もしも氷が水に浮かなかったら

ハンク・グリーン氏:なぜ氷は水に浮くのか、私たちにとっては時間をかけて考えるほど重要なことでないように思えます。同じ水でできているはずの氷が水に浮くなんて、どうにもヘンテコで不思議な話ですが、これはとても重要なことなのです。

アイスティーのカップのなかできらきらと浮かび、からからと涼しげな音を出してくれるということを言っているわけではありません。ほとんどの海に住む生き物の生存に関わってくるのですから。

もしも氷が水に浮かなかったら? 湖や川は表面から凍り始める代わりに一番深い場所から氷結を始めるでしょう。そうなるとそこに住む生き物たちは、下からの冷たい水温と水面からの冷たい空気にさらされ、ひと冬も生き延びることができなくなってしまうでしょう。

しかし、幸運なことに氷は浮かびます。そして浮かんだ氷は、冷たい水の表面と、色々な生き物たちが生きる水中の間に層を作りだします。このことによって水のなかに住む生き物たちは冬の間中凍り付くことなく泳ぎ回っていられるのです。

では、なぜ氷は浮くのでしょうか? そのことを解明するにはまず、物がどういうふうに浮かんだり、沈んだりするかについて知る必要があります。

物質の浮き沈みを左右するのはその物質の密度です。物質の密度が外側の液体より高い場合には物質は沈み、低い場合には物質は浮きます。

つまり氷が水に浮くことができるのは、凍った水の密度の方が水よりも低いからだと言えるでしょう。しかし、一体どうしてなのでしょう? 氷も水も形は違えど同じ水からできているはずですし、普通に考えると固形である氷のほうが密度が高いように思えます。

水以外の液体は普通は固形になると液体の時よりも密度が高くなりますが、水の場合はそうではありません。水の分子はそのほかの液体の分子とは形と電子の放出方法が異なっているからです。

水が凍るときなにが起きている?

水は酸素原子と水素原子から成り立っているというのはみなさんもうすでにご存知かと思いますが、酸素原子のほうが水素原子よりもより多くの電子を引き寄せるということをご存じだった方は少ないのではないでしょうか。

このことにより、酸素原子の近くにはより多くの電子が集まり、それにより分子のOHサイドは少し負電荷、そしてH2サイドは少しだけ正電荷になります。これにより、水分は極性分子へと変換されます。水のもっともクールで使用価値のある特性はこの両極性から生まれます。

水が液体である時、分子同士はただランダムにお互いに身を寄せ合っているだけですが、水の温度が下がるにつれ、分子同士はさらにお互いを強く引き寄せ合います。

そして水温が摂氏4度よりも低くなった時点からこれらの分子はプラスサイドとマイナスサイドでお互いを引き寄せあい、きちんとした形でひとかたまりになろうとします。

ですが水の分子はほかの液体の分子とは異なりすこし曲がった形をしています。この分子の特殊な形態により水は固形になった時に分子と分子の間に隙間ができるのです。これらの隙間が固形になった水の密度が低い原因なのです。

この氷の中の小さな隙間が氷が水に浮く理由のすべてなのです。

今度凍った沼や湖の上で滑って遊ぶ機会があったなら、ぜひこのことを思い出してみてくださいね。