日本とチベットの共通の精神

司会者:それでは、ただいまからダライ・ラマ法王14世特別講演を始めさせていただきます。演題は「グローバル世界における日本・チベット」。法王猊下、どうぞよろしくお願いをいたします。

(会場拍手)

ダライ・ラマ法王14世(以下、ダライ・ラマ):まずはじめに、尊敬しております議員のみなさま方にお目にかかれた、このような機会を得ましたことをたいへん幸せに思っております。

まず日本とチベットの共通の精神があるということ、つまり文化的な面、つまり仏教と大乗仏教という、仏教のとくにその部分でも同じ立場にあるということを、まず一番最初にお伝えしておきたいと思います。

そして、ダライ・ラマ13世は以前、日本とチベットの関係をなんとかして親密なものにしようという努力をされてこられたわけです。しかし、みなさま知ってのとおり、そのようなことを成し遂げるためには非常に複雑な状況でございました。

そこで、そのようなことを鑑みましても、私自身がまた再びここに来られて、みなさま方にお目かかれたことをたいへん名誉に思っております。

私は、さらに、この民主主義の礼賛者の1人でもあります。私が政治的な責任を取るようになってすぐ、私はチベットにその時おりましたが、その時にこの政治面におけるリフォームを図ろうという、そのような委員会を作りましたけれども、いろいろな条件が揃わず、それはあまり成功することができませんでした。

そして、1959年にインドに亡命しましてから、民主化の動きを推進するべく、新たにこの事業を始めさせていただいたわけです。そして、そのようななかにおきまして、2001年に、選挙によって政治的な指導者を選ぶということを始めました。

それ以来、私は半分引退した立場という状況にありましたが、2011年の段階におきまして、完全に政治的な責任者としての立場を引退いたしました。

それは、私だけが政治的な立場から引退するということではなく、それまで約4世紀にわたって続けてきました、チベットの伝統である、ダライ・ラマといわれる人が政治的かつ宗教的な、両面におきまして主導者の立場を兼ねるという伝統に終止符を打ったということになります。

そして、それに加えまして、私自身がそれをプライドを持って、よろこんで幸せに引退をするということを成し遂げることができました。

ですから、ときどき私は冗談で申し上げていることに、ダライ・ラマ5世が始められたこの伝統を、私、ダライ・ラマ14世が終止符を打ったということになりますけれども、「もしダライ・ラマ5世が今ここに現れられたならば、なんとおっしゃるだろうか?」ということを考えることがございます。

ダライ・ラマ14世の3つの使命

現在、私自身は81歳を迎えております。ですから、私自身がこの残りの人生をどのように使っていくべきかという面におきまして、私自身が自分自身に課している使命が3つございます。

その第1が、私自身をこの世界に住んでいる70億人の人間の1人であるという認識を持っていることです。

つまり、この世界に生きている人間の各人が、現在の世のなかをより幸せ世界にしていくための責任を担っていっていただきたいという、その認識をこの世のなかに広めていこうということを、私自身の使命として課しております。つまり、より幸せな世界、より幸せな各個人の人間たちを作るということに、私の使命がここにあるわけです。

もちろんこれを成し遂げるためには、宗教における一切の信心ない人たちも含めて、どのような信心を持っている人たちでも、基本的にはみな同じ立場にあります。

ですから、私たちはこの人間としてのすばらしい資質である、慈悲と愛に満ちた、思いやりと優しさというものを、現在存在しております近代教育のなかを通しまして、人間のよき資質を高めるということを達成していきたいと考えている次第です。

ですから、私自身は70億人の人間の1人にすぎません。とくに特別な立場とは考えずに、そのようなことを、この世のなかに住んでおられるすべての方々と手に手をとって達成したいと考えています。

そして、私の第2の使命は、私は仏教の1人の僧侶であるわけですから、その立場からの使命ということになります。つまり、世のなかにはさまざまな宗教が存在しておりますが、その宗教がすべて同じメッセージを発しています。

つまり、私たち、よき人間として生きていくための愛や慈悲の心を高めることを、たとえ違った哲学的見解を持っていたとしても、すべての人間が求めているのは、幸せな生活を得るということであり、そのために、他の人間たちに対する優しさと思いやりを高めると、そして許し合う寛容の精神を持つということ、そして自らが持つもので満足するという心、こういったものを高めることにあります。

私は、そのような意味におきまして、インドの国のなかではさまざまな異なった宗教が、ささやかな争いごとがあるにしても、互いに調和を取ってお互いに共存してきた長い歴史をもっているという意味におきまして、インドこそ、これから異なる宗教観の調和を図るということの意味におきまして、生きたよき模範となる国であると私は考えています。

