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「もはや計画は不要になった」 MITメディアラボ・伊藤穰一氏が語る、”インターネット後の世界”と”新しい原理”

「もはや計画は不要になった」 MITメディアラボ・伊藤穰一氏が語る、”インターネット後の世界”と”新しい原理”

マサチューセッツ工科大学(MIT)のメディアラボ所長に日本人として初めて就任し、またNYタイムズ、ソニーなど多くの一流企業で取締役を務めるなど実業家、投資家としての一面も持ち合わせる伊藤穰一氏。そんな氏が考えるイノベーションの新しい原理を、世界各地で起こっている実例とともに紹介しました。(TED2014 より)

スピーカー
ベンチャーキャピタリスト・実業家/MITメディアラボ 所長 伊藤穰一 氏
参照動画
革新的なことをしたいなら「ナウイスト」になろう

素人集団による放射線量公開プロジェクトを成功に導いた、新しい原理

Joi Ito_ Want to innovate_ Become a _now-ist_-1 伊藤穰一氏(以下、伊藤) 2011年3月10日。私はケンブリッジのMITメディアラボで、学部生やスタッフと、私が次期代表にふさわしいか議論していました。その夜。マグニチュード9の地震が日本の太平洋沖を襲いました。 Joi Ito_ Want to innovate_ Become a _now-ist_-2 Joi Ito_ Want to innovate_ Become a _now-ist_-3 そのニュースを見た瞬間、私はパニック状態でした。ニュースストリームを探し、日本政府と東京電力の公式発表を聞き、福島原子炉の爆発を知りました。放射性廃棄物の雲は、私の家族の家から僅か200kmしか離れていなかったのです。テレビは私たちが知りたいことを教えてくれませんでした。私は、原子炉がどうなっているのか、放射線はどうなっているのか、そして家族は危険な状況下なのかどうかが知りたかった。 私は直感的に正しいと思った行動をとりました。インターネットに向かい、何か自分にできることはないかと模索したのです。ネットには、同じように何が起きているのか知ろうとしている人が溢れていました。我々は”Safecast”と呼ぶグループを結成し、放射能を測定し、それを人々に公開しようと決めました。政府が行動を起こさないのは明らかでしたから。 Joi Ito_ Want to innovate_ Become a _now-ist_-4 Joi Ito_ Want to innovate_ Become a _now-ist_-5 3年たった現在、1600万のデータポイントが集まりました。さらに私たちは自分たちのガイガーカウンターをデザインしました。人々はアプリをダウンロードし、放射線を測定してそのデータをネットにあげることができます。また、我々のアプリケーションで、主に日本、そして他の地域の放射線量をみることもできます。我々はおそらく最も成功した市民科学プロジェクトの一つでしょう。最も大きな放射線量に関するデータバンクです。 (会場拍手) ありがとうございます。ここで興味深いのは、何も知らないただの素人の集団が集まり、NGOや政府が絶対的になし得ないようなことを成し遂げたという事実です。ただのまぐれ、ただラッキーだったからではありません。実行したのが私たちだったからでもありません。 Joi Ito_ Want to innovate_ Become a _now-ist_-6 人々を引きつけるプロジェクトだったことは一理ありますが、これはインターネットとその他の「新しい原理」によって可能であったと。私はこの「新しい原理」について少しお話したいと思います。

