2017年の投資戦略

広瀬隆雄氏(以下、広瀬):みなさん、こんばんは。コンテクスチュアル・インベストメンツの広瀬隆雄です。今日もよろしくお願いします。今日は「2017年の投資戦略」というテーマでお話しさせていただきます。

じゃあ、まず結論なんですけれども、2017年、その相場展望になります。35年間続いた長期金利低下、そのダウントレンドがたぶん来年は終わるだろうと考えています。一般に金利が下落局面から上昇局面に入り始めると、相場の難易度は高くなります。

次に、ドル・円なんですけれども、若干のドル高を予想しています。最大限で7パーセントぐらいのドル高になろうだろうと見ています。

次に、米国株ですけども、弱気です。−11パーセントぐらいを2017年は想定しています。欧州株は強気です。+11パーセントぐらいを予想しています。オーバーウェイトしたいです。

それから日本株、同じく強気です。+10パーセントぐらいを予想しています。こちらもオーバーウェイトしたいです。

それからセクター戦略なんですけれども、銀行・素材・工業・消費循環、そういったところをオーバーウェイトしたいと思っています。逆に、REIT(不動産投資信託)・公共株・テクノロジー・ヘルスケア・消費安定、そういったところはアンダーウェイトというふうに考えています。

2017年は米国経済と欧州経済が加速

来年の世界経済なんですけれども、アメリカの景気も加速すると見ていますし、ヨーロッパの景気も加速すると考えています。

まず、アメリカの景気の話をします。

来年のアメリカの景気に関して、強気に考えているエコノミスト、あるいはストラテジストの方が多いんですけれども、その根拠はなんだということになると、それは「トランプ減税」だと思うんですよね。

来年早々、我々投資家が気をつけるべきことは、このトランプ減税というか、税制改革ですよね。その議論がきちんと公約どおり下院ですぐに始まるかどうか。その点に注目したいと思います。

トランプが当選して以降、今日までのマーケットというのは強かったわけですけれども、マーケットがトランプの当選を好感した最大の理由が税制改革なんですよね。ですから、それが来年早々すぐに始まらないということになると、マーケットはそれを嫌気して売られると思います。

アメリカで税制改革の議論が行われるのは、実に30年ぶりです。だから、これは大きな材料だということですよね。

トランプ減税はウォール街に好感されている

それから、今回の税制改革は、全部で向こう10年間にわたって5兆ドルもの減税になると言われています。ウォール街の関係者は減税が大好きなんですよね。なので、それが市場関係者を喜ばせた第1の理由。

それから、議員さんたちは税制改革の議論が大好きなんですよね。それが議題に乗っかったら、ほかのいろいろな議案というのは全部横にどけて、税制改革の議論ばっかり、もう半年ぐらい「ああでもない、こうでもない」って突き回すわけですよね。

そのプロセスというのは、共和党が下院で過半数を取ってるわけですけれども、共和党の議員さんたちの心を1つにする、そういう効果があると思うんですよね。

それと、税制改革が議論されている間は、議会と、それからドナルド・トランプのいるホワイトハウス、つまり行政府ですけれども、その間のコミュニケーションもすごく密になると思うんですよね。

もっとわかりやすい言い方をすれば、議員さんが入れ替わり立ち替わりドナルド・トランプのところにお百度参りをすると。

そして、議員さんたちはみんなそれぞれ出身の州というか、支持母体・地域があって、その地域の利害を代表してワシントンDCに来ているわけですけれども。「おらの村ではこういうことになっています」ということを、トランプにもアピールしなきゃいけないわけですよね。

トランプは「うーん、そうかそうか」というふうに、その話を聞きながら、相手の利害を理解し、相手の弱みを握り、そして、妥協ポイントですよね。どう折り合っていけばいいのか。

それを模索するということで、この税制改革法案というのは大きな作業になるんですよね。それが議会のなかにある酸素を全部吸い上げちゃうと思うんですよ。

それは悪いことではなくて、いいことなんですよね。わかりますかね。なぜいいかというと、税制改革以外に、株式市場にとってリスキーな案件というのは挙げればいくらでもあるわけですよ。

例えば、メキシコとの国境に壁を作る。あるいは中国の輸入品に対して関税を課す。そういったような案件が議案に上ってくると、マーケットは嫌気すると思うんですよね。

だから、ちゃんと税制改革が最初にポーンと議案に乗って、ほかのものを全部排除できるかどうか、それにまず注目していただきたいと思います。

さっき、「トランプ減税はウォール街に好感されている」と言いましたけれど、その理由の1つは、裕福層、つまり、ここ(スライド)に上位1パーセントって書いてありますが、裕福層ほど減税額が大きいんですよね。減税の比率も大きいです。

