米国利上げがもたらす影響

記者8:エモトです、いつもお世話になります。2点ございまして、繰り返しになるかもしれませんが、FEDが来年は利上げをおそらく複数回するようにお見受けするんですけれども、その状況で、10年(物国債金利)ゼロ(0パーセント程度目標)でペグ(釘付け)していますと、自然に考えると、円安が進み、物価が上がるのかなと。

これは望ましい状況という理解でよろしいでしょうか? ある種急激な円安の場合には、少し相場判断が必要になるのか、今のように(物価安定目標)2パーセントが……という状況では、金融資産が拡大すればするほど望ましいということなのか、確認させてください。

それと、9月に導入された10年ゼロという調節目標ですけれども、これは当時は「キャップなのかな」という理解が多かったんですけど、もしかしたら今後の状況ではある種、フロア的に理解したほうがよろしいのか、そこについてもよろしくお願いします。

黒田:まず、後者のご質問の点で言いますと、キャップとかフロアとか言うものではなくて、1パーセント程度が操作目標(※実際の目標は0パーセント程度)でありまして、別に上下非対称になったり、「これ以上ぜったいに上がっちゃいけない」とか「これ以上下がってはいけない」というようなシーリングとかフロアとかいう意味ではなくて、あくまでも操作目標ということであります。

それから、FEDが今後どのような金利を決定していくかということは、私から何かコメントするのは差し控えさせていただきたいと思いますが、いずれにいたしましても、FEDは従来から米国の金融政策の目標である物価の安定と雇用の極大化ということを……失礼、さっき「1パーセント」といったんだけれども、0パーセント程度の間違いです。失礼しました。

物価の安定と雇用の極大化ということを目標として、適切な金融政策を運営されてきたと思っておりますし、今後ともそうされるだろうと思っております。

なお、為替につきましては、いつも申し上げていますように、金利格差というものも一定の影響をあたえるかもしれませんが、為替に対する影響というのはいろんな要素がありますので、今から何か決め打ちをして「こういうふうになるだろうからどうこう」ということはあまり生産的でないと思います。

いずれにいたしましても、私どもの「長短金利操作付き量的質的緩和」というのはあくまでも2パーセントの物価安定目標をできるだけ早期に実現するためのものでありますので、そういった観点から経済、物価、金融情勢を見ながら適切な運営を行ってまいりたいと思っております。

長期金利目標の引き上げは「時期尚早」

記者9:テレビ朝日のマツモトと言います。今の件に関して、逆に言うとオーバーシュートコミットメントも導入されているように、物価が2パーセントを超えていくところも許容されておりますので、逆に長期金利のターゲット引き上げというのも、物価が2パーセントを達成するくらいでないと行わないという理解でよろしいのでしょうか、というのが1点。

もう1点は、年内最後の決定会合でありましたので、今年を振り返っていただいて、歴史的な1年だったと思いますので、どのように受け止められているのか、感想を教えていただけますでしょうか。

黒田:前段の点につきましては、オーバーシュート型コミットメントというのをはっきりと言っておりまして、「生鮮食品をのぞく消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2パーセントを超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する」ということであります。

また、長短金利操作付き量的質的金融緩和、この金融緩和全体のものとしては、「これは2パーセントの物価安定目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要である」とこれは前から言っていることですけれども、やるということであります。

そうしたもとで、長短金利操作付き量的質的金融緩和における短期の政策金利と長期金利のその操作目標につきまして、今ご指摘の0パーセントという10年物国債の金利の操作目標につきましても、毎回の金融政策決定会合において議論されるわけであります。

先ほど来、申し上げているように2パーセントの物価安定目標への距離はまだまだ遠いわけですので、今からそういうことについて具体的に議論するのは時期尚早かなと思っております。もう1つはなんでしたっけ?

記者9:今年を振り返ってみて……。

2016年の日銀の金融政策

黒田:それは、先ほども少し申し上げましたけれども、2016年は年初から新興国経済、とくに中国経済の減速等を背景に国際金融市場が不安定な動きになったわけですし、その状況が続くなかで、石油価格も一時30ドルを割るということにもなりました。

6月下旬の英国の国民投票では、EU離脱の方針が示されるということで、いろいろと海外経済における不確実性の高まりが意識されたということで、世界経済に対する悲観的な見方が広がっていたような感じがいたします。

また、日本国内だけにとりましても、そういった影響から為替や株等にいろんな影響が出たということでありました。さらには、いろいろな天候不順等から、消費にも一部弱めの動きが出るということもありました。

そうしたなかで、日本銀行としては、1月にマイナス金利政策を導入したほか、7月にはETFの買い入れを増額すると。さらには、外貨資金調達環境の安定のための処置をとりました。この9月には、ここ3年半の金融政策に対する総括的な検証を経て、この長短期金利操作付き量的・質的緩和を導入したわけでございます。

このように、できるだけ早期に2パーセントの物価安定の目標を実践する観点から、さまざまな対応を行ってきたというところであります。

年の後半にかけましては、先ほど来申し上げましたとおり、新興国の成長のモメンタムが緩やかながら高まってきたということもありますし、世界経済全体としても上向きつつあると思います。

