手塚治虫はバンビに欲情した
山田玲司氏(以下、山田):55分、はい、じゃあ、治虫ちゃんの話して終わろうか。
大井昌和氏(以下、大井):治虫さんの話、してませんでしたっけ?(笑)。
山田:このあと実は誰が一番スケベかバトルをやるんですけど、どうしても外せないのが治虫ちゃんだったので。2人とも治虫ちゃん選んでしまいました(笑)。
大井:はい。そうですね。5人選べって言われたんですけどね。
山田:「これは治虫は外せないな」って言って。
大井:「たぶん山田先生選ぶと思うけど、でも治虫は外せないな」みたいな(笑)。
山田:じゃあここで先に、戦うこともないので、治虫、お願いします。治虫のなにがエロいか話を最後にちょっと。
大井:さっきちゃちゃっと描いたやつですね
山田:いいですね(笑)。
大井:治虫のひどさみたいなのをわからせていこうかと思いますけれども。手塚治虫っていうのは、言うまでもなく、ディズニーマニアだったわけですよね。バンビとか100回観たとかいう男ですよ。100回観ながら、これを絵に起こして描いたやつですよね。これを観たやつがなんで『奇子』になるのかっていうことですよ。
山田:『奇子』になるんだ。そうそう(笑)。
大井:もともとディズニーというのは、教条的なアニメーションを作ることを目的としたやつだったわけですよ。ところが、そういうふうにアメリカで作られたやつが、日本に来て、手塚治虫が観たことによって……。あいつはたぶんこのバンビに欲情したわけですよね。
山田:そう。
大井:このケツとか。この眉毛とかまつ毛とか。奇子にもまつ毛ありますよ。
山田:太もももね。
大井:太もも。足のこのしなっとした感じ。目もね、さっき描いてたら、「あ、似てるな」と思ったんだよ。
山田:そうそう。うっとりしてるんだよね。
大井:うっとりしてる。
山田:どこかで(笑)。ちょっと眠そうな感じ。
治虫はセックスから逃げなかった
大井:子供のために描いたバンビがですよ、手塚が見ると奇子に変換されたというのがやばいわけですよ。
乙君氏(以下、乙君):同じものを描いていたということですか? つまり。
山田:いや、延長上にこうなるわけ。
大井:読み取ったものがこうなるわけですよ。
山田:変換されたわけ。
大井:ここでディズニーの換骨奪胎が日本で起きるわけですよ。
山田:治虫アプリを使うとこうなるの。
大井:そう。
山田:俺たちは治虫アプリをダウンロードしてる。
大井:俺らは治虫のOSで漫画を描いてる感じ。
山田:そう。だから、エロから逃げられないんだよ。
大井:最初にこれ見て「エロい」とか言ったキチガイが作ったものを見て、俺たちが「すばらしい」って言ってるわけですから、自動的に「エロいものを描くのがすばらしいんだろう」ってインストールされてるわけですよ。
山田:ある意味これって最高なことなんだよ。上っ面じゃないんだよ。
大井:そう。
山田:だから、生きること、命みたいなことの根源で、一番大事なセックスについて逃げなかったんだよ。あの人は。
ディズニーは寓話しか描けなかった
大井:そう。ディズニーは逃げた。
山田:逃げた。多くの人は逃げるんだよ。キリスト教圏の人は逃げるんだよ。
乙君:ああ、なるほどね。向こうじゃできないんだ。この地平は。
大井:だから、伊藤剛の『テヅカ・イズ・デッド』で、「ディズニーのキャラクターというのは死なない。崖から落ちても、めり込んで死なない、ロードローラーにひかれても、ペラペラになって死なない。ところが、手塚治虫はこのキャラクターというのに死を与えた」って言ってるわけね。
山田:そうね。
大井:死を与えるというのは、イコール、生を与えるってことなので、当然、『奇子』になるわけですよ。エロくなるわけですよ。生きてるんだから。
乙君:なるほど、なるほど。
山田:これが『火の鳥』につながる。「命を描きたかった」という。
乙君:はー。
大井:ディズニーは、それまで命を描けなかった。
山田:描いてない。実際に。
乙君:あ、逆にね。
大井:キャラクターで、あいつら、命を描けなかった。ただ教育的なことしか言えなかった。寓話しか描けなかった。
山田:そうね。
乙君:なるほねぇ。
山田:そこで格段に深くなってる。