平和安全法制は徹底的にやらないと、日米同盟が揺らぐ

大西:例えば去年の平和安全法制など、私は委員で116時間ずっと座って見続けたんですが。石破先生、去年の平和安全法制についてはどうお考えですか?

石破:それは、一定の前進があったと思いますよ。

集団的自衛権や防衛法制について、20年ずっと考えてきて、僕なりの方向性はあるんです。やはり日本とアメリカが……まあ今大統領選挙やっていてね、非常に緊迫はしていますけどね。

大西:最中ですね。

石破:日本とアメリカがどれだけ対等に近い関係に持っていくか。法律もそうだし、ベースとなる日米安全保障条約もそうです。

「日本とアメリカは国力こんな違うんだよ。なにが対等なんだ?」と言われますが、例えばアメリカとフィリピン、これはもう対等なんですよ。フィリピンは、アメリカの海軍基地、空軍基地のうち、どれが必要で、どれが重要でないかを言う権利を持っているわけです。

でも、日本は集団的自衛権が使えない。今回も非常に限られたものでしたよね。「この基地はいらないんじゃないですか?」と言おうと思っても、「なにを言うんだ。基地を受け入れるのは日本国の義務なのだ」ということになっちゃって。

ということは、日本として、陸海空でなにができる・できないかをぎりぎり考えることなく、最後はアメリカがなんとかしてくれる……本当にそうだろうかと。

アメリカと日本の国益は、どこが重なってどこが重なっていないか、とくにこれからはそれが重要になると思っています。平和安全法制の次を、僕たちは考えなきゃいけないんだと思いますね。

大西:そうですね。とくに沖縄の地位協定の問題も、痛々しいことが多いので、これも変えていかないといけないと思いますね。

石破:だから、沖縄の地位協定を変えるためにはどうしたらいいだろうかを考えたときに、地位協定は日米安全保障条約とセットなわけですよ。だから、日米安全保障条約が今のままで、地位協定だけ変わることは、論理的にありえないんです。

日本にアメリカがいる。そのための特権を認めたのが地位協定。そうすると「対等」とはどういうことなんだろうか? 例えば、日本の自衛隊がアメリカに訓練なんかで常にいるとします。アメリカにいる日本の自衛隊、日本にいるアメリカの海兵隊や空軍、そういうものが対等でないとおかしいですよね。

そういった、当たり前の話なんだけど今まで議論されてこなかったことはたくさんあるんです。それを「そのうち、いつかは……」と、ずっと先送りして今になっちゃったわけで。このことを徹底的にやらないと、日米同盟が揺らぐときが来ると思いますね。

大西:おっしゃるとおりですね。同盟とは、基本的には対応であるから同盟なんですね。

石破:さよう。

大西:本当に勉強になりました。ありがとうございます。

未来の利を考えながら、TPPを進める

ちょうどこの間、委員会が大混乱で終わったわけですが、環太平洋戦略的経済連携協定、いわゆるTPPのことについてはいかがでしょうか?

石破:日本はこれからおそろしく人口が減るんです。どんなにがんばっても、これから20年は減るんです。西暦2100年に、日本人は今の1億2,700万人から半分以下の5,200万人に減るんですよ。

大西:う~ん、厳しいですね。

石破:人口が半分に減る。単に減るだけじゃなくて、若い人と高齢者の数が以前とはまったく違うわけですよね。同じ半分に減っても、その内容も今とぜんぜん違う。

となると、「日本の農地を守ります」「日本の農業者を守ります」と言っても、世界に売る以外に、どうやって農地を守り、どうやって農業者を維持していくのかを考えなきゃいかんですね。

シンガポールという国があるじゃないですか。アジアで一番のお金持ちと言われる国です。淡路島くらいの大きさですよ。お金持ちだから、年がら年中いろんなものを食べている。国の農地はほとんどない。

あそこで出回ってるイチゴの、約半分はアメリカのイチゴ。3割は韓国のイチゴ。エジプトのイチゴが3パーセント。日本のイチゴって世界一だと思いませんか。それがなんで1パーセントしか出ないの?

大西:1パーセントしかありませんか。う~ん。

石破:だから「同じモノづくりで自動車が世界に売れて、なんで農産品が売れないの?」を、「いやいや、それは条件が違うんだよ。あんなに広くないんだよ」とするのか。では、イチゴ作るときに、そんなにも広大な農地を必要としますか?

