広がり続ける「クチコミ」というジャンル

司会者:最初のセッションは「バズを生むコンテンツの作り方、完全マスター。ヒットの法則教えます!」と題して、漫画原作者であり、LINE株式会社チーフプロデューサーの谷口マサト様。そして、漫画家のかっぴー様にご登場いただいております。

かっぴー氏(以下、かっぴー):よろしくお願いします。

司会者:そしてモデレーターは、WOM理事の藤崎実さんです。

藤崎実氏(以下、藤崎):よろしくお願いします。今日はお集まりいただき、ありがとうございます。先ほど、佐藤達郎理事長からお話がありましたように、WOMJは米国WOMMAとも提携しており、日本におけるクチコミの健全な発展に関して啓蒙活動を行っている団体です。

私はWOMJ理事の藤崎実と申します。クチコミ分野に関してはいろいろ研究をしており、今日はモデレーターをさせていただきます。

クチコミというジャンルはどんどん広がっていて、新しい知見がたまっております。それをみなさんと一緒に共有しようと、今日のイベントを催しました。

このセッションはオープニングということで、私がずっとお付き合いしている谷口さんと、大好きなかっぴーさんにご登場いただいております。今注目の素敵なお2人をお招きしてセッションできることを嬉しく思います。今日はかっぴーさんのファンも何人か駆けつけていらっしゃると聞いています。まず、お2人に拍手をお願いいたします。

(観客拍手)

実は私もお2人と同じく漫画つながりがありますので、ちょっと前振りとして紹介させてください。

私も漫画が大好きで、なにを隠そう小学校のときに漫画家になりたくて描いていました。そのときの友だちが漫画家の加瀬あつしくんで、中学校、高校の同級生なんです。

ちなみに彼の漫画『カメレオン』の舞台、成田南高校(成南)は、実在のの成田高校がモデルです。成田には西校と北校はありますが、南高はないので設定は一種のパロディなんです。出てくる小山先生も実在の人物です。

谷口マサト氏(以下、谷口):実在だったんですか?

藤崎:実在です! 小山先生も、椎名くんも実在の人物です。

谷口:小山先生好きだったので会ってみたいです。

藤崎:林明輝さんは、私が博報堂に務めているときに一緒に働いていたデザイナーで、「漫画家になりたい」と言って、漫画家デビューして今活躍しています。

かっぴー:めっちゃおもしろいですね、『ラーメン食いてぇ!』。

藤崎:いい漫画ですよね。ご実家がラーメン屋で、お父さんの思い出を漫画に描いたそうです。すみません、前振りはここまでです。私が今この業界にいる原点には漫画があったとお伝えしたかったのです(笑)

広告コンテンツを専門に、100本以上作ってきた谷口氏

では、さっそく、お2人に自己紹介をしていただこうと思います。では谷口さん、お願いします。

谷口:はい、お願いします。LINEは、LINEアプリとNAVERまとめ、Livedoorといろいろなことをやっています。そのなかで、広告コンテンツを専門にやっています。これまでに100本以上作りました。

ただ没になったのも、それの10倍くらいあります。それらをまとめたものを2年くらい前に本にしています。そういったコンテンツマーケティングが専門です。

藤崎:今や、コンテンツマーケティングの第一人者といえば、谷口さんですよね。

谷口:いやいや、とんでもないです。

かっぴー:これ、広告会社にいたときに買いました。

谷口:ありがとうございます。内容は大丈夫でしたか?

かっぴー:めっちゃおもしろかったです。

谷口:直近の例だと、かなりバラバラな仕事をやっていまして。「タフマン」のPRや、『ウエストワールド』という海外ドラマ、「LINEモバイル」というSIMカード、HISのハワイのタイアップ、『オデッセイ』という映画のタイアップPR、kamomefanという扇風機のPR。つまり、なんでもやりますという感じです。

藤崎:近年、ヨッピーさんが注目されているのは、谷口さんの功績が大きいですよね。

谷口:ヨッピーさんとはずいぶん昔から一緒にやっていまして、Webライターと組んでやることが多いですね。

「顔を覚えてもらうため」に漫画を書き始めた、かっぴー氏

藤崎:では、かっぴーさんです。本名は伊藤(大輔)さんと言うんですけど、お願いします。

かっぴー:なんで今、本名を入れたんですか?(笑)

藤崎:ごめんなさい。言わない約束でしたっけ?(笑)

かっぴー:いや、いいんですけど別に(笑)。かっぴーです。よろしくお願いします。初めての方は「なんなんだ?」という感じだと思うので、ちゃんと説明します。

美大を出て、新卒で広告代理店のデザイナーになり、ずっと広告を作っていました。もうちょっとWebなどを含めて広告がやりたいと思って、カヤックという会社に転職したんです。

