電子タバコの科学

マイケル・アランダ:(アメリカの)若者たちがe-cigsと呼ぶ電子タバコですが、最近どこでも見かけるようになってきました。スーパーボウルのコマーシャルやトークショーでも見られます。喫煙者が喫煙を止める助けになるとか、少なくともタバコの代わりとして安全であるというのがその謳い文句です。

通常のタバコにはタバコと呼ばれる葉が詰まっています。それはタバコの葉と化学物質でできています。タバコに火をつけると、何千もの物質を吸い込むことになります。そのなかには毒性のものや、ニコチンのような中毒性のあるものが含まれます。

電子タバコはというと、電池式で、e-リキッドとも呼ばれる化学物質を蒸気に変えて吸い込むというものです。

しかし、電子タバコは本当にタバコよりは無害なのでしょうか? 結果から言うと、電子タバコに関する確実な研究結果は出されていないため、それがどのように人間の健康に影響を与えるかはわかっていません。

電子タバコのスイッチを入れると、小さな金属製のコイルがe-リキッドを熱し蒸気に変えるので、それをマウスピースを通して吸い込みます。電子タバコの元祖は2002年か2003年頃に開発され、その大きさや形はタバコを模したものでした。

しかし現在は吸入器(vaporizers)、ヴェイプペン(vape pens)、ヴェイプモッズ(vape mods)などという大きめのデバイスで異なる特徴を売りにしています。例えば、蒸気を多くしたり少なくしたりするパワーレベルの調整ができるとか、吸うたびに味の濃さを調整できるとかいった特徴です。e-リキッドは通常3つの材料でできています。

プロピレングリコールという食品や化粧品の水分保持のために使われる化学物質、メントールやバブルガムなどの人工香料、そしてニコチンを含むものもあります。

電子タバコは少ない原材料を蒸気化させているわけですから、たくさんの毒性の化学物質を生み出すタバコを吸う代わりとすれば比較的安全なはずです。しかし研究は複雑です。ほとんどの研究は決定的ではなく、ときには研究結果が矛盾しています。

アメリカではFDA(米国食品医薬品局)も今年の8月まで電子タバコの規制をしていませんでした。それゆえ品質についての心配がなされてきました。例えば2012年から2016年までに行われた多くの研究結果では、極小の金属製の粒子が、熱するためのコイルが熱くなると剥がれ落ちるということがわかりました。

長い期間そのような金属製粒子を吸い込んでいれば、肺にダメージを与えることになりかねません。それに電子タバコのクオリティも危惧されています。例えば規制される前の電子タバコには、ニコチンフリーと言われている製品にも時々ニコチンが含まれていることがありました。

みなさんも耳にされたことがあるかもしれませんが、e-リキッドにはジエチレングリコールと呼ばれる不凍液が含有されていて、それは人体に有毒です。実際それは俗説です。2009年にFDAは二社の電子タバコ製品を研究し、この化学物質を一方のe-リキッドのサンプルの中に発見しました。しかしそれ以来それが再現されることがなかったので、そのサンプルがただほかの因子により汚染されていた可能性が高くなりました。

新たなFDAの規制がコイルの質やe-リキッドを監視することになりますが、2014年にEUはすでに似たような安全規制をかけていて、ほかの国の保健機構もそれについていくことになりそうです。

電子タバコの健康リスク

しかし私たちは現時点で電子タバコが長期にどのような影響を与えるかはよくわかっていません。なぜなら電子タバコはまだ充分な研究ができるほど長い期間出回っていないからです。

e-リキッドの材料であるプロピレングリコールを例にしてみましょう。FDAがそれを食品や化粧品に使うのは安全だと謳っていても、それを長期にわたって吸引することでどのような影響があるかはわかりません。「ニューイングランド医学誌」の2015年に行われたある研究報告によると、熱せられたプロピレングリコールはホルムアルデヒド剥離剤を作り出す可能性があり、それは分解されてホルムアルデヒドになる化学物質です。

高校の生物の時間に解剖をしたことがある人なら覚えているかもしれませんが、ホルムアルデヒドとは死体を保存する、匂いのする化学物質です。長期にわたってホルムアルデヒドの蒸気に触れていると癌のリスクが高まります。

しかし、電子タバコの化学物質が純粋なホルムアルデヒド同様の健康被害を及ぼすのかはわかっていません。電子タバコのコイルで熱せられたプロピレングリコールがそのようなホルムアルデヒド剥離を作り出すかどうかもわかってはいません。なぜなら研究結果が再現されていないからです。

電子タバコが健康に与える影響についての研究が難しい1つの理由は、タバコについて研究してきた科学者たちの研究手段が上手に移行できていないということにあります。

煙草の煙に含まれる化学物質を理解するために、科学者たちは喫煙者がどれくらいの頻度で吸い込み、どれくらいの量の煙を吸い込むのかをシュミレーションする機械を使うことができました。しかしカスタマイズできるタイプの吸入器では、異なる研究が異なる吸入器、パワー設定、e-リキッドを使うので、結果を比べるのは困難で、平均してどれくらいの蒸気を吸引するのかは誰にもわかりません。

それに科学者たちは煙草の煙に含まれる化学物質がどのように身体に作用するかを研究してきました。そのような化学物質が特定の細胞の成分に反応し、肺がんを引き起こし、毛髪や尿に副産物を残すこともわかっています。残念なことに現段階ではどの細胞成分がe-リキッドの原料に反応するか、どのような副産物が生み出されるのかはわかっていないのです。非常に複雑なのです。

電子タバコの健康リスクは決定的ではないかもしれませんが、喫煙者が禁煙をする助けにはなるのでしょうか? 個人的な成功例がたくさんありますから、それはすばらしいことです。しかしそれも決定的ではなく、さまざまな研究がさまざまなことを言っていて、電子タバコの助けが科学的に証明されたわけではありません。

ジャーナルアディクション誌で発表された研究によると、2009年から2014年までの間でイギリスにおける煙草の喫煙者約6000人を追跡しました。電子タバコを使った人の方が、薬局で買えるパッチやガムを使った人や、なにも使わなかった人の方が禁煙できたことがわかりました。

しかし似たような研究が2013年に「ニコチンとタバコ研究誌においてもなされ、3000人近くの「禁煙電話相談」に電話をかけたアメリカ人にはその逆が見られたのです。彼らがその人たちをその7ヵ月後に調査したところ、電子タバコの使用者の禁煙率が低いという結果が出たのです。

電子タバコが禁煙の助けになると人々が考えることがプラシーボ効果となり、結果として電子タバコが助けになるということはあり得ます。しかし、電子タバコの科学的分野について不明なところがまだたくさんあります。科学的たちが、もっと厳密で、繰り返せる、規模の大きい研究をすることで、答えが得られることを期待できます。しかし現段階では、電子タバコがどれくらい安全かどうかはわからないとしか言えません。