伝説の投資家に影響を与えた2人の人物

益嶋裕氏(以下、益嶋):いよいよ本日の本題となりますけれども、バフェットの投資手法と現在の投資銘柄のご紹介をしたいと思います。

そのバフェットの投資手法を具体的にご紹介する前に、バフェット自身が自分に大きな影響を与えたと言っている2人について簡単にご紹介します。

まず1人目が、このベンジャミン・グレアムさんでございます。もう亡くなっている方なんですけれども、「バリュー投資の父」と呼ばれております。

バリュー投資、財務分析。企業の業績やバランスシートの状況を分析して、その分析した結果を重視して投資をする、バリュー投資の父と呼ばれている人物でございます。

このベンジャミン・グレアムという方は、『賢明なる投資家』という、今でも本屋さんに行けば売っている名著として語り継がれている本なんですれども、この本を出して、それをバフェットが読んで感激したと。

先ほどご紹介したように、バフェットは、このグレアムさんに出会うまでは、テクニカル分析をして投資をしていたと。当時の投資の本には、そのテクニカル分析ぐらいしか投資手法として教えられているものがなかったと。

ただ、バフェットはこのグレアムの教えに出会いまして感激したと。そのままバフェットはグレアムを訪ねて、グレアムに弟子入りをします。バフェットは、グレアムの経営するビジネススクールでグレアムの授業を受けて、より深掘りしてその教えを学んでいくと。

当時のその授業で、バフェットがそのクラスで唯一、一番良い成績を取ったと。AとかBとかCとかで、Aが一番良いとすると、バフェットが唯一Aを取って、ほかの生徒はみんなBとかCだったという逸話が残っているそうです。

そしてもう1人の人物がフィリップ・フィッシャーという方ですね。この方ももう亡くなっているんですけれども。

この方の投資法というのは、企業を徹底的に調査して長期的に成長する企業を見つけ出す、成長株投資の大家として知られています。さらに、多くても10銘柄ぐらいに集中的に投資する集中投資というのを実践していたと。

さきにご紹介したグレアムさんのバリュー投資、そしてフィッシャーさんの成長株投資、この2つが合わさったのがバフェットの投資手法だと。

それについてバフェットは自身で「私の15パーセントはフィッシャーで、85パーセントはグレアムだ」というふうに言っています。

つまりこの発言をした時点ではバリュー投資、グレアムさんの影響のほうが大きいと言っているわけなんですけれども、実はこの発言をしたのは1960年代と言われております。

その時からすると、だいぶフィッシャーさんの割合といいますか、成長性の重視というのはかなり強まっていると思います。それでもこのグレアムさんという方の影響はいまだに大きく残っていると。

この『賢明なる投資家』を見ますと、その帯にバフェットの紹介文が残っておりますので、もしよかったら書店などで見てみてください。

「株主への手紙」から読み解くバフェットの投資手法

その2人の投資手法をミックスしているのがバフェットの投資手法なわけですけれども、その手法を私がシンプルに解釈をいたしますと、このようなところかなということで、読み上げてご紹介してまいります。

「投資候補となる企業について、(1)定量的・定性的に徹底的な調査・分析をして今後の成長性を見極め、(2)その企業が本来もっている価値よりも現在の株価が大幅に割安であれば、(3)長期的集中的に投資を行う」と私が書かせていただきました。

大きく分けて(1)(2)(3)となるわけですけれども、今日はこの(1)(2)(3)について、それぞれ深掘りしてご案内してまいります。

また、この(1)(2)(3)についてご紹介する際に、私が勝手に言っているということではいけませんので、実際のバフェットの発言といいますか、バフェットがバークシャーの株主宛に毎年毎年「株主への手紙」を送るんですけれども。

実はそのメッセージというのはもう有名過ぎて、株主宛だけではなくて広く投資家宛に書かれたような内容となっていますので、その具体的な内容をご紹介しながらご案内していきたいと思います。

まずはこちら。1点目の「定量的・定性的に徹底な調査分析をして今後の成長を見極める」というところについてご案内したいと思います。

バフェットは、1996年の株主への手紙でこんなことを言っています。「投資家の目的は、簡単に理解できる事業を行っていて、5年・10年・20年あとに今よりもっと利益を稼いでいる企業の株式を適切な価格で買うことである」と。

つまり、バフェットは、自分が簡単に理解できる事業を行っていて、かつ将来、今よりもっと利益を稼いでいる企業を探すんだと。そして、その企業の株式を適切な価格で買うこと。これが投資家の目的ですよとはっきりと言っています。

