変わっていく時代をどう受け止めるのか

田中俊之氏(以下、田中):さっきまで選ぶとかいろいろ言ってきたんですけど、価値観の転換とかは、どうしてもやっぱり生まれ育ったときの記憶が強いじゃないですか。

山田ルイ53世氏(以下、ルイ53世):20代くらいまでに過ごした時代の感じで、それ以降きてますからね。

田中:さっきジャンプの話とかもかなりでましたけど、今はジャンプってかなり読者も減っていますし、やっている漫画のテイストもぜんぜん違うんですよね。だから1回、またラジオの話になっちゃいますけど、『おそ松さん』の歌を歌っている方たちが来たときに。

ルイ53世:A応P、アイドルグループの。

田中:漫画で最強のキャラってなにみたいな話をしたときに、当然ラオウと思ったわけじゃないですか。

(会場笑)

ルイ53世:ねえ。ラオウか、ジョジョの……。

田中:ディオですか。

ルイ53世:ディオですよ。第3部のときのディオが一番強いんちゃうかと。

田中:そうですよね、ザ・ワールドで時間止められちゃうわけですから。

ルイ53世:あれやられちゃったら、かないませんからね。

田中:今だってみな殺しですよね(笑)。

ルイ53世:ナイフを10本くらいファッって投げられて、ピタってなって、時が動き出したらザクっていくっていうね。……すみません。

田中:時代はもうぜんぜん変わっちゃって、ジャンプも僕らから見たら萌えっぽい絵の漫画とか、ぜんぜんバトルとかもしてないから。

時代が転換しているというところに、中年は中年で対応していかなきゃいけない部分もたぶんあるので。自分が年取っちゃうと、新しいものが受け入れられなくなっているかもしれないなって。なんか嫌悪感を持ったときに。

ルイ53世:あるある(笑)。

陰でルイ氏を「乾杯ゴリラ」と呼んでいる後輩たちについて

田中:若いやつはって言うんじゃなくて、なにか取り入れられる部分があれば。

ルイ53世:そのほうが、気持ち的にも楽ですよね。否定しにいくよりね。

田中:どうですか? 若手の芸人さんとか見ていると。そういう意味では。

ルイ53世:それはうちの後輩っていう意味ですか? 僕のことを陰で「乾杯ゴリラ」って呼んでる以外のことは、おおむね……。

(会場笑)

ルイ53世:サンミュージックって言うたら、みなさんも一発屋がちょっと多いみたいな印象あるかなと思うんです。変なかっこしたコスプレキャラ芸人が多いと。ダンディ坂野さんしかりですけれども。スギちゃんもやね。着てるやつおるなと思ったら脱いでる小島とか、僕らとかいろいろいるんですけど。

そういう事務所やと思うてたのが、こないだ、うちの若手の子らのAbemaTVのネタ番組のMCみたいなのをさしてもろうたんです。10何組バーっと出てきたんですけど、みんなそこそこシュッとした漫才師とコント師なんですよ。変なかっこしてるやつのほうが少ない。

1人だけ侍のかっこして、ちょんまげ自分で結うてるアホがいましたけど(笑)。

(会場笑)

田中:その芸人さんの設定がおもしろいなと思ったんですけど、江戸時代から生きているんですよね。

ルイ53世:そうそう。自分でちょんまげ結ってお侍のかっこしている、お侍ちゃんっていう後輩がいるんですけど、その手の芸人の設定って言うたら、タイムスリップパターンが多いんですよ。江戸時代からタイムスリップしてきましたのていが多いんです。でも初めて聞いたんですけどそいつ、江戸時代から生きてる言うんですよ(笑)。

(会場笑)

ルイ53世:悪魔でデーモンさんのパターンはあったけど、芸人ではあんまり見いへんなみたいなことを言うてたら、やっぱりいろいろ番組出たとき、ややこしかったんでしょうね。最近タイムスリップに変わってましたけど(笑)。

田中:つじつまが合わなくなっちゃう。でも、若手の芸人さんはシュッとしてきているんですね。

ルイ53世:そうなんですよ、そういう意味では変わるなと思います。自分の事務所やのに。

田中:一周してきているということですよね。

残りの人生がどのくらいかを真剣に考えておく

ルイ53世:ぜんぜん話違いますけど、アニータとか、国でスターでしょ?

