リンゴが茶色くなってしまう理由

マイケル・アランダ氏:あなたの目の前にはとてもおいしそうなリンゴがあるとしましょう。ところが、一口かじってみると中身はいやな茶色をしています。

またはリンゴを半分だけ切って食べたとしましょう。もう半分のリンゴは一時間も経たぬうちにカウンターの上でみるみる茶色に変色してしまいます。

おいしいリンゴが食べたかっただけなのに、口いっぱいに広がるのは切ない残念感のみです。

一体リンゴになにが起こったのでしょう? リンゴを変色させてしまうのはポリフェノール・オキシダーゼ(PPO)と呼ばれる酵素です。この酵素は果実からはもちろん、私たち人間の皮膚からも検出されます。

PPOの具体的な役割は、生きているものほぼすべてのものに付着している、フェノールという物質と酸素原子をくっつけてゆくことです。つまり、酸化させてゆくのですね。

PPOは周りにフェノールと酸素が存在する限り、こうしてフェノールと酸素原子をくっつけ続けます。

茶色の原因はメラニン

くっついた酸素原子とフェノールは長く複雑な反応を続け、最後にはメラニンというタンパク質の一種へと変化します。そうです、私たちの皮膚や髪の色を左右するあの物質は、リンゴなどのフルーツをも変色させていたのですね。

このメラニンは、人間の皮膚と比べて果肉など植物の上での方が動きが活発なんです。なぜかというと、我々の体は髪の毛や目、皮膚の下の層などの一部分しかメラニンによって変色することがありませんが、植物の場合はほとんどの部位がメラニンによって変色することができるからです。

しかも、植物の上ではメラニンは人間の肌とは違った働きをします。植物の細胞がなんらかのダメージを受けた時、メラニンはそのダメージを受けた細胞の周りを囲み、ダメージが広がるのを防ぎます。

1ヵ所だけが悪くなっているリンゴのその箇所の周りは茶色に変色しますよね、それはリンゴの代謝能力が腐りかけている部分に反応している証拠なのです。

リンゴはダメージを受けた部分に対してこのように反応します。切った時や床に落としてしまった時だってそうです。ダメージによって壊された細胞をメラニンが守っているのです。

よくワインなどのおつまみとして出される薄くスライスされたリンゴを想像して下さい。薄くスライスされたリンゴは細胞がダメージを受けただけではなく、空気に触れる部分が増えますから、変色の速度もとても速くなります。PPOにとっては酸化の大パーティのようなものです。

オシャレに切ったリンゴは早急に食べてしまうしかありません、茶色く変色したものは捨てるしかなくなってしまいますから。

リンゴの新鮮な細胞はとてもおいしいですが、メラニンはそうでもありません。ですが、食材によってはこのメラニンがいい方向に働く場合もあります。

ココア、レーズン、紅茶、コーヒーなどの茶色い色素も実はメラニンによるものなのですが、これらの食べ物はメラニンによって私たちの好む味や風味になっているのです。