「入社パス」「優秀な仲間との起業」異例のインターンプログラム

塩田元規氏(以下、塩田):では、これから牧野さんと僕、香田の3人で対談をしていきたいと思います。

僕と香田は学生時代、ワークス(ワークスアプリケーションズ)のインターンシップに参加したことがきっかけで出会い、それから3年して起業に至りました。今日は、牧野さんと「優秀な人材が求める成長環境」「圧倒的に成長する新卒の条件」についてお話させていただきたいと思っています。

牧野正幸氏(以下、牧野):当時の塩田くんのことはなんとなく覚えているよ(笑)。今日はよろしくお願いします。

塩田:僕が優秀な人材が集まる場としてぱっと思いつくのは、やはりワークスのインターンシップですね。

僕たちがワークスのインターンに参加したのは、2006年でした。当時は数千人ほどの応募があったんですよね。2次試験を経て、結果的に僕たちの会場は300人まで参加者が絞られていました。

300人の選りすぐられた人たちが参加すると聞いて、「そのなかで、自分はどれくらいのレベルなのか」を知りたいと思っていました。さらにいうと、優秀な人ばかり集まるなら、仲良くしたいなという気持ちもあって……(笑)。

牧野:そうですね。インターンの合格基準は、どの企業の選考よりもはるかに厳しくしているんですよね。

また、採用試験ではないので、うちに対するロイヤリティや志望動機は一切チェックしない。「とにかく、才能がある人だけ集めよう」と思っていたので、極論をいえば、志望動機はどうでもよかったんです。

香田哲朗氏(以下、香田):僕は大学3年生のときに受けたんですよね。当時は高専から筑波大学に編入したばかりでした。友達が誘ってくれたんです。「1日1万円もらえるよ」みたいな(笑)。

(一同笑)

プログラムの内容を見て「おもしろそうだな」と直感的に思いました。しかし、誘ってくれた友達はインターン参加前の試験で落ちるという。

牧野:(笑)。

塩田:単純に勉強するというよりは、徹底的に頭を使ってアウトプットを求められるプログラムでしたよね。また、インターンで合格するといつでも入社できるパスをもらえて。「入社パス」がある会社なんてクレイジーだし、起業したときの保険になると思ったんですよね。

牧野:能力に自信がある人は、そういう条件でくることが多いよね。むしろ「お金だけもらったら、あとはさよならだ」と思っている人でもよくて、うちには絶対入らないと言い切るずば抜けて優秀な人たちにこそ来てほしい。彼らも、優秀な人たちとクリティカルな仕事のやり方がわかれば、そのうち起業することだってできますよね。

ベンチャーの「無茶振り」にはメリットがある

塩田:このようなインターンシップを開催するに至った経緯は、どのようなものだったんですか? なんというか、企業ではなかなかないプログラムだと思うんです。

牧野:私は、今まで新卒を見ていて思ったことがいくつかあります。

まず、優秀な人は起業するのがベスト。とはいえ、起業にはある意味思い切りが必要です。海外では優秀な人ほど起業する傾向があるし、投資家も多い。でも、誰しもが起業を実行できるとは限らないですよね。日本に限らず、例えばスタンフォードの学生が起業するといっても全員ができるほど、甘いものではない。

海外の場合、「起業したいけれど……」と考えている優秀な人たちがまずなにをするかというと、シリコンバレーなどにあるベンチャーに入るんですね。彼らにとって、ベンチャーでの無茶振りにはメリットがある。

塩田:そのメリット、わかる気がします。ワークスのインターンはその無茶振りを実際に体験できるところが大きな魅力の1つだと思います。僕も香田も、ワークスでのインターンを通じて、無茶振りのある環境のなかで、起業への関心がより高まりました。

牧野:そのような気づきは、若いうちこそ必要だと思うよね。インターン生の成功例があなたたちだけれど。

塩田・香田:ありがとうございます。

牧野:とくに小さなベンチャーほど、やりたい・やりたくないではなく「やらないと回らない」状態です。さらに会社の立ち上げ期において、あらゆる問題を自力で解決していかなければならない。そういった環境下に身を置くことが、自分の能力を一番伸ばす方法だと、彼らは理解しているんですね。

そのためには、どちらかというと規模が小さなベンチャー企業か、もしくは大きくてもアメリカのGoogleのような、相当の無茶振りをしてくれるタイプの企業がいい。優秀な人たちはみんな、そこを目指すわけです。

一方で日本の場合は、志を持っていても「では、どこを選べばいい?」となります。私の考えとしては、やはり、20代のうちはベンチャー企業で経験を積むのが一番いいと思っています。

例えば、シンガポールの政府で働く高官の話。あそこにいる、日本でいう事務次官や局長クラスの人は、だいたい30歳前後なんですよね。そして、めちゃくちゃ優秀。「この人たち、将来どうなるんだろう?」と思うくらい。

彼らは、若いうちから無茶振りされているんです。日本語を話せないまま日本に来て、大企業の社長や政府と渡り合ったりして。自分で決断して問題解決しなきゃならない状況にずっといるから、能力の伸びが圧倒的に違う。

覚悟がある若手は、圧倒的に成長する

塩田:若いうちほど能力の伸びが違う、との話でしたが、例えば、牧野さんにとって「成長する新卒の条件」を挙げるとするとなんでしょうか?

