主人公・瀧君の最大の武器は“東京”

山田玲司氏(以下、山田):問題はね、瀧君にミラクルが起きなかった場合に、要するに瀧君にはミラクルが起こった、奇跡が起こった、隕石が落ちた、いろんなことが起こりましたよ。でもそういうことをぼーっと待っているのもけっこうですが、来ない場合どうしようかって話ですよ。

もしあの人になにもなかった場合、瀧君という人のいいポイントはなにかって、そして瀧くんの男としてのNGポイントというのはあるだろうなとは思うわけ。つまりあれはファンタジーでけっこうなんだけれど、たくさんの仕掛けのなかで忘れられてるのが主人公の人格なんだよ。俺はその主人公の人格中心に見たいから、「猫助けてよ!」とか「雨の中猫助けるシーン入れてよ」って思うわけじゃん。

だからいろんなことがノイズになるんだけど、「このキャラクターは好きになってもらえないんじゃないですか」って思いながらずっと見てしまうんだよね。だからあの奇跡を待ったまま、「俺、瀧君だし」って瀧君をやってしまうとどういう問題が起こるかということを考えたほうがいいんじゃないかということですよ。

つまり瀧君っていう人格がもし現存するならば、あの人はモテないですから、実際に奥寺さんにはモテてないでしょ。だって会話できないんだから、基本、目見れないし。

それでも元気チューニングで、川村元気がチューニングした瀧君をよく見せるためのポイントというのが、ルックスであり、スペックであり、ちょいオラキャラで、なんといっても東京ネイティブなんですよ。東京が彼の最大の武器なんですよ。でもどうですか、日本のほとんどは東京じゃないですからね、何百億人の人は。

乙君氏(以下、乙君):何百億はいない。

山田:いや違う、何百億人と数えたわけですね。そんなにいないですけど。全地球でも70億人(笑)。そんなにいないですけど、ほとんどの人は東京ネイティブじゃないですよ。実際の東京ネイティブはあんなやつじゃないですよ。実際の東京ネイティブってすごい田舎もんがおおいですよ。だから電車の乗り方わからないようなやつ多いですよ。本当に東京生まれのやつは。

乙君:確かにね、東京タワー上ったことないとか。東京生まれのほうが観光地行かないですよ。

山田:東京生まれのやつはけっこうあか抜けてないやつ多いですよ。だからそこが東京に対する幻想に三葉が惚れたって話したじゃない、だから三葉の中にある、るるぶ東京の中にいる瀧君っていうのにほれたんで、実際に彼女が好きになったのは人格ではなく東京イメージ。だから、ニューヨークに住んでらっしゃるんですか。で好きになっちゃうみたいな。

「ハーバードなんですか!」で好きになっちゃうスペック。要するにそこにチューニングしてるもんだから、女の子たちは瀧君のことどうでもいいんだよ。「瀧君はOKな人」ってぽーんって入って来る。強引にチューニング合わされちゃってるから。

だけどちょっと待ってくれと。男たちよ、あれチューニングされてるからねって話で。

瀧君は人に興味がない

乙君:おまえが真似しても無理だぞと。

山田:そう。瀧君がやっている、恋愛においてやっちゃいけないことってたくさんあるんです。まずデートして会話ができないのがだめでしょ。あと奥寺さんとデートするときに奥寺さんを見てないんだよねあの人。

乙君:そう、みてない。三葉のことばっかし。

山田:いや三葉を好きっていうよりはぼんやりしてるんだよね。だから奥寺さんって記号になるじゃん。すてきな女っていう記号じゃん。あれもただのスペックなの。ここに出てくる全部が記号化された世界のなかで。だからなんか『インサイドヘッド』の中盤を思い出すよね。

乙君:あー。

山田:だから記号なんだよ、人が。それにお怒りになってるんでしょ。

久世孝臣氏(以下、久世):それですね。

山田:演出家の久世さんは。

久世:それです。

乙君:やめてたたばこを始めるってあるじゃないですか。ちらっとやっといて責任持たないから「うーわ」ってなるんですよ。

山田:だから、こっちとしては奥寺さんの中の女を見せてほしいわけ。

乙君:そう。親友とくっついちゃうとか。

山田:そう。なんでもいいんだよ。ドラマでそれを見せられるはずじゃん。それを瀧君の目線で見るとこが入ればいけると思う。

あともう1個、めちゃめちゃ大事な部分ですけど、やっちゃいけない。男友達大事にしてないですよね。あいつ。

久世:そう、ぜんぜん大事にしてない。

山田:男友達を大事にしてないんだよあいつ。「わりー俺バイトだから」とかいって、だから三葉に入れ替わっている時のほうが仲良くなってて、「おまえいい感じだな」とかなってて、でも自分自身が瀧君本人になったとき、瀧君の人格がのった瞬間になんか周りに関して関心がない人なんだよ。情景とか状況みたいなものに関心はあるかもしれないけれど、空とか雲とかには関心があるかもしれないけど、人に興味が無いように見えるんだよね。これはなかなかすげーなって。