そこで、会社の人に顔と名前を早く覚えてもらおうと「なんかないかな?」と思って、描いたことなかったんだけど『フェイスブックポリス』という「Facebookでこういうあるあるネタあるよね」を漫画にしたんですよ。

それを会社の全社員にメールでひゅっと送って。そうしたら社内ですごく評判がよくて、「天才が現れた!」と言われて、「やったぜ!」と思いました。

それからしばらくは、褒められたこと自体を忘れていたんですよ。10ヶ月くらい経って「ああ、おれ10ヵ月前に天才って言われた」と思い出して、「ネットにアップしてみよう!」とアップしたら、はあちゅうという有名なブロガーさんが「天才や!」と言ってくれて。そして、会社を辞めて漫画家になりました(笑)。

谷口:その10ヵ月、なにがあったの?

かっぴー:なにもなかったんです。忙しく広告の仕事をやっていて、10ヵ月くらい経って「自分のプライベートも充実させたい」と思ったんです。でも、なにも思いつかなくて。「DJとかやるのも違うしなあ」と。それで、漫画を描いたという感じですね。

谷口:よかったですね。

かっぴー:よかったです。

藤崎:かっぴーさんは、漫画界で「彗星のごとく現れた今年の至宝」と言われていますよね。

かっぴー:いやいや。

谷口:ネットで超話題になりましたよね。今でもそうですけど。

距離感の変化による「広告ダサイ問題」

藤崎:まず、お2人それぞれに、「今、求められているコンテンツとはなんなのか?」という、極意みたいなものをお話しいただこうと思うんです。では、谷口さんからお願いします。

谷口:ちょっと概念的なんですけど、よくコンテンツを作ってトラブルになるのが「コンテンツと広告の比率が担当者によってバラバラ」なんですよね。

私は左側なんです。まずコンテンツが優位にあって、そのなかに広告が入っている。一方で、とある代理店や、とある広告主は、逆に右側のレガシーといいますか、「広告なんだけどちょっとコンテンツっぽく見せていますよ」があります。この比率は、最初に認識を合わせないと後でもめます。そのため、こういうものは最初から握っているんです。

もともと、タイアップコンテンツは右側が多かったんですよ。ただ今は、それが広告だとはっきりわかると無視される。そのため、どんどん左に寄っていると思うんです。

では、なぜこうなっているのか。「広告ダサイ問題」があると思っています。今の若い人には信じられないかもしれませんけど、昔、広告=かっこいいと思われていたんですよ。

最近、恐らく「広告ってダサいよね」という風潮になっていると思うんですよね。それはなぜかと考えてみると、「距離感」だと思うんですよ。

例えば、テレビとラジオでも視聴者との距離感が違いますよね。博報堂ケトルの嶋(浩一郎)さんによると、テレビだと「みなさんへ」と呼びかけるのに、ラジオだったら「あなたへ」と言う。つまり、距離が近いですよね。

放送作家の鈴木おさむさんは、「テレビは部屋のなかにかかっている額縁の絵だ」と言っています。「それくらい遠い」と言っていました。だから、なかなか見てくれない。

一方で、スマホです。とくにネットはどれくらいの距離感かというと、居酒屋で横に座っている人くらい近いと言う人もいます。そんなに近い位置にいる人がずっと広告の話をしたら、ウザくて仕方がないですよ。つまり、距離が近いことによって、遠い分には大丈夫だった広告がどんどんウザくなってきている。どんどん広告の比率を削らないと、そもそも見てもらえない。

広告のスペースが狭くなるので、効果がなくなるんじゃないかと懸念されると思うんです。でも、そうではないと思っています。テレビ番組とCMの関係から説明します。

私は「おもしろCMを作っているね」とよく言われるんですよ。そうじゃなくて、私がやっているのは「番組」だと思っています。コンテンツと広告を融合させて、1つの番組を作る。それによって、調べると5分間という非常に長い時間をかけて見てもらっているんですよ。断面を切り取ると、広告の比率は狭いんです。でも、時間を含めたトータルで見ると、長時間、広告は見てもらえます。

藤崎:ワンセットにして考えるということですよね。谷口さんのコンテンツを見ると、よくわかると思います。ありがとうございました。

友達の話には、松本人志でも勝てない

では「彗星のごとく現れたコンテンツキング」……コンテンツ王子と言っていいのでしょうか(笑)。かっぴーさんは、「今、求められているコンテンツ」についてどう思いますか?

