能力だけで人を採ることの弊害

玉木諒氏(以下、玉木):会社が大きくなっていく上で、最初はやっぱり起業家とか創業メンバーが完全にトップダウンでやっていくという、それはけっこうある話だと思うんですよ。

会社としても組織としても運営できるようにするタイミングが来るというのも、なんかわかる話だと思うんですけど、秋山さんのなかで、それを移行するタイミングというか、それで今回失敗されたというお話だと思うんですけど、今となってはどういうふうに掴んだらいいかなと思われてますか?

秋山勝氏(以下、秋山):1つ、能力だけで見ちゃったというのは、本当にとんでもない勘違いでしたね。20人そこそこの組織なので、そのなかで、仕事の能力……能力というのは、処理能力。そういう観点でイケてるなという人を抜擢するんですけれども、圧倒的になきゃいけないものがあって、その確認がまずできてなかったですね。

それは何かと言うと、「やりたいかどうか」なんですよ。「本当にそれをやりたい」。ないしは、「どんな状況であったとしても、それを解決したい」という意欲を持ってるか。それで、能力があるほうがけっこうややこしくて、お互いの議論のなかでも、(自分の)失敗を認めないというところもあったんですよね。

やっぱりそれなりの自負もあるでしょうから。なので、事がややこしくなっていったなというのは、そのときを振り返ってみるとすごく感じました。

停滞期と成長期を比べた人材抜擢の違い

玉木:それって、プレイヤーとして優秀な人がマネージャーとして優秀なわけではないみたいな。

秋山:そうですね。あともう1つは、「期限をしっかり設ける」ということでしたかね。僕は人材マネジメントのなかでは、ネバーギブアップという感覚を持っちゃうほうなんですね。

何回でもチャンスを与えて、乗り越えていこうよということは、まあ大事なことなんだけど。

結局、「じゃあ、これがここまでにならなかったらアウトね」ということをはっきりさせなかったのは、今振り返ると、僕がそこに対して、なんか怖気づいてたのかもしれないですね。

はっきりさせることで、その彼が辞めちゃうかもという気持ちがどこかしらにあったんじゃないかなという、僕の中に弱いものがあって、はっきり言わない。ずるずる行っちゃったという。それをなんと5年もやっちゃったんで。

明らかにベンチャーらしくない成長をしました。10億、11億、12億……13億みたいな、もう「どうしちゃったの?」というぐらい停滞しちゃった時期だったので。

玉木:その5年という停滞の期間を経たときに、そこからどうやってリカバリーされたと言うか、「ちょっと抜本的に変えないと」ということになったんですか?

秋山:これまでの経緯とか、やってきた事業を整理していったときに、もう明確に差があったんですよ。ちゃんとやりたいと言ってる人間を抜擢する場合と、スペックだけ、あとは人間関係も含めて見ていた人間がやってきたものとを切り分けていったときに、そこは明らかに変わりました。

うちで言うと、最初の5年、節目の10年を超えて、13年目ですが、抜擢の仕方を変えて数字は伸びましたね。

今もすごく伸びてるんですけれども、それぐらい、見違えるようなというか、当時の伸び方をまたし始めたというのが、結果としてまず大きいです。

質問の中でしっかり返すとすると、「本当にやりたいか」ということをまず確認をするということと、僕が持っている期待を明確にするということですね。

「何をやってもらいたいか」「どこまでやってもらいたいか」というのをはっきりさせると、相手もこちらのアウトプットが明確になれば、「それはできる」とか、「それはできない」とか、もっと言うと、「やりたくない」とかいうことも言い始めるんです。そうなると、話がすごく早くなりましたね。そこをあいまいにしないという。

創業期のベンチャーらしからぬオフィス

玉木:秋山さんのチームマネージメントは、ある意味で「人の失敗」というお話なのかなと思うんですけど。杉山さんの場合はどうでしたか?