牧野:うちに入った新卒の場合、学生時代は決して行動派でなくても、自分のなかで覚悟を決めて、スイッチを入れて、全力であらゆる問題を「自分で解決してやるぞ」というタイプは伸びていますね。

塩田:それ、わかります。最近、僕らのなかでは「覚悟スイッチ」という表現を使っています。

結局、どこまで当事者意識を持ってできるかなんですよね。何があっても、自分でやらなきゃいけない。その意識を持って、どこまで自分事としてしょい込めるかで、磨かれていくんじゃないかと思っているんです。

僕らも、牧野さんのところでインターンをしていたときは、ゆるくやろうと思えばできたかもしれないけど……本気でしょい込めば、すごく大変。

牧野:入社パスをとろうと思ったら、大変だよね(笑)。うちのインターンは、"就職してください"インターンではないので、あえて実際の仕事と同じプレッシャー状態を作り出すし、相当シビアにフィードバックをする。くじける人もいるけども、やらない言いわけはいくらでもできるよね。

塩田:はい、ストレス環境がものすごかったです(笑)。社員の方も、けっこうきつい感じを出してきてましたよね。でも、成長したいと思うなら、そういった環境はある程度は必要です。その環境下で「人生の主人公は自分だ」と本気で覚悟を決めて、スイッチを入れるような感じです。

アカツキでも、大きめのプロジェクトがあれば、入社2年目のメンバーをリーダーに指名し、任せることがあります。ときどき、泣きそうな顔で相談にくることがあるような環境ですが、ひと仕事終えたころには「成長しているな」と感じますね。

そもそもアカツキは社員数もそれほど多くないので、なかには「自分が倒れたら、アカツキも倒れてしまう」と思ってくれているメンバーもいます。そういう人ほど、伸びる傾向はありますね。

香田:仕事以外でも、例えば会社の6周年パーティーを、新卒に500万円以上の予算を預けて仕切ってもらったこともあります。業務でそういった予算をいきなり預けるのは難しいので、業務外のところで任せようと思ったんです。

あとは、僕らと直接仕事をするようなプロジェクトにアサインすることもやっています。最初の半年〜1年の人こそ特別に拾い上げて、経営者と一緒に仕事をする機会を意図的に多く作っていますね。「伸びる可能性がある」と思ったら、さらに次のチャンスを与える。一緒に仕事をして、雰囲気を感じてもらう。僕らとしても、逆に新鮮な空気感をもらっています。

牧野:私たちらの仕事は、延々と単純作業をこなしていればビジネスが成り立つ、なんてことはなく、気合と根性でまかりとおる領域でもない。結局、新人のうちから難度の高い仕事を任されることになります。

そもそも、それが嫌だという人は向いていない。「1年目だからここまでね」「あと3年は見習いね」なんて、優秀な人材の芽をつぶすことはもったいなくてできないですから。

新卒を「子供扱い」している企業は多い

牧野:話を戻すと、海外の優秀な人材は、それこそ行こうと思えばGE(ゼネラル・エレクトリック)といった巨大企業にだって入れます。でも、先ほど話したように、そういった人たちに限って、トップクラスの大企業を目指さない。

それはなぜか。いくら大手で仕事内容がハードでも、一流企業になると、当然ながら組織化されていて、仕事の役割分担が明確に定義されています。ある程度の職務権限が、すでに決まっているんですね。だから、できることが制限されるし、1人に仕事をしょい込ませても、失敗したらどうするんだ、となってしまいます。

一方で組織化されていないとなると、絶えず一定レベル以上のアウトプットを出す、もしくはクオリティを担保しようにも、個人のパフォーマンスに依存せざるをえない。

人によっては、すごいものができるかもしれない。でも、残念ながらできないかもしれない。バラツキが出るのは、ベンチャー自体が個人の特性を重視しているからなんですよね。つまり、これは自戒も込めているし、ひょっとするとアカツキもそうかもしれないんだけど、失敗も含めた覚悟を、ベンチャーはしなければならない。

基本的に、ベンチャーには資源がありません。シリコンバレーのベンチャーでも、何もないところがほとんどです。だから、エンジニアであっても、マーケティングが足りないなら、自分が動かなきゃいけない。そうでないと、誰も考えてくれない状況なんですから。

すべてを自分でやらなくちゃいけない。ただひたすらやるしかない。だから、”無茶振り”になる。でも、これこそ人を成長させる環境だと思っています。

塩田:アカツキには「目標は全部やんちゃにやろう」というものがあるんです。「やんちゃ」と現状には、ギャップがあるじゃないですか。

「やんちゃにやる」と現実のギャップを埋めるための方法は、提供しません。どうすればいいかを自分で考えながら、実行していく。このプロセスを、若いうちに何周できるかが大事なんじゃないかと思っています。

1つのプロジェクトを最後までやりきると、必ず次へ行くことができます。重要なのは、なにもないなかで、PDCAをいかに爆速で回せるかです。僕らとしても、20代初めの人たちに対して、そういった環境を作っていたいんです。

香田:環境という意味だと、最近、若い人に対して「子供扱い」をする会社が多いと感じています。新卒だから……と子供扱いして、期待値も低いから求められるものも少ない。「1年目だからここね」「2年目だからあそこね」みたいな感じで。

「こっちだよ」と導くような仕方をしている会社より、ちゃんと厳しい現実として、学生にも新卒にも、プロフェッショナルを求めるところのほうが、期待値も高く持ち続けてくれます。新卒として入るなら、そういった会社を選んだほうがいいとは思いますね。