大西:そうですね。そんなに必要ないですよね。

石破:だから、最初からダメだと言っていると、本当に人口が減るとともに、農地も農業者もどんどん減っていく。

TPPとは、要は比較優位の産業が伸びていくものなんですよ。日本で農産品に比較的優位もたらすためにはどうしたらいいのか……。そもそも自動車を世界で売るのに、どれだけ苦労しました?

日産、トヨタ、あるいは自動車以外の食べ物でも、企業名を言って恐縮だけど、キッコーマンが醤油をアメリカに売るのにどれほど苦労しました?

大西:当時のパイオニアですよね。

石破:だから、それを農業もやる。政府も一緒になってやる。そうしないと、人口急減時代に農地も農民も守れない。僕はそういうことだと思っています。

大西:おっしゃるとおりです。もうそこは苦しい思いをして、目の前の利よりも未来の利を考えながら、TPPは進めていかなきゃいけないと。

石破:はい、そうです。だから、国内対策目一杯やることと、世界に打って出ることは分けて考えないといけない。両方やらなきゃいけないと思います。

ドナルド・トランプ氏から見る、アメリカの環境

大西:このあと15時頃に、もう大統領選挙の答えが出てます。

石破:うん。出ますね。

大西:可能性はどんなもんですかね(笑)。

石破:いや、これは選挙のことだからね。それはさ……。

大西:石破先生的にはどうでしょう?

石破:ヒラリーのことは、だいたいみんな知っている。ドナルド・トランプ氏のことは、僕もいろんな人に聞いてみた、直接会って知っている人にも聞いてみた。

直接会って、トランプのいろんなアドバイスをしているかなり有力な人、新聞にも出ていたからご存じの方もいると思いますけれどね。彼と……そうだな、3時間くらい話していたんです。

そこでは、トランプ氏はテレビが作った像とまったく違う人間だと言っていましたね。「会ってみろ。会って話しをしてみろ」ということでした。

ですから、僕はトランプ氏に会ったことはないので良いとも悪いとも言えません。ですが、彼が出てくるアメリカの環境はいったいなんなんだ、と。ものすごく貧富の差が開いてるわけですよね。

大西:おっしゃるとおりですね。

石破:白人の男性の40代、50代の平均寿命と言ったらいいのか、平均余命と言ったらいいのか。これがすごく下がりつつあるわけですよ。

彼らが持っている不満はいったいなんなんだ、というところです。良い、悪いという問題じゃなくて、現実をリアルに分析してみると、アメリカでなにが起こっているんだ、と。おそらく、トランプ現象とサンダース現象は、ほとんど同じですよ。

大西:似ていますよね。おっしゃるとおりですね。15時くらいにどちらが勝つかで、答えが出ます。そのことに踏まえて、外交的にどう対処するかも変わってくるでしょうから、また我々も議論してまいりたいと思っております。

“ゲルカレー”の隠し味は、梨ワイン

ちょっと軽い質問に戻ります。石破先生はカレーが大好きということで。私も1回勉強会でゲルカレーを食べさせていただきましたけど、確かにおいしいですよね。

あのとき「僕が作ったんだよ」と言ってましたけど、本当に作っているんですか?

石破:それは本当、本当。

大西:いや、すっごいですね(笑)。

石破:ですが、僕もカレーにすべてをかけるほど時間があるわけでもないので。

大西:そうですよね(笑)。

石破:今から14年前に、思いもかけず防衛庁長官になっていますね。防衛庁長官は、あちこち行っちゃいけないんですよ。なにかあったときに、すぐに市ヶ谷に戻らなくちゃいけないからね。だから、土日も基本的に東京にいたわけです。

そうすると、いろんな仕事はするんだけど、「お昼ご飯を食べたい」「夜ご飯を食べたい」というときに、いちいちSPさん呼んでいたらかわいそうじゃないですか?

