心はアップロードできるのか?

ハンク・グリーン:幼体と成体の間を行き来できるクラゲのような変わった種を除いて、すべての生物は死ぬように作られています。

だから、最高に不愉快ですが、いつかみなさんも……上品に言うことにしよう、ええと、生きている状態を終えることになると予期することは当然理にかなっていますよね。

さて、正直に言いましょう。私は個人的に著しく寿命が延びることはすばらしいと思っていますが、それはいつだってまだずっと先の話です。それに、それはほかのどの生命体よりもずっと先の話になるに違いないでしょう。でも遠い未来、人類は死を免れる方法を見つけ出すかもしれないという漠然としたアイディアは存在します。

だから、誰も高い期待を寄せているわけではないですが、研究者たちのなかには人間の脳を解読する方法を見つけ出すことでそのギャップを埋め、コンピュータでそれをシミュレーションしようとしている人たちもいるのです。

本質的には、長期的に人間の脳をアップロードする方法を見つけ出そうとしています。

「心をアップロードする」というアイデアは何十年もの間、SF界では出回っていましたが、実際に近い将来に可能かもしれないと思われ始めたのは、ほんの最近のことです。

理論上はみなさんの脳のマップをコンピュータにプログラムすればいいだけで、一度そのセットアップが完了すれば、後はただプログラムを動かせば、じゃじゃーん、アップロードされた脳機能のでき上がり。

もちろん、問題は実際にどうやってそれを行うかです。なぜなら脳はとても複雑ですからね。

平均的な人間の脳には860億のニューロンが含まれていて、そのニューロンは互いに何千ものつながり、つまり情報を交換する何百兆ものシナプスあるいは経路を形成する可能性があります。

だからもしみなさんが脳を構築したいのであれば、まず必要になるのは、マップです。目的は最終的に人間の脳内にある各ニューロンの詳細なデータベースとそれらがどうつながっているかをまとめることですが、まず小さいところから始めましょう。ミリ単位の大きさの円形の線虫です。

線虫の神経回路マップはすでに完成

カエノラブディティス・エレガンスは、もっとも単純な作りの小さな線虫であるため、よく研究に使われます。

2012年、研究者たちはその線虫の神経回路マップを完成させました。すべてのニューロンがどうやって互いに作用し合っているかに関するマップです。

その線虫は860億のニューロンの代わりに302しかニューロンがないため、とても助かっています。ミバエの神経回路マップを構築しようとしている研究チームもありますが、それはもう少しかかりそうですね。小さくても、ミバエの脳には30,000以上のニューロンがあります。

その円形線虫やミバエの脳のほんの小さな部分を解明するのにも長い時間がかかったんですから、人間の脳ほど複雑なもののマップを完成できるまでには、永遠と思われるほどの時間がかかるでしょう。

でも、たとえ人間の神経回路に関する完ぺきなマップを手に入れたとしても、実際には十分ではないのです。

何百兆ものつながりについて話していたのを覚えていると思いますが、そのうちのいくつかは時速400キロ以上の速さでメッセージを伝達しているのです。

みなさんのゲーム用のノートパソコンがどれだけしゃれていたとしても、それらすべてを行うのに十分な処理能力は搭載されていません。でもいつかは可能になるかもしれませんね。

例えば、かつて2012年に、IBMの科学者チームはBlue Gene/Qスーパーコンピュータを使って5,300億のニューロンと1,000億のシナプスのシミュレーションを行うことに成功しました。

現在それらの数は人間の脳と同じ規模なのですが、それは最高に単純なモデルで、単にプロセッサの束が巨大ネットワークを形成しているだけです。それらは人間の脳がしているようなやり方で規定の経路をたどったり入力を処理したりはしていませんでした。

その上、そのプログラムは人間の脳の1,500倍以上遅い速度で実行されていました。でもコンピュータの速度はつねに上がってきているので、速さに関しては数十年かかったとしても解決できるでしょう。

どれだけ詳しい理解が必要かがわかっていない

問題は、脳のように動くネットワークを手に入れる方法に関してまったくアイディアがないも同然だということです。そのつながりがどのように見えるべきかということはわかっていてもね。

なぜなら、神経科学という分野が近年これだけ発達したにも関わらず、脳がどのように機能するかはわかっていないですし、意識がどのようにして起こるかはわからないのです。

でもたぶん、大丈夫でしょう。私たちのゴミ箱には何十億もの機能している人間の脳があるのですから、それをバラバラに分解してコンピュータ版に置き換えればいいだけです。

ペイント・バイ・ナンバー・キットみたいに、実際に色彩理論の複雑さを理解しておく必要はないのです。取扱説明書さえあれば。

その取扱説明書がどのくらい詳細にわたるものでなければならないかがわかっていないだけです。たとえば分子レベルで脳全体を具現化したプログラムは、ニューロン間の信号をシミュレーションしただけのプログラムよりもずっと精密になるでしょう。

でもシミュレーションが複雑化すればするほど、プログラムして走らせるのが厳しくなってきますよね。今はたった1つの細胞をモデル化することさえ十分厳しいのです。860億なんて言うまでもありませんね!

この時点で、脳のシミュレーションを作って走らせるためにどこまで難解なところまで行かなければならないのか、想像もできませんよね。とくにそれを、知覚反応を持った脳にしたいならなおさらです。

そして私たちには、心をコンピュータにアップロードできるようになるよりも前に学ぶことがたくさんあります。でも今までのところ、それが絶対に不可能だとするものはなにもないと思います。

その間に、みなさんの自然な脳を使って(くれていると思いますが)SciShowのこの回を観てくれてどうもありがとうございます。