Y染色体がなくなってしまう?

マイケル・アランダ氏:男の子と女の子を区別しているものはなんでしょう? これは実に複雑な質問になりそうです、人間の生物学上の性ということになると、その違いはY染色体にあります。

私たちはY染色体が重要なものだということは知っていますが、科学者たちは数百万年の時を経てそれが縮小しているということもわかっていて、最終的にそれは消えてしまうかもしれないとさえ考えている人もいます。

でも、あらゆる哺乳類のY染色体に関する最近の研究では、そのなかにより重要な遺伝子があることがわかってきています。“男性らしさ”に貢献しているもの以外にね。

染色体は、DNAと私たちの細胞核に格納されているそのほかのものが束になっています。ほとんどの人には23対の染色体があって、片方はお母さんから、もう片方はお父さんからもらったものです。

このうちの22対は全人類共通に見えますが、最後の1対は性染色体、つまりXとYとして知られていますよね。一般的に、生物学上の女性は2つのX染色体を持っていて、生物学上の男性はXとYを1つずつ持っています。

Y染色体はXの半分以下の大きさで、それに含まれる機能遺伝子はずっと少ないです。ところが、いつも必ずそうだというわけでもないんです。

何億年も前、人間の祖先のX染色体とY染色体は同じ大きさで、"遺伝子組み換え"と呼ばれる過程を通して、お互いに遺伝子情報を交換することができました。この組み換えは長い時間を経て私たちの進化を助け、そして私たちの遺伝子における潜在的に危険な突然変異から守ってくれているのです。

ところがある時点で、X染色体とY染色体はあまりにも違うものになってしまい、互いに組み換える能力のほとんどを失ってしまいました。

だからY染色体の一部を変化させ、あるいは欠損させてしまった突然変異を修正することができなくなって、何百万世代もの間縮小し続けて来てしまったというわけです。

今日、人間の男性が持っているY染色体には、かつての3パーセントの機能遺伝子しかありません。でも恐れることなかれ、Y染色体を持っているみなさん! 多くの研究者たちは、過去2千5百万年ほどの間、人間を含む多くの哺乳類の間で、この衰えは横ばい状態だと考えています。

Y染色体が関係するのは男性らしさだけではない

例えば、2014年の2つの研究、1つはMITの研究者たちによるものでもう1つはスイスの科学者によるものですが、これらの研究で8~15の哺乳類種のY染色体が調査されました。

案の定、すべてのオスの繁殖に関わる部分を成長させるのに役立つ、SRY遺伝子のような性を決定する遺伝子のいくつかが発見されました。

でも同時に、男性性と関係ない多くの種においてY染色体と一緒に保護されている遺伝子も発見されたのです。

これらは調節遺伝子で、つまり基本的に他の遺伝子の発現をオン・オフすることで調節する遺伝子です。

性染色体上にある多くの遺伝子が正常に機能するために1つしか必要ない一方で、重要な調節遺伝子のなかには対で必要なものもあると科学者たちは考えています。

だから女性にはそれぞれのX染色体に1対の調節遺伝子の片方があって、男性はX染色体には1つの遺伝子、Y染色体には1対の遺伝子があるのです。だから科学者たちは、多くのY染色体の遺伝子はX染色体上にある遺伝子と一緒に働いて、健康な人間の成長を形作るほかの染色体を調節するのを助けていると考えています。

しかし染色体のどの対が成長のどの部分に影響しているかを知るためには、もっと多くの研究がなされる必要がありますね。でもたとえそれがどうであろうとも、Y染色体は“男性らしさ”を司るだけのものではないようですし、おそらくすぐにどこかへ行ってなくなってしまうってことはないみたいですね。