インターネット以前、以後で見るビジネスモデルの変化

インターネットがなかった時を覚えていますか? 私はこの時代をBI(Before Internet)と呼びます。 Joi Ito_ Want to innovate_ Become a _now-ist_-7 (会場笑) いいですか? BIの頃は、生活はシンプルでした。物事はユークリッド幾何学やニュートン力学である程度予測可能でした。人々は実際に未来を予測しようとしていました。経済学者ですらそうです。そしてインターネットが生まれます。世界は驚くほどに複雑に、低価格に、速くなりました。そしてニュートン力学といった、我々が深く信じていた法則は、ただの法則になりました。 Joi Ito_ Want to innovate_ Become a _now-ist_-8 この複雑で予測不可能になった世界で明らかになったことは、多くの人々はある種の「別の法則」に基づいて動いているということです。この「別の法則」について少しお話します。 インターネット前の時代は、-もし皆さんが覚えていればですが- サービスを作り出すときに皆さんがなにをしていたかというと、まずハードウェアとネットワークとソフトウェアをつくっていました。なにかしら壮大なことをするには、何百万ドルものコストがかかっていました。 Joi Ito_ Want to innovate_ Become a _now-ist_-9 ですから、何百万ドルもの膨大なコストがかかるプロジェクトを実行したいときは、まずMBAに計画書を書いてもらい、ベンチャーキャピタルや大きな会社から資金を得ます。そしてデザイナーやエンジニアを雇い、プロジェクトをくみ上げます。これがインターネット以前の、BIでのイノベーションモデルです。 Joi Ito_ Want to innovate_ Become a _now-ist_-10 インターネットが生まれたあとに何が起きたかというと、新規導入に対するコストがぐんと下がりました.これは共同運営や流通、コミュニケーション等のコスト、そして「ムーアの法則」(コンピュータの性能を予測する式。コンピュータの性能が飛躍的に上昇した)により、新しいことを始めるコストはほぼゼロになりました。 いまやGoogle, Facebook, Yahooがあります。学生だって、許可など要りません。面倒な手続きもない。許可なきイノベーションです。パワーポイントもない。ただプロジェクトを組み立てるだけ。そして資金を得て、何かしらビジネスプランを模索し、おそらく後にMBAを雇うでしょう。 インターネットは革命を起こしました。少なくともソフトウェアとサービス、MBAがイノベーションモデルを立ち上げ、デザイナー、エンジニアが組み立てるという従来のモデルは、デザイナー、エンジニアが運営する新しいモデルに変わりました。そしてインターネットにより、巨大な機関ではなく、ただの学生寮の一室でも革新的なプロジェクトを生み出すことを可能にしました。 古い、面白くもない巨大企業は、権力、資金、そして権威を独占していました。我々は知っています、インターネットでなにが起きたかを。そして他の変化も引き起こしました。例を挙げましょう。

