『情熱大陸』ゲストの人生が羨ましい

斎藤祐馬氏(以下、斎藤):今日は、今回の企画をやってくれてるうちのインターンのメンバーがいるんですけど。ちょっと1つ質問を。

参加者7:僕は今、大阪の大学を休学して、1年間こっちで勉強して、大阪に帰って起業するというのを目標にしてるんですけど。

僕自身の原体験というか、そのへんですごく迷ってる。僕がこうだと思ってても、実際それがほかの人から見たときに、原体験になってるかどうかもわからないし。

僕の年齢だと、自分の進路を決めるときに悩んでる学生ってすごい多いと思うんですね。そういう人に対してどうすればいいのか、アドバイスがあればぜひおうかがいしたいです。

福岡元啓氏(以下、福岡):わかります。僕なんか、延々にどうしたらいいのかわからなかったのでこの職業を選んだというところがあるんですよ。

もし弁護士になりたいなと思ったらバーっ勉強すればいいし、寿司屋になりたいなと思ったらバーっと修業すればいいんでしょうけど。

それが僕は「これ、どれなんだろう?」みたいなところがあったので、いろんなものが見られる職業を選んじゃった感じです。

例えば、『情熱大陸』なんてまさにそうじゃないですか。いろんな人の人生を毎週見れるんですよ。「こういう生き方もあるんだ、へ~」「ああ、そうなんだ」と。

僕は毎週プレビューして「いいよなぁ、この人の人生」とか言っちゃうと、「またそれですか」とディレクターに言われて(笑)。「またですか、福岡さん」みたいな。

だから、僕はそれで決めきれなかった人なんですよ。だから、本当に自分の人生を決めきれて毎週『情熱大陸』に出てる人というのは、すごい羨ましく思っちゃいます。

これだというものに、人生を賭けるものが見つかってる人ばかりだから。それを見つける作業ってやっぱり大変ですよね。だから、自分は見つけられてないと思ってるので、こうすれば見つけられるというのは言えないです。

やりたいことが見つけられる人の共通点

じゃあ、「見つけられてる人というのはどうだったかな?」というのは、1つはやっぱり不可避な状況である人というのはいますよね。もう運命的にそれをやるしかなかったという人が多い。

例えば、貴乃花関とかそうじゃないですか。ウェディングドレスデザイナーの伊藤羽仁衣さんも、もともとお父さんがデザイン関係をやっていて、子供のころから毎日デザイン描いていたということがあるのが1つ。

あとはやっぱり、一念発起型じゃないですかね。1つ大きい挫折をしてるはずなんですよ。そのまま上がっていく人もたくさんいると思うんですけど、「俺はこのままじゃあれだぜ」と言ってやる。

それで、やるときに「ここの分野だったら俺は勝てる」というのがわかってる人なんですよ。闇雲に一念発起でやろうということじゃなくて、知識があって、この分野は俺いけるなという勝算がある人がガーンといってるような気がします。

1回深い挫折をしたあとに、いろんな周りを見て、ここだったらいけるなというのをどう理解するかだと思います。

参加者7:僕は今、音楽をやってる人の支援をしたいなというのがあって、それはなんでかというと、自分は音楽の道を選ばなかったので、挫折だと思ってるんですけど。

そういう体験で音楽の人を応援したいと思うのって、ずっとやってきた人とはまた違う感じの見方かなと思うんですけど。それでも結局、自分が腹を括れるかみたいなことになるんですかね?

福岡:音楽のサポートってめちゃくちゃいっぱいあるじゃないですか。マネージャーもそうだし、そういうお話ってよくマネージャーさんから聞くような気がします。

ミュージシャンの方と現場でお話をしてるときに、「もともとミュージシャンだったんですよ」とか。レコード会社のプロモーターの方もそういう人が多いです。

知り合いでも「もともと音楽やってたんですよ。バンドやってたんですよ。CD出してたんですよ」みたいな。

そこから先は詳しく聞いてないですが、売れなかったからこっちに回ったという単純なことなのか、「俺は無理だと思うから」ということなのかとか。

そういうサポートの仕方もあれば、「これからの音楽ってなんなのか?」と考えたときに、わからないですけど、ネットとのナントカということはまだあんまり開発されていないなとか。権利関係をどうしていくのかとか。

音楽から派生するものってたくさんあるじゃないですか。たくさんあるなかで、どこの分野が空席で、ここだったら座れて、自分はけっこうその分野に強いからいける、みたいなのはあったほうがいいんじゃないですか(笑)。

参加者7:ありがとうございます。

『情熱大陸』やテレビ局の抱える課題

斎藤:ちょっと話を『情熱大陸』のところに戻します。今回は、『情熱大陸』をやられていて、どんどん進化させようとしてる。とくにフィリピンでの海外展開も含めてされていて。

今の『情熱大陸』の抱えている課題と、今後の『情熱大陸』のビジョンをお話しいただいてもいいですか?

