手塚はディズニーの二次創作
大井昌和氏(以下、大井):手塚がエロかったおかげで、俺たちは漫画を描けてるし、読めてるっていうことなの。
乙君氏(以下、乙君):マジ神様じゃないですか。
大井:神様。だから神様なんです(笑)。
山田玲司氏(以下、山田):だから、治虫のことを忘れんなって話してんじゃない。あれだけ。
大井:であるにもかかわらず、今の漫画家が「エロはちょっと……」とか言ってるのはアホかっていう話なんですよ。
乙君:「エロはちょっと……」とかって言ってるんですか?
大井:いや、言いますよ。意識高い漫画家とか言いますよ。
乙君:へ~。
山田:そうね。
大井:「まずポルノから始まってるのを心得よ」って話ですよ。
乙君:ポルノから始まってるんですか?(笑)。
大井:手塚はディズニーの二次創作として『奇子』とか描いてるわけです。アトムとかそうなわけです。「エロいわ~」って。
山田:あのね、ピノキオがエロい……。
大井:エヴァンゲリオン観て、「綾波エロいわ~」て言って、みんな同人誌を描いて、みんな同人買ったわけじゃないですか。それのスタートが手塚ですよ。
乙君:ディズニーの同人。
山田:ピノキオがアトムになるじゃん。だから、ピノキオの同人誌なんだよ。アトムは。アトム、エロいでしょう? あれ。
大井:ピノキオ、まったくエロくないでしょう?
乙君:うん。
山田:だから、ピノキオからいきなりショタになる。ショタ変換。
大井:天馬博士がショタの体いじってるわけですよ。「変態か?」みたいな。
山田:そうそう。「こんなの僕の息子じゃなーい!」って。ひどい(笑)。
乙君:ひどいですね。
山田:ひどいよ。そう。「トビオ!」って。
スタートがエロだということをみんな忘れすぎ
大井:これが日本の漫画にもう焼印のように焼かれたものだということを、もうちょっとみんなちゃんと自覚しないと、逆にいうと、エロをコントロールできないわけですよ。
乙君:なるほどね。
大井:わからないで描くと、エロすぎるものになったりとか、まったくエロを抜こうとして意味のないものを描いたりとか、そうなってしまうので。自分はどこをエロいと思ってるのか、もしくはどういうエロがいいと思って描くのか。
乙君:手塚にしても本質から始まってるっていうことですよね。
大井:そう。スタートがこれだっていうことを、どいつもこいつも忘れすぎというか。
山田:やっぱり大阪大空襲で死を見てるからね。
大井:そうそう。そうなんですよ。
山田:死を知ってるからね。
大井:そこで漫画描いた奴は、やっぱり命に対する執念が半端ないわけですよ。そりゃディズニーは裕福なアメリカでアニメ作ってるわけですよ。そんな生への恐怖みたいなのは感じないわけですよ。
山田:奴はベンチャーだから。
大井:そうそう。
山田:兄貴と一緒にベンチャーやってた。
大井:だからぜんぜんです。
乙君:ディズニーとなにかあったんですか?(笑)。
(一同笑)
大井:ない。だから、俺、ディズニーは手塚治虫の師匠として尊敬はします。うん。
山田:あの人が開いた平地はあるのね。
大井:そう。ただ、キャラクターを完成させたのは手塚治虫であると。
乙君:ああ。
山田:てか血を通わせたんだと思うよ。
大井:これは日本人が胸を張って言うべきなんだけど、「『エロはよくない』とか抜かしてるから、お前らにキャラクターがうんぬんとか、クールジャパンとか言う資格はねえ」というのが僕の考え方です。
山田:最高ー!
(一同拍手)
大井:ありがとうございます。
山田:決まったぜ!
