「人間はやればできる」という誤解

玉木諒氏(以下、玉木):ではお時間もあるので、あと1つだけ質問を受けたいなと思います。

質問者3:私も来年会社を作りたいと思って、今進めています。今回、チームビルディングが大変だというお話があったんですけれども、お話はある程度成長した段階でのチームビルディングかなと思っておりまして。

一番最初のプロダクトを作るまで、または資金調達が成功するまで、その段階のチームビルディングをどうされてたか、どのあたりが一番大変だったのか、しくじったなというポイントがあればお聞かせいただきたいと思います。

秋山勝氏(以下、秋山):まず僕の場合は、サラリーマンを10年やっていたので、その過程で知り合って、それぞれの領域で尊敬できるというか、本当に「この人だな」という人を集めました。なので、ほとんど身内でチームを固めていきましたね。

そのあとの失敗というところでいくと、自分の原体験が、いろんな意味で悪さをしたんです。冒頭でお伝えしたように高卒なので、本当にまったく勉強できない子だったんです。いわゆる一般の人たちが大学に行ってる間も、パチンコで生計を立ててたんですけれども(笑)。

だから僕は、「社会人になる」というのが20代前半の一番の夢だったんです。「社会人になりたい!」というのがあって。それぐらいいろんな、ろくでもないことをしながら過ごしてたので、しでかしてしまった一番大きな人選ミスは、「人間はやればできる」という美しい誤解です。

ある意味偉大な誤解をして、先ほどの抜擢の話にちょっと近いんですけど、「やります!」「がんばります!」という人をみんな信じちゃうんですよね。

なんで信じちゃうのかというと、「まあ俺でもできたし」というので、本当にいろんな人を入れちゃって、それはマネジメントする上ですっごい苦労しましたね。マネジメントの仕方の問題もあったと思うんですけど、中には本当にどうしようもない人もいて……。会社にボディコンで来るみたいな(笑)。

(会場笑)

玉木:時代を感じますね(笑)。

秋山:そうそう。「それはまずいんじゃない?」みたいな。でも言ってもわかってくれないみたいな。挙句の果てに、「そんな目で見るの?」みたいな(笑)。「いやいや、そうじゃないでしょ!」「風紀的にまずいじゃん!」みたいな人も、うっかり入れちゃったり。

けど人間って、やっぱり面と向かって話をすると、そんなに悪い人っていないじゃないですか。なので逆に、本来集めなきゃいけない人というのを僕がちゃんとわかってなくて、「自分ができたんだから、この人たちもできるだろう」「やりたいって言ってるし一緒にがんばろう」と言って集めたところで、すごく失敗しちゃったなと思いますね。

彼らが活躍する場所がうちではなかったはずだし、それを僕がうっかり「いいねぇ」なんて言うもんだから、そうしちゃったんじゃないかなって。それは大きかったと思います。そこに気づいてからまた変わっていったので。

メンバーの採用は年末年始がおすすめ?

杉山智行氏(以下、杉山):シリーズA前後の話にはなるのですが、ガンガン採用するためにやったのは、ベンチャーの人ってみんな狂ったように働いていらっしゃいますけど、正月ってみんな田舎に帰ってゆっくりしてるんだなというのがわかったのが、正月……まあ田舎に帰って5日ぐらい休むじゃないですか。

なので、実家でひたすらWantedlyで13ポジションぐらいガーッてひたすら作りまくってたら、他社さんが何もやってないので、新しいポジションを作るとWantedlyで思ったより上位に行きました。

みんな実家で暇なんで見たりしていて、ぜんぜん有名でもなんでもないベンチャーが12位とかになって、それでけっこう応募がきて(笑)、なんとか無事にチームができたんですが。

基本的には、数少ないすごいがんばってくれてる創業メンバーはやっぱり紹介ベースというのは、いろんな方が言ってるとおりなんですが、それだけだと現実的にはチームビルディングできない人のほうが多いと思うので、とにかくなんか考えてニッチでガンガンやるみたいなことは必要かなと思っています。

あとは資本政策について、今はいろんな資本政策の情報が出回っていて、起業のファイナンスの本があったり、ほかのシードの方とコミュニケーションをとったりできて昔よりはマシだと思います。

