モチベート維持は「組織」にフォーカス

玉川憲氏(以下、玉川) :次にいきますね。

伊藤直也氏(以下、伊藤):はい。

質問者3:(1)経営陣は「人件費を払っているんだから、エンジニアは売上があがる機能開発をしろ!」と要求しますがCGM型サービスという性質上、機能開発やUI/UXの改善で売上を改善することが難しく現場のエンジニアは疲弊しています。そういった組織でエンジニアをモチベートしていくにはどうしたらいいでしょうか?

(2)最近、採用を強化した結果、エンジニアが増えてセクショナリズムが発生してきており、 社内の雰囲気が悪くなっています。 例えば、アプリエンジニアのやりたい施策がサーバサイドエンジニアの工数が確保できず、ボトルネックになってフラストレーションが溜まるなど。こういった状態で、エンジニア全体で同じ方向を見てパフォーマンスを出していくにはどうすればいいのでしょうか?

玉川:CGM型の……。

伊藤:これはもう、辛い問題ですね。

玉川:コンテンツジェネレーションをユーザーさんにやってもらうということですかね。

伊藤:そうですね。

玉川:これ、なんか見てて涙が出そうですね。「人件費を払ってるんだから、エンジニアは売上が上がる機能を開発しろ!」。

(会場笑)

伊藤:涙声になりましたね(笑)。

(会場笑)

伊藤:そう言っちゃいけないというのもあるんですよね。

玉川:そうですね。

伊藤:内心は思っていても。

玉川:そうですね。「そういう組織でエンジニアをモチベートしていくには、どうしたらいいでしょうか?」。これ、自分自身がモチベートされてないですよね。

(会場笑)

伊藤:質問2は解決できそうですけど、1はきつそうですね。

玉川:そうですね。そもそも、こういうことを言う経営陣はイケてないですよね(笑)。

伊藤:ただ……CGMみたいなサービスもそうなんだけど、ものによっては一理正しいところがあるですよ。ゲームなど、そうなんですけどね。

玉川:はいはい。優先順位の話という意味では、そうですよね。

伊藤:優先順位というか、CGMサービスやゲームのようなビジネスはソフトウェアそのものが商売道具なんで、究極的には「いいソフトウェアを作れば売れます」という話なんです。究極的には……ですよ。食べ物や機械を販売しているわけではない。ならば、ソフトウェア開発者はきちんと売上が出るゲームを作れという話です。

玉川:でも、「人件費を払ってるんだから」と言わなくていいですよね、ここでね(笑)。

伊藤:そうですね(笑)。1番は難しいな。2番は「アプリエンジニアのやりたい施策が、サーバーエンジニアの工数が確保できず……」。これはさっきの僕のインフラ、アプリエンジニアの話に近いかな。なんか同じ方向を見るようにしたいんですね。これもやはり、マインドじゃなくて、組織のかたちを変える・フレーミングするなど、そういうことで決まっちゃう気がしますね。

マネジメントの仕事は調整ではなく、問題発見

質問者4:マネジメント職についた際に、各部署との調整でリーダーだけ一気に稼働が増えてしまい、マネジメント職につく覚悟がつかないんです。稼働時間は変えず、マネジメント職で上手く自分の稼働を増やさず回していく秘訣を教えて下さい。

玉川:これは、あなたに「マネジメント職につく覚悟がない」という。

伊藤:「稼働時間は変えず、マネジメント職でうまく回す……」。

玉川:マネジメントはやりたいんだけど……「覚悟がつかない」とは。

伊藤:やったほうがいいとは思っているんでしょうね。

玉川:やったほうがいいと思っているんだけど……。

伊藤:やったほうが確実にものごとがうまくいくとわかっているけど、調整作業の洪水に飲み込まれるのがしんどそう。

玉川:うん、わかる。

伊藤:難しいところなんですけど、本当は調整するのがリーダーやマネージャーの役割じゃないんで、きちんとやれば……。だって僕、今も調整業務なんてほとんどやらないんで。きちんとやればうまくできるんだけど、そこに到達するには1回、その調整地獄に陥っちゃうんでしょうね。ふつうにやってると。

