金融政策決定会合後の記者会見

記者1:幹事社の共同通信です。冒頭3つ質問をさせていただきます。まず、今回の決定の背景について簡潔にお聞かせください。

黒田東彦氏(以下、黒田):はい。本日の決定会合では、長短金利操作、いわゆるイールドカーブ・コントロールのもとで、これまでの金融市場調節方針を維持するということを賛成多数で決定しました。

すなわち、短期金利について日本銀行当座預金のうち、政策金利残高にマイナス0.1パーセントのマイナス金利を適用するとともに、長期金利について10年後の国債金利が0パーセント程度で推移するよう、長期国債の買い入れを行います。

買い入れ額については、おおむね現状程度の買い入れペース、すなわち保有残高の増加額、年間約80兆円をめどとしつつ、金利操作方針を実現するよう運営することとします。

また、長期国債以外の3買い入れについては、これまでの買い入れ方針を継続することを賛成多数で決定しました。

国内景気は「緩やかな回復基調」

我が国の景気については、「緩やかな回復基調を続けている」と前会対比、判断を一歩進めました。やや詳しく申しますと、海外経済は新興国の一部に弱さが残るものの、緩やかな成長が続いています。

そうしたもとで輸出は持ち直しています。国内需要の面では企業収益が高水準で推移し、業況感も幾分改善するなかで、設備投資は緩やかな増加基調にあります。

また、雇用・所得環境の着実な改善を背景に、個人消費は底堅く推移しているほか、住宅投資も持ち直しを続けています。この間、公共投資は横ばい圏内の動きとなっています。

以上の内外需要の緩やかな増加に加え、在庫調整の進捗を反映して、鉱工業生産は持ち直しています。また、金融環境については極めて緩和した状態にあります。先行きについては、我が国経済は、緩やかな拡大に転じていくと見られます。

国内需要は極めて緩和的な金融環境や、政府の大型経済対策による財政支出などを背景に、企業・家計の両方において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、増加基調を辿ると考えられます。

輸出も、海外経済の回復を背景として、基調として緩やかに増加すると見られます。物価面では、生鮮食品をのぞく消費者物価の前年比は、小幅のマイナスとなっています。予想上昇物価率は弱含みの局面が続いています。

2パーセントの物価安定目標の実現に向けて

先行きについては消費者物価の前年比はエネルギー価格下落の影響から、当面小幅のマイナスないし0パーセント程度で推移すると見られますが、マクロ的な需給バランスが改善し、中長期的な予想上昇物価率も高まるにつれて、5パーセントに向けて上昇率を高めていくと考えられます。

リスク要因としては、中国をはじめとする新興国・資源国の動向。米国経済の動向やその下での金融政策運営が、国際金融市場に及ぼす影響、英国のEU離脱問題の帰趨やその影響。金融セクターを含む欧州債務問題の展開。地政学的リスクなどが挙げられます。 

日本銀行は、2パーセントの物価安定の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、長短金利操作つき量的質的金融緩和を継続します。

また、生鮮食品をのぞく消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2パーセントを超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続します。

今後とも、経済、物価、金融情勢を踏まえ、物価の目標に向けたモメンタムを維持するため、必要な政策の調整を行います。

アメリカ大統領選の影響

記者1:2問目です。アメリカの大統領選以降、足元で大幅な円安が進んでいます。EU物価の上昇を通じて、物価の押上げ方向に働くと思われますが、2018年頃と見込んでいる2パーセントの物価上昇目標の達成時期などへの影響をどのようにごらんになりますか。

黒田:一般的に、円安は輸入物価の上昇を通じて、直接的に物価の押上げ要因として作用するということはそのとおりであります。

また、やや長い目で見ますと、需給ギャップや予想物価上昇率の改善などを通じて、間接的に物価に影響する経路も考えられます。

我が国の景気や物価の先行きの見通しにつきましては、今後の金融市場の動向も踏まえつつ、次回の決定会合で十分議論して、展望レポートでお披露目することになると思います。

記者1:それから、同じく大統領選後、株価も先週末まで7日連続で終値の年初来高値を更新するなど、堅調な状態が続いています。

市場への過度な介入との批判もある6兆円のETF(上場投資信託)の買い入れですが、これはまだ必要なのか。またどういう状況になれば縮小を検討できるのか、お考えをお聞かせください。