(会場笑)

田中:けっこう世代がわかる話ですね。

ルイ53世:あんなえげつないやつが普通にテレビ出てイエーイってやって、大っきい家建ててるんですよ。日本はやっぱり、デリケートなんやなって思いますよ、そういうところ。

田中:そういう意味ではルールが変わっていない部分もあって、やっぱり、日本だと娘を持つと心配すること多いんじゃないかなという気がするんですよ。不利なこともちょっと多いですよということですね。

今日は中高年の方もけっこういらっしゃっていると思うんですけど、残りの人生あとどのくらいかっていうのを、真剣に考えておくというのは、こうやって図にしてみるとよくわかるわけですから。

ルイ53世:ちょっと怖くなりますけどね。

田中:ちょっとゾッとしますけどね。青年期が終わっているのに若手というのは、変ですよね。

ルイ53世:たしかにね(笑)。

田中:ごく単純に言えば。

ルイ53世:そこまでしか登りつめれてないっていう部分もありますしね。

田中:いえいえ。やっぱり、こう上が詰まっているし、この辺も難しいなと思いますけど。

ちょっと残りのテーマとして、最後に救いということをですね。

ルイ53世:宗教が始まるんじゃないですか(笑)。

(会場笑)

「ラジオは人を救わない」

田中:これは僕、男爵の言葉で好きな言葉があって。「ラジオは人を救わない」って。

ルイ53世:(笑)。まあ、そういうことを言わしていただいてますね。でも、みんな言うじゃないですか、そういうの。ラジオってリスナーと距離近いから、メール来て読んで相談みたいなのがある。とくにそういうこと言いそうなパーソナリティの人多いなっていう印象があったんです。「ラジオで少しでもみんなに声が届けば、救いになるんじゃないか」みたいな。

「誰かが勇気づけられたら、と思って」みたいなことあるんですけれども。僕の番組は一切誰も救わない、救えないということですよ。正直。

田中:でも、それもさっきの正論の話じゃないんですけれども、なまじっか救いますよと言っている番組よりも、救わないよということを断言して放送されていることによって……。僕は実際にトークライブに行かせていただいたんで、実感したんですけど。

ルイ53世:自分、聴きすぎ見すぎなんですよ(笑)。

田中:いえ、本当にみなさんも「ねたみおとこ」、見に行かれたらいいと思うんですけど。

ルイ53世:普通に言いましたけど、トークライブの名前が「ねたみおとこ」っていう。

田中:ありがとうございます、補足していただいて。

ルイ53世:いえぜんぜん、僕のことなんで。申しわけないです(笑)。

田中:なんか、本当にいろんな人が来ているなと思ったんですよね。リスナーの方のかたよりがないというか、若い方もいれば、中高年の方もいれば、男性もいれば女性もいて。かたよりがない。結局、そうやって「救わないよ」って言っていることが、すごくフラットな空気を生んでいるんだなと思いまして。

ルイ53世:ちょっと自分でやってることなんでね、あんまりわかんないですけど。言うのもおこがましいなっていう気持ちもありますし。

田中:悩みを相談してくださいと言っているわけでもないのに、びっくりするくらい深刻なメールが来ていましたよね。

(会場笑)

ルイ53世:確かに。メールのカロリーが高いというか、相談とかじゃないんですよね。重たい重たいメールが。

「乳がんの手術に行きます」という“ふつおた”

こないだほんまに、(1人の客に向かって)なあ? いや、なあ言うて。

(会場笑)

ルイ53世:いや、ほんまによう顔見せていただいている方なんで(笑)。

60、70くらいのおばあちゃんからメール来て、「これから乳がんの手術に行きます」っていうメールがきたんです。

田中:世田谷ブタネコ。

ルイ53世:ラジオネーム、世田谷ブタネコいう方から。乳がんとはおっしゃってませんでしたけど、おっぱいの周りのね。「明後日かなんかから手術です。生きてたらまたメールします。ふつおた(普通のお便り)です」っていう。どこがふつおたやねんって言うて。ほんで1週2週くらいしたら、「元気になりました」ってまたメール来てましたけどもね。

そういうのも、ほんまやったら、どうなんですかね。深刻に、「大丈夫か、世田谷ブタネコ。大丈夫か、おい」「がんばれ、なんの力にもなられへんけど、がんばれ!」みたいなことなんでしょうけど。本人が言うて送ってきてるから、「うわー、こわいな」みたいな。「ちょっと、死なんといてよ、ほんま」みたいな感じです。うちの番組やと。救えやしないですからね、そんなの。

田中:でも、結果、その方はまたメール送ってこられましたもんね。

ルイ53世:そう言われると思って送ってきてるでしょうから、言うて大丈夫やなっていうだけなんですけどね。

田中:冒頭の話ともつながるんですけど、正論を言ってそれを守んなきゃいけない。ルールを破ったやつはいくら叩いてもいいっていう社会って、すごくみんなにとって生きづらい社会で。

「笑い」ということをさっき言いましたけど、斜に構えるとか風刺するということの力をもう少し見なおしても、今の社会はいいんじゃないかなという気がします。

ルイ53世:やっぱりいろんな見方をしたほうがいいなっていうのはありますね。自分にクセ付けたほうがいいなって思うんですよね。

田中:そういう意味で言うと、救わないと言っているラジオにはいろんな意見が来ていて、いろんな情報を発信しているわけなので。正論正論って感じじゃないふうにしていければよいのかな、と思います。それで、またピーター・L・バーガーさんなんですけど、よろしいでしょうか?