かっぴー:はい。これは僕もわからないと思っていて、「知らん!」なんですけど。そうなると、この場から「帰れ!」となってしまいますから。

「めっちゃわかるwww」がネットでウケるんだろうと、僕は思っています。「めっちゃわかるwww」がどういうことかを考えると、「解像度の高い共感」だと考えています。

例えば、あるあるネタとかよく言うじゃないですか。「解像度の低い共感」の例だと、「ベンチャー社長は……意識高い系」「あー、うんうん。で?」みたいな感じじゃないですか。これを、もうちょっと解像度を高くすると、「ベンチャー社長は……家にDJセットがあって、ほこりをかぶっている」「うわっ、いるわ!」となる。

谷口:いますね、そういうの。

かっぴー:僕は、そういうものを漫画にしているんですよ。これは『おしゃ家ソムリエおしゃ子!』という、すごくかっこいい名前の漫画なんですけど、「うわー、いいじゃん、マンション。タワーマンション、オートロックだね」と部屋に入ってみると、「DJブースがある、こいつん家! こんな狭い部屋で」となる漫画です。

低い共感だと、例えば「サードウエーブ男子はコーヒーにこだわる」「まんまやん」みたいな。高くすると「庭でパクチー栽培していて、たまに料理に使う」。そうすると、「たまに使ってくるな!」となる。これも漫画にしましたね。「よーし、完成。ファッサー(栽培したパクチーを摘んで、料理にかける様子)」「ファッサーすんな!」「友達の母ちゃんが握ったおにぎりを食わされた気分になるわ!」と。

次の事例ですが、解像度が低いと「LINE・谷口さんはコンテンツを作っている」。それは、「顔を見ればわかるよ」という反応になります。

藤崎:まあ、そうですね。

かっぴー:解像度が高い共感の例だと、「LINE・谷口さんはティナちゃんという漫画家を何回起用するんだ」。

藤崎:知っている人は知っていますよね(笑)。

谷口:美人漫画家の山科ティナさん。

かっぴー:美人漫画家のティナちゃんを、90回は使っていると思うんです。

藤崎:確かに(笑)。実際、山科ティナさんは絵も上手いですしね!

かっぴー:いつ、かっぴーを使うんだ?(笑)

先ほど、谷口さんも居酒屋の話をちらっと話していましたが、究極は、友達と居酒屋でしゃべっている話だと思うんですよ。

友達の話は、めっちゃくちゃおもしろいじゃないですか。友達だし、相手をよく知っているから「えっ? あいつがあんなことしたの?」「意外とあいつは」となります。超よく知っている人になにかあると、すごくおもしろいんです。それは解像度の問題だと思っています。それで言うと、友達の話には、松本人志でも勝てないと思っています。

共感の解像度にはレベルがあって、上から順に「まあ、当たり前だよね」、そして「わかるけど、それステレオタイプだよね」を突っ込んでいくと「あるあるネタだよね」となる。さらに突っ込んでいくと「俺はわかるけど、それ細かすぎるな」となります。

意外と、それがWEBだとわかる人が多い。だからバズるんだと思っています。特定のクラスタを狙い撃ちした、あえての内輪ネタが求められているのではないかと思っています。

距離が近いほど、解像度を上げる

谷口:それに関しては、先ほどの「距離が近い」と私が話したことに関係していますかね?

かっぴー:関係していると思います。これは、紙だと無理ですね。僕は紙でも連載しているんですけど、そちらでは、先ほどの流れでの「あるあるネタ」止まりなんですよね。

谷口:解像度は、逆に下げています?

かっぴー:下げていますね。だから、5週に1回、なんとか編集の目をかいくぐって入れようとしているんですよね。入れても意味ないですけどね。「なんで入れたんだよ!」みたいになる。入れたいですけど。

藤崎:先ほどテレビCMとラジオCMにおける視聴者との距離感の違いのお話がありましたが、パソコンはラジオに近いですよね。

谷口:距離は近いです。

藤崎:解像度の高い共感が大事ということですね。「俺はわかるけど、それは細かすぎるけどどうなの?」といった内容であっても、一般論や大雑把な内容よりも、より鮮明で細くて具体的なことの方が、人はビビットに反応するんですね(笑)

かっぴー:ばっときますよね。

藤崎:心に響くというか、「わかるわかる」という刺さり方が深いんでしょうね。

谷口:とあるCMのコピーライターの方がよくおっしゃってたのですが、「CMのコピーは、ゆるく見えるでしょ?」「若い人は『ゆるいことを言っている』と馬鹿にするだろうけれど、あれはわざと言っている」と。それは、解像度を下げている。広い範囲に届けるために。

かっぴー:難しいですよね。

藤崎:「広告はできるだけ、みんなに広く、あまねく」ということでしょうか。

谷口:そうですね。解像度のピントが感覚としてある。

かっぴー:そうですね。

藤崎:逆に言えば、ピントが合えば合うほど、ヒットするということかもしれませんね。