黒田:これは、日本銀行によるETFの買い入れということは、量的質的金融緩和の枠組みの1つの要素でありまして、資産価格のプレミアムに働きかける観点から行っておりまして、ご案内のとおり、特定の株価水準を念頭に置いて実施しているものではありません。

したがいまして、ETFの買い入れにつきましても、2パーセントの物価安定の目標をできるだけ早期に実現するために必要な政策であると考えており、今回も現行の買い入れ方針を維持するということにしたわけであります。

先行きにつきましては、経済、物価、金融情勢を踏まえて、金融政策決定会合において適切に判断していくことになると思います。

記者1:ありがとうございます。各社お願いします。

景気判断引き上げの背景

記者2:時事通信社のタカハシと申します。よろしくお願いいたします。先ほども(お話に)ありました、足元にあるトランプ相場、株高円安が進んでおりますが、今回の景気判断の1年7ヶ月ぶりの引き上げに関しての影響はどの程度あったのか、もしくはなかったのか。

同じく2点目として、企業マインドの好転などにもつながっていると思うんですけれども、今後の景気の見通しに対する影響をどの程度見ていらっしゃるのか教えてください。

黒田:今回の景気判断の引き上げの背景といたしましては、主として以下のような3つの点があったと思っております。

第1点は、海外経済につきまして、米国をはじめ、先進国経済が順調に推移するもとで、新興国経済の減速感がやわらいでいるということがあると思います。

2番目には、そうした海外経済の改善を受けまして、これまで横ばい圏内の動きを続けてきた我が国の輸出や生産に、持ち直しの動きがはっきりと出てきたということであります。

第3に、個人消費についても、本年入り後、年前半には一部弱さが見られていましたけれども、雇用所得環境が着実な改善を続けるもとで、このところ持ち直しを示唆する指標が増えてきているということでありまして、こういったことが景気判断を引き上げた背景にあるということが言えると思います。

米国のトランプ政権の政策がどのようなものになるかというのは、まだこれからのことですので、なんとも申し上げかねるわけですけれども。

おそらく質問された方の頭の中にあったように、マーケットは、米国が新しい政権のもとで減税、あるいはインフラ投資などの積極的な経済政策を行うという期待もありまして、米国において株が上昇し、金利が上昇し、ドル高になっているということであります。

それが一定の影響を持ってくる可能性は十分あると思いますけれども、先ほど申し上げたように今回の景気判断の引き上げの背景自体は、先ほど申し上げたような海外経済の改善、それから国内での輸出や生産の持ち直し、そして個人消費について持ち直しを示唆する指標が増えてきたということによるものであります。

また、今後の景気の動向につきましても、今回の対外公表文にもあるとおりでございまして、基本的に順調に景気が回復していくというか、潜在成長率をかなり上回る成長が今後とも続いていくと見ております。

その背景にもトランプ政権の政策というものの影響がありうるとは思うんですけれども、現時点でトランプ政権の政策というものは、方向は非常に明確に出されていますけども、具体的にどのような規模の政策をどのような手順で行われるのかというは、まだ政権が発足しておりませんので、今後の政権の動向を見ながら、そういったものの日本の景気への影響も十分考慮していくことになるということになりますが、現時点では先ほど申し上げたようなことでございます。

記者2:ありがとうございます。

円安ドル高に対する金融政策

記者3:ロイターのイトウです。現在の政策の枠組みのもとでは、物価が目標とする2パーセントに達する前に、長期金利の目標を引き上げるということも可能だと思うんですが、総裁ご自身が、長期金利目標の引き上げが可能な経済・物価・金融情勢というのがどのような状況になればそういうことを検討されるとお考えなのか教えてください。

あと関連でもう1点、為替市場で円安進行している背景で、日米の金融政策の方向性の違いが指摘されてるんですけども、今後さらに円安が進行して、日本の消費等に悪影響が及ぶような情勢になった場合、そういった円安の副作用を回避するような目的で長期金利目標を引き上げる選択肢もあるのかどうか、この点について教えてください。

