「アイデアは既存と既存の組み合わせ」

高橋ひでつう氏(以下、高橋):なるほど。僕がすごい好きな、ジェームス・W・ヤングという人の「アイデアは既存と既存の組み合わせ」という言葉があるんですけど。

ハヤカワさんを見ていると、本当に既存と既存のモノを組み合わせて新しい価値観を作ってるなと思うんですよね。そのなかでブランドも進化させていくということで、最近は新しいブランド展開もされてますよね。

ハヤカワ五味氏(以下、ハヤカワ):そうですね。「feast secret」という。

ひでつう:こちらはずいぶんセクシーな感じですね。

ハヤカワ:けっこうセクシー寄りなんですけど。自分が商品を売っていくなかで、男性目線を排除するということをもう1つの「feast」では考えています。

ひでつう:こちらはそうですね。明るくさわやかですね。

ハヤカワ:そうですね。明るくさわやかで、極端に言えばエロくないんですよ。エロくない方向を目指して、うちのカメラマンともすり合わせてるんです。

ひでつう:なるほど。こういうクリエイティブ・ディレクションも、すべてハヤカワさんがやってるんですね。

ハヤカワ:そうですね。全部私がやってて、とにかくエロくない感じにしようというのがベースにありました。

ひでつう:モデルさんもそんな感じの方ですよね。

2つの下着ブランドのコンセプト

ハヤカワ:そうですね。けっこう選んでて、撮影の方向もそうしてるんですけど。それだけじゃつまらないというか、また別の解法もあっていいかなと思ってて。

極論、やっぱり下着は男性に見てもらうものとか、恋とか愛とかというのも否定しなくていいんじゃないかなというのは、自分のなかで最近すごく落ち着いてきて。私はけっこう、「リア充死ね」気質が強かったんで、エロくないのを作ろうと思ってたんですけど。

ひでつう:むしろ「対・女の子」のなにかですか。

ハヤカワ:そうです。どちらかというと、女の子に下着で損をしてほしくないというか。恋の駆け引きとか恋愛の場で、下着1つで人生を惜しい方向にいってほしくないというのが、すごいあって。

ちょっとしたたかに生きるための女子向けブランドというかたちで、若干セクシー路線にしてます。

ひでつう:また、これ(「feast」)とは別ラインみたいな感じですね。

ハヤカワ:それぞれ私の心理環境なんかも影響していて。実は「feast secret」を作ったときのタイミングは、ちょうど私が彼氏に1年間浮気されていて(笑)。

ひでつう:(笑)。

ハヤカワ:それでめっちゃ落ち込んでて、新しい彼氏ができたくらいのときに、この「secret」という新しいブランド作ったんですよ。

最初は自分個人のむしゃくしゃしている感じだったり、自分の「こういうのほしい」という感情をそのままスピードで作って、という感じですね。

ひでつう:すごいスピード早いですよね。あっという間に展開ですもんね。

ハヤカワ:たぶん1ヶ月くらいです。彼氏との1ヶ月記念の前に出てたので。

ひでつう:なるほど。新彼氏との(1ヶ月記念の前に)。

ハヤカワ:本当にスピーディーに。(前の彼氏に)浮気されて1ヶ月目くらいに出したんです。

ハヤカワ五味の熱量の正体

ひでつう:なるほど。さっきの「芸大落っこちた事件」とか、「浮気されてる事件」とか、ふつうだったらそのまま1年くらい病んでるようなことを意外とスパッと早く切り替えて、むしろそれをバネにして「いっちょ、かましたる」みたいなのは、どこからきているものなんですか?

ハヤカワ:そうじゃなきゃやってられないというのがけっこう強くて(笑)。みんなも落ち込むことがあると思うんですけど、私は高校3年間費やして芸大目指したのに落ちたということは、下手したら3年間ムダだったと言えちゃうじゃないですか。

それがけっこう悔しいというか……それをまともに受けたら死ぬなと思って(笑)。なんか気をそらさなきゃというのもあって、その熱量をほかに。

昔なにかの授業で習ったんですけど、それを昇華するみたいな感じのことでいうんですけど、ストレスを昇華するという。

私はたまたまそれが制作とかブランドに向かったという感じです。「secret」のブランドに関しても、冷静に考えてみて、みんな(私の)気持ちになってほしいんですけど、1年同棲してた彼氏が半年以上浮気してたという……もう死ねるじゃないですか(笑)。

ひでつう:それは死ねるわ。

ハヤカワ:もうめっちゃ落ち込むんですけど、まともに受けたらアカンなと思って、私はそれをめちゃくちゃネタにして、これ(「secret」)だったり、実はもう1個新しいコレクションを出そうとしていて。

ひでつう:なるほど。昼もあるし、夜もあるよということですね。

ハヤカワ:そういう昇華をしてます(笑)。

失敗は人生の踏み台だと思えばいい

ひでつう:なるほど。今、3年間ムダにしたということですけど、僕が学生から受ける悩みで、例えばもちろん高校も美術系とかクリエイティブな学校で、大学も精華(京都精華大学)に来たけど、今ここで就職を前にして起業したいとか、フリーランサーでもいいんですけど。そこでできる覚悟はあると。でも、それで今まで費やした時間がムダになっちゃうのが怖いという人がいるんですけど、そういう人に対してはなにを言いたいですか?

