芸大を目指して週7で予備校へ

高橋ひでつう氏(以下、ひでつう):今、ハヤカワさんは大学生ということで、どこの大学の何年生でしょうか?

ハヤカワ五味氏(以下、ハヤカワ):東京の多摩美術大学のグラフィックデザイン学科の3年生で、広告を専攻しています。

ひでつう:多摩美は浪人しないで現役で入ったんですか?

ハヤカワ:私はもともと東京芸大を目指してて、高校時代もずっと予備校に週7とかで通ってて。

ひでつう:週7!?

ハヤカワ:週5〜7ですよ。もう高2からは週6で、高3で週7で通ってて、空き時間もずっと自習室とか。みんな美術予備校生はだいたい勉強しないんですけど、私は自習室に通っててひたすら。どちらかと言うとペーパーのほうが得意だったので、ペーパーの勉強をしてたから、私大とかはけっこう受かったというか。

多摩美と芸大しか受けてないんですけど、私大はスルッと受かりました。逆に、東京芸大は2次までいって、受かるつもりで2時間くらい遅れて合格を見に行ったんですけど。「みんながいる前で喜んじゃダメだな」とか言って、気を遣って2時間後くらいに行ったら落ちてるという事件があって……。

ひでつう:それは事件だね(笑)。

ハヤカワ:そのとき、でんぱ組.incの『サクラあっぱれーしょん』を聞いてたんで、いまだにそれを聞くと思い出すという。嫌なんですよね(笑)。

ひでつう:トラウマな感じで(笑)。

ハヤカワ:けっこうトラウマですね。それが挫折経験としてありますね。今20歳で、今年の8月で21歳なので、現役の(大学)3年生の人だと同い年かなと思います。

ひでつう:そうですよね。(初めて)会ったとき、まだ10代でしたもんね。

ハヤカワ:そうなんですよ。やっと今年からビアガーデンに行ける年というか(笑)。

女子大生社長の日常

ひでつう:ハヤカワさんは今、学校にちゃんと通いながら……。今年はバリバリ通っているというのが、Twitterからもうかがえますけども。

ハヤカワ:うちの大学は1・2年が基礎課程で、3・4年が専門課程になっていくんですけど、1〜2年デッサンとかひたすらやらされて、私も予備校時代に死ぬほどやってたんで、「もういいよ」みたいな。

ひでつう:「またやるのか」みたいな?

ハヤカワ:そう、「またやるの?」みたいな。しかも私、制作時間短いのに、なぜか参作(参考作品)に選ばれて、「もういいでしょ」みたいな感じになって。3分の2以上出したら成績つくというやつだったので、もう最初の前期で3分の2出して、後期はほぼ行かないみたいな感じで1〜2年は過ごしてました。

正直、大学3年で辞めようかなと思ってたんですけど、3年生に入ってとりあえずやり始めたら、けっこう専門的な広告でいろいろなポスター作ったりとか、そういうことになった瞬間に楽しくなって。今は仕事半分、大学半分くらいで、けっこう仕事も削りつつ大学に行ってますね。

ひでつう:めちゃめちゃまじめに行ってるよね。

ハヤカワ:めっちゃまじめに行ってますよ。

ひでつう:Twitterとか見てると、仕事しながら「やばい、講義もう行かなきゃ」みたいになってる。

ハヤカワ:むしろ最近、仕事を切り始めてるという、あまりよくないパターンなんですけども。「印刷の大判プリンター、この時間しか空いてないから」みたいな感じで、けっこう仕事切りつつ大学行ってますね。

株式会社ウツワを作った経緯

ひでつう:なるほど。今は会社の社長をやりつつ……。いつ頃起業したんでしたっけ?

ハヤカワ:私が起業というか、実際にモノづくりや販売を始めたのは、高校1年とかそれくらいですかね。ちょうど予備校に入り始めて、少し時間があったというか。高校時代はけっこうヒマじゃないですか? そのときに作ってたのが最初で、実際に法人化というか、株式会社ウツワを作ったのは去年(2015年)の1月ですね。

ひでつう:なるほど。それまでは個人事業主として、モノづくりをいろいろしてたということですね?

ハヤカワ:そうですね。個人事業主にもなってなくて、いわゆるフリマ的な扱いで、「メルカリ」でイラスト売る的な感じのやりかたでやっていて。「さすがにヤバイから、おまえは税理士のところに行け」と言われて、法人化したりとか。そういう感じです。

ひでつう:ということは、いろいろソーシャルメディアとか、そういったスマートECが出てくるなかで、これはいっちょ自分のクリエイティブというか、「作ったモノが売れるな」みたいなことを感じて、スタートしたという感じですか?