黒田:まず第1の「イールドカーブ・コントロール」といいますか、この「長短金利操作」。この点につきましては、現在の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」というものが2パーセントの物価安定の目標をできるだけ早期に実現するためのものでございますので、そのもとで経済物価金融の情勢を踏まえて2パーセントの物価安定の目標に向けたモメンタムを維持するために、もっとも適切と考えられるイールドカーブの形成を促していくということに尽きると思います。

そうしたもとで、長期金利操作目標についても、こうした考え方にとって、金融政策決定会合において判断していくことになると思いますが、現状、2パーセントの物価安定の目標までにはなお距離がありまして、これをできるだけ早期に実現するためには、現在の金融市場調節方針のもとで、強力な金融緩和を推進していくことがもっとも適切であると考えております。

それから、金利政策は為替にターゲットされておりませんので、ご質問の点に直接お答えすることになるかわかりませんが、現在の為替の状況というのは円安というよりもドル高でして、全世界のほとんどの通貨が、先進国、途上国、新興国問わず、ドルに対して弱くなっている、ドル高の状況であると思っております。

そうしたなかで、金融政策の違いというのがなんらかの影響を為替に与えうるとは思いますけれども、今の時点でなにか円安が行き過ぎて問題になるとかそういった見通しは持っておりません。

現在の為替の水準というのは確か今年の2月頃の水準ですので、別に驚くような数字だとも思っておりません。

長短金利操作付き量的・質的金融緩和の効果

記者4:テレビ東京のオオエと申します。イールドカーブ・コントロールを導入して3ヶ月ほどが経ちますけれども、うまく機能していると見ていらっしゃるでしょうか。

また導入時と今とを比べて、日銀が理想とするイールドカーブというのは変わってきているのでしょうか。

黒田:端的に申し上げて、イールドカーブ・コントロールというか、長短金利操作付き量的・質的金融緩和はうまく機能していると思います。

9月に導入したときも、その後の金融政策決定会合でも議論しましたし、今回も議論したわけですけれども、イールドカーブ・コントロールのもとで、現在適切なイールドカーブが形成されていると思っております。

国内の家計・雇用情勢改善への展望

記者5:読売新聞のイチガヤです。2つ質問があります。今回、トランプ相場で株高円安ということになっているんですけれども、今の現状を総裁は思わぬ追い風と、金融政策運営ですとか、物価目標達成という意味でどのように受け止めていらっしゃるのかということをお聞かせください。

もう1点は、景気判断を引き上げていらっしゃいますけれども、まだ家計のほうで実感が深くされているとは到底思えない状況だと思います。

前回もなさっていたと思いますが、例えば企業への賃上げ要請ですとか、そういったかたちでの取組みもされていくのでしょうか。そのあたりをお聞かせください。

黒田:まず第1点、今年の状況を振り返ってみますと、とくに今年の前半、新興国経済の減速などを背景にして、国際金融市場が非常に不安定な動きになったわけです。

さらには6月にいわゆるBrexitが国民投票で示されるなど、いろいろな面で海外経済の不確実性の高まりというものがあり、それが円高とか、あるいはその下での株安等に影響したことは事実だと思います。

その下でも、実は世界経済自体は、前半のいろんな悲観論にもかかわらず、米国も欧州も、そして日本も、さらに言えば新興国も、中国を中心として、減速してると言われてましたが、年の後半になってみると、むしろそのような状況にはないという。

実体経済がかなりしっかりしてきたことがわかってきたということ、そういう下で、今のような市場の動向が起こっている面もあると思っております。

したがいまして、追い風かと言われるとですね(笑)、向かい風だと言うつもりもないんですけれども、むしろ前半に向かい風があったのが、向かい風がなくなったということかなと思っております。

それから家計の実感云々というのは、これは非常に重要な点でありまして。ご承知のとおり、雇用・所得環境はずっと改善しております。

失業率は3パーセントですけれども、小数点以下を見ると2.9いくつとなっていまして、3パーセントも久方ぶりに割っているぐらいの雇用情勢です。

賃金も、企業収益の好調さとか労働需給のタイトさに比して、やや上昇が鈍いのではないかとも言われていますけれども、例えばパートの賃金などが非常に大幅に上がっているとか、来年の春闘に向けていろいろな動きが出てるんですね。賃金が上昇していく環境というか基盤は十分整っていると思っております。