ルイ53世:バーガーさんね。

(会場笑)

お笑いも社会学も斜に構えている

田中:ピーター・バーガーの『社会学への招待』という本が一番好きなんですけど。「われわれには自分たちの動作をやめて自分たちを動かしてきたからくりを見上げ認識するという可能性が残されているのである」と。

つまり、今言ったようなワイドショー的な問題があってワーキャー言う、それについてみなが語りたがるということについても、それ自体批判することは簡単なんですけれども、どうしてそういうことが起こっているのかなということを、冷静に見る必要が、僕はあると思うんですね。

例えば、24時間テレビだって、この間すごい批判されていましたね。Eテレで対抗番組みたいなのがやってるからとか。ただ、24時間テレビは2年連続で視聴率15パーセントとっていて、最高視聴率が33パーセントくらいあるわけなんですよ。

だから、そういうニーズが実際にあるということを抜きにして、単に批判してもしょうがないんですよね。なぜ障害のある方がなにかチャレンジするとみなが感動するという仕組みがあるのかというところを、冷静に見ていこうよということですし。それで人って自由になれるんだということを言ってます。

今日、お笑いっていうことは斜に構えるっていうことを言いましたけど、社会学も斜に構えているんですよね。普通じゃないんですよ。みんなが普通だと思っていることを、どうしてみんなが普通だと思うのかというのを研究しますというんですから、冷静に聞いたら、ちょっと頭おかしいんですよね。

ルイ53世:ちょっと、嫌なやつですねえ。

(会場笑)

田中:みんなが「普通だから普通なんだよ」ってみんなが言っても、「普通であるカラクリがあるはず」って。

ルイ53世:「考えすぎやねん」って(笑)。

田中:実際、有名な社会学者はけっこうノイローゼになってるんですよ。

ルイ53世:考えすぎて(笑)。

田中:それでこそ、人間学としての、ヒューマニスティックな学問としての……なんでそんな斜に構えんのとか、なんで当たり前を疑うのというけど、やっぱりそのカラクリを見上げて、自分が自由になれる可能性があるんだということが、僕にとっての社会学の救いです。

人間にとって、男爵がやられている笑い、いろんなことがあるけど、「笑って別の角度から見るよ」とか、「笑ってやり過ごすよ」ということって、すごく重要なことなんじゃないかなと思いますね。

「右から左へ受け流す」ことが大事

ルイ53世:そうですね、やり過ごすっていうのは、本当に大事やと思いますよ。いちいちね、全部正面からぶつかって一生懸命がんばらななあかんってなるとね、人生が工業製品の耐久検査みたいになりますからね。やっぱりそれは、ムーディ勝山がええこと言ってますよ。

(会場笑)

田中:そうですか(笑)。

ルイ53世:あれもう、お経やと思って聞いてますよ。「右から左へ受け流す」というね、そういう気持ちって大事やと思うんですよね。

田中:じゃあ、それが締めになっちゃいますけど。

ルイ53世:これが締め!?

(会場笑)

ルイ53世:これが締めはまずいでしょう(笑)。先生から、今日の総括をいただきましょうよ。

田中:そうですね。今日は本当に、ありがとうございました。あっという間に時間が過ぎてしまったんですけれども。

ルイ53世:いえいえ、とんでもない。呼んでいただいて。

田中:今日はやってよかったなとすごく思います。正論で「引きこもりは無駄じゃない」とか、「男だったら一生懸命働いてしかるべきだ」ということを、今日は別の角度から見てみようということをやったわけなんですけど。

冒頭で小島慶子さんとの対談の本を出しましたけど、我が身を振り返る機会が、男性の場合はやっぱり少ないんです。働いていると毎日過ぎていっちゃうので。

ルイ53世:確かにね、三河武士みたいな生き方、死に方せなだめですもんね、もうね。背中を振り返ったらあかんというか、逃げたらあかんみたいなね。

田中:そうなんですよ。だから、こういうトークのイベントとかを通じて、今日は2時間みなさん貴重な時間を使われたわけなんですけれど、ぜひ我が身を振り返って、今後の人生を考えるのに、少しでもお役に立てばよかったかなと思います。大丈夫ですか?

ルイ53世:はい、僕もそう思います。

(会場笑)

田中:はい、ありがとうございました(笑)。

ルイ53世:そのように思う次第です。

(会場拍手)