ハヤカワ:そうです。それこそ中学のとき……もしかしたら、(今日この場にいる)このなかでもやっている人がいるかもしれないんですけど。

例えば「ヤフオク!」でウィッグとか服を買って、それを「メルカリ」とか、当時だとまた別のフリマアプリがあったりするんですけど、そこで売ると差額で利益が出るみたいな感じで。

私は本当に親からお小遣いがもらえなくて、でもロリータ服という、あのフリフリな服、本当に3万くらいするんですけど、それがほしくてたまらなくて、どうにかお金を字のごとく錬金しなきゃいけないと思って。そのとき「ヤフオク!」でただひたすら転売をしてて、月5万とか。

ひでつう:転売ヤーとして?

ハヤカワ:そう、転売ヤーとして月5〜6万くらいですかね。めちゃくちゃ暴利でやってたんで、1回売ると6000円くらい利益が出ていて。それでやって……という経験があったから、実際に自分の商品を売るときでも、なんとなくモノを売るという感覚がありましたね。今でいうと、それこそ「メルカリ」で売る感覚に近いのかなと思います。

ブログの読者にプリントタイツを販売

ひでつう:なるほど。ちなみに高校時代で、初めて自分のクリエイティブを転売以外で販売したのは、どういったものを、どういったかたちでスタートしたのでしょうか?

ハヤカワ:最初は利益が出なかったんですけど、オリジナルプリントタイツという。けっこう「チュチュアンナ」とかで売ってるじゃないですか。花柄だったり、ストッキングにキスマークが入ってるみたいなやつとか、一時流行ってたと思うんですけど、それを自分でカラースプレーで作ってた時期があって。1個400円くらいで作れたやつを1000円くらいで売ってたのが最初ですね。

ひでつう:じゃあ、超DIYみたいな?

ハヤカワ:もう超DIYですね。家のベランダでやって、ベランダ黒くしてめっちゃ怒られたり。

ひでつう:(笑)。

ハヤカワ:観葉植物銀ピカにして怒られたりしましたね。

ひでつう:なるほど。じゃあ、ベランダ工場で従業員1人でやったと。

ハヤカワ:ベランダ工場の粗悪な感じですね。従業員1人で、ガス吸いながらやってましたね。

ひでつう:それはオークションとかで? 初めはどこで売ってたんですか?

ハヤカワ:オークションまではいかなくて。当時自分でブログをやってて、そこにメールアドレスを載せて「買いたい人はここに連絡ください」みたいな。それで「口座教えて」みたいな。

ひでつう:じゃあ、さらにアナログな感じで?

ハヤカワ:直販というんですかね? 最近だとほぼないですけどね。

ひでつう:おもしろいですね。結果的に集客になったと思うんですけど、ブログにはどんなことを書いてたんですか?

ハヤカワ:ブログはもともとファッションブログをやってて、それで5年前ですかね? けっこう「(にほん)ブログ村」が流行ってた時期があると思うんですけど、めっちゃ懐かしいですよね。「『ブログ村』踏んでください」みたいな。

ひでつう:「ランキングに参加してます」とかね。

ハヤカワ:あれで、ロリータ系というランキングに参加してたんですよ。そこでけっこう母数多かったんですけど、30位とか20位くらいウロウロしてて。今でも「でんでけブログ・アメブロ」で調べると出てくるんですけど。

ひでつう:探していい?(笑)。

ハヤカワ:もう黒歴史です。でも、見るとおもしろいんでぜひ見てください。そこでひたすらしょうもないこと言ってたんですけど、だんだん私が着る服とかメイクに賛同してくれる読者さんがいて。

ひでつう:いわゆるファンがついたということですね。

ハヤカワ:そうですね、ファンの方がついてくれて。やっぱりそういう人たちは感覚が近いので、私が作った商品にも賛同していただいて。最初に5着とか10着くらいタイツが売れて、着々と進んでいくという感じですかね。最初は1万円いかないくらいですね。材料費だと3000円とか1500円で、実際の売上も1万円くらいでスタートしました。

ひでつう:動機としては、ロリータ服が高いから買いたいと。でも、お小遣いもらえないから自分で稼ぐしかないと。

ハヤカワ:そうですね。でも、タイツを売ったこと自体はけっこう気まぐれというか。転売ヤーは完全にお金目的だったんですけど、タイツは「ほしい」と言われたから。

めんどくさいから、手数料分だけもらって原価であげるくらいのものだったんですよ。なので、ほぼほぼ利益出ないし、ぜんぜん口座のお金増えないし、ロリータ服買えないしみたいな感じで。

ひでつう:いわゆるファンサービス的なものですね。

ハヤカワ:そうですね。ファンサービス部分が最初の発端ですね。友達にあげる感覚というか。

ひでつう:ちなみに、どれくらいのペースでブログ更新してたんですか?