大西:そうですよね。

石破:それで、これは自炊をするしかないと。

大西:自炊から始まったんですね。

石破:それまで、ご飯も炊けなかったの。

大西:えっ、そうなんですか(笑)。

石破:うん。でも凝り性だから、本屋さんに行って、花嫁のためのレシピとかを買ってきてですね。

大西:また、かわいい本を読んだんですね(笑)。

石破:ちゃんと作れない新妻のための料理本みたいなものもあったよ。そういう本を買ってきて、せっせと読むわけですよ。そのとおり作るとできるんだよね。

大西:すごいですね。「ゲルカレーはどこで食べれるの?」と、先ほどから質問が出てるんですけど、まだ勉強会とかは?

石破:しますね。幹事長や政調会長をやっていたときは、自民党大会の前の日に、党本部でお昼に屋台村を出すじゃないですか。あのときのカレーは、この上の食堂の調理室で、そこのみなさん方に「すいません。こうやって作ってください」「お願いします」と紙を持っていって。

テーブルに出す前の晩に調理室に行って、偉そうに「これはちょっとこれが足りないな」とか言ってですね。

大西:足りないなと(笑)。

石破:そうやって、みなさんのお世話になって。党役員をやっていたときは、ここの駐車場で「石破カレー」なるものを無理やり食べていただいておりました。

大西:いやいや、おいしいって評判が高かったので。今後、また勉強会などで告知もされると思うんですけど、カレーを食べながらの勉強会は、またするということですね?

石破:そうですね。やはりあれはいろんなコツがあって。ご飯は固めのサフランライスにする、鶏肉は手羽元に限る、あとは梨ワインを少し。鳥取ですから。

隠し味は梨ワイン。だいたい、二度と同じ味はできないんです。

大西:(笑)。その都度その都度のおいしさを追求していくということで。

石破:そうです。まあ鍋物ってそんな間違いはあまり起こらないんだけどね。

大西:すごいですね。

若い政治家は、誰もいないところで街頭演説をせよ

さあ、時間も押し迫ってきまして、最後の質問です。石破先生、自民党を引っ張っていくリーダーの1人として、将来の党運営はもとより、祖国日本の進む道についての考えを教えていただきたいと思います。また、とくに若者たちに対しての格言、もしあれば教えてください。

石破:いや、格言なんて偉そうなものはないんですけどね。

この秋、学園祭シーズンで、いろんな学校でお話したんですね。若い人もたくさん来た。女性もたくさん来た。テーマは安全保障ですよ。憲法ですよ。だけど、それを1時間半の間、誰1人寝ないで、一生懸命聞いてくれて。質問も国会並みに質問が出るわけですよね。

「どうせ言ったってわからないや」「安全保障の話をすると票が減るから、言うのをやめておこう」とか、それはダメなんですよね。

問われてるのは我々政治の側だと思うんですね。どうやったらわかってもらえるのか。たとえ反論されても罵声を浴びても、「そうじゃないよ」と、一生懸命に説明する。それを政治家側が問われているんですよね。

大西さんをはじめ、若い人たちに言っているのは、「誰も聞いてないところで街頭演説をやってくれ」です。最初から人がいっぱいいるところじゃなくて、誰もいないところで街頭演説をやる。そこで5人が立ち止まり、10人が立ち止まり、最後は50人くらいになったら大成功なんですね。

自民党は、常に街に出て、人と話をする。自由民主党が国民政党である以上は、国民との距離が一番近くなきゃいけないんですよね。

だから、串かつを食べながら、たこ焼きを食べながら、一升瓶を飲んで、本音で話をするのが今ほど必要なときはないと思いますね。

大西:今度、大阪府連の自民党の青年局を中心として、そういうイベントを大阪でやらせてもらって。

石破:串かつを忘れないように。

大西:いや、串かつイベントということで、またお約束をさせていただきたいと思います。よろしくお願い申し上げます(笑)。

石破:(笑)。

大西:やはり石破先生と話すと、30分が短いですね。10分や15分の感覚です。

時間が終わりに近づいてまいりまして、なんか寂しい思いもしておりますけれども、「関西人! 俺にも言わせろ!」はいかがでしたでしょうか? 

石破:とりあえず、関西は気取らないから大好き。「とにかく本音でしゃべろうよ」ということですよね。実際に、一緒に話して飲んで。そうすると本当の信頼関係ができる。選挙はその積み重ねです。

大西:おっしゃるとおりですね。ありがとうございます。

それでは、次回お会いするときまで、みなさんが幸せいっぱい、胸いっぱい、心晴れやかでありますことを願っております。また会いましょう。それでは、さようなら!