福岡:抱えている課題は、『情熱大陸』がこのまま番組単体で続いていていいのかというところですね。要するに、もっと立体化していかないとダメなんじゃないかと。これは、テレビ局も同じことを考えてるんですけれども。

番組だけ普通に毎週放送して、それで終了となっても、正直地上波のテレビなんて、あと50年後にあるかないかなんて正直わからないような……今はすごい科学の進歩ですよね。

そうしたときに、どうやって『情熱大陸』というブランドを展開していくのかとなったときに、今でこそイベントとかいろいろやってるんですけれども、それ以外のものでどういうふうに展開していけるのかということを、まさに探してる最中です。

そのファーストステップがフィリピンでの放送なんですが、フィリピンの放送も所詮放送の枠組みの中でしかないので。じゃあ、『情熱大陸』のファンの人たちというのはどういうニーズがあるのかなというところを探って。

お金だけじゃなくて、どういうふうに事業展開して行くか。テレビ番組は公共性もあるので、その部分も含めながらなにかやっていけることがないのかなというのはすごく探してる最中です。

だからこそ、斎藤さんといろいろ「どうなんですかね?」みたいな話をしてるような状況です。

今は日本ではみんなに知ってもらえている番組ですけど。海外でも知ってもらえるようになって、アジアNo.1の番組になれればいいなみたいことを掲げながら、その一方で、外の人たちと組んで、新しいものを作りたいなというのをすごく今考えてるんですね。

僕も番組だけのプロデュースじゃなくても、イベントとかその他もろもろ全部にコミットするような感じになってきているので。

それこそ今ここにいらっしゃる方でなにか組めることがあったら、情熱大陸と組んでなにかやるというのは僕も考えたいですし、という状況ですね。

斎藤:実際『情熱大陸』さんで出せる資産、コンテンツとか、ブランドとかあると思うんですね。そういったものと組みたいとか、アイデアが浮かんでるものをシェアいただければ。みなさんいろんなアイデアあると思うので、後ほどまたお話しできると思います。

お蔵入りになった収録のニーズ

福岡:そうですね。情熱大陸って実は24分しかない番組なんですけど、24分で語れなかった素材のニーズがすごくあるんですよ。

斎藤:全部で何分ぐらい録ってるんですか?

福岡:テープ時代でいうと100本とかですから、60分テープが100本というとどれぐらいですか。

斎藤:100時間。

福岡:そうですね。100時間ですね(笑)。

(会場笑)

斎藤:単純な計算でしたね、今の(笑)。

福岡:100時間とかそれ以上のこともあれば、回によってぜんぜん違いますけど、100時間以上録ってるのがだいたいです。

そういうものですとか。あとはやっぱり裏話的なことってニーズがあるんですよね。この取材はどういうふうになってたのかとか、取材後記みたいなことも含めて。あとは過去の『情熱大陸』が見たいというのは普通にあります。

情熱大陸というコンセプトを活かして、どういうことができるのかということで、「情熱教室」という講演会みたいなイベントが去年からスタートしたんですけど。

『情熱大陸』に出ているような方々が一緒に話をしたら、みなさん聞きたいことがいっぱいあると思うんですよね。そういう双方向でイベントができないかとか。そういうことは考えています。

ただ話を聞くだけじゃおもしろくないので、それをどういうイベントにしていったらいいかなとか。そういうことですよね。

ビジネスも番組も独りよがりだと続かない

斎藤:ありがとうございます。そろそろ時間になってきたので、福岡さんから最後会場にひと言熱いメッセージをいただきたいなと思います。

福岡:今日はありがとうございました。『情熱大陸』ってどうやって作ってるのかなというのはちょっとだけおわかりいただけかなと思います。

なにを大事にしているかというと、やっぱりタイトルの部分があります。実はこの番組、一番最初にどういうタイトルでスタートしようとしてたかというと、「野望大陸」というネーミングだったんです(笑)。

野望大陸というと、なにかすごくギラギラしてて、暑苦しくて。なんか自分のことしか考えてなくて。やっぱりビジネスや起業って、Win-Winというか、みんなで一緒にやっていこうよみたいなところがベースにあると思うんですよ。

そういう意味で言うと、「情熱大陸」という名前はすごくフィットしていて、そういうところがすごくみなさんの共感を得られるようなものになったかなと思うんですよね。

なにかを狙ってる人というのは、どうしても「自分が、自分が」となるようなイメージがあるんですけど、 そうではなくて、やっぱり「みんなでやっていこうよ」みたいなことがうまく打ち出せると、気持ちよくなるんじゃないかなという。

それは僕らの番組作りでもそうなんです。「これおもしろいだろ!」バーンってやると、ものすごい独りよがりな番組になっていて誰も見ない。

それをうまく中和することが、実はものすごいプロモーションになってる。「これを見せたいんだ」ということを見せれば見せるほど、最近は嫌がられるんですよね。どんどんどんどんクローズしていきたくなる。

そうじゃなくて、これが映るだけで気持ちよかったり、これが映るだけが最高のオシャレなプロモーションだったり、そういう部分ってすごくあるので。そこらへんを意識しながら、起業の方向に進んでいっていただけたらいいなと思っております。

あともう1つ、起業したあとに長続きしたいじゃないですか。どういう秘訣があるかというと、テレビ番組の例でいうとフレームです。

『情熱大陸』は、葉加瀬太郎と窪田等がナレーションして、人物ドキュメントで。もうそれだけなんですよ。フレームワーク。そのあと中身は自由にしていいよという振れ幅をすごく持っていてほしい。

振れ幅を持たないことには絶対に長続きはしないと思います。「絶対にこうじゃなきゃダメだ」とか言い始めると、どんどん萎み込みます。

そこらへんを意識して、みなさんもやっていただいたら。僕は一介のテレビマンで、ビジネスの世界はまったくわからない素人ですけれども、もし共通点があるとすれば、そういうところなのかなと思っています。

斎藤:では、こちらのほうでいったん終わりにさせていただきます。みなさん大きな拍手を。ありがとうございました。

福岡:ありがとうございました。

(会場拍手)