私は、この使命を完璧に成し遂げようという決意の下に、日々を実践の下に歩んでいるということを申し上げたいと思います。

そして、私の抱えております第3の使命は、私が1人のチベット人であるという観点からのものとなっています。

今、私自身も含めまして、チベットの内外に生きているチベット人のすべての、ほぼ99パーセント以上のチベット人たちが、私に完璧なる信頼を寄せてくれています。

しかしながら、先ほど申しましたとおり、私は政治的な立場はすでに完璧に引退しております。そこで、私がチベット人として抱えている第3の使命というのは、チベットの環境を守るということにあります。

チベットにおきましては、非常に優れた、古代から文化遺産が仏教というかたちで伝えてこられました。そして、チベット語の言葉という言語におきましても、非常に裕福な仏教の知識を完璧に表現することのできる言葉として、チベット語が今まで存在してきたわけです。

これらのことを完璧に守ることが私自身の使命であり、現在におきましてもまだチベット問題というものが存在していますが、そのようなものの政治的な面からということだけではなく、このように古代から伝わってきた世界遺産としての文化がこの世のなかから消えてしまうという、今、その大きな危機を迎えています。

そのようなことをなんとかして克服していくべく、私自身が1人の仏教の僧侶として、1000年以上にわたって最も完璧なかたちで伝えられてきた仏教のかたちを維持していきたいと心から望んでいる次第です。

そこで、日本人の兄弟姉妹のみなさま方の持っておられる仏教の知識よりも、私自身の知識のほうがかなり豊富なものではないかという自負を私も持っているわけです。

そこで国会議員のメンバーの方々、そしてチベットサポートグループの方々が、このような議員連盟をセットアップしてくださったことに、本当に心からの感謝の気持ちを持っております。

チベットの独立を求めているわけではない

チベット問題というのは決して政治的な問題だけではなく、古代から続いてきた、そして今の時代においても最も適切な自分のアドバイスとして受け取ることのできる知識が、非常に裕福なかたちで存在しているわけです。これを失うことは大きな痛手となります。

そこで中国の政府の方々は、そういった優れた文化を破壊するということではなく、そういった方たちも、この優れた文化を持続することによって、大いなる利益を受けるということもはっきりとわかっています。

私は決してチベットの独立を求めているものではございません。しかし、私が生きているかぎり、中国の人たちとともに生きていきたいという気持ちの上に、このような考え方を、今、中国政府の側のほうに提示させていただいているわけです。

つまり、それがなにかといいますと、私たちチベット人が中華人民共和国という枠内に留まるということ、これが私たちにとっても大いなる役に立つことであり、そして私たちの権利、そして自由、そしてチベット文化・言葉、そしてチベットの環境の保持のために、私たちに大いに役に立つ状況となることがわかっているからです。

そして、それだけではなく、この中国のメンバーの方々も教育を通してそのようなことを学ぶということによって、中国人の方々にも必ずやご利益を与えることができると信じているのです。

そのような意味におきまして、私たちチベット人、そして中国の方々、その両方に役に立つ解決策として、私自身が独立を決して求めていないということは、この世のなかのすべての方々がご存じのとおりです。

そのような状況におきまして、このようなチベットサポートグループの方々がこのような議員連盟を起ち上げてくださったということはたいへんありがたいことであり、心の底から本当に感謝の念を持っております。

最後に、このチベットを支援してくださる方々に申し上げたいことがございます。みなさまにしていただいているこのチベット支援は、決してチベット問題の支援に対するサポートということではございません。

つまり、私たちは真実を述べているわけであり、みなさま方はその真実を述べる者を支援してくださっているという意味に、私は捉えたいと考えているわけです。

そこで、私は完璧にこの闘争を非暴力の下に成し遂げていくことを決意しております。ですから、みなさま方、それを支えてくださる方々も、決してチベット問題の支援者ということではなく、非暴力に従う者たちの支援者という意味で捉えさせていただきたいと考えています。

そして、この世のなかには宗教の信心をしている方々が約6億人いらっしゃるわけですが、そのような方々も含めて、この世界のさまざまな地域におきまして、不正義といわれることに苦しんでいる方々がたくさんおられます。そういった方々の代表としてという意味も込めまして、みなさま方のご支援をそのような意味において捉えさせていただきたいと考えている次第です。

本日は、さまざまな党がお集まりいただき、そして私たちの考えに賛同してくださるということを受け取りましたことを、本当に心からありがたいことだと感謝しております。ありがとうございました。

そしてここからは、みなさま方との質疑応答のほうに移りたいと思います。

司会者:法王様、どうもありがとうございました。

(会場拍手)