奮するんですよ。

やはり自分がパリダカで優勝しても、それは自分の中の快感でしかなくて、それよりも自分がプロダクトにがっつり入って取り組んだ投資先が世界を獲ったときのほうがはるかに興奮するわけですよ。そういう感じです。

1人で決めること、ゴールから逆算すること

川邊:時間もあれなんで、ほかに質問があれば聞いてください。生々しく聞いて構いませんから。こちらも本音で答えるようにします。

三木:成功されたときにお金を持たれて、ビジネス以外の投資、車を買うのでも島を買うのでもなんでもいいんですけど。ビジネス以外でお金を使ってみて、これは良かったな、脳内麻薬めっちゃ出たなということをお聞きしたいです。

川邊:そういうアクティビティな会社をやっていますからね。これが第1問。次に、倉富くん。

倉富:今までクラウドソーシングのサービスを展開してきまして、半年くらい前からサイバーセキュリティの事業にも注力をしていて、現在はサイバーセキュリティ事業の売上が全体の35パーセントくらいになりました。

真田社長は09年のゲーム事業へのフォーカスであったり、ブラウザゲーからネイティブゲームへの転換でったりと、これまで大きな転換をされていらっしゃると思います。

そういった主力事業の転換をするような動きをする場合、とはいえ通常は、既存の事業も、信頼できる方に担当してもらわなければならないという状況の中で、どのようにしてそのような大きなな事業転換をを成し遂げられてきたのか。転換にあたっての要点や意識されていらっしゃることなどがありましたら、アドバイスを伺いたいです。

川邊:リソースの配分(の話)を真田さんにお伺いして、お金を使ってみて、お勧めがあったら教えてちょうだいというのはお三方に。

真田:事業の転換を考えるとき、よく経営者は孤独だと言われるが、協議とか合議とかで決めてはダメです。ここを縮小してこっちに突っ込もうとか言ったときに、ここの人は反対するに決まっているんです。協議とか合議では決めちゃダメです。

もちろん、協議とか合議とかはするんですよ。しかしその前に、自分の中で明確な結論を作って、それから協議なり合議なりをする。協議ばかりしていると、社内でグルグルグルグル、議論が回ります。自分で俺はこれをするんだと1人で決断を先にしておくこと。それから社内で会議をすること。これが1点。

次に、今あるリソースをどうしようかというとき。こういうときは積上式の思考ではなにも生まれないんです。逆で、先にゴールを決めて、世の中の流れがここに来ているから、ここにいかなければいけない。

ゴールから逆算していって、戻していって、そのためにはどうしたら出来るのかという思考回路。

今積み上げているものを組み上げてどうしようかなと。今、目の前の問題とか課題とか理想とか、そういうことからやっていくと辿りつかないんです。だから逆算です。

最初にここに行くって決めて、戻して行って、今目の前の問題まで戻して、いまはこういう配置にしないとダメだよねという。その順番で考える。この2点ですね。1人で決めるということと、ゴールから逆算する。この2点だけだと思います。

倉富:勉強になります。ありがとうございます。

川邊:それでは、仕事以外でのお金の使い方。

真田:後悔する使い方と後悔しないお金の使い方というのがあってですね。後悔する使い方は、スケベ根性を出すと、いろんな人が寄ってくるわけですよ。

営業なんかで「なんとか買って」みたいな。スケベ根性で買ったもんは大抵あとで後悔します。例えばべっ甲を買うと資産運営で儲かりますとかね。スケベ根性出して少し儲かるかもわからないとか。ふつうに買うよりなんとかシェアリングで得になりますとかね。その類のやつで後悔しなかったことはあまりないです。

川邊:逆に楽しかった場合というのは?

真田:楽しいお金の使い方は、返ってこないとわかって割り切って使うこと。後から増えるとかなにも考えずに、パーっとなくなるまで使うこと。

「人のためにお金を使いだしたらおもしろくなった」

川邊:ありがとうございます。川田さんは?