ハヤカワ:ブログ、めちゃくちゃ更新してましたね。たぶん、1〜2日に1回くらい意味わからないようなもの載せてて。私、中学のとき「モバゲー」とかずっとやってて、それの延長で「アメブロ(Amebaブログ)」に移動しただけという感じなんですけど、そんな感じで更新してましたね。

仕事、ブログ、勉強をうまくこなせるのはなぜ?

ひでつう:そこらへんでファンもついて、タイツというビジネスもしながら、でも受験勉強もしたんですよね?

ハヤカワ:そうですね。受験勉強しながら、自分の趣味的な感じで作ってたので、予備校行って19〜20時くらいに帰ってきて、そのあと1時間くらい作業して寝て、みたいな感じでやってたりとか。ちょっと朝早く起きてとか、ちょっと土・日にやったりとかですね。あまり無理なく。

ひでつう:じゃあ、別に「母さんが夜なべをして」的じゃなくて、空き時間をダラダラしないでいろいろやってたみたいな感じですか?

ハヤカワ:パッと気が向いたからやるみたいな、「ちょっとピアス作る」的なノリでやってましたね。

ひでつう:なるほど。そうやって、思いついたらすぐやるみたいな。けっこう、やらない理由を探すほうがラクじゃないですか。

例えばブログ書くのがめんどくさいとか、カラータイツ作るのめんどくさいとか、ベランダに出るのがめんどくさいとか、いろいろあると思うんですけど。

そこらへんでハヤカワさんは、なんでそういうことをめんどくさがらないというか、すぐやる。自分のことなんでアレなんですけど、それはなんでなんですかね?

ハヤカワ:最近冷静に考えてみると、けっこうボーッとしてると親に「勉強しろ」と言われるというのも、わりと大きいのかなと思って。私、わりとボーッとできないというか、なんかしら動いてたいタイプだなと思って。

それはなんでだろうと考えると、ボーッとテレビとか観てると親から「勉強しろ」と言われるから、なんか作業したほうがいいというのがあったりして。あんまりリビングにいたくないからベランダで作業してたりとか、そういうのが発端かなと。

逆にボーッとしてることが、私はわりと怖いなと思っちゃうんでやってるというのが、正直に大きいですね。

学生時代のリア充を見返したい

ひでつう:今、なんかフラットに聞いていると、小遣いはもらえないわ、「勉強しろ、しろ」言われるわで。お父さん、お母さん……怖いですか?(笑)。

ハヤカワ:怖いというか、けっこうクラシックな考え方というか。それこそ、彼氏は高身長・高収入・高学歴じゃなきゃダメとか言うので。

ひでつう:なるほど(笑)。

ハヤカワ:なんかそういうクラシックな感じなので、それこそ美大に行くというのも「どうなの?」という感じだったし、「就職しないとはどういうこと?」という感じの家系ですね。

ひでつう:なんかすごい親御さんが厳しいとか、お小遣いがもらえないとか、ベランダしか作業場がないとか、例えばブログでコツコツ書き続けるとか。

(そういった)みんなと逆にやらない理由とか、「めんどくさい、だからやらないんだよ」という部分を、なんでハヤカワさんは「じゃあ、やるんだよ」と転換できるタイプなんですか?

ハヤカワ:自分は小学校とか中学校とかわりといじめられてる期間が多くて、あんまりいいところがなかったんですよね。それで高校に入っても、やっぱり恵まれてる家庭の子はキラキラしてて。

例えば「ダンス部の子は男子とイチャイチャしてていいな」とか、すごく腹立たしくて。動かなくても現状は変わらないし、別に今すごくマイナスだから、とりあえずやるだけやったほうがいいのかなという部分がすごいあって。やっぱり見返したいというのと。

あと、どうせダメだったらダメなりになんかやってみようみたいな。どうせダメだったら失敗したところで「『あっ、やっぱりね』くらいで終わるじゃん」と思っていて、とりあえず、という感じが大きいです。

自分で強制的にゴールを作る

ひでつう:まだ始まって15分くらいで話がまとまっちゃったわけですけど、その後の話を。それで東京芸大は残念ながら受からなくて、そこで大ダメージをくらったわけですよね。

ハヤカワ:大ダメージですね。それこそふつうに勉強はできたので。なぜか東大とか合格判定が出てた時期もあって、「行っておけばよかったな……」とか多少思うくらいに、本当に落ち込んでて。

ひでつう:「なんで多摩美に?」という感じですか?

