共同経済活動を行うための制度の交渉開始

安倍晋三氏(以下、安倍):ウラジーミル・プーチン大統領、ようこそ日本へ。日本国民を代表して、君を歓迎したいと思います。

私が2013年にモスクワを訪れたとき、「できるだけ頻繁に会談を重ねよう」と約束をしました。それから今回、実現するまでに3年間かかりましたが、私の故郷(山口)にお招きし、落ち着いた環境でたっぷり時間をかけて話し合うことができ、待ち続けたかいがあったと思っています。

私たちの話し合いの進展を70年以上もの長きにわたり、待ち続けている人たちがいます。かつて、択捉島・国後島・色丹島・歯舞諸島に住んでいた元住民のみなさんです。

今週、その代表の方々から直接お話をうかがう機会を得ました。すでに元島民の方々の平均年齢は81歳を超えています。

「もう時間がない」と語る島民のみなさんの痛切な思いが胸に突き刺さりました。終戦直後、島では辛い出来事もありましたが、日本人とロシアの人々は言葉の壁を越え、助け合い、友情を育み、共に暮らしていたそうです。

離ればなれになってからも、さまざまな制約のなかで、元島民のみなさんと島に住むロシアのみなさんが、交流を深めてきた事実もうかがえました。

「最初はうらんでいたが、今は一緒に住むことができると思っている」と語り、北方四島を日本人とロシア人の友好と共存の島にしたいという、元島民のみなさんの訴えに、私は強く胸を打たれました。

相当、高年齢になられた元島民のみなさんが、「自由に墓参りをし、かつての故郷を訪れることができるようにしてほしい」という切実な願いを叶えるため、今回の首脳会談では、人道上の理由に立脚して、ありうるべき案を迅速に検討することで合意しました。

戦後71年を経てもなお、日本とロシアの間には平和条約がない。この異常な状態に、私たちの世代で、私たちの手で、終止符を打たなければならない。

私とウラジーミルはその強い決意を確認し、そのことを声明のなかに明記しました。領土問題について、私はこれまでの日本の立場の正しさを確信しています。ウラジーミルもロシアの立場の正しさを確信しているに違いないと思います。

しかし、互いにそれぞれの正義を主張しあっても、この問題を解決することはできません。次の世代の若者たちに、日本とロシアの新たな時代を切り開くため、共に努力を積み重ねなければなりません。

過去にばかりとらわれるのではなく、日本人とロシア人が共存し、互いにWin-Winの関係を築くことができる。北方四島の未来図を描き、そのなかから解決策を探し出すという、未来志向の発想が必要です。

この新たなアプローチに基づき、今回、四島において、共同経済活動を行うための特別な制度について、交渉を開始することで合意しました。

この共同経済活動は日露両国の平和条約問題に関する立場を害さないという、共通認識のもとに進められるものであり、この特別な制度は日露両国の間にのみ創設されるものです。

これは平和条約の締結に向けた重要な一歩であります。この認識でもウラジーミルと私は完全に一致しました。

そして私たちは、平和条約問題を解決する。その真摯な決意を長門の地で示すことができました。過去70年以上にわたり解決できなかった、平和条約の締結は容易なことではありません。

今、島々には1人の日本人も暮らしてません。たくさんのロシアの人々が暮らし、70年もの時が経ちました。他方、70年もの時を重ねたことで、恩讐を越えて、元島民のみなさんと島に住むロシアの人々との交流や理解が進んでいるという、事実もあります。

日露、両国民の相互の信頼なくして、日露双方が受け入れ可能な解決策を見つけ出し、平和条約締結というゴールにたどり着くことはできません。

本日、8項目の経済協力プランに関連し、たくさんの日露の協力プロジェクトが合意されました。日本とロシアの経済関係をさらに深めていくことは双方に大きな大きな利益をもたらし、相互の信頼醸成に寄与するものと確信しています。

私とプーチン大統領はこのあと、講道館へと足を運びますが、講道館柔道の創始者である嘉納治五郎師範の言葉を借りるならば、まさに自他共栄の精神こそが必要です。

ウラジーミル、今回の君と私との合意を出発点に自他共栄の新たな日露関係を本日ここからともに築いていこうではありませんか。

ありがとうございました。私からは以上です。