でも実際に、創業者で決めるとなるとなかなか納得感を得られないことが多いので、そこはやっぱりキャピタリストさんに……。

キャピタリストさんはやっぱり3桁社とか、人によっては4桁社のベンチャーと関わったりしている方もいらっしゃるので、そういう方にメンタリングをいただけると大きいです。

僕がシード投資家の方にお会いして最初に言われたのが、「こんなチームメンバーがいます!」と言ったところ、「みんな辞めますよ」みたいに言われて……。

(会場笑)

杉山:言われたんですが、そこも含めて、やっぱりキャピタリストさんは見たらだいたいわかるんだと思います。

資本政策は不可逆的で、1回失敗しちゃったら、最近は創業者間株主契約とかもあるので、修正できるところもあるんですが、けっこうしんどいので、最初は投資家さんにメンタリングいただくのが圧倒的にいいんじゃないかなと思います。

もし、初めてベンチャーっぽい会社を作られるんであればほぼ必須じゃないかなと思います。たぶん頭が良い・悪いじゃなくて、自分で全部考えるのは非常に難しいと思ってる次第です。

VCが語る、失敗するベンチャーあるある

玉木:今の杉山さんのお話で言うと、僕らに限らずVCの人たちっていろんな会社見ているので、これをやったら失敗するという、だいたい95パーセント以上の確率で失敗するなという、「あるある」パターンが意外とあるんですよ。

なので、そういう知見のある人たちを、エンジェル投資家とかでもいいんですけど、社内に入れてやっていくというのは、やっぱりスタートの時点ではすごい力強い武器の1つになるんじゃないのかなと思います。

とくに、最近だとけっこうメジャーなんですけど、例えば3人とか4人の複数人で創業した時って、みなさん同じ比率の分だけ株を持とうとするんですよ。それは絶対にやめたほうがいいですよとか。

「それ、誰か辞めた時に、ちゃんと抜ける人の株をどう扱うかみたいなことを事前に決めておいたほうがいいですよ」というのはメジャーになってはきています。

とはいえ外部から言われて、「やっぱりそれはやったほうがいいよね」という話になりやすいので、そういう意味では、もちろん外部のアドバイザーも含めて、そういう経験豊かな人を最初に入れるというのが1つ重要かなと思います。

杉山:シード投資家(のサムライさんに資金調達の提案をするのが)いいと思います。

(会場笑)

質問者3:最初にメンバーを集めないと、そもそもシードの方も会ってくれない、VCの方も話を聞いてくれないという点があって。

玉木:いろいろな観点があると思うんですけど、やっぱり僕らは、シードでまだプロダクトもない状態で投資しますというプレーヤーから見ると、やっぱりその人が本当にCEOとして人を巻き込める人なのかなというのを知りたいんですよね。

なのでやっぱり、1人で来られて、「これからチームできるんですよ」みたいな話だと、ちょっと腑に落ちないところが多いので。別にフルコミじゃなくてもいいんですけど、一緒にやってくれる仲間を連れてきたという状態のほうが、絶対に話は進みやすいなと思います。

VCや銀行からの資金調達は最後の選択肢

渡邉拓氏(以下、渡邉):あれですよね、チーム……?

質問者3:一番最初の、シード期にいたるまでのチームビルディングみたいなことですね。

渡邉:お金回りとかいうことですか?

質問者3:そうですね、最初にVCに会いに行くときのチームをどう作り上げるかという。

渡邉:僕は1人だったので、チームはなかったですね。その時は、East Venturesの松山太河さんとは顔見知りだったので、その信用でもらったみたいな感じではあるんですけども(笑)。

資金調達に関しては、ビジネスにどれくらいリスクがあるかによったりするんですけれども、最後に選択肢としてあるべきかなと思って。

僕が独立する時に思ったのは、アメリカのシリコンバレーにロン・コンウェイというエンジェル投資家がいて、その人の記事を読んだんですけど、僕も初めはVCさんから調達しようかなと思ってたんですけど、彼の一番のアドバイスは「自己資本でやることだ」という、投資家なのにけっこう矛盾したことを言っていたのが記憶によく残ってます。でも、まあよく考えてみるとそうだなと思って。

一番信用があるものって、自分の持っているお金じゃないですか。その次に親族があって、その次にリスクによって銀行なのかVCさんなのかという話の順序になってくると思っています。