ハヤカワ:そう、「なんで多摩美に?」と思って。しかも、あとから調べてみたら多摩美めっちゃ遠いんですよ。1〜2回文化祭行ったくらいで、オーキャン(オープンキャンパス)行ってないし、なんもわからなくて。

「なんとなくいいイメージはあるけど、どうしよう?」というのはすごく大きくて。「どうしよう? ほかに道作らなきゃ」みたいな感じで、大学入る前に合格判定が出て「芸大落ちました」とわかった瞬間に、展示会の準備をし始めましたね。

ひでつう:えっ? なんで?

ハヤカワ:大学浪人しないというのは、なんとなく決めてて。浪人しないとなったら、もうヒマでヒマでしょうがなくて。予備校なくなってヒマだし、大学入ってなにするか……。

大学がどういうところだかわからないし。とりあえず展示会やらなきゃみたいになって、なぜか場所を押さえてから展示会の内容を決めました。

ひでつう:場所を押さえてからというのが、けっこういいですね。

ハヤカワ:いや、リスキーといえばリスキーなんですけど、個人的にはおすすめしていて。私もけっこうやらないタイプで、どうせなら家でゲームしてたいというタイプなんですよ。

ひでつう:すごいゲーマーだよね。

ハヤカワ:そうですね。けっこうゲーマーですよね。今日プレステVR(PlayStation®VR)の予約できなくて、めっちゃ落ち込んでいるんですよ。

ひでつう:なんか顔が暗いなと思ったら、そういうことだったんですね(笑)。

ハヤカワ:なんでこの授業とったんだろうと思いつつ、PlayStation®VRほしかったなと思ってるんですけど。それくらいゲーマーだから、正直なにもしなくてよかったらそれでいいですけど。

「今後こういうことしたい」とか、「こういう夢がある」ということもあったりして。それをなんとなく叶えなきゃというのもあるから、自分でゴールを強制的に作っちゃうというのをけっこうしていて。

ひでつう:強制ギプスのように、もう逃げられない状況を作っちゃう。

「CAMPFIRE」で集まった141万4,150円

ハヤカワ:「もう無理……」みたいな状況作るのが、けっこう得意です。例えば一昨年、大学1年生の秋にクラウドファンディングして、ファッションショーをやったんですけど。そのときに、最初にクラウドファンディングとか考える前に、まず場所を予約しちゃったんですよ。

ひでつう:どこでやったんですか?(笑)。

ハヤカワ:渋谷の……もともと「屋根裏」というライブハウスがあったんですけど、そこが新しくなった「GARRET」という会場があって。そこがたしか15万か20万(円)……? もうちょいですかね? 30万くらいで借りられたんですけど。

ひでつう:これは学生にしては超大金ですよね?

ハヤカワ:超大金なんですけど、なんとかなると信じたいみたいな感じで、とりあえず予約しちゃったんですよ。「OKです」みたいな感じで名前書かれちゃって、「ああ、これはもう終わった」とか思ってて。実際始まったら「30万なんて、まず準備できないじゃん!」となって。

さらに、ファッションショーはキャストを10人とか20人とか呼ぶのに「人件費いくら掛かるんだ?」と計算したら、「超ヤバくない?」みたいな感じになってきて、これは足りないとわかったんですよ。予約したあとにやっとわかって、それであせってクラウドファンディングやったというのが発端です。なので、最初の目標金額は25万なんですよ。

ひでつう:25万とか、ずいぶんと控えめな感じですよね。

ハヤカワ:しかも私、正直25万も集まらないと思ってて。最初15万と言ってたら、「CAMPFIRE」というサイト使っているんですけど、そこの担当者の人に「低過ぎるんで25万にしてください」と言われて。

ひでつう:まあ、手数料とかもありますからね。

ハヤカワ:イヤイヤ上げたんですけど、結果的には思ったよりも集まったという。

ひでつう:なるほどね。これ、当時話題になりましたけど、集まった金額141万4,150円ですよ。

ハヤカワ:そうなんですよ。私、5万くらいしか集まらないだろうなと思ってたので、100万超えたあたりから動悸が止まらなくて(笑)。怖かったんです。それで「141万とか、年収じゃん」とか思って、めっちゃおびえてました。

ひでつう:そうなんですよね。(当時の資料を見ながら)これが切り取り線ストッキングですね。

ハヤカワ:そうですね、最初に作ったやつ。

ひでつう:これ、かわいいですね。まあ俺は履けないけど(笑)。

ハヤカワ:これ、工場に頼むと1着1,500円くらいで作れるんで、10着作っても1万5,000円なんですよ。30着で4万5,000円くらいで作ってくれるんです。そう考えると案外ミニマムな金額で、「まあちょっと食費削ればいけんじゃない?」くらいでできるんですよ。

ひでつう:そこなんですよね。みんなお金がないというのを言いわけにしてるんですけど。

ハヤカワ:家計簿つけたほうがいいと思います(笑)。