中国・深センで見た「イノベーションの熱帯雨林」

メディアラボではただ単にハードウェアを組み立てるわけではありません。我々はすべてのことをします。生物学、ハードウェア。そしてNicholas Negroponte(MITメディアラボ創設者)は、かの有名な文句を言いました。 「実行せよ。さもなくば死あるのみ」「公開せよ。さもなくば腐敗あるのみ」 これは伝統的な学術的思考法です。また彼はよくこうも言っていました。デモは一回きりであるべきだと。我々が世界にインパクトを与える主な手法は、大企業が我々からヒントを得て、製品を生み出すというものだったからです。Kindleレゴ マインドストームのように。ですが今日、このように低コストで製品を世に展開することが可能になったいま、私はモットーを変えようと思います。これは公式声明です。正式に発表します。 Joi Ito_ Want to innovate_ Become a _now-ist_-11 「活用せよ。さもなくば死あるのみ」 作り上げたプロジェクトを、実際に活用できるように仕上げなければなりません。そしてそれは大きなプロジェクトになりうるでしょう。Nicholasがたちあげた人工衛星のプロジェクトの例もあります。しかし、これを我々の手で行うことが求められます。いつまでも大企業にたよるわけにはいきません。 Joi Ito_ Want to innovate_ Become a _now-ist_-12 昨年、我々は生徒を中国南部の都市、深センに送りました。彼らは工場のフロアで現地のイノベーターとともに滞在しました。それは素晴らしい経験になりました。そこには製造機器がありましたが、彼らは試作品をパワーポイントではつくっていなかったのです。彼らは製造機とともに試行錯誤しており、彼らは新しいアイデアをまさにその機器の横で製造していたのです。その工場はデザイン場の中にあり、そしてデザイナーは文字通り工場の中にいました。 Joi Ito_ Want to innovate_ Become a _now-ist_-13 売り場のほうに降りていくと、携帯電話が販売されています。深センの子供は、パルアルト(カルフォルニア州の街。多くのハイテク企業の本社がある)の子どもたちのように小さなウェブサイトを始め、その中で試作品を作るのではなく、新しい携帯電話をつくっていたのです。試作品をつくるように。まさに携帯電話における「イノベーションの熱帯雨林」でした。 彼らは携帯電話をつくり、売り場に降りて売り、他の子の製品を見て、製造場にもどり、数千もの製品をまた作り、売りに行く。なんだかソフトウェアの行程と同じように聞こえませんか? まるでソフトウェアがめまぐるしく成長するように。A/Bテストとアップデートを繰り返し繰り返ししていくように。そして我々がソフトウェアでしかできないと思っていたことを、子供達はハードウェアでも行っていたのです。 そしてあなた方が見たものが、まさにイノベーションをもっと身近にさせた理由なのです。 Joi Ito_ Want to innovate_ Become a _now-ist_-14 3Dプリンターやこれらのことについて、素晴らしいとは思います。ですが、リモア -彼女は我々の素晴らしい卒業生の一人です- 彼女の後ろにある機械はサムスンの「Techwin Pick and Place Machine」です。これは一時間で23000もの部品を電子基盤にのせることができるのです。まさにこの機械の中に一つの工場があるのです。 つまりかつては工場で人の手で行っていた作業が、NYにあるこの箱の中で行えるのです。彼女は実際に深圳にいく必要はありません。この機器を買い、実際に製造が可能なのです。製造、改革、試作、流通、製造、ハードウェア等にかかるコストは今や非常に低くなっているので、イノベーションはより手軽になり、学生や新参企業でも立ち上げが可能になりました。これは最近の出来事ですが、ソフトウェアで起きたことのように変わっていくことでしょう。

遺伝子研究におけるイノベーション

Joi Ito_ Want to innovate_ Become a _now-ist_-15 SoronaはDuPont社の製品で、遺伝子組み替えの微生物によりコーンシュガーをポリエステルへ変化させる技術です。これは化石燃料を使用したものよりも30%効率的であり、環境にも非常に優しい技術です。遺伝子工学や生命工学は数多くの様々な素晴らしいチャンスを、科学、データ処理、記憶装置の分野でもたらしてくれました。おそらく我々は多くのヘルスケアの分野に関わるでしょう。しかし我々はそれに向けて準備をしています。 問題は、Soronaは構築に4億ドルと7年の歳月がかかることです。なんだか昔の大型凡用コンピューターを思い出しますね。実際に、生命工学におけるイノベーションにおいても、コストは下がっています。 Joi Ito_ Want to innovate_ Become a _now-ist_-16 これはデスクトップ上の塩基配列です。かつては遺伝子を並べるのに何百万ドルものコストがかかっていました。今ではこのようにできます。子供も自分の部屋で可能です。 Joi Ito_ Want to innovate_ Become a _now-ist_-17 これはGen9遺伝子アセンブラです。かつて遺伝子情報を得たいときは、100塩基ごとに1つのエラー、さらに膨大な時間とコストがかかっていました。この新しい遺伝子アサンブルの機器は、100塩基ごとに1ではなく、10000塩基ごと一つのエラーです。またこのラボでは、この1年で世界中の遺伝子情報を収集する容量が用意されてます。一年に2億塩基対です。 この変化は我々が人の手で舗装されていたトランジスタラジオを使っていた時代から「Pentium」(インテルが1993年に発表したCPU)を使いだしたほどの大きな変化です。このGen9の技術は生命工学においてまさに「Pentium」になりつつあります。生命工学は学生寮の一室や新参企業の手中にはいりつつあります。

