2人だけで95分間会談を実施

司会者:それでは、みなさまからご質問をお受けいたします。質問は日本のプレス、ロシアのプレス、それぞれ順に2問ずつお受けいたします。日本側のプレスの質問は私が、そしてロシア側のプレスの質問はウシャコフ大統領補佐官がそれぞれ訳しますので、指名された方は所属とお名前を述べた上で安倍総理への質問か、プーチン大統領への質問かを明らかにした上で質問をしていただければと思います。

それでは日本側プレスの質問からお受けしますので、どうぞ。

記者1:北海道新聞のヒラハタです。安倍総理におうかがいします。16回目となる今回の会談ですが、領土問題そのものに関して総理は手応えを得ることができたのか。それとも、双方の認識にまだ隔たりがあるのか。具体的な会談でのやり取りも含めてお話いただければと思います。

総理は今ほども「時間がない」との元島民の気持ちを強調されましたが、領土問題にはまだ相当な時間がかかるという認識でしょうか。また、今後協議する共同経済活動について日本政府は法的立場を害さないことが前提条件との立場ですが、今回の特別な制度というのはこの立場を変更するものではないと受け止めてよいでしょうか。よろしくお願いします。

安倍晋三氏(以下、安倍):このたびは私の地元である長門市でお迎えをいたしました。そして昨日は、夜の11時35分まで約5時間、会談を行いました。そして2人だけで95分間、膝を突き合わせて、2人だけの会談も行いました。じっくり話し合うことができたと思います。その結果、平和条約の本来の解決をするという真摯な決意を、両首脳の真摯な決意を示すことができたと思います。

解決にはまだまだ困難な道が続きます。なんと言っても70年間、解決できなかった問題でありますし、長い間、交渉すらしてこなかった時代すらありますが、今回まずはしっかりとした大きな一歩を踏み出すことができたと思っています。

また、先ほどご紹介していただきましたが、元島民の方々からいただいたお手紙をお渡しをし、その場で1枚は大統領に読んでいただきました。島民の気持ちそのものが始めてロシアの大統領に伝わったと思います。

元島民のみなさんが自由に墓まわりをし、かつてのふるさとを訪れたいとの切実な願いを叶えるため、今回ウラジーミルとの間で、人道上の観点から、とくに検討を進めていくことで合意できたことは、元島民のみなさんの願いを少しでも叶えることができたのではないかと思います。

また今回、四島との間で経済活動を行うための特別な制度について交渉を開始することで合意しました。日本の北方領土についての原則的な立場はまったく変わりません。4島における共同経済活動は条約問題に関する我が国の立場を害するものではないものです。この点は、今回の声明にも明記をされています。

しかし、過去にばかりとらわれるのではなく、北方四島の未来像を描き、そのなかから解決策を見出していくという新しいアプローチ。まさに未来志向の発想が必要であり、未来志向の発想である新しいアプローチこそが最終的な結果に続く道であると確信をしております。

今回の会談の成果

記者2:電話会談のなかで、シリアについてお話しされたということですけれど、シリアの情勢はよく変わっています。矛盾したニュースも入ってきます。

例えば、(シリア第2の都市)アレッポでなんらかの成功を収めたと。しかし、戦闘は続いている。状況をどのように評価されていて、どのような展望を持っていらっしゃいますでしょうか。

ウラジーミル・プーチン氏(以下、プーチン):シリアの状況について具体的に言いますと、シリア政府側とロシア政府側との行動が、うまく調整されていないということですよね。

軍事的なことで言いますと、アレッポはより重要なテーマであります。最新の情報はわかりませんが、トルコの大統領(レジェップ・タイイップ・エルドアン氏)とも合意したことでもありますが、(8月9日の会談で)サンクトペテルブルクに来たときに、「トルコは最大限協力する」と言っていました。

第一に、一般市民の命を守ることが大事です。第二に、シリア軍がアレッポを制圧した場合には、半壊している家ですけど、一般市民が元の家に戻っていること。

最終的にこの戦いを終えるということについては、活発に交渉しているところですけれども、この電話会談のなかで大統領と話しましたが、対立する当事者に対して提案していこうと。武装派に対して、カザフスタンの(首都)アスタナで交渉するということです。(ヌルスルタン・)ナザルバエフ、カザフスタン大統領に賛同を求める予定です。

これはジュネーブ交渉を補足するものになります。私としては、この政治的に調整するということが大事だと思っています。

記者3:幹事社の産経新聞のアビルと申します。プーチン大統領におうかがいします。今回の山口での会談を通じて、大統領にとって政治分野・経済分野の最大の成果はそれぞれなんだったのでしょうか。また、共同経済活動をどのように平和条約の締結に結びつけるのか。改めて、お考えをお聞かせください。

さらに、平和条約締結に関しては、先日の日本メディアとのインタビューで大統領は「我々のパートナーの柔軟性にかかっている」とも述べられています。かつては(北方領土問題について)「引き分け」という表現も使われました。

大統領の主張はなにか後退しているような印象がありますが、日本に柔軟性を求めるのであれば、ロシア側はどのような柔軟性をお示しになるのか。お考えをお聞かせください。

プーチン:この質問に完全に答えるためには、簡単にですけれども、歴史に戻る必要があると思います。アビルさんとおっしゃいましたでしょうか、今そういうふうにお名前うかがいましたけれども。