したがいまして、まったく家計の実感が感じられてないということでもないとは思うんですけれども、やはり春闘を通じて賃金が十分上昇していくということは、おっしゃるように、家計の実感もより確かなものになり、消費の底堅さがさらにしっかりしていくと思いますので、そういう点では期待をもって春闘の動きは注目をしております。

長期金利目標引き上げの可能性

記者6:NHKのヨシノです。先ほど為替の水準について、総裁は「驚くような水準ではない」とおっしゃいましたが、今後さらにドル高・円高方向に進んでもおかしくないとお考えなのか。これが1点。

もう1つは最近の長期金利の上昇の背景要因としまして、アメリカの金利に連動した動きだけだというのではなくて、日本経済の回復・改善というものも背景にあるとお考えなのかどうか。その場合は多少の金利上昇を容認するということにはならないのか。この2点をお願いいたします。

黒田:先ほどの為替については、水準について具体的なことを申し上げたつもりはありませんので、そこは誤解がないようにしていただきたいと思いますけれども、為替に金融政策がターゲットしているわけではありませんし、為替政策は我が国においては財務省が一括して責任を負っているわけでありますので、私から為替の動向についてあまりとやかく言うのは適切でないと思っております。

ただ、すごく「円安、円安」とみんなが言うもんですから、「今年の2月くらいのところに戻っただけですね」と事実を申し上げたわけであります。

それから、長期金利がいろいろな状況で動いているということはあると思いますし、あるいは市場の期待が上がってきているということもあるのかもしれません。

ただ、私どもとしては、イールドカーブ・コントロールというかたちで、適切な、まさに2パーセントの物価安定の目標に向けたモメンタムを維持するために、もっとも適切と考えられるイールドカーブの形成を促すために、現在のイールドカーブ・コントロールというのをやっているわけですので、なにか海外金利が上昇するのに乗じて当方の長期金利も上昇していいとか、操作目標を引き上げるということはまったく考えておりません。

日銀による「指値オペ(国債買入)」実施の意図

記者7:ブルームバーグのヒダカです。財政について、日銀のイールドカーブ・コントロールや大量の国債買い入れが、金利を非常に低い水準に抑えることによって財政を弛緩させているのではないかという批判をよく聞きます。

もっとも、黒田総裁がそういった考えに与しないということは重々承知しているんですけれども、以前に同じような質問があったかと思うんですが、財政の規律が今後仮に失われたとしても、これはやはり金融政策のせいではない。そういうふうにお考えなのかどうかというのをまず1点お聞かせください。

それと、最近イールドカーブ・コントロール、長期金利が、ターゲットの0パーセントから上昇基調にあるということで、一度は指し値のオペを中期ゾーンに入れました。

その後に、今月になって、超長期ゾーンの買い入れ増加をなさいました。すべて金融調節の現場の判断が主だと思うんですけれども、今までのところ、例えば10年国債の入札のときには10年の借入を行わないとか、そういった暗黙の了解みたいなものがあると思います。

ただ、こういった海外の要因で国内の金利が上昇する際には、可能性として、例えば10年国債があるときに、10年の指し値を行わなければいけないとか、10年の国債買入を増額しなければいけないとか、そういうことも選択肢としてとらなければならない状況になるやもしれません。

たとえそうなっても、これは財政支援、財政の資金調達を支援しているのではないと言い切れるのかどうか。

直接引き受けという禁じ手をとらなければ、財政支援、財政ファイナンスではないとお考えなのかどうか。その点をお聞かせください。

黒田:私も財政規律は非常に重要であると考えておりますが、これは中央銀行がコントロールする話ではなくて、政府と国会が決められる。そこに責任があり、権限がある。これがデモクラシーの基本であると思っております。

それから、指し値オペを行ったこととか、超長期国債の買い入れを若干増額したこととかですね。

これらは金融政策決定会合で決まった方針にしたがって行っているものでありまして、その方針のもとで適切なイールドカーブの形成を促すという観点からこういったことを行ったわけでして、今後とも必要があれば随時行うわけであります。

どこのゾーンにしてはいけないとか、どこのゾーンですべきだとかそういうことはまったくなくて、あくまでも金融政策決定会合で定められた調整方針にしたがって、適切なイールドカーブの形成を促すために必要に応じていくということだと考えています。