なので、自分の周りの信用とビジネスのリスクによって見極めるべきかなというのはあるんですけど、一番初めに考えるべきは、まず自分の持ち金でできるかどうか。それができなければまず親族から借りるとか、そういうところからスタートしてもいいのかなと思っています。

短期的・中長期的に見たメンバー探し

チームに関しては、僕はもともとネットのサービスにいた人間じゃないので、当然いい人は集まってこないだろうなと思っていて、初めはインターン生を集めました。「こういうサービスやろうと思うんだけど、いい学生いない?」みたいな。

それでSkypeで知り合った学生からやっていたら、「これおもしろいっすね」「僕やりますよ」みたいな感じで1人入ってきて、その子がまた友達を連れてきて、フリーターの子とかもいろいろ集まってきて、そこからスタートして、というのがまず初めです。

それで、そのインターン生が卒業する年、2ヶ月ぐらいインターンして大手の広告代理店に決まったんですけれども、入社の1週間前に電話が来て、「行っていいすか?」みたいな感じで社員が1人決まりました(笑)。

そこから半年もすると社員が2人、あと外部の手伝ってくれる方とかでやってたんですけど、ぽこぽことエンジニアが入って。ニートの時から手伝ってもらっていて、戦略コンサルに行ってそこから入ってもらってる方とか、ラクスルのCTOをやってそこからうちに来てくれてるメンバーとかもいるんですけど。

短期的には本当にやる気のある人たちでチームを構成しました。別に経歴も何も関係ないし、単純に熱量の高い人たちを集めるというのがすごい大事かなと思っています。

中長期的には、やっぱりキャリアを積んでる人を集めてこないといけなかったりするので、それはもう本当にずっとラブコールを送るとか、ずっと「一緒にやろうよ」と言って。(そうすることで)1年前に会った人が入ってきたりとかもあるんですよ。

僕が1人の時に仕事してた、もう2~3人の規模に本当に入ってくるのかと思うような電通グループの出身の人とか、スタートアップでトップ営業をやってる人が入ってきていたりするんですけど。

それは、ずっとコミュニケーションを取っていて。「この人いいな」と思ったら、ずっとラブコールを送るというか。「入るっしょ?」みたいなFacebookメッセージをいきなり送ったりして。今CTOをやっている人間は、半年ぐらい前に「そろそろ来るっしょ?」みたいなメッセージを送って、無視されてるんですよね。

(会場笑)

渡邉:そこから半年ぐらい経ったあとに、「そろそろかも」みたいなのが来て、「前後の文脈が半年空いてるけど、そういう理解でいいのか?」みたいな。

(会場笑)

渡邉:それで、急いで電話してとか。人は本当にタイミングなので、ずっと仕掛けるというのが中長期的には重要ですね。短期的にはそういう野生の人たち。本当に熱量が高くて、スキル云々じゃないですね。そういう人たちを集めてくるっていうのが重要かなと思います。

自己資本で10年経営して気づいたこと

秋山:実は僕も、会社を創業して10年間は自己資本でやってきてたんです。(そのなかで)できるアドバイスとすると、風潮に流されずに、自分のスタイルが何かというのをよく理解したほうがいいんじゃないかなと思っています。

確かに今は圧倒的に調達しやすい環境にあるので、手段として検討するのは当然いいことだし、わかってやることは問題ないんですけど、入れた以上は当然それ相応の責任というのは当然あるし。

それを前提に、果たして自分はどういうものをVCさんに期待しているのかということと、もし自分でそれが解決できることであるならば、いろんな意味で自分でやったほうが早いと思うんです。

だからどうしても、情報の非対称性の中で、割を食っちゃうものがあるんだろうなとか、専門家がいないとどうにもならない領域だということであれば、(資金調達も)ありえるのかもしれないですけど。

少なくとも、自分は10年オーナー企業で好き放題やってみてわかった上で選択したので、逆に言うと、業界の仲間からは驚かれたんです。もうずっとそのペースでいくと思ってたから、「どうしたの?」みたいに言われましたけど。

今は出資を受けて約3年経ってますけど、とくに後悔はなくて、やっぱりこの選択をしてよかったなというのは、あの時だから思ってたんです。

10年という節目を越えて、自分のスタイルとか考え方も変わってきて。じゃあオーナー企業でやって、また10年このスタイルでやったとしても、楽しいのは自分ぐらいだなみたいな感覚もあったので。