玉川:そうですね。あと、会社にもよりますよね。「調整するのはマネジメント職だ」みたいな期待感があるような会社の場合だと、けっこうきついですよね。

伊藤:僕は一時期こういう調整ごとばかりしていて、それこそ自分でプロダクトロードマップや「組織をどういうかたちに変えていくか」という未来のことを考えられなくなった時期がありました。「いかんな」と思ったので、「いかにして、この調整ごとをやらずに済ませるか」と考え方を変えていったんですよね。

玉川:それ、大事ですよね。さっきの1on1のところもなんか気をつけないと、逆に「1on1やらなきゃいけない」みたいになっちゃうと危ないですよね。

伊藤:そうそう。1on1症候群という。

玉川:1on1やると、週のうち半分くらい時間消費しますからね。

伊藤:だから、「おれの仕事、1on1することです」と(笑)。

玉川:(笑)。

伊藤:カウンセラーか!

(会場笑)

玉川:そうなんですよね。

伊藤:だから、基本的には、そうやってどんどん時間を削っていくというのがありますね。

玉川:そうですね。だから、調整ごとが仕事じゃないんですけどね。結果的に調整ごとで終わってしまうから、そう思っちゃうというのがありますよね。

伊藤:「うまく回す秘訣」か。ある程度、僕は、現場に多少負担してもらいますけど。さっき言っていたサーバント型リーダーシップの罠ですが、僕、あれがすごく嫌なんです。そういう調整ごとばかりやっているのは、ちょっとしんどい。1人に集めるからしんどいのであって、何人かに負担してもらったら大丈夫だから。

玉川:そうですね。

伊藤:たとえばCTOの1番重要な仕事の1つに、採用があります。採用のプロセスを回すなど、基本的に中心として見てくれる人は別でお願いしています。一方で、こういったイベントに出て話すなど、迷っている候補者の方を説得するといった、そういう大事なところに時間をかける。

あと、会議のファシリテーションも、その人にお願いしています。それから、大きな部署の1on1は、基本的にはその部署の部長にお願いしていて、僕はやらないんですよ。そうやって時間を空けて、彼らがうまくやっているかどうかだけ監督するという感じです。

玉川:うちもそうですね。基本的には、非常にシニアな人しかいないんでマネジメントがないんですよね。

伊藤:それはうらやましいですね(笑)。

玉川:みんな勝手にやっちゃうから。だから、理想的にはそうなるはずなんですよね。

伊藤:さっき28人と言ってましたっけ?

玉川:28人くらいですね(対談当時) 。

伊藤:エンジニアが10……?

玉川:今、エンジニアが15くらいですかね。

伊藤:15くらいで、スタートアップで、わりと30歳を過ぎた人。

玉川:そうですね。30歳過ぎた人が多いですからね。

伊藤:それだと、マネジメントの必要がないですね。

玉川:そうですね。

伊藤:これはそういう話じゃないんでしょうね。

玉川:そうですね。そういう話じゃないんでしょうね(笑)。結論が出ないまま、先にいきます。

伊藤:とにかく、調整が自分の仕事だと思う前提を覆さないといけない。僕は絶対そうだと思います。マネジメントの仕事は調整ではなく、問題発見です。

玉川:そうですね。

1on1はあくまでも「壁打ち相手」

質問者5:1on1をやっていますが、自分より明らかにキャリアを含めて技術力が上の人との1on1に自信が持てません。そういうときの心構えや「こんな質問や話をしたほうがいい」などあれば知りたいです!

伊藤:「1on1をやってますが、自分より明らかにキャリアを含めた技術力が上の人との……」。逆に、なんで自分の技術力が上じゃないと話せないと思うんだろう。

玉川:裏返すとそういうことですよね。

伊藤:うん。技術力が上ということは、人として上であるということを言っている?