日本が、プチャーチン提督が1855年にロシア政府、ロシアの皇帝と同意の上で、日本の領土として南クリル諸島が渡されたわけです。もともとロシアの航海者が開拓した島ですから、もともとロシアの領土だと考えられていました。

ちょうどそれから50年経ってから、日本はそれだけでは足りないと考えて、そして戦争のあとに、戦闘行為のあとにサハリンの半分を入手した。北緯50度の線からの半分です。

ついでに言いますと、ポツダム宣言のなかですけれども、ロシアの住民、それから40年さらに経ちまして、1945年の戦争が終わったあと、ソ連がサハリンだけではなく南クリル諸島も手に入れた。

安倍首相と昨日話しましたけれども、昨日は感動するような元島民の手紙をいただきましたけれども、こうした歴史的な領土のピンポンのやり取りをやめなくていけない。日本とロシアの基本的な利益、これは長期的調整をする必要があると思います。

これは経済活動の問題でもあります。安全保障の問題でもあります。例えば56年、日本とソ連がこの懸案事項を解決間際になった時、56年の宣言を批准をしたわけですけれども、その時アメリカはこの地域に関心があり、その時の国務長官が言った。「日本がアメリカの国益に反するようなことがあれば、沖縄は完全にアメリカの占領下におかれる」ということは言われた。アメリカの国益にも関係していることが明らかです。

これはどういうことかと言いますと、例えばウラジオストクで、少し下にいきますと、大きな2つの艦隊があります。この分野でなにが起こるかを考えなくてはいけない。日本とアメリカの特殊な関係性を考慮する必要があるわけです。日米安保条約があるなかでどう関係を構築していくかはわかりません。

柔軟性について話すとき、それがなにを意味するかというと、日本側がすべてのこういった繊細な点を考慮してほしい。そして、ロシアが憂慮することを考慮してほしいということです。

56年の宣言についてもし覚えていらっしゃれば、その際は、2島を日本に返還するということが書いてありました。どういう条件かは書いてありませんでしたけど。

それは平和条約締結後に返還する。それはお互い善意で接しないといけない、行動しないといけないわけです。最終目的のために。

もう一度繰り返しますけれども、これらの島というのは、首相が提案したプランを実現するのであれば、これは日露の不和、不一致の原因にはなりません。逆に、両国を結びつけるものとなるものです。

もし、正しい方向で首相が提案したプランを実施するのであれば、例えば経済活動、島における、その協調のメカニズムをどういうふうに構築していくか。それによって、平和条約締結も達成できるのではないか。

経済関係の構築を優先して、平和条約を後回しにしているのではない。一番大事なのは平和条約の締結です。なぜなら、それが条件作りになるのです。歴史的にも、中長期的な展望を築くには平和条約締結が必要だからです。

70年間このようにしてきましたけれども、もし、我が国の競争力を合わせ、力を合わせるのであればいいのではないか。それを目指すべきだと思っています。

日露関係の大きな可能性を開花させたい

記者4:多くの事業が提言されていますけれども、とくに重要だと思われるのはどれでしょうか? それからロシア大統領に質問ですけれども、日本のホスピタリティ、食事ですとか温泉について、もし実際に試されたものがあれば、その感想をお聞かせください。

安倍:それでははじめに私からお答えをします。8項目に未来はあるか? まず結論を言えば、未来はあります。

私は従来から、日本とロシアの関係を「もっとも可能性を秘めた2国間関係」と、このように申し上げてきました。経済を含む幅広い分野でWin-Winの日露協力の大きな可能性を開花させたい。そして開花させることは、日本とロシア双方が大きな利益を得ていく、国民が大きな利益を得ていくことにつながっていくと思います。

私が5月にソチで提案した8項目の協力プランと関連する、日露の協力プロジェクトを通じて、日本とロシアの経済関係をさらに深め、そして日本がロシアの国民生活の革新に協力していくことは、双方に大きな利益をもたらし、そして間違いなく相互の信頼関係醸成に役立つと確信をしています。

先ほど交換された文書も含め、今回の大統領の訪日を機会に、政府間と民間合わせて約80本の成果文書が署名をされ、数多くのプロジェクトがすでに動き出しています。

これは今までの日露関係に前例のないことだと思います。まさにこの8項目の協力プランというのはただ紙に書いたものではなくて、我々、ウラジーミルとの間で、そして両国の経済界の熱意によって、魂がすでに入れられたと思っています。

9月にウラジーミルに約束したとおり、来年の東方経済フォーラムに出席する予定です。その際にも、この8項目の協力プランのさらなる進捗を確認をし、日露関係の持つ大きな可能性を開花させていきたいと思っています。

プーチン:共同事業について言いますと、首相がすでに述べましたね。温泉については、1つだけ試すことができました。これはお酒ですね。「東洋美人」のことです。「東洋美人」という銘酒だそうです。ただ、適量を知るべきであると。

司会者:ありがとうございました。それでは以上をもちまして、同首脳による共同記者会見を終了いたします。