日本銀行と政府との役割分担

記者6:テレビ東京のオオエと申します。金融緩和と言いますのは、人々に「将来物価が上がっていく」という予測を持ってもらって、「物価が上がる前に物を買おう」という動機づけをする狙いがあると思うんですけれども。

ただ、今後この金融緩和を2パーセントの目標が実現し安定するまで続けるということになりますと、緩和の長期化ということも視野に入ってくると思います。

そうしますと、人々からすると物価が上がるまでの時間が長くなる、つまり「今、買わなくては」という動機づけができなくなってしまう、人々の物価感を変える効果が薄くなってしまうのではないか。そのあたりをどうお考えていらっしゃるのかというのが1つと。

そして金融政策、新たな局面に入ったわけですけれども。日銀はこうして見ますと、あらゆる手段を尽くしているように見えます。

この総括的な検証を出して、アベノミクスを成功させるために、両輪のもう1つとして政府というのがあるわけなんですが、「私たちは十分にやっていますから、次はあなたたちの番ですよ」という、政府への強いメッセージかとも感じるんですが、政府に対してどうのようなことを望まれるのか。お願いいたします。

黒田東彦氏(以下、黒田):まず第1点につきましては、公表文でも説明してますとおり、オーバーシュート型コミットメントというのは、むしろ2パーセントの物価安定の目標をできるだけ早期に実現するということをより確実にするためのものでありまして、2パーセントの達成がより遠のくということではありません。

ここでも申し上げているとおり、2パーセントを超えていてもマネタリーベースの拡大を続けることによって、より強いコミットメントをして、物価上昇率あるいは物価上昇期待を2パーセントに引きつけていくということでありますので、ご指摘のようなことではなくて、まさに逆です。

むしろこういうことによって、できるだけ早期に2パーセントの物価安定目標を実現し、それを安定的に維持するということを狙っているわけであります。

それから日本銀行と政府との役割分担というか、これは先ほども述べましたとおり、2013年の1月の政府と日本銀行の共同声明でもはっきり謳われておりまして。日本銀行はもちろん大胆な金融緩和をすることによって、2パーセントの物価安定の目標をできるだけ早期に実現すると。

他方で、政府は財政政策あるいは構造改革といったことを通じて、持続的な経済成長を達成して……。もちろん財政については景気刺激も必要ですし、中長期的な財政構造の健全化というか持続可能性を高めるということも謳ってありますよね。

ですから、私自身は別に「日本銀行がこれだけやってるんだから、政府もやりなさい」というようなことよりも(笑)、むしろまさに政府と日本銀行の共同声明で謳われているとおり、財政運営、あるいはとくに成長力を高めるための構造改革を、引き続きしっかりやっていただきたいと思っております。

長期金利の操作と需給ギャップの改善

記者7:ロイターのイトウです。今回新たに長期金利を操作目標とされたわけですけれども、長期金利はさまざまな要因によって動くと思います。

例えば、米国の利上げとか、日本の財政に対する懸念とか、そういう日銀ではどうしようもないようなことが起きて、長期金利が上昇するようなケース。

そうした場合でも誘導目標に向かって、長期金利を確実に抑えていく方針なのか、それが可能なのかどうかという点について1つ。

もう1つ、総括的検証について。今回物価が上がらなかった要因として、予想物価上昇率についてはさまざまな分析を出されているんですが、もう一方の重要な要素である需給ギャップ、このへんについて……ちゃんとすべてを見たわけではないのですが、ちょっと言及が少ないように思います。

需給ギャップの改善について、やはり金融政策でできることというのは限られるのか、難しいのかというお考えなのか。

黒田:まず第1点ですけれども。伝統的に、短期金利は中央銀行がコントロールできるけれども、長期金利は期待とかその他さまざまな要因によって決まるので、中央銀行が完全にコントロールするのは難しいということは言われてきているわけですね。

ただご承知のように、リーマンショック後、FRBであれ、あるいはECBであれ、また日本銀行であれ、長期債権の買い入れを行ってダイレクトに長期金利を下げようとして、現に下げているわけですね。

ですから、短期金利と同じように完全にコントロールできるかという議論であれば、それは短期金利とまったく同じようにできるとは言ってませんけれども、現にリーマンショック後の世界の中央銀行は、直接的に長期国債、あるいは米国の場合は民間の長期金利に直接影響を与えるようなものを購入しておりまして、それの効果というのも出てるわけですね。