玉川:なんか、若干そういう匂いがプンプンしちゃうような感じですね。

伊藤:実際は、そんなわけないですよね。確かに僕も玉川さんと話すと緊張しますけど。

(会場笑)

玉川:(笑)。僕も緊張してますね。

伊藤:ただ、技術力が上の人と「技術者としてのキャリア」の話をするのは、少し難易度が高いかもしれないですね。

玉川:確かに。キャリアはどうだろう?

伊藤:いや、でも、どうだろう?

玉川:でも、ラーニングができるなど、いろいろ聞けると思うと、むしろ楽しいはずなんですよね。

伊藤:というか、そもそも1on1で技術の話はしませんよね? 玉川さんは1on1をやっていないんでしたっけ?

玉川:今、やっていないですけど。昔は1on1を定期的にやってました。でも、技術の話は確かにあまりしないですね。

伊藤:しないですよね

玉川:飲み会とか行ったら、技術の話しますよね。

伊藤:(笑)。1on1はどちらかというと、「最近うまくやれてますね」「この間あそこでもめてたけど、なんだったの?」とか。

玉川:そうですね。

伊藤:そういう、人の話が中心だから。

玉川:だから、自分がマネージャーで、部下が自分より技術力が上の人に対して1on1をやっているシチュエーションなのかな。

伊藤:あるいは、リーダーみたいなことをチームでやっていて、自分よりガッとできる人が隣にいるけど、その人が技術系の人……とかですね。

玉川:自分より非常にくわしいと。それなのに僕は1on1をやっている。そういうことですね。

伊藤:でも1on1は、その人に道を指し示してあげる必要があるものじゃないんで。

玉川:そうですね。

伊藤:さっきの、壁打ち相手役に自分がなっているのが1on1。別に、ぶっちゃけ自分は壁でいいんですよね。「うん」「なるほど」「へえ」「そっか」だけでいい。

玉川:そうですね。本当に指導する必要なんかまったくなくて、むしろ引き出してあげる、いい質問する。まあ、「いい質問とはなんだ」という話になりますけど。

伊藤:(笑)。さっきの、あらかじめ聞いておいたらいいこと……。なんだっけ? 「最近、困ってることはなんですか?」「チームの中で改善したほうがいいと思ったことを1つ挙げてください」と書いてあって、「あ、なるほどな」と思ったんです。実際、それをやってミーティングしたらすごいよかった」と、うちの社員も言ってましたので、そういう感じでやってもいいかもしれないですね。

スタンドアップミーティングをbot化

玉川:うちの会社は今、スタンドアップミーティング的なものをbotでやっているんです。

伊藤:bot?

玉川:毎日、Slackの上でbotから聞かれるんですよ。「昨日なにしましたか?」「今日なにしてましたか?」と。

(会場笑)

伊藤:なるほど(笑)。

玉川:最近もいくつか入れていて「いいな」と思ってるのが、「チームになにをシェアしたいですか?」「困ってることありますか?」「これを改善したほうがいいと思ってること」の3つですね。シェアしたいこと、困ってること、改善したいこと、もしくは改善したことが、ネタとして盛り上がりますよね。

伊藤:確かにbotはいいかもね。10人くらいの対面のスタンドアップでそれやると、「共有事項ありますか?」……しーん。「ありませんね。よろしくお願いします」(笑)。

玉川:そうですよね。botでやり始めた理由は、最初はスタンドアップでやっていたんですけど、十何人を超えてくるとそれだけで20〜30分かかっちゃうんですよね。時間もったいないから、それだったら書いて、集まって、読むんですよ。読むとだいたい数分で済む。そして、言いたいことある人だけ言う感じにしたら、10分くらいに縮まっている。

伊藤:それはいいですね。

玉川:ちょっと1on1から外れますけど。

伊藤:でも、そういうことですよね。

玉川:基本的にはそういうことですね。

伊藤:はい。