杉山智行氏(以下、杉山):秋山さんとだいたい同じと言うか、採用は創業の時にけっこう失敗しました。

大きい会社しか知らなくて、ベンチャーのチームビルディングで求められるレベルの高さを単純に知らなかったので。

「やっぱり大企業の水準から見たら優秀なんだけど、ベンチャーではちょっと違う」という人を大量に採って。シードにしては大量に5人ぐらい採っちゃいまして、もうぐちゃぐちゃになっちゃいました。

自分の腹が据わってないので、その人に「それダメだから」と言ったら、「ケンカになってやめちゃうかもな……」みたいに考えて、そこでちゃんと「ダメなものはダメ」言えない自分がダメでした。

やっぱり自分も、しょうもない失敗をしてるので、その中で自分の言うとおりにしてもらうってなんか申し訳ないみたいなサラリーマン的な発想で、ガツンと言えない自分がいて、結局は創業時のオフィスも、ドヤ顔で言うことじゃないですけど、10坪8万円みたいなところに入って……。

だんだん人が増えてきて、いろいろ苦労して頑張ってくれてるんで、とかやっていたら、8坪68万みたいなところに入っちゃいました。

(会場笑)

たぶん東京のベンチャーで新記録で、しばらく破られないと思うんですが(笑)。有楽町なんですけど非常にベンチャーっぽくない。ベンチャーに慣れてない人が1回入っちゃうと、「すぐ出よう!」と言うんですけど、みんな「有楽町から出るとか、もうふざけんな」みたいになっちゃって。

本当に悲惨の極みみたいに。客観的に見ると、「そんなこと起こるの?」と思うんですけど、やっぱり1回そうなっちゃうと、みんな「有楽町から出るとか勘弁してくれ」みたいな、本当に1対全員みたいになっちゃうというか。

ハイパーインフレって呼んでるんですけど、「OK、OK」とか言ってると、最初は10万円ぐらいだったのが、100万円になって、1000万円になっちゃって、そのうちたぶん、億になるんだろうなと。

そこでヤバいって気づいて、「こういう30万円の予算はダメだよ」とか。「小さいんだけど、5万円もダメだよ」とか。

それはほかの人が悪かったんじゃなくて、結局一番最初に会社をやり初めて、いろいろ経験して、その会社の中では比較的いろいろ見てきてる人間の腹が据わっていなくて、ダメなことをダメって言えないと、本当に底知れず狂った世界に落ちていっちゃうということを経験しました。

初めは“ワンマン社長”を通すのもあり

玉木:権限委譲って難しくないですか?「完全に言われたことだけやってよ」みたいな感じだと、ぜんぜんモチベーション上がらないですし、いろんな経験させてくれるというのがベンチャーで働くモチベーションだったりするじゃないですか。仕事の任せ方は今、どういうふうにマネジメントされていますか?

杉山:自分の腹が据わっていないことで相当地獄を見ましたので、2015年はワンマンでいきました。やっぱりみんなベンチャーで、やりたいことができるということを期待して来るんですけど。

そこは最初から話し合って、思ったのと違うけど、「ろくでもないことが起きたららオフィスの中でバレーボールでもやろう」というノリで(笑)。

(会場笑)

ろくでもないことがわかったら、みんなバレーボールをやってくれるという(笑)。たまたま、今度は運良く人格者が集まってくれたんで、非常に良かったです。スキルの面でも慣れてくるとか、12ヶ月経って急に伸びるとか。

あとは、私よりWebマーケティングのセンスがあるメンバーが入ってくれるとか、個々のロールでは僕よりもクオリティーが高い仕事をやっちゃう人が増えてきて、そしたら「もう、勝手にやっておいて」みたいな感じに自然となってきました。

最初はやっぱり、「ワンマンじゃないですか?」みたいに言われるんですけど「そうだよ」とか、「そんなもんだよ」という話をして、「逆にワンマンで何か問題あるの?」みたいな感じで言いました。

実態としてだんだん自分よりクオリティの高い作業を行う人が増えてくるので、自然とどんどんやってもらうようになる。なので、そこはそれほど問題にはなりませんでした。