それから日本銀行の場合はQQE、量的・質的金融緩和で明らかにその効果が出てますし。またマイナス金利の導入後、長期金利まで含めて、このマイナス金利付き量的・質的金融緩和が非常に大きな効果をもったということは明らかですので、ここに示してあるようなイールドカーブ・コントロールというのは十分できると思っております。

しかも、新たに国債の指値での買い入れとか長期のオペとか、いろんなかたちでそれを保証するような措置も講じておりますので、私はここで示してあるイールドカーブ・コントロールというのは十分できると思っております。

それから、ご指摘の点は、おそらく需給ギャップがこの3年間で目立って減少してきたということはこれは明らかでして。

失業率が3パーセントまできてるわけですので、完全雇用に近いというか、完全雇用というかそういう状況になってますし、設備の稼働状況も非常に高いものになっていますので、いろんな計算ありますけれども、需給ギャップが縮んできて、それが物価の押し上げ効果をもったということは確かだと思うんですね。

ただ、それにもかかわらず、現実の消費者物価の上昇率が、今、足元で若干マイナスにまでまた落ちてますけれども。

その背景にはもちろん、石油価格の大幅な下落とか、いろんなことがあるわけでですけれども、それとともに予想物価上昇率自体も昨年の夏以降弱まってきているということは、これが消費者物価の基調を引き上げていくうえで、十分な効果をあげていない理由の大きなものであることは間違いないと思います。

石油価格そのものについては1国がどうこうできるものはありませんしね。そういうものは与件として見ながら、我々としてどうしていくかと言えば、あくまでも一方で需給ギャップを縮めていくという、つまり実質金利を低位にすることによって、景気を刺激し、需給ギャップを縮小していくということと、予想物価上昇率にプラスの影響をどうやって及ぼしていくかという、この2つになると思われます。

需給ギャップの縮小ということは誰も認めるところでありますので、予想物価上昇率という面で、とくに石油価格の下落その他によって足元の物価上昇率が下がってきたときに、予想物価上昇率も弱くなってきてしまったと。ということについて詳しく分析したということだと思います。

総裁任期中のデフレ脱却は可能か

記者8:NHKのヨシノです。今回、従来の枠組みをさらに強化したということで、これは当然総裁任期中のデフレ脱却は十分可能だと考えるのか。これが1点です。

もう1つは、今回のイールドカーブ・コントロール導入の背景に、金融機関の収益圧迫ですとか、個人の資産運用への懸念の高まり、批判の声、そういったものもあったと考えてよろしいんでしょうか。

黒田:2パーセントの物価安定目標がいつ達成されるかということは、これは展望レポートで毎四半期示しております。今の最新時点の展望レポートによりますと、2017年度中ということになっているわけですが、同時に、さまざまな不確実性が高いということも、展望レポートで示してあるとおりであります。

イールドカーブ・コントロールということにした背景に、金融機関への収益圧迫とか、あるいはマイナス金利というもののマインドのような影響とか、その他そういうものを考慮したかということですけれども、半分当たってるというか半分当たってないというかですね(笑)。

この総括的な検証のなかでも、けっこう詳しくマイナス金利の効果と影響については示してありまして。先ほど来申し上げているとおり、このイールドカーブ全体がマイナス金利付き量的・質的金融緩和の下で非常に大きく低下し、それが貸出・社債金利などの低下にしっかりつながったということ、それから金融機関の貸し出し態度は引き続き積極的であるということで、これまでのところマイナス金利の下で金融緩和、一段と緩和的になっているということで、これははっきりポジティブに効果があったということを言ってるわけです。

さらに付け加えると、もっとも貸出金利の低下は金融機関の利ざやを縮小させることで実現しているため、さらなる金利低下にともなう貸出金利への波及については、金融機関の貸し出し運営方針にも依存するということを言って、確かに金融機関の収益へ今後どのような影響が出るかということについては留意をしていることでありますし。

また、これも先ほど申し上げたように、イールドカーブの過度な低下・フラット化は、広い意味での金融機能の持続性に対する不安感をもたらし、マインド面などを通じて経済活動に悪影響を及ぼす可能性があることも、この総括的検証で指摘されておりますので、そういったことも考慮したことも事実ですけれども。

だからといって、金利がこれ以上下げられないとか、あるいは量的・質的金融緩和がこれ以上拡大できないとか、そういうことはまったく言っておりません。

記者8:すいません。最初の質問で、そうすると総裁任期中にデフレ脱却ができるかどうかというのは不透明というか、まだはっきりわからないということ?