ハヤカワ:そもそも、失敗することがムダというのが間違っているのかなと思っています。制作の話に関しても、個人の私生活に関してもそうだと思うんですけど。

さっきの浮気の話の延長でいくと、例えば私の元彼も、元々彼もまあひどい別れ方をしてて。元彼も浮気されて別れたんですけど。その2つがあったからこそ、まともな人に出会えたときの感動がハンパないですよ。「こんなすてきな人がいるんだ、感謝!」みたいな感じがすごい強くて。

ひでつう:なるほど。

ハヤカワ:失敗があったからこそ、「こういうことはしちゃいけないんだ」とか、「こうしたほうがいいんだ」みたいな、マニュアルが自分のなかでできていくじゃないですか。

たぶんめっちゃいい人とつき合ったとしても、それが1人目だったら失敗しちゃうと思うんですよね。たまたまそれが3人目で、2人の失敗があったからよかったという場合もあると思うので。

失敗をよくない方向に考えるんじゃなくて、「これは踏み台だ」くらいに思っておくといいと思います。

たまに天才はいますけど、突然高いところにいける人なんて、ほぼほぼいないわけで。失敗というのは、マニュアルになって自分の目線を上げてくれるというか、「ちょっと高みに連れていってくれるものだな」みたいな感じにつき合うといいかなと。仕事でもやっぱり、そういうのが大きいですよね。

ひでつう:病むよりも、それをもっと違うほうに回したほうが効率的ということですよね。

ハヤカワ:あと、病んだ場合はそれを人に話すとけっこう笑い話になって、いい感じに自分のなかでかみ砕けるのでいいと思います。

noteで大人気の「400万の請求書がきた話」

ひでつう:なるほど。その話を「note」という非公開のブログで、お金を払うと見れるというものですけど、けっこう売れたというウワサを。

ハヤカワ:そうなんですよ。「400万の請求書がきた話」みたいな。突然400万の請求書が送られてきて……。

ひでつう:なんかそれ、かなり香ばしいっすね。

ハヤカワ:まずそこで香ばしいんですけど、そのなかでさらに5項目あって、突然打ち合わせだというので行ったら、部屋の電気を消されて毛布かけられた話とか。

ひでつう:(笑)。

ハヤカワ:400万の請求書をメンヘラの女に送られた話とか、そういう香ばしい話が5個ぐらいあって。それを公開したら、1冊400円で売ったんですけど、25万ぐらい売れました。なんかそこまでくると、「25万円でなんかおいしいもの食べよう、ラッキー」くらいに思えてくるんで。

ひでつう:あとで「note」でググってほしいんですけど、会員制のブログみたいなやつで、お金を払うと記事が買えるというやつですよね。

ハヤカワ:そうですね。完全にブログ感覚で、あいかわらず汚い言葉遣いでメモ帳に書いたやつを「note」に転載して。「はてなブログ」とほぼ形式は変わらないんですけど、それの有料課金ができるバージョンということで出しましたね。めっちゃおもしろいです。

まあ、そんな感じで自分のなかでも笑い話にして、そうするとけっこう冷静になって見られると思うんで、それで自分的にはよかったなと。「ゴミと引き換えに400万の請求書が送りつけられてきた話」という。これマジおもしろいですよ(笑)。

ひでつう:これが400円で、500部ぐらい売れたということですよね。

ハヤカワ:そうですね、500部ぐらい。最初は200円ぐらいで出してたから、もうちょい売れてたかもしれないですね。

すごいタイトルが香ばしいんで、案の定けっこう拡散されて。これと、その前の「成功のクセをつける」という2つで、40万円分ぐらい売れましたね。

ひでつう:へー、40万!

ハヤカワ:そうですね。40万あったら、たいそうなもんが食えるなと思って(笑)。とんでもないですよね。

ひでつう:それはたぶん、みんなのバイト代の4ヶ月分とか5ヶ月分とかだと思うんですけど。別にハヤカワさんとしては、1本書くのに4ヶ月かけたわけじゃないですよね。

ハヤカワ:ぜんぜん。これは3日ぐらいですかね。

ひでつう:なるほど。それはこの「note」という仕組みを知ってたからですよね。

ハヤカワ:そうですね。しかもちょうど駆け出しのころで、みんな興味を持ってたというのもあるんで、私がそういうのをウォッチしてるのもよかったのかなと思います。