乙君:ちょっとダンディーすぎませんか? 大井先生(笑)。
山田:いやいや、時々こういう熱いのがほしいっすよ。ふざけてばっかりなので(笑)。
(一同笑)
大井:いやいや、あれが熱いんですよ。僕は先生の手塚批評大好きですよ。
山田:本当に? ありがとう。
「一番エロいのは蝶の腹だ」
大井:超熱かった。「手塚で1時間半しゃべるのか」(笑)。
山田:「まだやってるのか」って(笑)。ありがとうございます。
乙君:玲司さんからの手塚批評に関しては?
山田:今言ってたのが本当に核心で。ただ、本当に手塚先生って、やっぱり感性なんだろうな。だから、動物が、うさぎがエロいなんていうふうに見る人だったっていうところね。それは生命から見てるんだけど、そこにあらゆるものを組み合わせて、キマイラでね。混ぜたもの。
大井:メタモルフォーゼですからね。
山田:だから昆虫はエロい。だから、女がどんどん変わっていくのがエロいというさ。『人間昆虫記』。
大井:あいつ本当にそうなんですよね。昆虫の幼虫見て「エロい」とか言うんですよ。
山田:「昆虫の腹はエロいよね」とか言って。
大井:「一番エロいのは蝶の腹だ」って言ってましたね(笑)。
山田:「蝶の腹がやばい」。
大井:変態だよ。
山田:だから『ミクロイドS』観てごらん。そのまま女になってますからね(笑)。
大井:『鳥人大系』とか最悪ですよ。
山田:あ、『鳥人大系』、最悪(笑)。いや本当すごい。だから、なにか別の生き物になってしまうというのもよく出てくるテーマなんだけど。
大井:そうなんですよ。
山田:そこにエロティシズムを。
乙君:なんだか鳥の形した女が出てきますね。顔だけ。
山田:やたら出てくる。
大井:あの火の鳥もよく人に変わるし。
山田:『ブラックジャック』も、女の子を鳥人間にという。
大井:そうですね。やってますね(笑)。山に逃がしてましたよね。
山田:パタパタパタッ。
大井:「自由に生きろ」みたいな(笑)。
山田:「いや、死ぬんじゃねえのか?」みたいな(笑)。
(一同笑)
山田:そう。「ブラックジャック、鳥にしちゃったよ、人を」って(笑)。もうなんでもできますから。治虫は。
大井:すごいですよ。少女が「鳥にして」って言ったら、ブラックジャックが鳥にしてくれるんです(笑)。
手塚治虫は正直な変態だからかっこよかった
山田:でも、いいんです。支離滅裂でいいというね。もう言い切ってる人なんでね。
乙君:なるほどね。異形のものとの掛け合わせの。
大井:だいたいメタモルフォーゼというのはアニメーションのテーマでもありますからね。あの人はアニメも作りたかった人なので、そのへん……。
山田:そうそう。
大井:要はアニミズムですよ。やっぱり本当はアニメは命を描かなきゃいけないなかったんだけど、ディズニーがサボってたところで、手塚がいてよかったねって話ですよ。
乙君:なるほどね。アニミズムの国から生まれた……。
山田:そう。八百万の神がいて、すべてのものには魂が宿っていて。
乙君:命が宿ってて。
山田:そう。そうすると、紙のものにも命をやる。だから、動かしたいじゃないですか。「それを僕はとてもエロチックだと思うんですよ」というのは散々言ってる。
大井:そうなんですよ。
山田:「動くとエロいじゃないですか」という。
大井:だからあいつは神なんですよ。
山田:そうそう。治虫!
山田・大井:見てるか!?
(一同笑)
山田:言いたかった(笑)。
大井:言いたかった(笑)。
山田:「治虫、見てるか?」って。
大井:お前が死んでもこんなに好きな奴がいるんだぞ。
山田:そうそう。もう大好きだぞ。お前のこと。
大井:超好きだと。
山田:超好き。だから、変態だから好きなんだよ。正直な変態だったからよかったなっていう。かっこいいなと思うわけ。
大井:そうなんですよ。「常に俺はお前のことを考えている」。
山田:考えてるよ。