だから、ドナルド・トランプは、ポピュリズム、つまり、一般大衆の人たちの不満あるいは夢、そういったものを背景に当選したわけですけれども、当選した以降のドナルド・トランプの方針というのは、どちらかといえば裕福層に優遇するような政策のほうが多いような気がしますね。

長期金利の動向が注目ポイント

来年の注目ポイントの1つは、長期金利の動向ですよね。今回の税制改革は5兆ドルもの減税になると言われています。それはなにを意味するかというと、5兆ドルというお金を消費者とか企業のポケットのなかにぐーっとねじ込む、そういう法案にほかならないわけですよね。

そうすると、余ったキャッシュで、消費者はそれを消費に回すかもしれません。あるいは、企業は設備投資に回すかもしれません。ということで、お金の回りが加速するわけですよね。それが景気をよくする。

しかも、税収が5兆ドル減るということは、国は、その穴が開いた分の収入ですよね、それをもっと国債を発行することによって穴埋めしなければいけない。つまり、債券の需給関係は悪化するということですよね。

であれば、過去かれこれ、1981年から35年間続いてきた長期での債券利回りの低下トレンド、逆にいえば、債券価格は利回りの逆になりますので、債券価格はずっとブルマーケットで上昇してきたわけですけれども、それがひょっとしたら利回りが2017年は上昇するというかたちで、トレンドに変化が出る可能性があるということですよね。

今、ものすごく乱暴な議論をすれば、株式とそれから市中金利というのは競争関係にあります。なぜか? 銀行にお金を預けておくだけで、もっといえば、無リスクで良い魅力ある利子がつくのであれば、なにもリスクを冒して株を買う必要はないわけですよね。

だから、その状況では「証券よ、さようなら。銀行よ、こんにちは」という感じで、お金が証券会社から銀行にシフトする。それは株にとってあんまりよくない環境ということですよね。

今は超低金利ですので、まだそういったトレンドが怒涛のように起こるとは考えにくいですけれども、でも、アゲンストの風は少しずつ吹き始めるのだということを頭に入れておいてほしいということですよね。

それから債券が売られているもう1つの理由は、そもそも経済がしっかりしてるからということです。

今、みなさんにご覧にいれているのは、新規失業保険の申請件数ですけれども。これは失業者の数、新しく失業した人の数だから、数字が低ければ低いほど、つまりグラフが低ければ低いほど、景気は強いという読み方をします。

そうすると、現在の水準は、1970年代まで遡らないと、これほど失業者数が少なかったことはないということですよね。

賃金上昇による影響

同様に、失業率のグラフも見てみます。現在はここ(右端)ですけれども。

そうすると、過去の失業率が低かったとき、それは2008年、あるいは2000年、それから1991年、あるいは1979年というふうになるわけですけれども、これらはいずれも1年後ぐらいにリセッションが来てるんですね。今回は別ですよ。今回はまだわからないからね。

なので、なにが言いたいかというと、現在の失業率の位置からはもはやこれ以上失業率がよくなりようもないというか、目一杯景気がいい状態なんだと考えられるということが言いたいわけですよね。

次、平均時給。

今回のリカバリー局面では、賃金の伸びがとくにもたもたしてるということが言われてきました。それは実際そうなんですけれども、最近になって少し給与が上がり始めてるんですよね。

それで、中央銀行家はインフレを気にするわけですけれども、そのなかでもとくに賃金というものに注目します。

なぜか? それは、賃金というものは一度上がり始めると癖になるというか、ズンズンと上がりやすい。賃金が上昇し始めると消費者がいろいろ物を買うので、つまり、購買力が増えるので、それで消費に回る。そうすると、すべてのインフレの加速の原因になるわけですよね。

だから、例えば、ガソリン価格の上昇、エネルギーの上昇とか、そういったものはFRBは大幅にディスカウント、割り引いてものごとを考える傾向がありますけれども、賃金に関しては非常に敏感だということですよね。

2017年も原油価格は上昇基調にある

原油の話がちょっと出ましたので、原油価格も見ると、今、だいたい50ドルの半ばぐらいですよね。

先日、OPEC(石油輸出国機構)ならびに非OPEC、その両方の産油国が原産に合意しました。これはもう15年ぶりのできごとですよね。全部で176万バレルの原産額です。これは市場が予想してたよりも、少し多い額だと思います。

それで、減産が実際に始まるのは1月からです。過去に協調減産が発表されたときは、実際に供給が細り始めたあとで、原油価格が本格的に動き始めることが多かったです。

なので、減産のニュースが出たあとで、原油価格ちょっと跳ねたんですけれども、あれでもう全部織り込み済みだと僕は考えていません。つまり、来年も原油価格は上昇基調にあると考えています。