で、彼が見ているのは、スケッチをしてるんだよね。だから上物のスケッチをしてる。「建築が好きです」「建築家になりたいんだ憧れてるんだ」とか言って街のスケッチしてたり建築が好きって、要は箱ものですわ。人じゃないんだよ。「コンクリートから人へ」じゃない。あいつコンクリート見てるんですよ。だから「コンクリートから人へ」にしてください(笑)。

なんか懐かしい行政改革みたいになりましたけど、それが瀧君に必要な政治改革ではないかと。

乙君:瀧改革。

山田:瀧改革かと私は思う。政治家みたいになりましたけど(笑)。

アイドルを見ている人間と一緒

山田:結局「物事の表面しか見てないような男じゃだめだぞ」っていうことを言いたいわけなんだよ。あれに感動してかまわない。運命の人を待ってもかまわないけど、ガワだけ見てるようだったら絶対にその底の浅さは女子にはばれるぜって話ですよ。

乙君:最後あの「ゼーット」の人になってた(笑)。なるほど。確かにスケッチしてましたもんね。

山田:だからすごい閉じてて。それをスケッチで俺が作った建物で美術館に来た人が満足してくれる空間、時間を持ってもらいたいんだとか、そこに来てくれた人が幸せになってくれるものを作りたいんだとかいうところがつながってりゃいいんだよ。そのへんが漠然としてて。

久世:ふわふわふわってなってる。

山田:でもほとんどの人はそうかもしれないんだけど、そのステージは上がれよっていう。そこにいたらだめだぞっていう。底の浅さって、要するにくらたま(倉田真由美)が言ってた「夢語ってちゃだめじゃん」。「夢語ったらいいじゃん」って言った時の俺を、「夢語ってるようじゃだめじゃん」って君ら笑ったでしょ。その時の夢の種類に入るんだよ、この彼の夢ってのはさ。だから建築会社に入らないってか設計事務所に入らないってところがもうすでに、ザハ(・ハディド)に弟子入りしろよって話じゃん。

乙君:ザハに。新国立のね。

山田:あんなにお金もらえるザハのとこに行けよ、とりあえず。安藤(忠雄)のとこ行けよって。まあいいんだけどさ。

乙君:誰でもいいですけど。

山田:だからさっき、君(乙君)の話はちょっと腑に落ちるところもあるんだけど、結果的に「君」みたいなこと言ってんだけど、「僕」しか見てない人なんだよこの人。

乙君:そうですそうです。自己愛なんですよ。自分を探してずーっと。

山田:そう。だからこれなかなかおぞましい話ですけど、アイドルっていうものを見ているときの人間っていうのは実はこういう構造になってるわけじゃん。だからアイドルってPerfumeの後ろにヤスタカがいます。ヤスカタがおまえら男たちにとって「理想のダンスを踊れ!」「理想のコメント言え!」「よけいなことは言うな」「情念はひっこめろ」ってPerfumeを踊らす。AKBを動かす。

みたいな感じで成り立ってるのは、要するにアイドル産業っていうのは中を空間にしてガワだけ美しい女子、中身の女なるもの、情念なるもの、人格なるものみたいなものはお好きに想像してくださいと、だから情報を遮断する。それでイメージ戦略するみたいな感じになってる。どうもこれ三葉っていうアイドルの中に自分が入ったっていう状態に見えるわけだよね。つまり三葉がPerfumeでヤスタカになっている状態っていうか。

乙君:複雑やなー。

山田:いやいや。AKBでもいいんですよ。AKBで。

乙君:そこ替わるだけ?

山田:やすすが入った。そうするとガワしか知らないんだよやっぱり。でも物語の展開として中に入ったことによって三葉の人間関係で「この人こういうふうに愛されてるんだ」「こんなこと言ってたんだ」みたいな、それは同時に瀧君でもできたわけ。瀧君の行動によって瀧君の周りの世界が瀧君を愛してる、瀧君のレスポンスで生まれてるっていうふうにして好きになるっていう展開はできたはず。

でもそこのチューニングはがーって下げられてる。むしろだから川村チューニングで唯一効いてなかったスイッチがそこ。だったかな。だからそこを上げてればこれは名作に近づいたかなって気もするんだよねー。