投資判断を行う3つの基準

今の発言を少し解釈していきますと、このような3点になるかなと思います。

まずはその言葉どおりですね。シンプルで自分が理解できる事業を行っているのかどうか。

バフェットの投資法と言うのは、先にもご紹介しましたけれども、「定量的・定性的に徹底的に調査・分析をして、今後の成長性を見極める」というわけですので、そもそも自分が理解できる事業ですとかビジネスを行っていないと分析のしょうがありませんよね、ということになるわけですね。

ですので、自分自身が、投資家自身が理解できる事業を行っていることがまず条件の1つになってくると。

さらに2つ目。過去に長期間の安定した事業実績があるかどうか。例えば、過去の1年・2年・3年間というのは非常に成長性が高いと。

たくさん利益を稼ぎ出していて、その成長性が高い企業は実はたくさんあるかと思うんですけれども、バフェット流に直しますと、それだけではダメなんだと。

投資対象にするには、もっともっと長期間、5年・10年・20年といったスパンで過去に安定的に利益を稼ぎ出して成長してきている企業である必要があると。

なぜかといいますと、その長期間にわたって利益を稼ぎ出してきた企業というのは、まず社会的にニーズがあると考えられるわけですね。

社会から必要とされていなければ、もう短期期間でその企業は稼ぐことができなくなって、市場からいなくなると考えられますので、その長期間というのが非常に重要と。

さらにもう1つ、長期間で重要なのは、みなさまご承知のように、2008年、2009年というのは金融危機が起きました。ここで多くの企業が利益をすごく失ってしまったと。

日本もそうですけれども、米国を中心に世界的に経済が壊れてしまって、当然その経済に属する企業も利益を失ってしまったと。

過去5年前・6年前の出来事ですけども、今振り返ると多くの企業、優良な企業というのを後ほど具体的にご紹介もいたしますけれども、その金融危機の前に稼いでいた利益よりももっともっと多くの利益を稼いでいる企業が存在しますと。

ですので、短期的には優良な企業でも、やはり経済全体の危機に巻き込まれて利益を失うことがあるんだと。

ただ、長期的に事業実績があるということは、そういう危機を克服してきた企業であるということも非常に重要なポイントです。ですので、長期間の利益・実績というのは重要ですということなのではないかと考えております。

さらに、過去に稼いできたことも重要なんですけれども、株価というのは基本的に未来のことを織り込んでいくわけですので、当然将来のことが重要になりますと。

3点目のポイントといたしましては、将来も長期的に利益を稼ぎ出す展望があるのかどうか。

過去の話とも少し重複しますけれども、本当に将来にわたって社会的にニーズがあるのか、社会に求められるようなビジネスを行っている企業であるのか。そういう企業、そういうニーズがあるプラス、ほかの企業にはないような競争力というものがあるのかと。

競争力があれば、ほかの会社がいろんな手を打ってきたとしても、例えば値下げをしてきたとしても、その企業の競争力でそれを弾き返すことができると。

結果、将来にわたっても利益を稼ぎ続けることができるんだということになるわけで、将来にわたって利益を稼ぎ出す展望がその企業に本当にあるんですか、というのもポイントになってくると。

「これがわかれば苦労はしない」というところにはなるんですけれども、ただポイントとしては非常に重要であると言えると思います。

経営者の見極め方

さらにバフェットは、徹底的な分析、定量的な話プラス、定性的なところも非常に重要であると考えているようです。

バフェットが重要視する点というのが「経営者」でございます。このページの1つ目と2つ目のポイントというのは、それぞれ経営者についてのことなんですけれども。

まず1つ目、「組織の慣習にとらわれない合理的な経営者かどうか」。これはどういうことか具体的に申しますと、「不必要な事業規模拡大を追わずに、適切に利益の再投資・株主還元の判断をできる経営者ですか?」と。

少し噛み砕きますと、不必要な事業規模拡大というのは、やはり企業というのはついつい本業以外のビジネスに手を出して成長を狙っていく、もしくは企業の本業が調子が悪くなると本業以外のところに手を出して、一発逆転を狙うというようなことをしがちであると。

ただやはり、本業以外のところというのは、そもそも競争力がないわけですので、うまくいかないことも多いと。なので、そんな不必要な事業規模拡大を追う経営者では困りますと。

さらに後半部分ですね。「適切に利益の再投資・株主還元の判断をできる経営者か?」。これはどういうことかといいますと、企業というのは毎年毎年利益を稼いでまいります。経営者というのは「その利益を何に使うか」を判断するのが仕事なわけですね。