川田:僕はヨーロッパ人の起業家友達がいて、めちゃくちゃ有名なサービスの創業者なんですけれども、彼の別荘に遊びに行ったことがあるんですよ。

最初に呼ばれた別荘が1,000坪くらいのでかい別荘なんですけど、いい感じにシックにできていて、すごく楽しんだんです。去年だか一昨年にそこは売ることにして、新しく買った別荘というのが……無人島を1島買ったと言ってましたね。彼はヨットレースが趣味なので、50フィートくらいのでかいクルーザーを付けていて、家はお城みたいな感じ。

それで僕は、なんというか、そういう世界的なレベルの贅を尽くした別荘を見ると、実はある一定を超えると、自分の所有物でなくなるなと。ホテルを買収したらそれが自分のものなのか。それって自分の所有物と違うじゃないですか。公共物と同じような感じになっているんですよ。

だから、ある一定の距離感というのがあって、1,000坪、2,000坪のわりとシックな別荘は個人の所有物の感じがして、その先ので買い物はまるでホテルで、管理なども人を雇わないとできないという世界なんですよ。

常に人がいて、その人たちもマネジメントをしなければいけない。だから限界点はあって、あまり贅沢し過ぎても、しょせんは自分の物とは思えないという。所有物という概念を超越してしまう。適正な物というのは、実はお金がかからないものだったりするので。

川邊:それでは最後に、フェラーリを1,000台持っているという噂の小澤さん。

小澤:まあまあ、ある程度の金が入ってきて、一定の買い物はしてみました。家を買ってみたり、別荘を買ってみたり。フェラーリを買ってみたり。

いろいろとやったんですけど、あまりおもしろくなかったですね。子供の頃からポルシェが欲しくて、入金された翌日には「ポルシェください」と言って買ったんですけど。乗ったらね……ハンドルとアクセルがついているふつうの車なんですよ。

外から見ているからポルシェで、乗ったら「あれ? なんだこれは?」みたいな。生まれて初めて買った自分の車がポルシェだったんですけど、あまりおもしろくなかった。それで1周しましたと。結局、自分のために使うことって実はあまりおもしろくなかった、というのがあった。

人のためにお金を使いだしたらおもしろくなった。それがなにかと言うと、東京のオリンピック招致のために、個人として日本で最も寄付しているんですよ。

あの「すごい豆まき」って、自費でやっていたんですよ。所有とかではなく、イベントにバーンと金を出すという。ぜんぜんレベルが違うけど、Appleを作った人が50億円かけてミュージックフェスをしたとか。寄付とかそういうイベントをやったり、その延長線上で投資をしたんですよ。

「こんなサービスを作りたい」「こんなイベントを作りたい」「オリンピック呼びたい」とか言われてお金を出した。僕は先ほど、「投資は盆栽を買うようなものだ」「起業家を愛でている、趣味だ」と言ったのはそういう一環で、趣味と仕事の差がないというのもそういうことです。

人によっては消費が楽しいという人もいるだろうけど、僕にとっては、人のためにお金を使ったほうが……人のためというのは言葉が違うかもしれないけど、そういう人に喜ばれるお金の使い方をして、それで喜んでくれる人がいて、アホみたいに豆をまいている人を見て、ああ良かったと自分に跳ね返ってくる。

しょせん、乗せられて2人、みたいな車はおもしろくなかった。僕は1周してそこに行きついて、結果的に投資が一番おもしろいなと。なぜなら僕のお金が一番レバレッジがかかるから。

まずは「とにかく持って使ってみなさい」と。ないのに使っちゃだめだよ。お金を持ったら、人それぞれ使い方はあると思うけれど、こればっかりは使ってみないとわかりません。

川邊:最後は豪快に決めていただきました。さあ、お時間がやってきてしまいました。新しいフォーマットでやったわけですけど、このフォーマット自体は崩壊していたなという感が強いですけれども。

フォーマットは老害ですよね。若手経営者がこれくらいの頃に言えることとか悩み事とか、最後にお金の話とかね。綺麗事ではなく、言えないこともたくさんあるんですよね。

それが聞けて良かったですし、それに本音で答えていただいたパネラーのみなさんがいたんじゃないかなと思います。それではご回答いただいたみなさんにぜひ拍手をお願いいたします。ありがとうございました。

(会場拍手)