イノベーションを起こすのに準備などいらない

これがソフトウェア、ハードウェア、そして生命工学において起こっていることです。これはイノベーションにおいて根本的に新しい考え方です。非常に根本的で、大衆的で、混沌としていて、コントロールが難しい。悪くはないのですが、従来とは大きな違いがあり、従来の方法はもはや機能しないのではと思います。ここにいる我々で新たな法則を生み出すことになるでしょう。 Joi Ito_ Want to innovate_ Become a _now-ist_-18 私の好きな法則のひとつは、「引き寄せの法則」です。アイデアというものは、中に押しとどめおいて、全部をコントロールするというよりは、インターネット上から必要なときに資源をひっぱってくるというものです。 さきほどの”Safecast”の例を挙げると、私は震災当時なにも知りませんでした。しかし、私はハッカースペースコミュニティのオーガナイザーであるSeanと、analog hardware hackerで、後に最初のガイガーカウンターを作ることになるPeter、そして、スリーマイル爆発の後に、スリーマイルの監視システムをつくりあげたDanを見つけることができました。 そして彼らは私が事前に見つけられなかったであろう人々で、それは私がただネットワークで見つけるのよりよい選択だったでしょう。 Joi Ito_ Want to innovate_ Become a _now-ist_-19 私は大学を3回中退しています。ですから教育を超えた学びというのは非常に身近で、親愛なる存在なのです。しかし私にとって、教育とは人々があなたにすることであって、学びとは自分で自分に与えるものだと思います。 そして、私には多少の偏見がありますが、教育はこう感じられます。教育はあなたに辞書の隅から隅まで暗記させようとします。外に遊びにいかせてもらえるまで。今の私には、スマートフォンとWikipediaがあります。教育では、HBの鉛筆を武器に、成績の山の頂上へ自らの力でのし上がっていくのがさも当然のごとく教えられます。実際は、いつでもネットに接続でき、友達がいつでもいる状態です。そして必要なときにいつでもWikipediaを引っ張ってくる。 学びに必要なのはどう学ぶかです。このSafecastの例では、3年前に始めたときはただ多くの素人の集まりでしたが、今はグループとして、データ収集、公開、都市科学のマネージメントに関してはどこの機関よりも理解しているでしょう。 Joi Ito_ Want to innovate_ Become a _now-ist_-20 コンパスは地図を超える。Safecastの場合、プランを書いたり、マッピングしたりするコストは高価になり、それほど正確でなく有効でもありません。このSafecastの場合は、我々はデータ収集が必要で、そしてそれを公開したかったのです。そして正確なプランを練るかわりに、こう言いました。 「ガイガーカウンターを手に入れましょう」「おっとそれは売り切れか」「ならば組み立ててしまおう」「ああ、センサーとしては不十分か」「OK、ならば携帯型ガイガーカウンターを作ろう」「部品店へはドライブして回れる」「ボランティアが手伝ってくれる」「十分な資金がない」「ならばKickstarterだ」 全体のプランなどありませんでした。しかし、強力なコンパスと明らかに共通の目標がありました。そして私にはこれはソフトウェアのめまぐるしい変化と同様に思えます。この例ではコンパスが非常に重要な位置を占めますが。 この世界は非常に複雑ですが、あなたに必要なことはシンプルです。 何が必要か、何を蓄えなければいけないか、何を準備しなければいけないか、あれこれ計画する、なんて考えをやめることです。そして周囲をよく見渡し、関心あることをまとめ、常に学び、素晴らしい今に気づくべきです。 私は「futurist(未来に生きる者)」という言葉を使いたくありません。我々は「now-ist(今に生きる者)」であるべきと思います。我々がたった今そうあるように。ありがとうございました。

  
※ログミーでは、TED Talksおよび各TEDxの定めるCCライセンスを遵守し、自社で作成したオリジナルの書き起こし・翻訳テキストを非営利目的のページにて掲載しています。
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