であるならば、より大きなところを目指していくという舵を切る時にも、いろいろ自問自答して、本当に今の自分のスタイルに合ってるのかなとか、5年後はどう思うのかなというのを思った上でやりました。

質問者3:ありがとうございます。

業界人の「いいね!」は信用するな

玉木:時間が押してしまいましたが、最後にゲストのみなさんからひと言ずつメッセージをいただければと思います。秋山さんからお願いします。

秋山:今回「しくじり」というタイトルなんですけども、まだ終わってないので、実際そうじゃないなと思います。逆に、起業されてない、もしくはこれからされるという観点で言うと、業界人の「いいね!」は信用しないほうがいいということですかね。

(会場笑)

秋山:これは決して変な意味じゃなくて、そこに安住するということではなく、自分たちがやりたいなと思っている事業の、本当に使ってもらいたい人たちがどれだけいるべきなのかということのほうが大事です。

けっこう業界で「いいね!」がたくさんついたものが本当にうまく行っているかというと、ぜんぜんそんなことはないですし。もっと言うと、みんな新しいものが好きなので、けっこう飛びつかれやすいんですよ。

ただその熱が冷めた時にどうかというと、ぜんぜん違う結果が待っているので、極力冷静になってもらって、一番届けたい、一番問題を解決したい相手にどれだけ届いてるのかというのを見てもらうことのほうが、結果的にはしくじりからいろいろと遠のけるんじゃないかなという気がします。

初めに知っておくべき“失敗”の肌感覚

杉山:金融業界って、ベンチャーをやったことある人がほとんどおらず、だいたいみんな人生で初めて。当社に来たメンバーとかは、人生で初めてベンチャーをやるんですけど。よくメンバーに話すのが、全部できる神はいないので、優秀な人も人間なのでと。

やっぱりベンチャーをやると、とくに立ち上げる人とか、やったことないことだらけで、どんなに複雑骨折をしない努力をしても、もう次々にメガトン級の爆発があります。

やっぱり失敗すればヘコむんですけど、みんな(失敗)してるんですけど、今って失敗をしないための方法とか失敗をしてしまった時の心持ちとかの情報が多いと思います。今日のようなイベントとか、ネット上での情報は僕が起業した時よりもぜんぜん増えてますし。

僕の創業期調達の時って、たまたま会社登記して1週間ぐらいでシード投資家の方を紹介していただいて、彼がたまたま当社の分野の知見が豊富でいらしたので、わりかしすっと事業の方向性におもしろいと言っていただけて、それで逆に調達のハードさに気づくのが遅れて、そのあと調達で地獄を見たということがあります。

何かが運良くうまくいっちゃうと、その分野への警戒心がなくなり、後でグチャグチャになったりするので、だんだんステージ進むに連れて関係者も増えて、あんまり変な失敗ができなくなってくるということもあるので、複雑骨折だけは気をつけていただいて、最初の頃はどんどん失敗したほうがいいんじゃないかなと。

アドバイザーも必要なんですけど、自分の肌感覚で、スポーツ的な感覚でどこに落とし穴があるかというのを初めのうちに知っちゃうのがいいんじゃないかなと思っております。今日はありがとうございました。

起業家としての原点を振り返る

渡邉:ここにいる人たちはこれから起業しようとか、もうすでに起業されてる方だと思うんですけれども、精神論になっちゃうんですが、絶対諦めないというか。

なかには折れちゃって、就職しちゃったという子もいるんですけど、やっぱり原点に返って、自分がなんで起業しようと思ったのかとか、そういうところを振り返って、常に辛抱し続けるというか。

諦めないという気持ちを持ち続けることで、たとえビジネスがうまく行かなくても、常に改善していって、マーケットが限界なのかプロダクトが限界なのかわからないけど、なんかうまくいかないねという結論が見えたら、次があるじゃないですか。

ということをやっていくと、最終的には成功するんじゃないかなと思っています。なので、みなさん諦めずに一緒にがんばっていきましょうという感じで、締めたいと思います。

玉木:ありがとうございます。今日、お忙しい中来ていただいたゲストの3名の方に大きな拍手をお願いいたします。

(会場拍手)