また、我が国の経済につきましても、先ほど来申し上げたとおり、輸出生産の持ち直しが明確になっておりますし、個人消費につきましても、雇用・所得環境が改善するもとで、持ち直しをした指標が増えてきていると見ております。

従いまして、日本銀行としてはできるだけ早期に物価安定の目標を実現するために長短期金利操作付き量的・質的緩和のもとで金融緩和を着実に推進してまいりたいと考えております。

過熱する地銀の不動産融資への懸念

記者10:東京新聞のアツミと申します。金融機関の貸出態度についてうかがいたいんですけども、業種別に見た場合に、どうしても不動産の方の割合が非常に高くなっておりまして、運用先のないということの表れだと思うんですけれども。

そのあたりをどう受けとめていらっしゃるのかという点と、そのなかでも、とくにアパートローン・貸家関係が明らかなバブルではないかという指摘が多いと思うんですけど、そのあたりも含めてお願いいたします。

黒田:不動産向けの貸出が増えているというのは事実であります。ただ、半年に1回の金融システムレポートでも報告しておりますとおり、現時点で不動産市場で異様な行き過ぎがあったり、あるいは不動産関連への貸出が非常に行き過ぎて、金融機関のリスク管理上の悪影響が出るのではないかという懸念があるという状況には、まだなっていないと見ております。

金融機関の貸出を見ますと、確かに地域金融機関で貸家業向け、いわゆるアパートローンというんですか。貸家業向けの貸出の伸びが高まっていることは事実ですけれども、この背景には、やはり地域でも郊外から市街地へ人口が移動するということで貸家需要、いわゆる実需も増えているということもあるのではないかと思いますので、そういうことに応じて貸家の着工が増えていると。それをファイナンスするというかたちで増えている面があると思っております。

今のところ、マクロ的な貸家の需給バランスが、金融機関のリスク管理による大きな問題が生じているとは見ておりませんが、この貸家業向けの貸出というのは非常に長期にわたるものが多いものですから、金融機関に対しては、やはり「実行段階で各物件ごとに収支見通しをちゃんと見てますか」ということだけでなく、実行後の物件の状況変化も早期に把握して、適切なリスク管理をするように促してまいりたいと思っております。

ですから結論として、現時点で何か問題が起こっているということではないと思いますけれども、今言ったような、金融機関におけるリスク管理という面ではしっかりとしていくように促していきたいと思っております。

日銀のETF買い入れの方針

記者11:朝日新聞のフジタと申します。先ほどETFの増額について出たのをいま一度確認したいんですが、7月の倍増したときは、英国のEU離脱をきっかけに世界の不確実性が高まって、投資家の心理が冷え込まないように導入したという説明があったかと思います。

今日のお話だと、実体経済が意外にしっかりしていて、市場もそれをわかってきたというご説明だったかと思いますが、いま一度、ETFの買い入れ額を減らしたり元に戻したりする状況、条件についてわかりやすく教えていただけますでしょうか。

黒田:先ほどから申し上げておりますように、ETFの買い入れというのはあくまでも市場全体のリスクプレミアムに働きかける観点から実施しているものであります。

したがいまして、確かに先ほどから申し上げているように、日本経済の景気について、見方を一歩前進させたわけでありますし、そういったことが株価にもなにがしか反映されているということは十分ありうると思いますけれども、今の時点でETFの購入を減らすという判断は適切ではないと思っております。

どういった状況になればそれをするのかというのは、これはそのときの株式市場を含めた金融市場全体の動向や経済の動向によって、先ほどから申し上げておりますように、長短金利操作付量的・質的金融緩和全体のなかで考えていくことになると思っておりますので、なにかこれだけ取り出して、「株価が上がったからやめる」とか、「株価が下がったから拡大する」といったことは考えておりません。

「金融政策限界論」への見解

記者12:日本経済新聞のスゲノと申します。今年を振り返るという話がいくつかありました。多少俗っぽい話で恐縮なんですけど、大賞ではないですが、「マイナス金利」という言葉が今年の流行語の1つであるという話になりました。

要するに、日銀がやっている金融政策がいかに人々の暮らしに結びついているかと。その彼らの心理に働きかけるということが重要だったところだと思うんですけれども、その点について、総裁が十分にそのあたりの説明ができたのか、できているならできてると。それならどういう理由なのかということをおうかがいしたいのが1つ。

それからもう1つはそれに関連しますが、今年を振り返ると、「大胆な金融政策をするのはいいんだけれども、若干限界というものがあるんじゃないですか」と。反作用的な話ですね。

とくに家計部門などにネガティブな反応があるんじゃないかということが世界的に言われて、「金融政策が1本足打法ではいかん、やっぱり財政とか構造改革とかやらないかんね」という話が中央銀行の議論でもあったと思いますが、このあたりについてどのような手応えをお持ちなのかおうかがいしたいと思います。

黒田:コミュニケーションの面では、いろいろなかたちで政策委員会のメンバーもスタッフも努力してきていると思いますし、改善してきていると思いますけれども、もう改善の余地がないのかと言われると、そうでもないと思っております。