例えば、今年は100億円稼いできました。今回、80億円は来年もっと稼ぐための投資に使いますと。逆に残りの20億円は株主のみなさま、出資しているみなさまに還元します、お返しします、配当としてお出しします、という決断をするのが経営者の仕事であると。

バフェットが重視する点は、どんな経営者でも投資以上に稼ぐことができない局面はあると。例えば、100億稼いできて50億投資するんですれども、50億投資して50億以上稼げなければその投資は失敗なわけですから、そういう投資がうまくいかない局面というのはあるんだと。

そのときは潔くそれを認めて株主に多く返しなさいと。それで、投資をするべき局面でしっかりと投資をしなさいと。それを判断できる経営者であることが重要だとバフェットは言っています。合理的な経営者であるかというのを重要視していると言われています。

そして2点目、「率直な経営者かどうか」というポイントなんですけれども。経営者というのは、やはり自分自身の成功をアピールしたい。当然ですね。成功が評価されればその経営者の評価も上がりますし、株価も上がると。ですので、経営者というのはついつい成功をアピールして、失敗は隠しがちであると。

ただ、バフェットはそれでは困るんだと。失敗することはしょうがないと。失敗したことを隠さないことが重要であると言っています。

冒頭ご紹介したように、実はバフェットもバークシャー・ハサウェイの経営者なわけですけれども、バークシャーというのは過去の株主への手紙で「実は私、去年こんな失敗をしたんです」というような、投資の失敗案件についてこと細かに、「こういうところが失敗でした」というようなことを書いていたりすると。

失敗を率直に言うというのは、自身が実践していることもあるということで、経営者が失敗を隠さないことも大切であると言っています。

この1点目と2点目というのは、バフェットは経営者が大事であると言っているわけなんですけれども、実はバフェットは真逆のことも言っているんですね。

実はどんな企業も経営者が交代していつか無能な経営者が経営に就くことはあると、起こりうると。ただ、そんな無能な経営者が経営者になったとしても大丈夫なようなビジネスを行っている、本質的な競争力をもっているですとか、そういう企業に投資をしなさいと。

ある種真逆のようなことも言っているんですけれども、いずれにしろ経営者というのは大事であるとバフェットは言っています。

投資対象の適正な価格・タイミング

そして3点目ですね。バフェットが具体的に重視する指標として有名なのが、自己資本利益率、ROEという指標でございます。

このROEというのは、企業の資本のなかで自己資本、自分自身の持ち物とされるところ、その部分に対して利益をいくら稼いだのか、自己資本分の純利益として計算されることが多いかと思いますけれども、その資本に対して株主が出している資本なわけですね。

その自己資本に対してどれぐらい稼いでいるかということで、投資を効率的にどれぐらい行えているのかというのをこの自己資本利益率で見ると。

この自己資本利益率が高いのかどうか。その水準まず1つ見るというのと、その自己資本利益率が過去から現在にわたって伸びてきているのかどうか。これも重視すると言われています。

この自己資本利益率ROEというのは、昨今、日本でも重視する風潮がどんどん強まっているようでございます。

今年の1月から算出が始まったJPX日経400という指数がございますけれども、その指数というのは、その指数の採用銘柄の判断基準の1つとしてROEの高さをおいていると。ROEを高く、実績を出した企業というのがその指数に入りやすいということで。

日本でもこれが大切だという風潮が徐々に強まっているわけですけれども、バフェットもこれは非常に重要な指標として重視しているということでございます。

そして今までご紹介してきたところというのが、冒頭のこの1点目、「徹底的な調査・分析をして今後の成長性を見極める」。いわば投資対象とする企業の対象の選び方。どういう企業なら投資対象となりうるかというところの方法だったわけなんですけれども。

今度は、じゃあそういう企業は見つけましたと。じゃあ「その企業にどういうタイミングで投資するんですか」「いつでもいいんですか」「見つけたらすぐ飛びつけばいいんですか」というのを今度はご紹介していきたいと思います。

こちらがまたバフェットが1989年の「株主への手紙」で言っていることです。「すばらしい会社を適正な価格で買うほうが、並の会社を安く買うよりもずっとよい」と。

すばらしい会社。これを今、一番で見つけたといたします。さっきのご紹介したような条件ですばらしい会社を見つけましたと。

今度はその企業を適正な価格で買いましょうということを言っています。そのほうが並の会社を安く買うよりも、並の会社、そのへんにあふれているような会社を割安に買うよりも、すばらしい会社を適正な価格で買うほうがずっといいんですよというふうにバフェットは言っているわけですね。