黒田:現在の展望レポートですと「2017年度中に2パーセントに達する」とされているところです。ただ、不確実性が高いということは言っております。

マイナス金利付き量的・質的金融緩和の効果

記者9:共同通信のイデです。今の点にも関連するんですけれども、このマイナス金利付きQQEを導入された直後、総裁は「これは世界の中銀史上でも最も強力な枠組みである」とおっしゃっていたかと思うんですけれども。

今回の枠組み修正は、その後この半年強経って、今おっしゃったような悪影響が見えてきたなかで、それをふまえて修正を図る。つまり、もともとそんなに最強の枠組みでもなかったということになるのか、というのが1点。

あと、外債購入についてなんですけれども、今回市場で一部観測が出ましたけれども、改めて、今後、質の強化のなかで検討対象となりうるのかどうか、お考えを聞かせてください。

黒田:まず第1点につきましては、マイナス金利付き量的・質的金融緩和というものが、量的・質的金融緩和を超えて、金利という次元を追加して、3次元の極めて強力な金融緩和の枠組みであるということは、そのとおりであると今でも思っております。

そのうえで、先ほど来申し上げているとおり、経済の押し上げ効果というか、経済に対する最も大きな刺激効果というのは、実質金利の引き下げであることは事実なわけですね。そういった面では、ある意味で言うと、マイナス金利付き量的・質的金融緩和というのはものすごい効果をもったわけですね。

ただ、その一方で先ほど来申し上げているような論点もあるということは事実でありまして。したがって、今回のイールドカーブ・コントロールというか、長短金利操作付きの量的・質的金融緩和によって、これをさらに強化したということであります。

それから、2番目の点につきましては、ご案内のとおり、日本銀行法上、外国為替相場の安定を目的とする外国為替の売買は、国の事務の取り扱いをするものとして行うものというふうにされておりまして。したがって、そうした外国為替の売買については、法律上、財務大臣が一元的に所管されていると理解しております。

日本経済にとって適切なイールドカーブの実現

記者10:東京新聞のナツミと申します。量の部分で1点だけなんですけれども。今後、金利調節をしながら、柔軟に量も増減させるということになると思うんですが、それを考えますと、今まで機械的に年間80兆円ずつというかたちで増やしてきたということ自体が無駄玉だったというか、ちょっとやりすぎたのではないかと、そのような思いというのはありますでしょうか?

黒田:そういう思いはまったくありません。ただ、国債を大量に購入してきて、その結果として、市中に残ってる国債というのは、たぶん総発行高の3分の2ぐらいだと思うんですけども。ですから、そういう意味ではまだまだ量的に限界に達しているということはまったくないんですが。

他方でどんどん市中の国債が減っていって、そのなかで80兆円を毎月毎月、その12分の1というわけじゃないんですけど、購入していきますと、いわば一単位の国債を買い入れることによる金利の引き下げ効果というか、押し下げ効果というか、抑制効果というのは、より強くなってくるという可能性はあるんですね。

ですから、そういう意味では、適切なイールドカーブ、まさに経済にとって、経済の成長を促すために最も適切なイールドカーブの実現のために必要な国債の買い入れというのは、経済や金融の状況によって変わってくるわけですので。

80超円というものを固定するというよりも、むしろ経済にとって一番好ましいイールドカーブというものを考え、それを実現できるような国債買い入れをするということだと思います。

現時点では、現時点のイールドカーブがおおむね妥当ではないかということですので、80兆円という国債買い入れもめどとして維持しているわけですけれども、将来こういったイールドカーブを実現するために必要な国債の額というのは、その時々の経済、物価、あるいは金融情勢によって上下すると思いますので、そこはあくまでもイールドカーブ・コントロール、長短金利付き量的・質的緩和という、このフレームワークに即して、イールドカーブを最も適切な形になるように国債の買い入れを続けていくと。

その場合には、さっき申し上げたように残存期間の制約みたいなものを取って、柔軟に、しかし幅広く国債を買って、適切なイールドカーブを実現していくということだと思っております。