ただ、マイナス金利の導入の際、そういう新しい金融政策の手段を導入する際に、事前に説明するということは、実際問題として非常に難しいわけであります。

したがいまして、コミュニケーションの改善ということが、金融政策を事前に話して、それをあとで政策決定会合で後付けしていくというようなかたちのコミュニケーションというのはおそらく難しいだろうと思います。

ただ、ご指摘のような、いろんなかたちで市場あるいは国民一般の方に向けて、コミュニケーションを強化していくことは必要であるし、また十分可能だと思いますので、今後とも努力してまいりたいと思っております。

金融政策の限界論というのは、いろんなパターンがあって、一概に言えないんですけれども、金融政策、経済政策もなんでもそうですけど、一定の政策をやった場合に、その副作用というか反作用というものがありうるということは十分考慮しなければならないわけですけれども、なんか壁のように、特定のところでこれ以上進めなくなるという、そういう意味での限界があるとは私は思っておりません。

したがいまして、その限界論というのが、例えば「もう国債は買い入れできない」とか、あるいは「もう金利は下げられない」とか、何か壁があってそれ以上できないというものがあるとは思っておりません。

金融政策であれ、なんの政策であれ、それに伴う副作用というものがありうるということには十分留意して、その影響を考慮しつつも、やはり必要な政策は行っていくということに尽きるのではないかと。それは各国の中央銀行も同様に考えてやっておられると思います。

長期国債購入額「年間70〜80兆円」は適正か

記者13:ブルームバーグニュースのフジオカです。今日の総裁の発言を考えてみると、総裁としては長期金利について、今、とくに問題のある水準にいってるとは思われないと。

もし長期金利が海外などの要因で上がってきた場合、例えば0.1パーセント越えてくるような場合は、とくに長期金利のターゲットを上げるというよりも指値オペとか、そういったもので対応できるという理解でよろしいのでしょうか?

あともう1つ、今の足元の日銀の国債購入のペースを見ると、来年末、だいたい70兆円強ぐらいになるという見方がありますけれども、これについては総裁はとくに問題はないというお考えでよろしいでしょうか?

黒田:まず、長期金利の操作目標、10年物国債の操作目標については、0パーセント程度としておりますので、きっちり0パーセントでなくちゃいけないとか、あるいは±0.1パーセントを越えてはならないとか、越えてもいいとか、そういうことはあまり意味のある議論でないと思います。

0パーセント程度というところで、政策委員会から執行部に対してディレクティブが来てるわけですので、それに沿って必要な措置を取ると。

これまでも短いところで指値オペをやりましたし、超長期のところで若干国債購入額を増やすというようなこともやっていますけれども、いずれも0パーセント程度、短期の政策金利を−0.1パーセント、10年物国債金利を0パーセント程度という調節方針に沿って適切なイールドカーブが形成されるようにオペを行ってきたし、今後とも行っていくということであります。

なお、今回の金融政策の調整方針にも述べられておりますとおり、国債の購入額については現状程度、80兆円程度というのを目処として行っていくということに尽きると思います。

今後どのようになっていくかというのは、これはあくまでも適切なイールドカーブを実現するということの結果として出てくるものであると思いますが、当面、現状程度、80兆円程度の国債購入が続いていくものと考えております。

量的・質的金融緩和の出口論

記者14:朝日新聞のハラです。出口論についてうかがいたいと思います。総裁、かねてから「出口論を議論するのは時期尚早だ」とおっしゃっているわけなんですが、先ほど「2パーセントの目標はまだまだ遠い」とご自身もおっしゃっているように、このままですと、総裁の任期中に出口論を議論する時間はもうないということになるんですが、任期中にはもう出口論は議論はされないのか、ということと。

だとすると、そもそも出口論、平和的な出口の手段を持ち合わせていないのではないかという疑念も浮かび上がってくるのですが、その点について総裁のお考えをお聞かせください。

黒田:出口論云々につきましては、従来から出口にあたっては、金利水準の調整あるいは拡大した日本銀行のバランスシートの扱いなどが課題になるということは申し上げていますが、それを実際どのようなかたちで進めていくかというのは、その時々の経済・物価情勢、あるいは金融市場の状況などによって変わりうるものでありますので、早い段階から具体的なイメージをもってお話しすることは適当でないと。

これは、市場との対話という観点からも、かえって混乱を招く恐れが高いと思いますので、適切な時期にまさに出口論を議論していくということになると思います。

その出口論がいつ行われるかということを事前に申し上げるわけにいかないのは、あくまでもその時々の経済・物価情勢、あるいは……とくにこの2パーセントの物価安定目標との関連で議論しなければなりませんので、今からいつということは申し上げられないということであります。

したがいまして、私の任期は2018年の4月だったと思いますけれども、そのときまでに具体的な出口論が出てくるか出てこないかということについても、今から申し上げることはできないと思います。議論になる可能性もありますし、そうでないかもしれません。

司会者:それではこれで終わらせていただきます。お疲れさまでした。